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フューネル

太陽は真上に上がっていると言うのに、マドはまだ寝ていた。

村長から孫娘への人形作成の依頼があり、また丸一日寝ずに作業をしてしまった。

オリジナルの作成自体はあまり依頼が多くないが、今回はたまたま依頼が重なってしまい、すっかり寝不足に陥ってしまっていたのである。

「うーん…ここのパーツはこうして~…」

夢の中でも人形を作っているのだろうか、ニヤけながら、腹を出し、体勢は斜めという寝相で気持ちよさそうに寝ている。

そこへ、昼食を持ってきたアドがやってきた。

昼も過ぎていると言うのに、まだ寝ているマドが視界に入る。

もちろん、まだ朝食に手は付けられていない。

せっかく用意したのに…ふつふつと怒りが湧いてくる。

「こらー!マド!いつまで寝てるの!」

普段の大人しさからは想像がつかないような大声を出し、マドを揺り起こす。

マドはびっくりして飛び起き、寝起きで何が起きたかわからず、キョロキョロしている。

「もうお昼よ!朝御飯も食べてないじゃない!お昼御飯も持ってきたから、まずはどっちか食べなさい!」

ご、ごめんなさい!と謝りながら、マドは慌てて、用意されていた朝食に手をつけ始める。

「食べたら早く支度して降りてきなさいよ!」

そう言うと、アドは店の方へと降りて行った。

マドは急いで朝食兼昼食を済ませ、身支度を始めた。


マドが店舗部分である一階へと降りて行くと、受付ではアドが木材を掘ってパーツを作っていた。

アドは降りてきたマドを見ると

「作業が楽しくってつい寝るのもご飯食べるのを忘れるのもいいけれど…お店を営んでるっていう自覚をきちんと持ってね?」

と、呆れ顔で言った。

「はーい、ごめんなさい!」

テヘッと舌を出しながら、マドは謝った。

アドはいつものことながら、ため息をつきつつ

「今のところ、依頼は特に何も来てないわよ」

と言い、作業へと戻る。

「おっけー!わかった!」

そう返事をしつつ、マドは工房へと向かう。


「さてと、今日は何をしようかなー?」

そう言いながら、工房内を見渡す。

パーツの不足分もなく、特に依頼があるわけでもない。

そういえば、人形の衣装などに使うための毛皮が足りない事を思い出した。

「毛皮は買うと高いからなぁ…久しぶりに狩りに行って、兎でも狩ってこようかな!お肉も手に入るし!」

そう言いながら、マドは狩りに行く準備を始め、アドに狩りに行くことを告げたマドは、近くの森へと入って行った。


森に入りしばらく歩いていると、小さな泉が見えてきた。

泉は森の動物にとって憩いの場であり、色々な鳥や獣が集まる場所である。

その中に、兎が三羽ほどいる事を確認したマドは、弓を取り出し、矢を引き絞る。

普段の彼女からはとても想像がつかないほど、キリッとした目つきで集中し、獲物を狙い定める。

マドはこう見えて、弓の名手であり、狙った獲物は逃さない。

普段はどこか抜けているように見えるマドだが、人形を作る時と狩りをする時は別人のようにしっかりとしている。

精霊の力を借りて、補助的に狙いは定めているものの、マド自身の弓の精度も高い。

ちなみに、AMが主に軍や警備に利用されている事も、精霊の力が関係している。

AMには精霊の核が内臓されており、元々の能力に合わせて、精霊の補助が入ることで更に力を発揮することが出来る。

DoMaであれば、基本的に人形製作以外で戦闘の補助も受けられるため、護身術程度であれば、何も学んでいなくてもそれなりに出来る。

ただ、AMの普及によりそんなことをする必要がないため、そういった技術を身に付けているDoMaはそうそういない。

今でこそある程度収入があるため、食材調達は全て購入して済ませているが、収入が安定しない頃は、マドが狩りをして食いつないでいた時期もあった。

その為、幼い頃から村の大人達に特訓をつけてもらい、マドは弓の扱いが上達したのである。


久しぶりの狩りではあるが、腕が衰えている事もなく、一発で一羽目を仕留めた。

驚いた他の動物たちも散り散りになって逃げようとする。

もちろん兎も例外ではないが、マドはもう一矢既に構えていた。

もう一羽の兎に矢が命中し、その場に倒れる。

「よし、二羽もいれば十分かな」

そう言いながら、マドは背負っていたカゴに兎を二羽入れ、帰路に着いた。

家に帰り、マドはすぐに調理場に駆け込む。

「今日は兎肉のシチューでも作ってもらおうかなー♪」

そんな事を言いながら、ルンルンで兎を捌き始めた。


一方、マドが調理場で兎を捌いている最中、受付に二人の男が来店していた。

アドにとって、片方の男は初めてみる顔だったが、もう一方の男は、先日娘への手土産のためにオリジナルを依頼した青年であった事がすぐにわかった。

「あら、いらっしゃいませ。この間はありがとうございました。」

アドは丁寧にお辞儀をする。

「いえいえ、こちらこそ最高の土産にすることが出来ました。娘も本当に気に入っていて、とても喜んでくれました。ありがとうございます。」

カインもそう返す。

「本日はどのようなご用件ですか?それと、そちらの方は…?」

アドがルカの方を見ながら言った。

カインはルカの紹介をし、その後ルカは今日ここに来た経緯を説明し始めた。

自分は依頼人の代理であること、あと四日以内にフューネルを持って行かないと、自分の首が飛んでしまうこと、少し古いため若干見えにくいものの、その方の写真は持ってきている事、その辺りを説明した。

「まぁ、フューネルの作成ですか…それはお気の毒に…サイズはどれくらいのサイズがよろしいですか?」

しまった、サイズまでは聞いていなかった。

母上そっくりの、としか聞いていない。しかも肝心の写真も若干見えづらいため、王子の期待以上の人形を作ることが出来るのか…とても不安になってきた。

ただ、あの王子の事だ。小さな人形程度で満足するわけがない。予想を上回る物を持って行かなければ…

そう考えた結果、出来る限り等身大の人形を作成してほしいと願い出た。

「等身大ですか…かしこまりました。少なくとも三日はかかるかと思いますが…それでもよろしいでしょうか?」

アドがそう答えると、ルカは思わず

「本当ですか!?三日で出来るんですか!?」

と、アドの手を取り、まるでアドの事を女神だと言わんばかりに、輝いた目と半泣きの表情でそう言った。

「え…えぇ…恐らく大丈夫かと…」

そう言うや否や、ルカは感謝の言葉を何度も述べながらブンブンと握ったアドの手を上下に振り、その後手放しで跳びはねて喜んだ。

「フューネルを持って来れなかったら職を失うって…相当無茶な事を頼まれちゃったのねこの人…可哀想に…」

そう思いながら、若干の相違がありながらも、依頼を受けることになった。

ルカはこのまま完成するまで村の宿に泊まると言うことだったため、完成次第伝えに行くことを約束し、ルカを見送った。

カインは村の先にある森に用があるとのことだったため、森へと入って行った。


アドは、調理場にいるマドに、急ぎのフューネルの作成が入ったことを伝えた。

兎は大体捌き終わっており、あとは調理と皮の処理だけだった。

「フューネルか…わかった、等身大だね?すぐに取りかかるよ!」

そう言うと、マドは作業着に着替え、工房へと向かった。

「あっ!今日の晩ご飯はウサギシチューにしてね!」

去り際にマドが元気にこう言った。

「作るのは良いけど、ちゃんと食べてよね!」

アドがそう言うと、はーいと元気な返事が聞こえ、マドは作業に取りかかった。


マドは人形を作る時、楽しそうに作業をしていることが大半だが、フューネルを作る時だけは違う。

人形は基本的に人を楽しい気分にさせたり、幸せにするために存在しているが、フューネルは悲しみを和らげるために存在している。

大切な存在を亡くしてしまったときの悲しみや喪失感は計り知れない。フューネルは、そんな悲しみや喪失感を少しでも和らげ、乗り越えていくために作るものである。

残された側もそうだが、亡くなった側にも色々な未練や後悔があるだろう。

そんな事を精霊と共に感じながら、人形を作っていく。

マドはフューネルを作る時、双方の気持ちを考え、代わりにその想いを込めていく。

まだ見守っていたかった、一緒に暮らしていたかった、もっと愛したかった、愛されたかった…

写真から精霊が気持ちを読み取り、それをマドに伝え、マドはそれを人形に込めていく。

「この人はもっと息子さんの傍にいてあげたかったんだな…」

そんな気持ちが強く伝わってきて、自然と涙が零れる。どのような状況だったかまではわからないが、少なくともこの女性は、息子の成長を見守る前に亡くなってしまったのだろう。

「私が最高のフューネルを作るからね…!」

写真に向かってそう言いながら、マドは全身全霊を込めて作成に励んでいった。


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