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異世界美容室  作者: きゆたく
一年目、異世界王国飛翔篇
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宰相ヤッカム、王妃オヒオヒ来店



「はぁ…何でこんなことに」



 溜め息を付いてしまうのには理由がある。王都から帰ってきたヤシノさんが持ってきた手紙だ。内容は指定された日の昼以降は貸し切りにして、時間を開けておくようにという事。それと…。



「ヤシノさん…そこまで大事にはならないって言ってましたよね…」


「申し訳ないのじゃ…儂もまさかここまで反響があるとは…」


「王妃様まで来るんですか?店長、楽しみですね!」



 そう何故か王妃様も来る事になっている。ナナセさんは軽く言うけど…。大変そうだなぁ。ヤシノさんの話では、王都での会議は元々の内容そっちのけで、ヤシノさんの髪の話題で持ちきりだったらしい。宰相様も苦虫を噛んだような顔で睨んでいて、会議どころではなかったらしい。



「宰相様はまだわかるんですけど、何故王妃様まで…」


「王妃様はヤッカムの娘じゃ。噂を聞き付けたのじゃろう」


「他の貴族様とかも来ますかね?」


「護衛や侍女は来るが、その二人だけじゃ。一応他の貴族や他の街のギルマスには細かい情報は伏せておいた。」



 ヤシノさんは、一応僕達を守ってくれたらしいが、宰相様はどうしても無理だったらしい。まぁ元々宰相様にはここを守る為にも、話をするつもりだったらしいが。そして忙しい中、急遽様々な理由を付けて無理矢理この街に来る事にしたようだ。



「にしても明日って…もう少し心の準備が…」


「明日はお昼過ぎから、ポニョンさんとディンドンさんの予約と…」



 ナナセさんは明日の予約をチェックし、断りのお願いをしに行く。申し訳ないがこの二人が来るのならば断るしかない…。この国は王国だから逆らえないしなぁ。



「まぁ二人とも気さくな人じゃし大丈夫じゃろう」



 気さくな人といっても王妃様と宰相様だよ。とてもフランクに会話できる自信はない。そもそも貴族の礼儀も知らない。



「なるようになれか…はぁ」



※※※



 次の日の昼、外で貴族様を待つ事に。しばらくすると、数人の騎士と共に豪華な馬車がやって来る。うちの店の前で止まると、騎士が馬から降り確認をしてくる。



「ここがパラレルで間違いないか」


「はい。そのとおりです」



 騎士が馬車に戻り確認を取ると、馬車から人が降りてくる。まず降りてきたのは頭頂部のハゲが目立つ気品のあるお爺さんだが、何故か服のセンスがない。多分宰相様だろう。そして二人の侍女、最後に出てきた方が恐らく王妃様…。



「「えっ」」



 正直僕達は目を疑った。何故かというと、この異世界で見てきた人達の中で、間違いなく王妃様が一番ダサかったからだ。



「そなたが噂の者だな。私はこの国の宰相、ヤッカム・ポリンクララだ。そしてこちらが…」


「お父様、名前くらい自分で名乗れますわ…私はペランチョ王国の王妃、オヒオヒ・ペランチョですわ」


「私はキクチと申します。すいませんがまだこの国に来て日も浅く、お二人に対して礼儀を欠くこともあるかと思いますが、今日はよろしくお願い致します」


「構いませんわ。今日は無理を言って来ましたから、本来なら失礼なのはこちらです。それよりも楽しみにしてたのよ。早く店に入れて下さいな!」



 良し!王妃様があまりにもダサいから怖かったけど、思ったより全然良い人そうだ。店内にすぐ案内をし、二人はカットする椅子に座ってもらった。店内に入ってきた数人の騎士と侍女も、色々と確認をしている…。僕達も気になる事はある。服装はともかく、まず名前もダサい…。国名は知っていたが、多分間違いなく高い身分ほどダサいのだろう。最初国名を知ったときは冗談だと思ってたくらいだ。



「これは…魔道具?」


「この椅子や鏡は…」



 皆、色々とビックリしているようだ。宰相様や王妃様も話を聞いてはいたけれど、といった感じだ。



「珍しいとは聞いていたが、ここまでとは思っていなかったよ」


「お父様、私もよ」


「ありがとうございます。そう言ってもらえれば嬉しい限りです。で…今日はどのようなご用件でしょうか」



 恐る恐る聞くと…。



「決まっている。もちろん『すかるぷけあ』だ!ヤシノを見て驚愕したぞ!あと『とにっく』や『しゃんぷー』なんかも買っていくぞ」


「かしこまりました。ありがとうございます」


「あんなに悔しかった事は生まれて一度もない。思わずヤシノを処刑しそうになった」


「…それは止めて下さい…で、王妃様はどうなさいましょうか?」


「私は噂の『おしゃれ』をしに来ましたの。あなたから見て私の印象の正直な意見をまず聞きたいわ」


「正直にですか…」



 絶対に無理だ…。失礼すぎて「全部」だなんてとても言えない。とにかく全部ダサいんだもの…。王妃様の見た目を簡単に言うと、とにかくボリュームを出しただけのボンバーなヘアスタイル、濃い色を使っただけの謎の老けて見えるメイク、たくさんのアクセサリーやフリルをつければ良いと思っている変なドレス…。良いところが一つもない。しいて言えば素材、本人はモデルの様なスタイルや顔をしていると思うので、良い所はそれくらいだ…。



「気を使わなくて結構ですわ。あなたの国の基準で良いです。別に不敬罪等と言いませんわ」



 なら言ってしまおう。一か八かだ。頼むから怒らないでくれよ。ええいままよ!



「全部です。ヘアスタイル、お化粧、服装、アクセサリー、バランス全て悪いです」


「「「………」」」



 お付きの騎士や侍女が呆けている。王妃様も驚いた様だし、まさかそこまで言われるとは思ってはいなかったのかもしれない。



「きっ…貴様!王妃様になんていう暴言をっ!」



 怒ってしまった…。騎士の一人が我に帰って叫ぶ。しかし王妃様は…。



「止めなさい!私は良いと言ったのよ!」


「しっしかし…」


「良いのです。私も少し驚きましたがそこまでとは…」


「僕も偉そうに言って申し訳ありません…正直にとおっしゃったので…」


「構いません。しかしやっぱりそうなのね…」


「やっぱり?」



 どうやら王妃様は元々自分達の格好が、どこかおかしい気がしていたらしい。昔から当たり前だったが、何でこの格好をする必要があるのか常々疑問に思っていたそうだ。



「この街の国民を馬車から見ていた時、尚更そう思いましたわ。服装や髪がキレイになっている方が目に付くし『おしゃれ』は今の私達には無い気がしたわ」



 その意見は、宰相様を含め同行者は皆少なからず感じるところがあったようで、その後は素直に話を聞いてくれる様になった。



「ナナセさん。僕は王妃様に色々と説明させて頂くから先に宰相様のスカルプケアに入ってもらって良いかな?」


「はい!」


「やった!これを待ってたんだ!ヤシノめすぐ追い付いてやる!」



 宰相様は待ってましたと嬉しそうだ。そして僕は王妃様に一つ一つ丁寧に説明を始める。



「王妃様まずどう見られたいですか?」


「私は王妃にふさわしく見られたいと思っているわ」


「具体的に言うと?」


「具体的って言われても…」



 王妃様は自分の見られ方や、印象も多分良くわかっていない。周りの従者も多分そうなのだろう。



「私はまず王妃様に、より高い品と格、それと若さを提案させて頂きます」


「わっ若さっ!?」



 若さに思いっきり食い付いた。そこからどうやったら品と格をだせるか、若く見せることができるかを説明し実践していく事に。主にヘアスタイルとメイクだ。侍女の二人も一生懸命に見聞きしメモを取り始める。



※※※



 ヘアとメイクが、一通り終わった。



「…という感じでナチュラルなメイクの方が大分若くなりますね」


「なんということなの…これが私?」


「王妃様、素敵過ぎますっ!」


「なんとお美しい…」



 僕はまずシャンプーをしてから、軽く毛先を整える程度に切り揃え、少し軽くなる程度にカットをしていった。最後はアイロンで仕上げゆるふわなスタイルに。そこでも大分喜んでくれたが、対外用にアップやハーフアップ等のセットに、編み込みなども軽く教えた。普段のヘアケアのコツなども教え、一緒にシャンプーやトリートメントやスタイリング剤まで紹介した。メイクは最初、すっぴんを見せる事に抵抗があったようだが、若さには変えられないらしく我慢してもらった。化粧水やクリーム等の保湿から始まりファンデーションやコンシーラー、小顔に見せるシャドーの入れ方、パッチリ見せるアイメイク、プルルンリップと細かく教えて差し上げた。もう王妃様も侍女もかなり必死にメモっていた。



「自分で言うのもなんだけど、20代前半に見えるわ」


「王妃様!10代でも大丈夫かと…」


「ふふっ言い過ぎよ。でも恐ろしいものね…『おしゃれ』とは…」


「申し訳ありません…王妃様。今まで私達が無知だったせいで…」


「良いのよ。私も同じだわ…いえ、この国のおしゃれ歴史がそもそもおかしかったのよ…」



 かなり満足してもらえたと思う。その後も王妃様と侍女二人ではしゃいでいる姿を見て、初めてオモチャをもらった子供みたいで微笑ましいと思った。



※※※



 そこからさらにお話させて頂いた。次は服装だ。僕はわかりやすいように一冊の雑誌を見せる事にした。ブライダル雑誌だ。ドレスはもちろんヘアメイクも載っているので教科書としては充分だろう。最初は雑誌の品質の高さや写真に驚いていたが、そこはやはりなんといっても女性。すぐにドレスの方に目がいく。



「なっなんて素敵なドレス…!こんな着方…」


「おっ王妃様、こっこの色合いも素晴らしいですよ!」


「このアクセサリーもっ…」



 はしゃぎ過ぎではあったが、どんなバランスが良いかどんな色の組み合わせが良いか等、王妃様に季節や場所、場面も踏まえて様々な提案をさせて頂いた。ヘアスタイルやメイクも場面ごとに変えるアドバイスを。この頃には宰相様はとっくに終わり、くつろいでいる。



※※※



「今日だけでは全ては難しいですが、基本は押さえられたと思います。機会があったらまたご相談に乗らせて頂きます」


「ありがとうございます。私はこんなに素敵に慣れるとは、思ってもいませんでしたわ。すぐに服飾ギルド等にも相談です。完全に想像以上だわ。絶対にまた来ます」


「私も髪が生えてくるのが楽しみだ。すかるぷけあも、またしに来よう」


「是非お待ちしてます。それに化粧品やスタイリング剤まで、沢山買って頂いてすいません。しかもお金まで…かなり沢山…」


「当たり前ですわ。それだけの事をしたのだから、あなたは」



 最後に僕が昨日徹夜で作った資料をプレゼントする。ヘアスタイルの作り方や、メイクアップの仕方、普段のお手入れ等。せっかくだからブライダル雑誌も差し上げた。練習も大変だろうし、服の参考にもなるしね。念の為に色々用意しておいて良かった。



「こんなものまで…全て国宝だ」


「宰相様、言い過ぎですよ」


「お父様、すばらしい聖書も頂いたわ」


「それはただの雑誌です!皆さんで相談して良いドレス作って下さいね」


「もちろんですわ」



 やっと終わったと僕は思い、皆これで帰るという時に騎士の一人が動く。



「きっキクチ殿!すいません、一つお願いがあります!」


「突然なんですの?」


「騎士様どうかしましたか?」



 よく見ると他の騎士も同じ気持ちのようだ。そして宰相様も何か気付いている…。この騎士の突然のお願いがまた一悶着を起こすことになる。きっかけはナナセさんのある行動のせいなのだが。これからまた面倒臭いことになる…。



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