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シャボン玉と花火

作者: てと

夏の空。

シャボン玉がふわりふわりと空を舞う。

優しく、でもどこまでも飛びたいと力強く、空を舞う。


夏の空。

花火が大きく夜の暗闇をかき消すように盛大に咲く。

強く大きく、けれど見守るように優しく、咲く。


どちらも一見相反するものだけど、同じように優しく強く空を彩る。

これはそんなシャボン玉と花火のような。

違うようで似ている2人の物語。





「ねぇ、知ってる?」


暑さもピークを迎えた真夏のある日。

そよそよと風が吹き、暑さの中に心地よさも感じる日。

自販機の前で1人の女が声をかける。

まるで自販機に話しかけているようで、自販機の後ろにもう1人。


「なにをさ?」


問いかけに答えたのは自販機の後ろに居た1人の男。


「夏が暑い理由!」


「そりゃ…夏だから?」


少し考えて答えた男を遮るように女が叫ぶ。


「バカ!夏だってたまには休みたいのよ!」


「え?お、おう…?」


「だから、今年は私が夏を休ませてあげようと思います。」


「はぁ?」


ピッ、と長々と決めかねていた自販機のボタンを勢いよく押した女は冷えたジュースを一気に飲み干した。


「さ、今夜は花火をしましょう!」


「夏を休ませるんじゃないのか?」


飲み干したジュースの缶をゴミ箱に投げ入れると、女は照り続ける太陽を見上げて男の問いかけに答える。


「そうよ?だから花火をします!」


「わけわからん。」


問いかけに答えたようで答えになっていない。

女はいつも唐突で、いつも少し変わっていた。

いつものように一緒に居る男との関係を恋人なのかと聞かれても。

そんな気はしなくて、それでもいつも周りにあまり好かれない自分の突拍子もない発言に男が付き合ってくれているのか女にはよくわからなかった。


「準備!」


「俺も?」


「と!う!ぜ!ん!」


男はいつも渋々ながらに女の唐突な発言に付き合っている。

なぜか?と聞かれれば男にはわからなくて。

男女として恋人なのかと聞かれることは多々あっても、そんな気はせず。

それでも何となく、女の発言が心地よくて一緒に居た。


「う~ん、このくらいでいいかな?」


「か、買いすぎじゃないか?」


カゴいっぱいになっている花火の山を見て、男は少し引き気味に口を開く。

そんなことは無い!と、気にもせず女はレジに向かって一直線に歩き出す。

レジ付近にまで来て、女がふと。


「…これも、買おうかな。」


「なんだそれ?」


女が足を止めて、手にとったもの。


「へぇ、シャボン玉か。」


「どう?」


「俺はその方がいいかも。」


「えぇー!花火の方がいいでしょ?」


「先に買おうとしたのはどっちだよ。」


男が乗り気になった途端、なんとなく機嫌を損ねる女。

こんな流れもいつものことだ。


「なら、俺がシャボン玉買うから。」


「え!待って!穏便に話し合いましょう!?」


慌てる女を尻目にシャボン玉セットを持って歩き出す男。

そんな男を花火で重くなったカゴと共に必死で女は追いかけていった。





「ひどい男よね。」


結局、レジでは男が花火もシャボン玉も支払いをして女はご機嫌で男に荷物を持たせ歩いている。


「どのへんが…?」


「ねぇー!夜はまだ?」


「聞けよ!でも、夜はもうちょっとだなー。」


まだ夕日が空を彩り、真っ赤に染まった山々が眩しく輝いている。

夜が顔を出すまでは少し時間がありそうだ。


「ねぇ、花火ってさ、キレイだよね。」


「そうだな。」


ぼーっと夕日に染まる山を見ながら歩く男を、横目で見ている女はいつもより少し近くに感じた気がしていた。

きっとそれは些細なことだけれど、彼女にとっては大きな出来事だったのかもしれない。


「ねぇ。」


「んー?」


「なんでシャボン玉のほうがいいの?」


そういえば、と女は不思議に思っていた疑問を口にする。

男は少し考え込むように黙って、隣で歩く女を見てから口を開いた。


「花火はさぁ、なんつーか。力強くてその大きさに守られる感じ。

シャボン玉はさぁ、弱々しいけど必死に飛んでて守ってやりたい感じ。

だから、俺はどっちかつーとシャボン玉が好きかな。」


「なんだ、ちゃんと理由があったんだ。」


「そりゃ、適当になんか言ったりはあんまりしないだろ?」


「…私はいつも適当だもん。」


女はぶすっと口を尖らせて男から目を離し、空のほうを見つめなおす。


「…俺はそんなに適当でもないと思ってたよ。」


「え?」


「なんでもないわー。」


「えー!ちょっと!あ!!待ちなさいよ!なんて言ったの?なに?なに?」


かわすように走り出す男を追いかける。

きっと女には聞こえていた。

それでも同じ言葉を、もっときちんと聞きたくて。

理由はお互いにわからなくても、なぜか妙に嬉しそうにはしゃいで追いかけてくる女を男は“心地良い”と感じていた。





「うーん!見事に夜!空!星!月!」


「太陽を休ませるってそういうことなのか?」


「モチのロンよ!」


「…まぁいいけど。」


あまりに堂々と言う女に、男は少し呆れながらも口元が緩む。


「ちょっと、なに笑ってんの?」


「ほら、花火だぞ。」


「あー!ごまかした!」


再び、ぶすっと膨れっ面になる女。

とはいえ、花火を差し出されて即座に満面の笑みに戻ったのは言うまでも無く。


「花火ー!キレーーイ!」


片手で花火を持ちくるくると回しながら、円を形作り暗闇を鮮やかに飾る。


「はー、俺はもうそんなにはしゃげないわ。」


「バカ!何言ってんの!花火はこれから!」


飽きることなく回し続ける女を横目に、男はごそごそと買い物袋をあさる。


「俺はこっちを楽しむかな。」


「ちょっとー!なに1人で地味にシャボン玉やってんの!?」


「おい、花火の明かりを切らすなよ真っ暗で何にも見えなくなるだろ。」


「え、あ、うん。ごめん。って、なんで私が!」


まるでコントのように進んでいく会話。

怒っているようで女は笑っている。

男も、相変わらずの無愛想だが口元は緩んで微笑が見える。


やがてはしゃいでいた女も、花火の明かりの中に飛ぶシャボン玉を見つめ。

静かに流れる時間に少しずつ押され、花火の明かりがちょうど良くシャボン玉を照らすように男の横に座った。


「キレイ。」


「だなぁ、花火の力強い明かりに見守られて、シャボン玉が弱々しいけど飛んでいってる。」


照らされ夜空の下に輝くシャボン玉を見つめながら言った男に女は言う。


「…私は、シャボン玉も強いと思うな。」


「どのへんが?」


「強くなきゃ、こんなに弱々しい身体で飛ぶなんて出来なくない?」


「へぇ…そういう考えもあるなぁ。」


絶えないように花火に明かりを灯し。

絶えないようにシャボン玉を飛ばし続ける。


「ねぇ、もう終わりになっちゃう。」


「こっちも、もう終わる。」


最後の1本の花火を手にとって、女は立ち上がりゆっくりと空に火を放つ。

くるくると回しながら、空に火と光の輪が出来るように。

その間を、守られるようにシャボン玉が飛んでいく。

きっと2つが同じように空を飛ぶようなことは無かったのだろう。

この男と、女だから、2つは空で出会えたのだろう。


「終わったぁー。」


やがて火は消え、力を失ったシャボン玉も消えていった。

静寂と暗闇が訪れて、女はしゃがみこんでバケツに花火を突っ込んでいく。


「なんか、ちょっと、せつない!」


「そうだな。」


終わりはいつも切ない。

どんなことでも。


「じゃ、またやろうぜ。」


「え?」


「何回やっても切ないけど、切ないからこそ何回やっても楽しいだろ。」


「…たまにはいいこと言うじゃん。」


「たまに、は余計だけどね。」


よいしょ、とバケツを持って歩き出す男の横に並ぶように女は駆け出す。

男の目線は前を見ていて、横目でチラチラと見ても合うことはない。


「次は、私がシャボン玉ね!」


「うまく飛ばせるかー?」


「失礼な!」


びしっと左手で男に突っ込みをいれ、イテテと言いながらそんな自分を見てくれている男の目線がすごく嬉しくなった。

女はなぜ嬉しいのか、きっと気付かないのだろう。

でもいつか気付くとしたら。

そのときは、強く空を舞うシャボン玉と。

大きくそれを包み込む花火が、もう一度出会うとき。





夏の空

シャボン玉がふわりふわりと空を舞う。

優しく、でもどこまでも飛びたいと力強く、空を舞う。


夏の空

花火が大きく盛大に咲く。

強く大きく、見守るように優しく、咲く。

そんなシャボン玉と花火のような2人は、今日もまた。

同じように優しく強く、2人で空を彩っていく。

「シャボン玉と花火を同時にやりたい」という話を聞いて、どうにか話にしたい!形にしたい!と、思って書いてみました。

いつもと違う、何かを何かに例える行為はすごく難しかったです。

難しく考えることは無いのですけど、自分の中のイメージだけではないものを形にしていくのは、楽しいけれどなかなか上手くいかないですね。

読んでいて、満足いく方もいれば、なんだこれーって消化不良に陥る方もいるのかも?

自分的にも、大満足!パーフェクトの100点!とは、いかず。

それでも何か、シャボン玉と花火というテーマだけで一つの形に出来たのかなと思います。

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