地獄の幕開け
暗く冷たい檻の中、アドは放心状態だった。
「…私がAM?」
自身の再生能力は加護ではなく、AM故に持っている能力だった。
確かに言われてみれば、生まれてこの方自分の血を見たことがない。
「当然よね…血なんて流れてないんだから…」
自分の手を上にあげ、呆然とその手を見る。
これから私はどうなるのだろうか?
プロトタイプの所持は禁止されている。処分されるのか?
だとすればそれは「死ぬ」という事だ。
夢もあった。
ツインズをマドと共に切り盛りし、色んな人を幸せにする夢が。
今までよくしてくれた村の人達に、いつか恩返しをする夢が。
いつか素敵な男性と結婚し、幸せな家庭を築く夢が…
その全てが叶わない…
自然と涙が溢れてくる。
「この涙も本物の涙じゃないのよね…」
そんな事を思いながら、ゆっくりと横たわった。
「マドは…大丈夫かなぁ…?」
ひとしきり泣いた後、ふと思った。
こんな状況下においても、やはりマドの事が心配になる。
小さいころからマドには生傷が絶えなかったため、その際に血が出ていることは確認できている。
ということはAMではないため、その理由だけで処分されるという事はないだろう。
だが自分を「所持していた」と判断された場合は…?
考えたくはないが、暗い檻の中で独りである状況では、どうしても考えがネガティブに進んでしまう。
だが、幸いなことに、ルカにも王子にもマドの姿は見られていない。という事は、特定されるまで少しは時間があるはず…その間にどうか逃げ延びて欲しいと祈るしかなかった。
そんな事を考えている矢先に、カツカツと誰かが歩く音が聞こえてきた。
そこにいたのは王子だった。
王子はアドの牢の鍵を開けて入ってきてこう言った。
「父上がまだお前の処分をお決めにならない…だがとりあえず牢に入れておけと命じられた…これがどういうことだかわかるか?」
アドが困惑していると、王子は続ける。
「つまりだな…お前は罪人と同じってことだ。つまり父上が処分をお決めになるまでの間、この俺が好きにしていいって事だ。わかるか?」
アドは目の前の男が何を言っているのかわからなかった。
「俺はなぁ…ずっとこの剣の切れ味を試したかったんだよ…さっきも斬り付けたが、やはり切れ味がいいと感じた…もっと斬りたいんだ…わかるよな?」
アドは察してしまった。これからこの男は自分に対して拷問のような惨いことを行うのだろう。
「いや…やめて…!」
恐怖に震え、小さな声をあげながら後ずさりするも、王子の顔は残酷な笑みを浮かべていた。
「これから処分が決まるまで、毎日俺と遊ぼうな?」
アドの地獄の日々が始まった。