第二回世界武闘大会、決着と死
「くそっ、あいつらは何をしておる。朕を愚弄しておるのか…全員処刑だ!」
これが一日目の教皇の感想だ。全員完敗。弓術戦、馬術戦は最下位。闘神戦少年の部も一回戦で惨敗だ。余りのレベルの差に、同情したよ。折角僕が開会式で、去年同様盛り上げたのにね。盛り下がるよ、あれは。因みに優勝者は、弓術戦がダウタウーン公国の騎士が優勝、馬術戦がオースリー王国のホースウマーさんの二連覇、少年の部がイキシチニ帝国のキニユ様の娘が優勝した。新たに二つ名を貰った人も大喜びだったし、会場も盛り上がった。
※※※
「…どうなってる…朕の騎士は精鋭では無いのか…くそっ、処刑しろ!弱い奴等はいらん!」
二日目の感想がこれ。案の定、二日目も完敗。格闘戦、槍闘戦、剣闘戦すべて一回戦で惨敗だ。少しづつ他国からも、逆に応援され始めたよ。そして優勝者は、格闘戦はデリタム王国のタイガベア様の二連覇、槍闘戦はゲーイジューツ皇国の冒険者が優勝。剣闘戦はヌーヌーラ共和国のマダマダ様の娘オドリーヘさんが優勝した。とうとうやられたよ…。お見合い決定だ…。ナナセさんも二つ名を、渋々付けたみたいだ。
※※※
「……」
最終日の闘神戦は、もう言葉も出ない。絶句だ。あっさり敗けたしね。負け続けて可哀想という事で、会場から物凄い応援されてて、少し可哀想になったよ。余りにも惨めで、騎士も泣いてたよ。そして優勝は決勝でライオトーラ様を倒したアントレン様だ。準決勝でカナヤ様を何とか破り、激戦に次ぐ激戦で優勝した。その傷だらけの姿は、見る者全てに感動を与えた。『王国の雷槍』の二つ名も『天下雷神』に格上げされてた。そして僕の閉会宣言も盛り上がり、全てが終わる。
「…という事で、また来年会おう!」
「「「「「ワアァァァー!」」」」」
僕の予定ではここで来るはず!あの人が、あの光が、あの声が、…。来るよね!?頼みます!来て下さい!
「キクチ…今年も平和の祭典ありがとうございます…ラルベリマルサーヌピヨンからリリーシュに変わり…本当に幸せです…皆さんも平和な世界を守ってね…」
よし!やっぱり来た!優しい光と共に、リリーシュ様の声。会場は更に盛り上がる。これで教国は、文句も言えないだろう。ていうか、リリーシュ様も名前を強調し過ぎだし、わざとらしかったよ。とにかく後は、ラルベリマルサーヌピヨン教国を潰すだけだ。
※※※
「どうですか?教国の皆さん。自分達の国の弱さと、偽りの神を崇めてた気分は。神の声も聞いちゃいましたね。あなたと違って本物の」
「あっあれはどうせ魔法だろう!朕の知ってる声とは違う!」
「別にそれでも良いですよ。戦争をこちらの大陸に、仕掛けるつもりだったんでしょ?それならそれで、勝ち目も無い事がわかったでしょう?あなたの頭では、全くわからない事までするのだから」
「べっ別にそんなつもりは…おっお前らが望むなら、強くなる教えを聞いてやっても良いぞ!」
「まだそんな事が言えるんですね…」
「朕には神の力があるからな!本物の!」
最後まで往生際が悪い…。
「教皇以外の皆さんはどうですか?良くわかったんじゃ無いですか?自分達の愚かさを」
「「「「「……」」」」」
「間違い無く今の教国は、潰れると思います。この数日間で良くわかったでしょう、他国との実力差を。文化レベルの差を。それでもこのクソババアを崇めますか?今のまま、時代に取り残されますか?」
「「「「「……」」」」」
「何故皆、黙っておる!朕を崇めて誓えば、栄誉は約束されている!」
皆も気付いているだろう。もしかしたら、今までも本当は気付いていたんじゃないか?偽りの国という事を…。甘い汁を吸った者、恐怖に怯えた者、ただ信じてた者…ちゃんと考えて欲しい…。
「皆!聞いてくれ!」
「ショークパ様…」
ショークパ様が、話し始める…。
「多分今頃、四都市が国として独立宣言をしているはずだ。ドワッフルも、今後は教国の仕事は受けない。もう既に新しい文化を、受け入れ始めてるよ。私達も協力して、行動を起こさせた」
「そっそんな馬鹿な…」
「馬鹿なもんか…私と同じ様に不信感を持つ者も、多くいたって事だ。そして家族を殺された者もな…。だから皆、快く返事をしてくれたよ…とっくに終わってたんだよ、教国はな…」
「関係あるかっ!戻り次第、制圧してやるわ!」
「戻れると思ってるのか?私が仇を目の前に、何もしないとでも?」
「ぐっ…」
ショークパ様、今はいけないよ。殺人も良くないよ。そして今度はジーク様が、話し出す…。
「今なら国の再建を手伝ってやる」
「えっ」
「だが、教皇お前は駄目だ。死んで貰う。お前の一族もな」
「何故、朕が…」
「お前は黙ってろ。ここにいる者の中でも、脅されたりしている者がいる事もわかっている。だが罪は許さないし、償って貰う。だが命の保証はしよう」
「どうして…」
「お前達の国は、歴代教皇の独裁国家だ。神の名を使った嘘の国だがな。だから、まず教皇という地位を消す。そして各都市全てに、独立国家となって貰う。それで採算を考えろ。その上でリリーシュ連合国として協力して纏まるんだ。それなら俺達も手伝える」
「そんな事…」
「もう諦めろ、それしか無い。じゃなきゃ俺達に乗り込まれて、圧倒的な武力でやられるだけだ。無駄に死人を出したいなら、俺達は構わんけどな…俺達に喧嘩を売ろうとしてたんだ…喧嘩を買われても文句は言えないだろう?」
多分落とし所は、元々考えてあったんだろうなぁ。皆は諦め始めているが…。この人は…。
「ふっふざけるな!この朕を通さず、好き勝手言うな」
「教皇様…もう終わりですよ」
「私達もそれしかありません」
「諦めて下さい」
教国の人間が離れてしまっている…。もう終わりだ…。
「ちっ朕は、神の子だぞ!朕の言う事を聞け!…グッ…ァァ…」
「娘の仇っ!」
いきなり…教皇が刺された…教国の人間に…。
「裏切っ…たな…くそっ誰か…回復魔法を…」
「今までの恨みを…忘れるかっ!そして嘘も…!お前さえいなければ…もっと国も…娘も…」
「ギャッ!…やめてッグブッ!…痛い…痛っ…助け…」
教国の人間が、何度も剣を刺し大量の血も出ている…。でも誰も止めないし、回復もしない。このままでは間違い無く死ぬ…。そして僕は震えているだけだ…。でも僕は…。
「じっジーク様っ!」
「駄目だ。あいつは…やり過ぎた…。このまま死んで貰う。教国に戻って処刑されるよりは、ここで死ぬ方がまだ良いだろう。残酷に処刑されるだろうからな…それだけ恨まれてる…」
「そっそんな…」
「それに、その方が新しい国にとっても、都合が良い事もあるだろう。国民にも伝えやすいだろうしな」
そして気付けば、教皇はただの屍になっていた…。物凄く嫌な奴ではあったが、死んで欲しいとは思っていなかった…。綺麗事だとは思う。恨みも沢山買っているだろうし、多くの罪も犯している。でもこの世界に来て、初めて人の死という怖さを知った。悪人が死ぬ。この世界の人は、当然だと思っているだろう。でも僕は違う。そしてナナセさんも…。そこでナナセさんが気になり、後ろを振り返ると…ナナセさんが黙って震えていた…。
「店長…私どうしたら…」
「ナナセさん…ごめんね…こんな事になって…」
僕は涙を流すナナセさんを、優しく抱き締めた。この世界の人にとっては、当たり前なのかもしれない。でも僕達は違う…。改めて知ったよ。これが異世界なんだな…。
※※※
教皇の遺体は、すぐに片付けられた。適当に処理されるらしい。これからは各国協力して、リリーシュ連合国を盛り上げていく様だ。ショークパ様も仇は自分で取れなかったけど、スッキリとしている様子だ。向こうの大陸も大きく変わるだろう…。でもまだ僕達は…。
「店長…」
「何?」
「沢山の人が処刑されるんですかね…」
「多分ね…その人達は、数え切れないくらい人を殺してるし、悪い事も沢山しているからね…しょうがないらしい…」
「そうしないと…誰も納得しないんですかね…」
「さぁ…どうだろうね…当人しかわからないよ…でも僕はナナセさんが殺されたら…間違い無く相手を殺すよ…」
「怖い事言わないで下さい!」
「うん…そうだね。そんな事したら逆にナナセさんに殺されそうだしね」
「どういう意味ですか!?私が殺されたら、店長が殺して、次は私が店長を殺すんですか?意味わかりません!」
「そうだね。人を殺すのは、意味なんて無いよね…」
僕達は考えさせられる。この世界で生きていく為に、オシャレを広げる為に。この世界に来て二年半が経つが、改めて色々と考えさせられる出来事だった…。




