ゲーイジューツ皇国訪問、皇太后と歓談
「この部屋が母の部屋です。入りましょう」
「はい…」
皇太后様の部屋に入る…。そうすると…。
「…?」
誰もいない。
「オターク様、皇太后様はどちらに…」
「ここだよー」
後ろから声がし、振り向くと…そこには…。
「あっあれっ?あなたは…」
「アタイが皇太后のアキハバーラだ!」
「まさかあなたが…皇太后様だとは…」
僕とタハラシ様とマガジャさんは、驚いている…。ゲーイジューツ皇国の方やヤッカム様は笑っているけど。そりゃそうだ。だって…。
「ふふん。まさか今日ずっと一緒にいたとは、思ってなかったか!」
「はい…」
ずっといた。侍女の格好をして、アイドーラ様に付いていたから…。漫画ギルドにもいたし、美容講習に至っては一緒に受けていたよ。今もその時のヘアメイクだし…。何よりかなり若く見える…。背も低いし、アイドーラ様と余り変わらなそうだ。
「大成功だな!」
「こんな母ですいませんね」
「いえ…大分愉快な方みたいで…」
「お義母様は、人を驚かせるのが好きなのよ。私も初めてお会いした時は、大変だったわ」
「ヤッカム様も教えてくれても…」
「そんな無粋な事はしません」
※※※
「そうか王立図書館に、キクチの漫画本があるのか…」
「アタイは行くぞ!ヤッカム頼む!」
「僕も行くよ!」
「私も!」
「わかりました…ご予定を教えて下さい…」
皆が座り、歓談をしている。今日の話やオースリー王国の話だ。
「ジークの坊やにも、暫く会ってないしね。キクチの店も行ってみたいな。様々な文化を知るのは良い事だよ」
「今じゃオースリー王国が、全ての最先端ですからね」
「今日のヘアメイクや漫画もそうだけど、知識が素晴らしいですね。どうやったら身に付くのでしょうか」
そんな中、アキハバーラ様が僕達を驚かせる。
「アタイはわかってるよ。キクチは違う世界から来たんだろ?」
「えっ」
何故それを…。ヤッカム様やタハラシ様も身構える。皇帝夫妻も何それといった表情だ。
「そんなに驚く事かい?わかる奴は気付いているよ。アタイ以外にもね。そんな身構えなくても何もしないよ」
「母上!それは本当ですか?キクチ!そうなのですか?」
ヤッカム様も仕方が無さそうにしているし、まあ良いか…。
「はい…そうです。違う世界から来てます。良くわかりましたね…」
「わからない方がおかしいのさ。これだけ今までの慣例を覆す奴等は、早々いない」
「お義母様…奴等という事は」
「噂のナナセっていう子もそうだろ?他にもいるんじゃない?」
良くわかってらっしゃる。その通りだ。
「過去にもあるみたいだしね。昔の文献にも残ってるよ。でもそれはこっちに来ただけだ。もしくは生まれ変わりかな」
「キクチは違うと?」
「そうさ、あんたは行き来してるだろ?見た事無い商品なのに、流通の物量が桁外れだしね。最初から持ってたにしては、多すぎるからね。これはちょくちょく行き来してるか、届ける奴がいるとね。そして私の結論は両方さ!行き来してるし、商品を運んでる奴もいるはずだ!」
「そっそんな…」
初めて会って、そこまで理解しているなんて…。サトウの事まで予想しているなんて…。この世界では一番の知識人かも…。
「正解です…びっくりしました。本当に驚かせるのが、好きなんですね…」
「はっはっは、そうだろ!オースリー王国の奴等は、皆知ってるのかい?」
「いえ、首脳陣や一部の方ぐらいですね…まぁたった今マガジャさんも、知る人になりましたけど…」
「はい…驚いてます…でも納得してます」
どんどん深い話になっていく。
「この世界を、乗っとる気も無いみたいだし助かるよ」
「母上!そんな事する訳無いじゃないですか!」
「でも…やろうと思えば、出来るはずだ。技術や製品に差がありすぎる。軍事製品だったら、コテンパンにやられるぞ。まぁそんな考えだったら、色んな物を流通させないだろうし、今頃とっくに滅んでるだろうしね」
「そんな…」
オースリー王国でも言われたけど、そんな事する訳無い!それに出来ないだろうしね。
「安心して下さい。もし戦争になっても僕達の世界には、まず魔法がありませんから。戦力としては、そんなに簡単ではありませんよ。それに戦争をする事が出来ません」
「もしかして、加護が働いているか?」
「ご明察です。そもそも異世界への入口は小さいドアですし、大量の兵器や人員が出入り出来ません。それに悪意のある者は、そもそも通れません」
「そうか、良かった。母上も、それなら安心ですね!」
いや…アキハバーラ様はそう思っていない…。表情が曇っている。何故…?
「抜け道もある…例えば、悪意のある者は来れないとしても、悪意のある物は届けられる…キクチ達に持たせてな…」
ドキッとした…。ヤッカム様達も気付く…。その可能性に…。
「キクチは良い人だが、気付かぬうちにこちらの毒になる様な物を、持たされたり、付けられたりする可能性もある」
「結局こっちに来られないのに、そんな事になんの意味が…」
「意味の無い犯罪等、腐る程ある。意味の無い戦争もな。過去が教えてくれてるじゃないか」
その通りだ。極端な話だけど、気付かないうちに僕に核爆弾が付けられて、こっちの世界に来てからドカンなんて事は、可能かもしれない…。全く意味はないが、テロだってそんなもんだしな…。
「まぁ驚かす事を言ってしまったが、気にするな。可能性は限り無く低い。多分、悪意に反応するなら、その様な異物すらも弾かれるだろう。加護とはそういう事だ。気を付けるとしたら、こちらの世界ではなく、向こうの世界だろう。大事になった時、キクチ達は向こうでどうなるかだ。アタイはそっちの世界は知らないからね」
確かにこっちの世界より、日本の方で気を付けなきゃかもな…。いつかバレたら…。
「まぁ今そんな話をしても始まらん。それにヤッカム達は向こうの世界へ行ったのだろう?どうだった?教えてくれ!」
「…なっ何故、それをアキハバーラ様がっ」
「ジークの坊やが、行きたがらない理由が無い!行ったに決まってる!アタイも連れてけ!」
「流石だ…母上…」
「お義母様…凄過ぎます…」
確かに凄い洞察力…。これはいつの日か、異世界旅行ツアーなんてさせられる日が来るのかもしれない…。
※※※
そして歓談後は皆で夕食を頂いた。楽しかった時間は終わり、そしてやっと帰る時間に。ただ観光はしたかった…。
「折角なら一泊くらいしても良いのに…」
「すいません…明日も営業がありますから…」
「また色々教えて下さいね!」
「はい。アイドーラ様も、練習して楽しんで下さいね」
「アタイも、また話を聞かせて貰うよ。遊びにも行くしな」
「お手柔らかにお願いします。それと今日の話は、内密にお願いします」
「わかってるよ!」
そして僕達は転移陣で帰っていった。そしてふと気になった事を、ヤッカム様に聞いてみる。
「ところでヤッカム様、アキハバーラ様っておいくつですか?かなり若そうに見えますが…」
「私もそう思いました」
「僕もです…不思議でした」
「お前ら…世の中には、知らない方が良い事が一杯あるぞ…それに女性の年齢を、詮索するのは良くないのだろう?マイを思い出せ…」
僕達はマイさんを思い出し黙る事に…。確かに知らない方が良いかもしれない…。この世界の、七不思議みたいな物としておこう…。こうしてゲーイジューツ皇国の訪問が終わった。でもまだ一国目。次の国が待っている…。さて次はどの国だったっけな…。




