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プロローグ

この国にはDoMa(ドーマ)と呼ばれる職業がある。

それは人形師であり、人形を作る事を生業としている。

主に作成する人形としては、色々な小道具として用いる人形は勿論、観賞用、フューネルの作成である。

フューネルとは、大切な存在が亡くなってしまった時、その存在を忘れぬよう、人形にして家に飾る、または身につけて持ち歩く風習があるため、その際に作成される物の事である。


ここは精霊歴16年、ドルマドル王国の中にある小さな村、マデル。

16歳の双子が営む、小さな人形屋「ツインズ」のお話。


「すみません、こちらで人形を作っていただけると聞いたのですが…」

1人の青年が人形屋の扉を開く。マントを羽織り、大きめのバッグを肩からかけ、短剣を腰に装備している。恐らく旅人であろうその青年に対し、少女が答える。

「あっ、いらっしゃいませ。はい、当店では小さな人形から大きな人形まで、ご注文とあらば大抵のものは作れますよ。」

彼女はアド。ツインズを営むDoMaの1人だ。栗色の長髪で、どこか落ち着いて見えるが、顔は整っており、よく見ると少女のような可愛らしさがある。ピンクの作業エプロンもよく似合っており、こちらに向けて微笑んでくれるだけで、ホッとするような癒しを感じる。

少し頬を赤らめながらも、青年は続ける。

「実は隣国での仕事が終わったので、これから家に帰るところなのですが…娘のために買っておいたお土産を道中落としてしまいまして…その代わりに人形をプレゼントしたいと考えているんですが…」

なるほどとメモを取り出しながら、アドは質問を始める。

娘の好みは何か、どういった人形を好む傾向にあるか、普段はどういった遊びをしているか等…

質問をしている最中のアドは、とても楽しそうで、段々と笑みがこぼれる。


一通りの質問が終わると、少し考える仕草をした後、アドが口を開いた。

「もしオリジナルの人形を作成するのであれば少しお時間を頂きますが…この村にはどれくらい滞在予定でしょうか?」

しまった、作成にかかる期間の事を忘れていた。オリジナルの人形製作など頼んだことがない。この村に滞在出来るのはせいぜい2日が限度だ。その事を彼女に伝えると

「既製品のご用意もありますが…オリジナルの作成だと、少なくとも1日は製作期間を頂くことになりますね。」

そんなに短い期間で出来るものなのだろうか?と驚いていると、彼女は笑顔で答える。

「先程詳しく質問をさせて頂いたので、もう大体のイメージはついています!あとは形にするだけですが、パーツはいくつもパターンを用意しているので、細かい調整と顔部分の造形などが必要でして…そこの工程でお時間を頂きます。」

なるほど、各パーツは準備があるのか。それならば期間についても納得だ。あとは代金についてだが…正直帰路の分を考えると、手持ちが心許ない。ふと、店の壁に貼ってある料金表に目がいった。


―オリジナル作成費用:銀貨5枚―


銀貨5枚?銀貨5枚と言えば、宿で一泊して3食ついてくる値段ではないか。オリジナルの人形を作るのに、そんなに安くていいものなのだろうか?城下のDoMaに依頼するとなれば、少なくともこの倍は取られるだろう。

よほど不思議そうな顔をして料金表を眺めていたのか、アドが笑顔で話しかける。

「うちは色んなお客様に喜んで頂くことを第一に考えているので、なるべく安く提供出来るようにさせて頂いているんです。ただこちらにも生活があるので、少しは頂く事になっちゃうんですけどね。」

何と良心的な店なのか。安ければ品質が悪いのではないか。誰もがそんな不安を抱くだろうが、そんな不安はすぐに消え去った。店に飾ってある既製品であろう人形達。どれも素晴らしい出来だ。そんなに安くていいんだろうかと、こちらが身構えてしまうぐらいだが、今の自分にとっては好都合だ。

「お願いしてもいいでしょうか?二日間はこの村に滞在しています。」

そう伝えると、彼女は笑顔で

「かしこまりました!では、完成次第お知らせに行きますね!」

そう言った。青年は宿に向かい、アドは工房に向かう。




宿に向かう途中、村の入り口で女性の悲鳴が聞こえた。

急いで駆け付けてみると、そこには狼のような魔獣がいた。女性は逃げようとはしているが、腰を抜かしてしまっているのか、うまく動けていない。


そこへ4体のAM(オートマトン)が駆け付け、魔獣の前に立ちはだかる。

1体は逃げられない女性を抱え、魔獣から距離を取りつつ、残りの3体で畳みかける。

魔獣も殺されまいと、必死に抵抗をする。素早く縦横無尽に飛びまわり、AMを翻弄しつつ攻撃を仕掛ける。鋭い爪が1体のAMの片腕を抉り、肉片が飛び散るが、瞬時に元の腕へと肉片が戻り、再生する。

そのまま斧を振り下ろし、魔獣を両断。魔獣を仕留めたAMは、それぞれの持ち場へと戻っていく。


「いやぁ、やっぱりAMはいいよなぁ。傷はすぐに再生するし、万が一破壊されても代わりはいくらでもいるもんなぁ。」

と、恰幅のいい男性が感心している。

「ただなぁ、やっぱり無表情っちゅうか…見た目が俺達と変わりないから余計だと思うが、感情がないのが何とも不気味なんだよなぁ…まぁでも、AMがいないと大変なことになっちまうしなぁ」

もう一人の痩せ気味の男性がそういうと、二人はAMについて話しながら、スタスタと歩いて行った。

確かに、AMはこの国にとって重要な役割を持っている。


そもそもAMとは、宮廷DoMaだけが作れるものであり、人の髪の毛と精霊石で造られた核、精霊の土から作られる。

好きな容姿と性別で作成することが出来る上、入れた髪の毛の人物の能力も受け継ぐ事が出来る。

ただし、思考や感情はなく、ただプログラムされた命令に忠実に動くだけである。

また、核が破壊又は取り出されない限り、肉体はすぐに再生する為、主に警備兵や軍隊などに利用されており、魔獣や戦争などにより人口減少問題に直面していたこの国では革新的な技術であった。

AMのおかげで死に直面する仕事が減り、人々は穏やかな生活を送ることが出来ているが

「いずれは全ての仕事がAMに取られるんじゃないか」

と思っている人々も少なからずおり、議論は絶えない。

「でもやっぱり、もし色々な仕事を任せるってなるなら、昔作れたっていうプロトタイプの方がいいよなぁ」

そんな事を考えているうちに、先程倒された魔獣は回収されており、周りには人だかりも無くなっていた。特にやることのない青年は、そのまま宿へと向かうことにした。



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