オースリー王国、突然の展開
ある日の昼過ぎ、かなり慌てた様子でヤッカム様がやって来た。パラレルの二階で仕事しているジーク様とタハラシ様に用事でもあるのだろうか。かなりバタバタとした様子だ。
「すまんなキクチ、ジークは上か?」
「はい…」
簡単なやり取りの後、ヤッカム様が二階に上がっていく。そしてすぐ全員降りて、挨拶もせず店を出ていく。かなり急いでいるようだ。
「どうかしたんですかね?かなり急いでましたけど」
「…かなり緊急事態みたいだね」
「悪い事じゃなきゃ良いんですけどね。アタシ等が心配するような事じゃなきゃ…」
この時の僕は、何が起きているかはサッパリわからなかったし、まさか巻き込まれるとも思っていなかった…。
※※※
「店長…最近、騎士の方々来ないですね」
「うん…そうだね…」
数日経つと、騎士がお店に来なくなっていた。何処かに集められているのだろうか…。その時、僕達は戦争でもあるのかと予想し始めていた。騎士が集まっているなら、どこかに行っているなら、ここには来ない。
「冒険者ギルドに行けば何かわかるかな?」
「そうですね店長!後で行ってみましょう!」
※※※
営業終了後にスタッフ四人で、冒険者ギルドに向かった。
「おっリダリー!元気か?」
「あれっ?オーパイに皆さん…どうしたんですかギルドに来るなんて珍しい」
「ちょっと気になる事があってね。因みに聞くけど、何か国に問題でも起きてる?」
「キクチさん…ちょっと俺の口からは…でもキクチさん達は、王家とも仲が良いですからね…ギルマスに聞いてみて下さい…」
そう言われた僕達は、そのまま受付に向かいギルドマスターのヤシノさんに面会を求めた。
※※※
数分後、執務室に通される。中にはギルドマスターのヤシノさんと、副ギルドマスターのギルデさんがいた。
「パラレル以外で会うのも珍しいのう」
「皆さん、こんばんは。ギルドへようこそ」
挨拶もそこそこにすぐ本題を聞いた。
「ヤシノさん、ギルデさん。今、国に何が起きているかは知ってますか?」
「ギルマス、キクチ達なら言っても大丈夫でしょう」
「うむ。そうじゃな…まだ儂達も詳しくは知らないが…戦争が起きるかもしれない…」
やっぱりそうなんだ。しっかり確認が出来た事で、戦争という事がはっきりし、少し不安が出てくる。他の皆もそうだろう…。
「まだ国民に対しては、箝口令が出ているが。このギルドには話が来ている。ある程度の冒険者にも報告している…」
「それは…」
「援軍に向かうかもしれないという事じゃ」
「でもキクチさん達が心配する必要は無いですよ」
どこと戦争するのだろう。まさか三国会議の、魔族のアカサタナ帝国や獣人のデリタム王国ではないよね…。仲が良いって言ってたし…。
「相手はヌーヌーラ共和国じゃ」
「数年前の戦争の相手です。その時は、アントレン様達の大活躍で、勝利しましたけどね。あの『銀の翼』で描かれている戦争です」
「戦争は終わったんじゃ…」
「そのはずなんじゃけどな…儂も全然わからないんじゃ」
「あの戦争以来、国交はあまり無いですから…斥候等はお互いに入れてるでしょうけど…」
「そうなんですか…」
※※※
結局それ以上の詳しい情報は、得られなかった。皆さん怪我とかしてなきゃ良いけど…まさか亡くなったりしてないよね。
「皆さん強くなりましたからね。私の考えた魔法もありますし!」
「師匠そうですよ。多分戦いは、国境付近のラヤマ平原でしょうからアタシ達に出来る事も無いですから」
「でも戦争ってあるのね…私はビックリだよ。平和で良い世界だと思ってたし…」
「僕もそう思います…」
いつ自分に身の危険が訪れるか、わからないとは言うけれど、戦争が自分のいる国で起こるとは思ってない。平和ボケなんだろうな…。日本人だしね…。
「まぁ僕達は、また皆さんがいつ来ても良いように、しっかり美容室をやりますか」
「そうですね!」
「すぐ来ますよ!」
「私達が出来るのは、それくらいだもんね」
そんな風に思えるのは幸せなんだろうな。自分には関係無いからだろうけど。そして関係するのであればそんな事は言ってられない…。
※※※
数日後、突然タハラシ様がやって来た。多少疲れが見える…。顔付きも神妙だ…。
「キクチ殿…すまない。一緒に来てくれないか…」
「えっ」
突然の呼び出し、恐らく行き先は…。
「戦争ですか…?」
「…知っていたのか。でも安心してくれ、キクチ殿に危険は…無いはずだ」
「店長!ダメですよ!少し危険がありそうな雰囲気です!」
「師匠!こういう時の国は怪しいです!」
「そうね。怪しい…何かありそう」
「まぁ…話だけ聞いて見るよ」
この後、話を聞いた僕はタハラシ様に付いていく事にする。これで僕は戦争という舞台に上がる事になった…。簡単に状況は変わる…それが戦争なんだろう…。




