※パラレルアシスタント、オーパイ苦悩※
その時のアタシは焦っていた…。この店で、働き始めてもうすぐ半年。冒険者をやめ覚悟を決めて、パラレルに入った。今出来る技術はシャンプー、肩のマッサージ、スカルプケア、メイクを少々位。後は精々掃除や片付けだけど、それでも少しづつ自信を付けてきた。レベルは他三人と比べてまだまだ下だけどね。そんな中、焦りだしたのは何故かと言うと…。
「美容学校の生徒の覚悟は見習わないとね。油断すると、オーパイさん追い付かれるよ」
「そうだ。頑張れ!ここから踏ん張り時だぞ!」
そんな事を師匠とマイ姉さんは言った。最初それを聞いたアタシは、何を言ってるんだと思った。それなりにやってきたし、アタシの技術に喜んでくれる人もいる。シャンプーやマッサージ指名だっているし、練習だって毎日やっている。そんな簡単に追い付くはずない。そう思ってた。でも生徒が実習に来てからアタシは驚愕する。
「シャンプーの時、何を気を付けているんですか!?」
「洗濯終わりました!」
「何であの様にカットするんですか?」
最初は都合の良いお手伝いさん位の感覚だった。週二日とはいえ助かるからね。でも実際は師匠達の言う通り熱意が凄く、アタシの気が付かない質問をしてたり、先の技術を学ぼうとしてた。少し先輩風吹かしたのが情けない。気が付けば、掃除などの雑用は全て取られる。本当に最初は楽してた。空き時間が出来て暇になるからね。でも…。
「実習の日、終わったら一緒に練習させて下さい!出来ればシャンプーなど見てくれませんか?お願いします!」
ある日から、実習生も練習に参加する日が出来た。生徒は実習で払われる給料は要らないので、とまで言っていた。師匠は良いよとあっさり了承。それに給料は気にしなくていいからと言って。そして一緒に練習に参加して、アタシはビビったんだ。その技術力の高さに。
「私が教えてるだけあって中々上手でしょ」
「本当にね。そのうちお店で手伝って欲しいよ」
「「「ありがとうございます!」」」
師匠は冗談ぽく言っているが、本当に上手だった。実際にされたから良くわかる。私も苦労したからね。彼、彼女達は多分アタシがシャンプーチェックに合格した時よりも、上手だと思う。師匠は「追い付かれる」と言っていたが、実際は「追い抜かれる」が正しいと思う。それでもその時のアタシは、今はまだアタシの方が上手い…なんていうバカないい訳を頭の中でしていた。気付いていなかったというよりは、認めたくなかったのかもしれない。そしてカナヤ様とサハラ様が来たあの日…。
「ナナセさんシャンプーお願い」
「これは、僕がやるから」
「マイさん、コーンロウ手伝ってもらえますか」
二人にした施術に関しては、見た事も聞いた事も無く驚いた。まだアタシが見ていない技術が、多くある事を知る。そしてあの日、アタシは何もさせてもらえなかった。掃除と片付けのみ。姉御ですらヘアに関してはあまり関わっている様に見えなかった。アタシはただ立っていただけ、シャンプーですら、実はまだ信用されてなかったんだ。
「パーマとカラーの授業どうしようかな…」
「僕もモデルを誰に頼んでみようかな…」
さらにパーマとカラーの勉強がスタートする事になる。アタシは勝手に、もうすぐカットの練習が始まると思っていた。後で知ったんだけど、元々アタシにはパーマとカラーの勉強をさせるつもりでいたらしい。そしてその時のアタシは、急に生徒とスタートラインが一緒になる事を恐れた。あっという間に学生に引き離される姿を想像したからだ。生死の掛かる冒険者の頃だってこんなに不安になった事無いのに…。でもお客様が気付かせてくれたんだ…。
「頑張ってるね!いつかオーパイさんにカットして貰いたいよ!」
そんな言葉で不安はあっさりと解消された。本当はもっとお客様を見なくちゃいけないのにね。アタシはお客様の為に技術を学んでるのに、誰と張り合ってるんだと。自分の夢もある。いつか自分の店を故郷に作るっていうね。変に調子に乗って良い気になるな、と言われた気がした。師匠達も技術には終わりがないと、いつも言っている。アタシは下を見ている暇は無い、上を見て進むのみだ。
「最近調子良さそうですね。オーパイさん!」
「姉御ありがとうございます!」
「ふふっオーパイ、あなたはね凄く信用されてるよキクチくんに。でもねまだ信頼はされていない。それだけ」
「これからだよ。これから」
皆、わかってたんだ…アタシの焦りを。でも言わなかったんだ。アタシを信じてくれたんだ。自分でなんとか出来ると…。だから今のアタシには焦りはない…まぁ全く無いと言えば嘘になるけどね。だけど頼れる…信頼される為の努力は怠らないつもりだ。だからとことん気合いを込めていく!
「よっしゃー!」
「「「うるさい!」」」




