ナナセの苦悩、リリーシュ連合国の感謝
武闘大会も終わり、僕達は帰ってきた。美容学生や孤児院の子供達は、とても大会やラヤマの街を楽しんだ様だ。オーパイさんやマイさん達も満喫したみたいだ。帰りの魔動バスや魔動車でも、興奮覚めやらず皆は盛り上がっていた。でも僕とナナセさんだけは、暗く無言だった。ずっと考えていたからだと思う。人の死について…。
「そう…そんな事が…ナナセも可哀想に…」
「アタシは冒険者だったから…慣れてる訳じゃ無いけど、人の死は沢山見てきたから…それに悪人を殺した事もあるしね…」
「それがこの世界では、本来当たり前なんだよ。魔物もいるしね。僕達は運が良い。魔物って言っても、ワイバーンと竜王様くらいしか会ってないしね」
「逆に凄いけどね…普通そんな事無いよ…」
「僕達はリリーシュ様に、守られ過ぎているかもしれない…この世界と日本を、ごっちゃにしてはいけないよね…」
「ナナセも早く立ち直って欲しいけど…キクチくんも無理しないでね」
「ありがとうございます…僕は大丈夫だけど…」
マイさんやオーパイさんも心配してくれている…。ナナセさんにも元気になって欲しいよね。
※※※
暫くしても、ナナセさんはどこか元気が無かった。表面上は元気に仕事をしてはいるけど…。
「そうか…でも申し訳無いが、教皇は死ぬ以外の選択肢は無かった。最低でも死、最高でも死だ。楽か辛いかの差しかない。そしてあの死は楽だ」
「ジーク様、わかってます。ただ、割り切れないんだと思います」
「そうだな…もう向こうの大陸は、慌ただしく動き始めてるのにな…教皇の親族や、罪の重い関係者も処刑された…」
「何人ぐらい…」
「約四十人だ…」
「そんなに…」
「本来ならもっと多いはずだ…二百人を越えてもおかしくない…大国だったからな、かなりの恩赦だろう。でも罪は消えない。これからの国造りに励んで貰うさ」
「そうですか…」
それでもかなりの人は死んでいる…。もし僕がこの世界で目立たなければ、今も教国の方は生きていたかもしれない…。でもいたからこそ、戦争が止められたかもしれない…。僕達はこの世界に、良くも悪くも大きい影響を与えているんだな…。きっとナナセさんも、そこら辺を考えているのかもしれない…。
※※※
そしてある日の営業終了後、知らない二人組がやって来る。
「キクチ様とナナセ様に、お会いしたいのですが…」
「あっ僕がキクチですけど」
「ナナセは私です…」
何だろう、神妙な顔付きだ…。
「「ありがとうございます!」」
「「えっ?」」
「私達は新しくなった、リリーシュ連合国の者です。まだ何者でも無いですけどね」
「それが何故…?」
「ただ、お礼を伝えたかったんです。キクチ様の育てた文化と、ナナセ様の育てた魔法が教国を倒してくれた」
「そんなに偉そうな事は…」
「私もそこまで…皆さんが頑張って…」
あまり、持ち上げないで欲しい。それに責任を負いたくない。特に生き死にのね。
「いえ、違いません。間違い無く私達は、あなた達に助けられました。教皇達から救って頂きました。本当にありがとうございます」
「止めて下さい!私達が殺したみたいじゃないですか…」
「…?直接は殺して無いかも知れませんが、間接的にはそうなのでは?」
「あまり僕達は…人の生き死に慣れてなくて…」
「そうですか…それは申し訳無い…では失礼かも知れませんが、ナナセ様は私達に死んで欲しかったのですか?」
「そっそんな訳…」
「では良いじゃないですか。教皇が死んだからこそ、何万人もの命を救う事が出来ました。だから私達は、こうしてお礼を伝えに来たんです」
「これは…ここに来れない者達の、お礼の手紙です。沢山ありますが、是非見て欲しいです。中には拷問を受けて、今も動けない者の手紙も沢山あります。無理して筆を取り、救ってくれた感謝を伝えたい一心で手紙を書いたそうです」
「そんな酷い人まで…」
本当に喜んでくれてる人が、沢山いるんだろうな…。
「教皇を一人や、親族等何十人死んだ事を気にするなら、何万人もの見えない命を救った事を誇って欲しいです。そして今まで圧政で死んでいった、何万人もの命が無駄では無かったと、思わせて下さい。あなた達が教皇達の命を気にするなら、私の死んだ娘やコイツの死んだ妻になんと言えば…」
「あなた達も…」
「すいません…」
そして僕達は何気に手紙を読んでみる…。
「店長…これっ…」
「うん…うん…」
そこには沢山の感謝の言葉や、これからオシャレをしたい、いつかパラレルに来る、良い国にする等、多くの前向きな言葉だった。
「まだ動けないけど、動けるようになったら絶対お礼を言いに行きます」
「これからは俺達も胸を張れる良い国にする」
「悪者を倒してくれて、ありがとう」
「いつかオシャレを教えて下さい。漫画も読んでみたいな」
「娘の仇を討ってくれて、ありがとう。これからは前を向いて頑張ります」
本当に、色んな言葉がある。とても読みきれない…。そしてナナセさんは泣いている…。
「私達はこの世界に来て、良かったんですよね…」
「うん…僕はそう思うよ。ここに全部書いてあるからね」
「何を悩んでたんだろ…」
「本当にね…ただ困ってる人を助け、オシャレを普及して、笑顔の絶えない世界にすれば、良いだけだよ」
「そうですね!店長!」
そして二人組は、笑顔で帰っていった。僕達も笑顔で見送る事が出来た。ナナセさんも晴れた顔をしている。
※※※
「私のせいで…多くの人が死ぬと思うと…怖くなって…この世界の住人じゃないのに…」
「そうだね」
「でも私のおかげで…救われた人も…多くいるわけで…」
「そうだね」
「だから…これからも沢山救える様に、頑張ろうと思います…!」
「そうだね!そうしよう!因みに、僕はナナセさんの笑顔で、救われるけどね!」
「えっ…」
「なんちゃってね!」
「……」
「あれ?どうしたのナナセさん…」
「何でも無いです!バカ店長!」
「えっ!?」
何故か怒り始めたナナセさんだが、ひとまず僕達は落ち着きを取り戻した。これから来る新しい騒動に、気付かないまま…。




