漫画本の管理、憤怒と怨嗟
数日前に、ポンデリーン様の騒動が終わった。ジーク様達はあっさりと、サイトウさんの転移を受け入れた。大量のお土産があったからかもしれないけど、軽いなぁ。ポンデリーン様もダウタウーン公国に帰っていった。取り合えず、良い人を見つけた事だけを伝えるそうだ。公主が許してくれると良いけどね…。ポンデリーン様とクロワツ様は「簡単、簡単!」と言っていたけど…。そして今日、とうとうあの問題を聞く事にする…。
「ジーク様…少しお伺いしたい事が…」
「どうした?」
ヤッカム様とタハラシ様も、こちらを気にする…。
「以前から貸している漫画本なんですが…いつ返ってくるのでしょうか…?」
「ぐっ…」
どうした?困った顔をして…。ヤッカム様達も、急に片付け始めたし…。まさか帰る気か?
「皆様…どうかしましたか?何か問題でも?」
「いっいや、問題というか…なぁヤッカム…」
「じっジーク!別に私は何も…なぁタハラシ…」
「わっ私こそ何も…そっそうですよね…ジーク様…」
皆が責任転嫁しあってない?どうなってるの?
「何なんですか!歯切れの悪い!とにかく全部、持ってきて下さい!漫画本は僕の命ですからね!」
「わっわかった!持ってくる!持ってくるよ…」
※※※
二日後の営業終了後、何故か首脳陣全員と多くの護衛が、パラレルにやって来た…。そんな大勢必要がある?何に怯え、備えているんだよ…。
「今からマジックバッグから出すけど…」
「何ですか?早く出して下さい!」
「わっわかった!出してくれ!」
そして護衛の一人が、申し訳なさそうにマジックバッグから次々と漫画本を取り出す…。そしてその光景を見て、僕は驚愕する…。
「…なっなんで、僕の漫画が…こんな事に…」
何故か漫画本はボロボロだった…。汚れ、擦り傷、切り傷何でもありだ…。どうしてこんな事に…。
「僕が漫画本を、大切にしてるの…知ってますよね…それがどうして…」
「いやっ、あのっ、そんなつもりじゃなくて…」
「どんなつもりだったんですか!」
僕は泣いた。漫画本を抱き締めながら泣いた。怒りに震えた。決めた。殺そう。こいつら殺してやる。この世界を滅ぼしてやる…。
「てめぇら…ぶち殺してやる…」
「えっ!きっキクチ?ちょっと待って!」
「私達の話を…!」
言い訳は聞かん!制裁あるのみ!魔法は使えないし、戦力も無い。でもやってやるよ!…と意気込んだその時、先に血の涙と共に鬼神が降臨していた…。
「よくもまぁ…こんな酷い事を…店長の物とはいえ…許せねぇ…てめぇらには血が流れてねぇのか!」
「えっナナセちゃん!?」
「ひっ!鬼だ…鬼がいる!」
「くっこの威圧…撤退だっ!」
だが皆が動けなくなる。凄いプレッシャーを受けている様だ…。それを見て僕は、少しづつ冷静になっていく…。
「まず、おめぇら全員二つ名返上な…そして全員新しい二つ名をやる…今からおめぇらは『カス』か『クズ』か『イモムシ』か『クソ』か『ドブ』な…好きなのを選べ…その後、殺してやる…」
「それはご勘弁を…!」
「ひぃっ!許して下さい!お願いしますぅ!」
「許す訳ねぇだろうが…てめぇらは家族が殺されたら、黙ってるのか?あ?どうなんだ?あ?…わかった…てめぇらの家族から殺ってやんよ!…人の大切な物を踏みにじる事が、どういう事か教えてやんよ!…その後しっかり殺してやんよ!…完全にこの世界から消してやんよ!…ていうかこの世界ごと消してやる…!」
ナナセさんは、完璧にキレてる…。口調も変だし…。久々のスーパーナナセ人だ。僕よりも漫画やアニメを愛してるからな…。余程の事なんだろう。僕も許せないけど、ナナセさんを見てたら大分落ち着いてきたよ…。むしろ引いてきた…。
※※※
その後、騎士が総出でナナセさんを取り押さえ、僕が説得した…。何故被害者の僕が説得を…。そして沢山の護衛も役に立った。結果的に、首脳陣の危機管理能力の高さが伺える。こいつらやるな…。それから全員が本能的に土下座をしていた…。僕にもだけど、主にナナセさんにね…。いつのまにこんな事を覚えた…。
「わかりましたから、土下座はもういいです。それで…何でこんな事になったんですか?」
「てめぇら店長が許してやるとさ!感謝しろよ…それで店長が聞いているだろうが、早く説明しやがれ!」
ナナセさんは、まだスーパーナナセ人のままだ…。とにかく話を聞こう…。
「簡単に言うと、皆が見すぎたんだ。戦争の漫画は国の役に立つし、格闘や剣豪の漫画も騎士の役に立つし、恋物語の漫画は貴族淑女の役に立つ。何よりも面白さが原因で、何度も見るし、何度も泣く。大事にする為、王立図書館に置いてあったが…連日、各貴族や騎士、男女関わらず見に来てたし…漫画を描き始めている者も、勉強で見に来るし…それで段々と傷んで…それに…」
「うるせぇ!言い訳が長いんだよ!国王ならもっとシャキッとしやがれ!」
「なっナナセさん、もういいから…」
「おう、てめぇら良かったな、店長が良いってさ!次はねぇからな!わかったな!」
「「「「「はっ、はいっ!」」」」」
要するに、読みすぎたった訳か。それなら仕方無いかもな…。故意に傷付けた訳じゃないしね…。
※※※
「本当にすまなかった」
「ごめんなさい、キクチ」
「まぁ、しょうがないです…でも良いんですか?こんなに貰って…」
取り合えず漫画は、全部新しく買い直す事にした。その為、弁償としてお金を受け取ったけど、あまりにも多い。
「長く借りてしまったしな、迷惑料もある。それに今度は買ってきて欲しいしな」
「じゃあ問題にならない様に、貸し借りは今後無しでお願いします。全て買い取りで」
「ははっ!そうだな。取り合えず借りていた漫画も買い取るよ」
「ボロボロですよ?なんなら新しく買ってきますけど…」
「いや、本の補修技術を勉強しよう。俺達には魔法もあるしな、研究にもなるはずだ」
「ジーク、それは良い案ね!」
そういう事になった。そして話しながら気付いたけど、誰もナナセさんと目を合わせようとしない。明らかに怯えている。もう大丈夫なのに。
「ナナセさん、こんな感じで良いよね?」
「店長が良いなら、私も大丈夫です!」
「じゃあ俺達の二つ名も…」
「なに言ってるんですか『ゴミ』のアントレン様」
「えっ…?まだダメ?それに…さっきはそんなの無かったのに…」
「言いませんでしたっけ?…『老害』のヤッカム様?」
「いっいえ、言ってました。ナナセ様!」
「そうですよねぇ…『オバタリアン』のディーテ様、『負け犬』のタハラシ様…」
「「はっ、はい~!」」
まだ怒ってた…。他の護衛も戦々恐々だ。もしかしたらだけど、この国の実質トップはここにいるのかもしれない…。そんな事を思った夜だった…。




