第一回世界武闘大会、大会最終日
大会三日目、最終日は最高の盛り上がりだ。各国最強の戦士達が、迫力満点の魔法や華麗な技で闘う。どっちが勝つかわからない展開に、手に汗握る。それに二ヶ月前のオースリー王国とヌーヌーラ共和国の闘いから始まった、名乗りの口上が盛り上げに一役かった。初日からその二国だけ行っていたのを、各国が気付いていつのまにか真似していた。名乗る度に大歓声、そしてそんな大盛り上がりのまま、もう決勝戦か始まろうとしている。
「くそっ!まだ手が届かなかった…」
「俺も完敗だな…」
「アントレンと闘う事すら出来ないとは…」
アントレン様は準決勝で、カナヤ様に敗けた。ジーク様は二回戦、タオシマ様は初戦でライオトーラ様に敗けた。つまり決勝はカナヤ様とライオトーラ様だ。
「イキシチニ帝国は…やはり大分離されてしまっているな…」
「僕達ゲーイジューツ皇国の方が、遥かに離されてますよ…」
確かにこの二国は、まだ詠唱魔法がしっかり伝わってないせいか、少し他国より弱いのは間違い無い。ほとんど初戦で敗れた。エルフィからは一人準決勝まで残ったが、ライオトーラ様に敗けた。エルメスさんとギルデさんもそうだが、改めてエルフの強さを示していた。
※※※
「まさかカナヤ、お主と全力で闘う日が来るとはな…」
「ふふっ僕もそう思うよ。最高の舞台だね…ここは…」
「ああ、皆に…キクチに恥じない闘いをしよう、友として!」
「うん。そうだね全力で叩き潰してあげるよ、友として!」
二人は楽しそうに舞台に立つ。周りの皆も楽しそうだ。激戦必死だな。
「我はデリタム王国国王ライオトーラ・デリタム!二つ名は無いが、ただ一人の武人として貴様と闘える事を誇りに思う!」
「我はアカサタナ帝国魔王カナヤ・アカサタナ!同じく二つ名は無いが、貴様と二つ名を賭けて闘う事を誇りに思う!」
「「「「「ワアァァァー!」」」」」
「いざ尋常に、勝負!始めっ!」
二人の口上で、さらにヒートアップする。そして激しい闘いが始まった。
「喰らえっ!タイガーファング!」
「集え漆黒の闇よ!ブラックバーストショット!」
「全ての獣の魂よ、我に宿れ!降臨せよ獣神!ビーストチェンジ!」
「我に眠る狂気の心よ、解き放て!憑依しろ魔神!デビルバーサーカー!」
中二病が大爆発している…。会場のテンションは最高潮だ。因みに、ビーストチェンジとデビルバーサーカーは、昨日ナナセさんが考えた技だ…。「変身したらカッコ良いのに」から始まった。本人達も出来ないと言ってはいたが、試しにナナセさんの言う通りにやってみたら、出来ちゃったのだ…。より獣の様な姿になる獣神化と、悪魔の様な姿になる魔神化。両方とも大幅にパワーとスピードが上がるらしい。皆、驚いていたよ…。その後他の人も試したが、かなり高い魔力と才能が必要とされるらしく、キニユ様が部分的な変身をするに留まった。でも皆絶対に習得すると息巻いていたよ。
「くそっ!あれはちょっとズルいよ!」
「俺も何とか変身出来ねえかな…」
人間勢が、悔しがっている。確かにあれでかなり差が出来たからな。でも魔力消費が激しいらしく、諸刃の剣でもある。そして闘いは佳境に入る。全身血だらけで、疲労困憊。終わりも間近。
「はぁはぁ…次で最後だ…」
「はぁ…僕も、はぁ…限界だよ…」
「王の咆哮!唸れ、ビーストファング!」
「魔神の怒り!引き裂け、ジャッジメント!」
二人が何をしたかはわからない。闘いの素人だし、中二病の闘いだからね。そして二人は倒れている…。良くある展開だ。つまり、先に立った方が勝ちになる…。で、先に立ったのは…。
「先に立ち上がったのは、この男!数々の技を出し、そして受け、それでも立ち上がった!今大会最強は、カナヤ・アカサタナだー!」
「「「「「ウオォォォー!」」」」」
カナヤ様が勝った。皆も最高に盛り上がった。五万人の絶叫が響く。サハラ様も、涙を流し喜んでいる。他の武人達は喜びながらも、どこか悔しく、そして次を見据えるような目をしている。
「店長!私達の出番ですよ!」
「ああ、そうだった…」
※※※
試合後は、少しの休憩と選手の治療を行い、表彰式と閉会式だ。ナナセさんの二つ名セレモニーもこれで終わる。
「表彰!闘神戦優勝者、カナヤ・アカサタナ!あなたは今大会で遺憾無く実力を発揮し、見事最強の座を得ました!今大会最強の武人として『宵闇の魔神』の名を与える!」
「慎んで、受け取らせて頂きます!」
「そしてライオトーラ・デリタム!あなたの闘いも素晴らしかった!二つ名を与えるに充分相応しい!よって『百獣神』の名を与える!」
「はっ有り難き幸せっ!」
「二人共、今後も切磋琢磨し精進して下さい!二つ名を与えた私に、そして二つ名を持つ自分に、恥じぬよう進むがよい!」
「「はっ!」」
二人の王が膝付いてるけど…。ナナセさん、いつのまにそんなに偉くなっていたんだよ…。ただの美容師なのに…。
※※※
「では、最後の挨拶をお願いします!」
「はい」
表彰式も終わり、とうとう僕の番だ。司会に拡声の魔道具を渡され、最後の挨拶をする…。
「改めて、キクチです。これで第一回世界武闘大会は終わりますが、どうでしたか?最高だったでしょ?」
皆から「最高!」と叫ぶ声が聞こえてくる。
「ただ純粋に祭を楽しむ。それで良いんです。様々な人がこの街で、この祭りで楽しんだ。それを各国や各街に戻ったら伝えて下さい。平和だと、皆でこんなに楽しい事が出来るんだと伝えて下さい」
皆が頷いている。
「このまま行けば、きっと来年も開催されるでしょう。もう楽しみでしょ?あの興奮、あの感動、あの涙、僕は忘れません。そして見たい。これからも平和な世界でね」
しっかり耳を傾け、理解してくれている。
「そして今回参加された武人の皆さん。お疲れ様でした。あなた達は、皆に様々な事を感じさせた。それを誇りに思って下さい。勝ち負けだけでなく、今この場に立てた事を誇って下さい。そして惜しくも予選で敗けた方、これから参加するであろう未来の武人の為に、良き目標であり良き師として、背中を見せて頂きたい」
出場した武人達、そしてここを目指す少年少女達に力が入る。
「来年また、ここで会いましょう!己の誇りを試すこの場所で!ありがとうございました!」
「「「「「ワアァァァー!」」」」」
そしてまた、あの優しい光がスタジアムから広がる…。
「キクチ、ナナセ…皆さん…お疲れ様でした…平和の祭典…このリリーシュも見ていましたよ…平和への気持ちに感謝します…」
そして光が消える…。案の定この街は、狂喜乱舞だ。いつものように皆涙し、感動に打ち震えている…。来るんじゃないかとは、思っていたけどね。きっとどこからか、楽しく見てたんじゃないかな。一応言っとくかな。
「リリーシュ様!万歳!」
「「「「「リリーシュ様!万歳!」」」」」
そして大会は興奮に包まれたまま、幕を閉じた。席に戻ると、各国首脳陣にまた褒めて頂く。そしてこの後は、街を上げての宴会だ。まぁ僕達は、貴賓席の方々とだけどね…。
※※※
そして夜も明け、既に帰り道…。
「結局、この街はあまり見れなかったなぁ…」
「良いじゃない。VIP席で楽しんでたんだから。それに演説カッコ良かったわよ…中二病感が出てて…ぷぷっ!」
「マイさん…大変だったんですよ…僕も…」
「でも師匠は凄かったです!スタジアムの皆の心を、一つにしました!」
「店長!オーパイさんの言う通りです!面白かったですよ!」
「ナナセさん…面白かったって言ってるじゃないか…」
そして僕達は帰った。美容学生達もかなり楽しんだみたい。タハラシ様や護衛の騎士達も、まだ興奮覚めやらずだ。はぁ、僕はゆっくり休みたいよ…。一週間パラレルを離れ、美容師としての仕事もしてないから、そうも言ってられないけど…。取り敢えず頑張ります…。




