※美容学生フリンカザー、経営不振※
「何か違う気がする…」
「カザーそんなに気にしなくても…そのうち」
「いや、このままだと無理なんじゃ…」
その時の俺は悩んでいた…。それは何故か。学生で経営している美容室『ルーキーズ』が、あまり上手くいっていない気がするからだ。だから寮に戻り、皆と相談をした。
「皆はどう思う?このままで、大丈夫か?」
「確かに…そんなにまだ繁盛してないけど、私はもう少ししたら、リピーターも増えるんじゃないかと…」
「カーナはそう思うか…ミナはどうだ?」
「私は不安だ。明らかにパラレルとは違う。緊張感に欠けるからな」
そうだ。言い方は悪いかもしれないが、監視者がいないのは自分達を堕落させる。でもそれだけじゃないんだ…。
「そうなんだ。下級生の指導も、パラレルの勤務も、緊張感はあるが…」
「そうだね。でも緊張感があれば売上が上がるって訳でも無さそうだけど…」
「そうだな…キーの言う通りだと思う…」
「キクチさん達ほど上手くもないけど、でも値段も低いから…これから変わってくるかも…」
「そうか…」
皆の中でも不安は多少あったが、答は出ない…。結局その時は、それくらいの話で終わった。
※※※
「売上が下がってる…」
「嘘っ…こんなに?」
「そんなに私達は…下手なの…?」
ルーキーズの売上は週事に下がっていった。普段俺達は週交代で、学校、パラレル、ルーキーズを回っている。だから気付くのが余計に遅かったんだ…。
「何が原因なんだ…皆!しっかり考えよう!」
「そうだな…もっと上手くなる事?」
「キー、それは勿論だけど…私は違う気がする…」
「ミナ、何かわかったのか?」
「キクチ殿に聞いたんだ…売上があまり良くない事を…本音は聞きたくなかったけどね…」
「それで…?」
皆も聞きたくてしょうがない。それはそうだ。すぐ頼るのは良くないが、そうも言ってられない状態だった…。
「キクチ殿は…「技術なら、いくらでも教えて上げるよ。でも経営は教えない。自分達がお店を出したら、何かある度に僕を頼るの?それなら今すぐ辞めた方が良いよ」…と言われた…」
「そんな…」
「厳しい…」
皆が悲しい顔をした…。でもその通りなんだ…。甘えちゃ駄目なんだ…。
「でも…キクチ殿は、こうも言っていた。「ミナラーさんは悩むほど、何かをやったの?」…だとさ」
「それは…つまり…」
「そう…キクチ殿には、私達は何もしていないと思われている…」
「何で…私達だって頑張ってるのに…」
「僕だって…」
そうだ。その通りなんだ。俺もずっと悩んでいたけど、結果が出なけりゃ実際は何もしていないのと一緒なんだ…。だからまず俺達がする事は…。
「考えよう!もっと考えようぜ!さっきから…俺だって、私だって、僕だって、そればかりだ言い訳は後にしてやってみようぜ!」
「そうだなカザー…お前の言う通りだ…」
「実は…私も似たような質問を、マイ先生にしたんだけどさ…」
「ケリー待て!…俺達は…人に頼る事に慣れてる…良い環境に慣れすぎたのかもな…これからは自分で考える事に慣れよう…」
「そうだね…」
「その通りだ…」
「じゃあマイ先生の話は…」
「「「「「聞く!」」」」」
そして話し合いは深まっていった…。
※※※
「マイ先生は、キクチさんも苦労してるって言ってたんでしょ?なら…その苦労を知っている人がいるんじゃない?」
「街の人に、聞き込みでもしてみるか…」
「ギルドでも良いんじゃない?」
「そうだな、まず色々と聞いてみよう!」
※※※
その翌日、手の空いてるルーキーズ組が聞き込みをした。そしてまた会議に。
「パンチどうだった?」
「ああ、良い話が聞けた。まずキクチ殿は、チラシを配ってたそうだ。ナナセ殿と二人でな」
「そんな事を…」
「ああ、パラレルは全く誰も知らない状況からの、スタートだったらしくてな…チラシも、自分達がどんな人かを教える内容だったり、どんな事が出来て、どんな気持ちになれるかを、細かく書いてあったそうだ」
「そこまで…」
「そうだ…信じられないよな…後はポスターを貼ったり、定食屋とか自分達が行く先々で、自己紹介してたらしい」
皆、絶句していた…。あそこまで忙しいお店なのにな…。自分達を、そこまで売り込んでいるとは思わなかった…。俺達は、用意して貰ったお店で待っていただけ…。キクチさんの言う通り、俺達は何もしていなかったんだ…。
「今日さ、パラレルで働いてたら…この前、僕が髪を切った人が来たんだ…正直ショックだった…向こうも少し気まずいかな?なんて思った…でも…」
「でも?なんだヅツーキ?」
「その人は…何とも思って無かったんだ…なんて声掛けてきたと思う?…「またパラレルが忙しそうだったら行くね!」…だってさ…」
「それは…きついな…」
「悔しかったよ…でもその人は悪気なんて無いんだ…僕達には…それくらいの価値しか無いんだよ…」
「パラレルの代用店って事か…」
ヅツーキは悔しかっただろう…。でも俺達も同じだ。なら俺達の価値を上げるしかない。パラレルとは違う価値が必要だった…。
「俺達の価値を、明確にしよう!そしてそれをチラシにしよう!」
「そうだな!技術じゃ負けるが、値段なら僕達の方が安い。そこを明確に書こう!そこに引っ張られる人は、絶対いるしな!」
「私達のプロフィールを、しっかり載せましょう。どうして美容師を始めたとかね。この際、元貴族だった事もね。興味持ってくれるかもしれないしね!」
「店内もさ、模様替えしない?パラレルと雰囲気変えてさ、差別化しようよ、もっとね!」
「この際だから、シャンプーやスカルプケアやマッサージも、オリジナルにアレンジしない?同じだと変わらないから、時間を長くしたり、指圧のやり方とかも研究して変えようよ!」
「言い辛いんだけど、若さも売りにしよう!マイ先生やキクチさんには、出来るだけ内緒にね!」
そして、どんどん皆の意見が出てきた。やる事が沢山ある。そんなにすぐ結果は出ないかも知れないが、でも俺達はやってみせる。パラレルの人達に負けない美容師を、そして勝てる美容師を目指すから。俺達はそういう気持ちで、改めて取り組む事になった。
※※※
「いらっしゃいませ!」
「あのこのチラシに書いてある、シャンプーしてみたいんだけど…」
「ありがとうございます!」
「パラレルとは違うんでしょ?」
「はい!僕達がオリジナルで作りました!」
俺達はこの街にとって、新しく必要とされる美容室にする。パラレルとは違う形でね。まだ試行錯誤だけど成功させたい。だから俺達はまだまだ考えるし、色々とやる。そして皆を綺麗にして、笑顔にするんだ。そして自分達も、いつか自分のお店でオシャレを発信してみせるよ。
※※※
「「「「「すいません!」」」」」
若さを売りにしたチラシを見付けたマイ先生が、「これって私への挑発?」と聞いてきた時に、俺達は皆で土下座をした。アントレン様が死にかけたのを、俺達は見ていたからね。つまり俺達はこれからも、頑張るって事だ。そういう話なのさ…。




