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献上

依頼を始めてから、かれこれ三日が経過していた。

明日には王子に献上しないと自分の命がない…本当に大丈夫だろうかと言う不安がよぎる。

ルカは落ち着かないまま、宿で悶々と過ごしていた。

西日が傾き始めた頃、アドが部屋までやってきた。

「失礼します。ルカさん、大変お待たせいたしました。ご依頼のフューネルが完成しましたのでお知らせに参りました。」

ペコっとお辞儀をしつつアドがそう言うと、ルカは喜んだ。

だが、まだ安心は出来ない。完成品を見てからでないと、ぬか喜びになってしまう可能性すらある。

「早速完成品を見せて頂けませんか?」

冷静さを取り戻したルカは、真剣な顔でこう言った。

かしこまりましたとアドが言うと、そのままツインズまで案内された。


店に着くと、そこには布が被せられた、人一人が椅子に座ったような大きさの物が置いてあった。

「こちらが完成品になります。」

アドがそう言いながら、布を丁寧に外していく。

布が完全に外れた時、ルカはそれを見て絶句した。

――本当にこれが人形なのか?

まるで生きているかのような人形だ。見た目も美しく、王妃様の高貴な雰囲気も表現できているばかりか、衣装も申し分ない。

黒のシンプルなドレスではあるが、白い手袋に赤いヒール、宝石のネックレスや指輪で装飾されており、ご存命されておられた時、一度だけお見かけしたことがあるが、その頃の王妃様そっくりだ。

「この美しい人形ならば…!いける…!」

喜びが所狭しと押し上がってくる。

ルカは跳びはねて狂喜乱舞した。

ひとしきり跳びはねた後、アドの手を取り、上下にブンブンと振りながら

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

と、涙ながらにお礼を言った。

早速王子の元へ届けなければ!ルカはお礼を言い終わると、即座に会計を済ませ、フューネルを馬車へと運んで行った。

そのまま馬を走らせ、夕日の中城下街の方角へと消えていった。


嵐のように去って行ったルカを見て、アドも嬉しくなっていた。

「フューネルを作って、あんなに喜んでもらえたのは初めてかもしれない」

フューネルの作成時に、代理人が来ることは別段珍しいことではない。

何せ死者を模した人形である。大切な存在の死を受け入れられない者も多々いる。

その為、代理人が依頼及び受け取りを行い、タイミングを見てフューネルを渡す、というケースが多いのだ。

殆どが悲しみに明け暮れて作る人形のため、喜ばれたとしても、あんなにも狂喜乱舞されることはない。

「そう言えば、マドは大丈夫かしら…」

マドは大抵の人形を作る際は一日程度で終わらせてしまうため、今回の三日間は長丁場であった。

その為、途中で非常に疲れていた事が火を見るより明らかだったが、それでも彼女は作り続けていた。

工房に戻ると、彼女は作業机に突っ伏していた。

「マド、大丈夫?」

アドがそう言うと、マドは項垂れながらも

「だ~いじょう~ぶ~…」

と答えた。

「お疲れ様。ルカさん、跳びはねて喜んでいたわよ。今までフューネルの依頼であんなに喜んでくれた人見たことないわ。」

そう言うと、マドはとても嬉しそうに笑った。

「今日は疲れているだろうし、ゆっくり休んでね。それと、今日はマドの大好きなハンバーグ作ってあげるわ!」

ハンバーグと聞いた途端、それまで項垂れていたマドはビシッと立ちあがり、目を輝かせて

「やったー!ハンバーグだー!」

と叫んだ。

さっきまでの疲れはどこへ行ったのやら。そう思いながら、アドは夕飯の準備に取りかかった。


夕日も完全に沈んだ頃、ルカは王子にフューネルを献上すべく、王子の部屋へと運んでいた。

王子の部屋をノックする。

中から

「入れ」

という威圧的な返事が聞こえてくる。

ルカは部屋へ入り、王子に向けてお辞儀をしながら

「王子、依頼されていたフューネルの件ですが…」

王子はニヤりと笑いながら

「どうせ用意出来なかったのであろう?斬ってやる、近う寄れ。」

と、自信満々に言った。

王子はルカに無理難題を押し付ける前に、城下街のDoMa全員に、ルカから来たフューネルの依頼は断るように命じていたのである。

何故そうまでしてルカを処刑したかったのか?別にルカの事が気に食わないとか嫌いだとかそんな理由ではない。単純に新調した護身用の剣で誰かを「試し斬り」したかっただけである。

城下以外のDoMaなどたかが知れているし、間に合わないだろう。城下さえ封じてしまえば後はこの剣で斬れる。そんな考えだった。

ところが、そんな王子の考えとは裏腹に

「いえ、こちらにご用意してございます。」

と、ルカが言った。

「なんだと!?用意が出来ただと!?」

出来ないと思い込んでいた王子からすると寝耳に水である。

だが、用意が出来たとて、その出来が中途半端であればそれを理由に斬ってやる。そう思い直すと、王子はまたニヤりと笑った。

「ではルカよ、余に用意した物を見せてみよ」

かしこまりました、と言い終えると、ルカは布を外し始めた。

中から出てきたフューネルを見て、王子は言葉が出てこなかった。

「――母上!」

思わず声に出てしまった。

幼い頃見た母の記憶、それが王子の中に蘇ってきた。

足早に人形に向けて駆け寄り、抱きしめる。

少し涙目になりながらも、まるで童心に返ったかのように、母の姿を模した人形にしがみつく。


しばらくしてハッと我に返った王子は、ルカに向けて言い放つ。

「ふ…ふん、お前にしては良い物を用意してきたではないか…今回斬り捨てるのはなしにしてやる。」

ルカはそれを聞いて

「ありがとうございます。喜んで頂けたようで光栄です。」

と、出来る限り冷静に言うように努めた。

と言うのも、ルカの心の中では狂喜乱舞の祭り状態になっていたからである。

だが、王子の前でそんな喜び方をしようものなら、それを理由に斬り捨てられる可能性すらある。

今すぐ踊りたいぐらいの気持ちを抑えながら、ルカは部屋を後にしようとしたその時

「ルカよ、このフューネルはどこのDoMaに依頼したのだ?」

王子からそんな質問が飛んできた。

ルカは、マデルの村にある、ツインズという店の少女が作ってくれたものであることを話すと

「少女が作ったと!?それは誠か!?であれば、余の専属DoMaにふさわしいやもしれぬ…明日その店に案内するがよい!」

と、王子が告げた。

ルカはかしこまりましたと返事をし、部屋を後にした。

その日、踊り狂いながら廊下を歩いている不気味な人影を見たという者が、城内に多数いたという…

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