ニア
醜い金持ち共の欲望を満たす日々。
性の捌け口にされるだけの時もあれば、鞭で叩かれ、刃物を突き立てられ、首を絞められ...
まるで拷問のような事をする客もいた。
だが、人間と違い、彼女はAMだ。
核を破壊されるか抜き取られない限り、死ぬ事は出来ない。
傷も再生する為、まるで無傷だ。
しかし、痛みや苦しみはある。すぐに治るとはいえその一瞬には猛烈な痛みや苦しみがある。
「何をやっても壊れない玩具」
金持ち共はそんな認識だった。
そんな過酷な日々を過ごせていたのも、同じ娼館で働くニアの存在であった。
ニアは人間であり、年齢は18歳である。
彼女は12の時からこの娼館に連れてこられ、働いている。
「アリーシャ、大丈夫?今日も何かひどい事されたの?」
ニアは見た目が美しいだけでなく、優しく、娼館で働く子を気遣い、時には受付に対して、扱いに対する抗議をしてくれる事もある。
AMであろうが人間であろうが差別はせず、平等に優しく接してくれる。
そんな彼女の性格もあってか、他の少女達からは、姉のように慕われていた。
アリーシャは、ニアに先程された行いについて説明すると
「またなの!?この前ももっと優しく扱うようにしてって言ったのに...大変だったでしょう?よく頑張ったわね...」
目を潤ませながら、ニアが頭を撫でて抱きしめてくれる。
アリーシャもニアの胸の中に顔を埋めて、泣いた。
泣いている間も、ずっと優しく抱きしめながら頭を撫でてくれた。
落ち着いた頃、ニアが小声で
「今日ね、お客さんに甘いお菓子と髪飾りをもらったの!アリーシャは今日とっても辛い中頑張ってたから、ご褒美であげるね!」
そう言うと、ニアはアリーシャに飴の入った包み紙と、簪のような髪飾りを手渡した。
「ニアお姉ちゃん...ダメだよ!こんな素敵なものもらえないよ...」
アリーシャは遠慮して返そうとするが
「いいのいいの!私はまだ他にも色々あるから!あと、この簪は私よりもアリーシャに似合うと思うんだ!だから、もらってくれないかな?」
ニアは笑顔でそう言った。
何度も返そうとしたアリーシャだったが、ニアの笑顔ともらって欲しいと言うやり取りに根負けし、貰う事にした。
「着けてみてもいい?」
そう言いながら、ニアはアリーシャに簪を着ける。
「うん!やっぱり似合ってるよ!」
先程よりも眩しい笑顔で、ニアは喜んだ。
「そう...かな?えへへ、ありがとう。ニアお姉ちゃん。」
そんなやり取りをしながら、その日は二人とも床に着いた。
翌日、指名が入るまでの間、娼館の清掃を命じられていたアリーシャは、一つの部屋の中から男の怒声が聞こえてきた事に気付いた。
「お前みたいな――に、せっかく――!!」
よく聞き取れない為、部屋の扉に耳を当ててみる。
「俺がプレゼントしてやった簪を失くすとはどういうことだ!?お前みたいな娼婦の分際で、この俺を拒絶するって言うのか!?あぁ!?」
簪...?ふと自分の頭に着けている簪を手に取る。
まさかこの部屋にいるのは、ニアなのではないか?もしかして私はとんでもないものを受け取ってしまったのではないだろうか?
次第に不安と後悔が大きくなっていく。
次の瞬間、どかんと扉から音が鳴り、大きな振動が響いた。
その衝撃で壊れてしまったのか、ドアが開き、そこからズルりと何かが倒れてきた。
――そこには血塗れでボロボロになったニアの姿があった。
「ニアお姉ちゃん...!?どうして...!?」
すぐさまニアの元に駆け寄り、身体を抱き起こす。
「アリー...シャ...ダメよ...ここにいたら...早く...ここから...」
ニアが言い終わる前に、部屋の中から机が飛んできた。
二人は机にぶつかり、部屋の外を弾き出された。
すると、部屋の中から太った中年の大男が出てきた。
「せっかく俺が嫁にしてやろうと思って、簪までプレゼントしてやったって言うのに...失くすとは何事だ!お前にはいくら注ぎ込んだと思ってるんだ!?」
男は息を荒げながらそう言った。
ニアはかなり弱っており、近くにいるアリーシャにやっと届くような声で
「あの...人は...悪くないの...悪いのは...私...結婚を...申し込まれたんだけど...みんなの事が心配で...断る事に...したんだけど...」
ニアが血を吐いた。
このままだとニアが死んでしまう。
「待ってて!すぐにお店の人呼んでくるから!」
そう言って離れようとするも、ニアが服を掴んで離さない。
「私のことは...いいのよ...アリーシャ...本当の...妹が出来たみたいで...嬉しかっ...貴女は...私みたいに...ならないように...」
服を掴んでいた手から力が抜け落ち、床に落ちた。
もう、ニアはいない。
アリーシャは悟ってしまった。
思い返すニアとの日々。
ニアはこんな所で死んでいい人間ではないはずだ。それをこの男は...
悪魔が語りかけてくる。
何故あんなにも優しかった人が死んで、こんな屑がのうのうと生きている?
そもそも何故私達はこんな過酷な日々を生きねばならない?
――心が真っ黒に染まっていくのがわかる。
自分の力の無さが呪わしい
のうのうと生きている奴らが妬ましい
こんな娼館を営む奴らが悍ましい
この世界が――怨めしい
「あぁアァアあぁああああぁア!?」
アリーシャは、反射的に耳を塞がざるを得ないような金切り声をあげる
男は耳を塞ぎ、片膝をつく。
金切り声を終えると、アリーシャの両手は、まるで巨大な鉤爪のようになっていた。
綺麗な緑色だった瞳は、不気味に赤く光り、静かに男を見降ろしていた。
男が耳から手を離そうとした刹那、アリーシャは左手の鉤爪で男の腹を貫いた。
先程までの怒りと威勢はどこへやら、男は子供のような泣き声になり、ジタバタしながら助けを呼んでいる。
「オまえは...シんデモイィそんザイ...」
アリーシャがそう言うと、男は泣きながら必死に命乞いをするが、言葉が届いていないのか、何の躊躇もなく、アリーシャは男の脳天をぶち抜いた。
殺した男をゴミのようにその場に投げ捨てると、今度は屋敷中に響くような大きさで金切り声をあげる。
すると、仕事や掃除をしていた他のAMが、一斉にアリーシャと同じように両手が鉤爪となり、客や従業員を襲い始めた。
――娼館内の人間が全滅するまで、15分とかからなかった
彼女らに既に自我は無く、ただひたすら憎しみで動く殺戮人形と化してしまった。
彼女らは王都へ向かう。
その憎しみを晴らすために。