ルドー
アリーシャ達は王都を目指して前進する。
その数は5体。森の中を駆け抜ける彼女らは、まさに異形の存在であった。
途中、行商のような馬車が見えた。そこにはもちろん人間がいる。
彼女らはその馬車に襲いかかった。
警護用のAMが応戦する。だが警護用のAMは4体しかおらず、馬車側に数で不利があった。
すると、中から1人のローブを着た男が出てきて、戦闘に参加し始めた。
アリーシャはその男に見覚えがあった。闇商人のルドーである。
自我がないにも関わらず、アリーシャは一直線にルドーに向かって行った。
ルドーは突っ込んできたアリーシャの攻撃を軽く受け流し、アリーシャは勢い余って少し離れたところまで転がって行った。
「お前は…もしやあの時のAMか?」
ルドーは驚いた顔で、異形となり果てたアリーシャを見た。
今まで長い事闇商人として色々なAMを売り捌いてきたが、このような事例は始めてだ。
謀反を起こすAMは今までいたことはあるものの、このような姿になって襲ってきた事例は今回が初めてだ。
アリーシャはすぐに起き上がると、再びルドーへ突進していった。
「自我はない…か…であれば攻撃を受け流す事など容易いことよ!」
そう言いながら、ルドーはアリーシャの攻撃を受け流しつつ、確実に一撃を入れていく。
だが、痛みがないのか、アリーシャは怯む様子もなく、何度も突進してくる。
「やはり核を突かねばダメか…!」
ルドーは突っ込んできたアリーシャの攻撃を受け流し、腰に下げていたナイフをその胸に突き刺した。
――が、ナイフが深く刺さる直前、別のAMが背後からルドーの腕を鉤爪で斬り付けた。
刺そうとしていたナイフを落とし、腕に深手を負ってしまったルドーだったが、直後に警護用のAMがルドーを斬り付けたAMの核を貫き、命を落とすまでには至らなかった。
再びアリーシャがルドーに突進しようとするが、その前に警護が立ちはだかる。
ルドーは即座に馬車に身を隠し、戦線を離脱し応急手当てをした。
「あの警護もいつまで持つか分からん…早く増援を呼ばなければ!」
救援要請の信号煙幕を打ち上げ、警護たちが戦っている様子を見たルドーは、死神が笑いながらやってくるのが見えた。
警護は既に全滅し、ただの動かぬ人形となっていた。
それに対しアリーシャ側は、先程ルドーに横槍を入れたものが倒れただけで、他は健在である。
「待て…やめろ…話せばわかるはずだ…!」
ルドーは片腕を負傷しており、とてもじゃないが先程のように戦える状態ではない。加えて警護は全滅。
もしアリーシャに自我があったなら、話し合いに応じていたかもしれない。
だが、命乞いをするルドーに対して一直線に突っ込んだアリーシャは、そのままルドーの腹を貫いた。
ルドーは悲鳴を上げ、何とかアリーシャから逃げようとするが、深く腹に刺さる鉤爪は簡単には抜けない。
アリーシャは、逃げようとするルドーに対し、鉤爪で脳天をぶち抜いた。
先程まで悲鳴を上げていたルドーは、力なく倒れ、辺りは静かになった。
少し経った頃、城下の警備隊がやってきた。
その数30。人間の指揮官が1人おり、指揮官も流石にこの数で戦えばどんな相手であろうと余裕だと高を括っていた。
だが、実際にアリーシャ達を目にした時、指揮官の表情は一変した。
――全力で戦わねば殺される
そう思うや否や、すぐに警備隊の全AMに指揮を執りはじめた。
たった4体。たった4体である。そのたった4体に、警備隊30体の内、27体がやられる結果となった。
一方、馬車の荷台には人間の子供が数人積まれていた。
これから娼館や貴族に売られる予定だった子供たちだ。
――これがもしAMだったなら助かったかもしれない。
アリーシャ達は無抵抗な子供たちも惨殺していた。
指揮官は、凄惨なる現場に言葉も出なかった。
その後、異形となったアリーシャ達を見て指揮官は
「これはすぐに王に報告せねば…!」
と、アリーシャの亡骸を抱え、城下へと向かった。
この事件は指揮官と王だけの秘密となり、国民に対してはプロトタイプの所持及び製造禁止の旨と、前述の理由だけを伝えることにした。
また、子供たちの惨殺、及びルドーの死については、組織内での内乱で同士討が起きた後、森の獣に食われてしまっていた事になった。