※美容師ナナセ、好意と決意※
店長とオドリーヘ様が、お店から出ていっちゃった。どこかで話でもするのかな…。こっそりと尾行したいな…。
「よし!後をつけるぞ!影も場所を把握しろよ!」
「はっ!」
ジーク様の命令に、どこからか声が聞こえる。隠密をそんな事に使うなんて…アリだな。
「ジーク…そうね。そうしましょう!」
「ジーク様、ディーテ様…」
「何やってるんだ。行くぞ皆で!」
何だかんだで、皆で出てきてしまった。マダマダ様を残してね。まぁ正直、私も気になるしね。お姉ちゃんなんかは、こっち見てニヤニヤしてるし。もうっ!そんなんじゃないよ!
「あそこの広場か…」
「きっと…あそこのベンチに座るぞ」
「よしっ!皆散るんだ!」
皆は高い身体能力と魔法で、近付いて身を隠すみたい。バレないように上手くやってよね!私はお姉ちゃんとカズヤさんと一緒に、こっそりと茂みに潜む。距離は五メートルって所かな。何かドキドキする…。
「何かワクワクするわ」
「マイも?俺もだよ。学生みたいだな」
「二人共、声を小さくしてよ。バレちゃうよ」
「あら、そんなに気になるの?」
「ナナセもお年頃だもんね」
くそー!二人のペースだ。いつか仕返ししてやる!まぁ、とにかく今は店長達を監察しなきゃ!
※※※
「なるほど…それで、漫画化されたんだ」
「まさか、大人気になるなんてね」
さっきから二人は、たいした話はしてない。でもちょっと楽しそう。盛り上がっちゃってるもんね。
「で、キクチさんはどう考えてるの?」
「何を…ですか…」
「わかってるでしょ?」
イヤー!何の話をするの?聞きたいけど、聞けないよー!でも気になるしなぁ…。店長なんて答えるの?
「私の事に決まってるわ。そもそも私はあなたと結婚したいなんて、一言も言ってませんよ」
「えっ」
「たまたま、あなたの出した条件に、私が当てはまっただけです」
「そっそうですよね」
「それで、条件に一致した私をどうしたいんですか?」
「……」
店長!何とか言って下さいよ!それにオドリーヘ様は好きではないのか…。うーん。じゃあ何でここに来たんだろ?
「私と結婚しても良いんですね?」
「えっいやっ」
「じゃあ、私が嫌いなんですね」
「まっまさか、そんな事は」
「じゃあ良いですね。結婚しても」
「そっそれは」
「私…キクチさんと話していたら段々と…好きになってきて…」
「えっ」
そっそんな!店長もはっきりと、言ってしまえば良いのに!断れば終わりなんです!
「私を邪険にしないで下さい…」
少しづつ、体が近付いていく…。そんなの…。店長も離れてよ…。お姉ちゃんやカズヤさんも、何とも思わないの?
「私は本気ですよ…」
口元が近付きつつある…。まさかっ、きっキスをする気じゃ?
「オドリーヘ様…」
もう顔の距離はゼロに近い…。やだよ。店長…。私から離れて行かないで!やめてっ!
「だっダメ~!私が許しません!」
思わず飛び出してしまった…。やってしまった…。
「あっあれ?ナナセさん…何がダメなの?」
「てっ店長!何を言ってるんですか!さっき顔が…近く…キスしようと…あれ?」
二人の距離は離れている…。どうなってるの?
「まさか私とキクチさんが、キスでもしてると思ったのかしら?」
「えっ?そんな事してないけど…ただ喋ってただけだし…」
「きっと魔法でも掛かってたのよ。魔法にね」
そう言ってオドリーヘ様は、ウインクをする…。まっまさか…!やっやられた~!きっと幻覚でも見せる魔法だ!
「良かったわね。素直になれて。気持ちがはっきりしたんじゃないの?」
「えっ?何を話してるのさっきから。ねぇオドリーヘ様、ナナセさん」
「なっ何でもないです!店長は黙ってて下さい!とっとにかく、私が認めない限り、店長には結婚させません!」
訳わからない事を言ってしまった。穴があったら入りますよ。速攻でね。
「なっ何それ、ナナセさん」
「素直じゃない方ね。まぁとにかく私も結婚する気はないしね。まだ武人としても上り詰めてないしね」
「マダマダ様が、張り切り過ぎなんだよ」
「えっ?」
「いや、僕から言う前に、オドリーヘ様からも断られたよ」
「問題になっちゃってごめんなさいね。でも会って話したかったのは、本当だから。これからも一人なら、いつか結婚をお願いするかもね」
「僕も独り身で寂しかったら…」
「ゆっ許しません!店長は寂しくさせませんから!」
さっきから何を言ってるんだ私は!オドリーヘ様に、良い様にやられてるよ。穴に入った私を、上から蓋閉めて閉じ込めて!
「まっそういう事で、今日は帰るわね。お店の二人の連携は素晴らしかったわ…それこそ長年の夫婦みたいでね。とにかく、お二人共仲良くね。じゃさよなら~」
そう言って、オドリーヘ様は去っていった。手の上で転がされた…。私の事わかってて…。
「何だったの…結局?」
「店長は知らなくて良いです!」
そして皆が出てくる。野次馬集団がね。
「イヤー流石だよナナセ!さっきの威勢は!」
「あの女がナナセに魔法を使ったけど、悪意は無さそうだったし、面白かったわ」
「ナナセやるじゃない。何が見えてたか知らないけど、止めようとしたんでしょ?」
「ダメ~!だってさ!可愛いナナセが見れて良かったよ」
「何が見えてたのかな~!教えて貰わないとね!」
まさか私だけに、ピンポイントで魔法を?私だけバカみたいな事に?
「俺達の気配にもちゃんと、気付いてたもんな」
「いやいや、中々の武人だよ…優勝しただけはある。幻覚魔法も素晴らしいしな」
「私達にも、合図送ってくれてましたから」
「ああ、今から面白い事しますから、見てて下さいねってな。表情でわかったよ」
そんな事までしてたの?全てお見通しで、私をからかったんだ。完璧にやられたよ。
「僕だけ蚊帳の外?何なのいったい皆して…」
「キクチは関係ないわ」
「ディーテ様の言う通りよ」
そんな感じで帰る事に。
「何だったの?ナナセさんこれは…」
「店長は知らなくて良いんです!とにかく私が頑張りますから、店長はのんびり待ってて下さい!」
「のんびりって…」
私は多分店長が好きだ。人として、多分男性としても。横に並べる素敵な女性になったら、告白してみようかな。それとも告白される為に、努力をしてみるかな。取り合えず、胸を大きくしなきゃかな?とにかく頑張りますからね!
※※※
「まだかな…」
パラレルには一人取り残された、マダマダ様が皆の帰りを待っている。そして、結果を聞いて落ち込む。ごめんねマダマダ様、私も邪魔するからね。




