インターン研修と魔族問題、開始
美容学校が始まって二週間がたった。これからある研修が始まる。インターンだ。パラレル、シリアール商会、服飾ギルド、鍛冶ギルドで行われる。週に二日ある研修だ。大体は週交代で回っていく予定で、美容師になるまで続ける予定にしてある。最初は慣れない事も多いだろうが、貴重な体験と勉強ができる。それに少しではあるが給料も出るので、休日なんかの過ごし方も楽しくなるだろう。
「今日からよろしくね」
「「「よろしくお願いします!」」」
パラレルでは三人を預かっている。掃除や洗濯片付けをしながら、美容室というものを学ぶ予定だ。他の所はというとシリアール商会では、新しくパラレルの横に出来た美容雑貨屋『マリサリ』で、商品販売のお手伝いをしながら、美容商品や販売等を学ぶ。因みにマリサリはマリベルさんとサリエラさんの名前からきている。服飾ギルドでも同様に、服作りの過程や販売の手伝いを通して、ファッションというものを学ぶ。鍛冶ギルドでも美容道具作りの手伝いを通して、使いやすい道具や新しい道具、更には組み込む魔法等も一緒に学ぶ。
「キクチくん大変になるだろうけど頼むね」
「マイさんもまたよろしくお願いします」
マイさんはインターン研修の日は、パラレルで美容師をする。一日しっかり美容師を出来るのは嬉しいらしい。研修生は少しヒビってるけどね…。
※※※
「人にこうやって関わって仕事するのは、凄く楽しいですね。私にも出来る事こんなにあるんだって知りました」
「僕もです。早く上達して益々自分でやりたくなりましたよ」
「私なんか免許とっても、貴族に戻らなくて良いって思ってるよ」
インターン研修が一ヶ月も経つと、そんな声が聞こえてきた。色んな場所で、色んな人と関わり、色んな仕事をして、色んな勉強ができた。前向きに頑張る生徒達には最高の研修の様だ。
「上手くいってますね、マイさん」
「本当にね。どの場所も大分楽しいみたいだよ。それに職場での評価も高いしね」
元々貴族だった皆はそれなりに勉強していたはずだし、そういう人が選ばれた。そういう人達にとって現場は何よりも嬉しいのかもしれないな。
「きっと貴族として腫れ物みたいに扱われるよりも、平民として身分関係なく扱われるのもいいのかもね」
「そうですね。それに王族でもあんな感じですから、この国は元々そういう気質なのかも知れませんね」
「全くだね。良い人ばかりで助かるよ」
傲慢な人も中にはいるのだろうが、僕達の周りにいる人達は一人もいない。今まででもカイーノくらいだ。エルフもドワーフも獣人も個性的な人はいるが、基本的に皆良い人だ。本当に助かるなぁ…。
※※※
そんなインターン研修もあった日のある営業後。ジーク様とヤッカム様がやって来た。まだ片付けをしていた生徒も驚く。今日はミナラーさんもいる。
「今日はどうしたんですか?ジーク様、ヤッカム様」
「ちょっとな…おっミナラーやお前達もいるのか…そうか今日は研修か…」
「ジーク様、お久し振りです。影を離れ申し訳ありませんが、今は勉強させてもらってます」
「ああ、構わん。他の者も気にするな」
「「「ありがとうございます」」」
皆もホッとしたようだ。突然の王様訪問はビックリするもんね。
「ジークよ彼らにも今後の為にも聞かせても良いんじゃないか?」
「そうだな…すぐわかる話しだしな…少し聞いてもらえるか?」
そんなやり取りに、僕も含め他のスタッフや生徒も少し恐縮する。ミナラーさんも少し影の頃の雰囲気になり、他の二人の生徒も貴族の顔に戻る。
※※※
「先日、我が『オースリー王国』、獣人達の『デリタム王国』、そして魔族達の『アカサタナ帝国』の三国による会談があったのだ」
「まさかっ」
ヤッカム様が話し始め、ミナラーさんが反応をする。僕も嫌な予感がしてきた。
「影として付いてきていた、ミナラーなら想像できるかもな…」
「そうですなジーク。ミナラーの想像通り揉めたのだよ。ディーテがな…アカサタナ帝国と…」
「やっぱり…」
「それで何で僕達に…」
僕達関係ないじゃん。やめてよ…何したんだよディーテ様…。
「キクチ先に言っておくが、俺と王のカナヤは凄く仲も良いし、友と思っている。同じ王妃に苦労している者としてな…だから戦争とかは無い」
そこで皆が少しホッとする。つまり問題は…
「てことは…」
「そうだ。魔族の王妃のサハラとディーテが大喧嘩だ」
「獣人の王夫妻も呆れてましたな」
「一体どんな内容ですか?」
僕に影響あるって事は、美容関係なのは間違いない。
「この三国会談は元々仲の良い友好国の集まりで、毎年行っている。だが俺達は去年、国名、神の名前、そして自分達の名前と何から何まで変えた」
「それは、わかります。ちゃんと伝えてあったんですよね?」
「ああそうだ。そこじゃなく驚いたのは、あまりにも違う俺達の雰囲気と容姿だ」
そりゃそうだろう。僕達が来るまでは、服装もヘアスタイルもメイクも何から何までダサかった。この一年で大分変わったからね。他の皆も納得している。
「でも、アカサタナ帝国はそのままなんだよ。正直俺達もビックリした。前までは俺達もあんなだったんだと思ったら、ゾッとしたよ」
「私も同感です。キクチ達も私達を最初見た時は、そんな気持ちだったんだろうなと思い、恥ずかしくなりましたよ」
「それに獣人達も良かったのだ、うちの国からシャンプー等の美容商品を買っているし、今ではオシャレも広がってきている。王のあの毛並みは見事としか言い様がなかった」
「本当にキレイでした。王妃様も美しく素晴らしかった。でも…」
「アカサタナ帝国はそこまで酷かったんですか…」
「ああ」
少し離れた所にあるアカサタナ帝国は、まだオシャレ文化がないそうだ。そうすると、いきなり自分達だけ仲間外れにされた気分か。
「確かに俺達は大分若返った様に見えるし、カッコ良くなり美しい人になった。カナヤも羨ましいと思ったろうが、元々良い奴だし「俺達にも教えてくれよ」とすぐに受け入れてくれたんだか…」
「サハラ様は…いつもディーテと張り合ってたから…」
「悔しかったんだろうな、憎々しげに見てたよ俺達の事。それにディーテの奴も調子に乗って「時代はオシャレよ」「このヘアスタイル素敵でしょ」とか「たまに10代に間違われてしまうのよ」何て言って、挙げ句の果てに「サハラ様は大分オバサンですわね、教えて上げてもよろしくてよ。オホホホ」とまで言ってしまってな…」
「ディーテ様…」
それはサハラ様も少し気の毒だなぁ…。他の皆も少し呆れている。
「二人は元々仲が悪い訳でも無いのに…すぐ張り合いますからね」
「ミナラーの言うとおりだ。で、売り言葉に買い言葉だ。女のヒステリーは見てられなくてな、おれもカナヤも頭を抱えたよ」
「それで…どうなったんですか?」
「…来週ここに来る事になった。カナヤとサハラが二人揃ってな。申し訳ない」
「えっ」
「かなり魔族は自由な生活をしているから、多分護衛も付けずに二人で飛んでくるぞ」
勘弁してくれよ。どんな注文してくるんだよ。皆も少し憐れみの目で見ているし…。
「店長!いつもの様にやっちゃって下さい!」
「そんな簡単に言わないでよ、ナナセさん…」
最近は少し落ち着いていたのに、やっぱりトラブルは起きるものだなぁ…。トホホ…。




