※ドワーフのディンドン、鍛冶とプライド※
鍛冶ギルドに、ディーテの使いがやって来た。今度美容師の学校を作るらしく、施設や魔道具の手配をお願いしたいと…。シャンプー台やドライヤー等の今まで作ってきた物は、完成度や機能も大分向上しているから問題はない。だが、あのハサミはかなり大変だ…。
「参ったな…流石に難しいぜ。キクチの野郎、無理難題を」
「少し挑発気味でしたよ。これくらい出来るよね、みたいな」
「いつまでも、与えられてばかりじゃ要られないって事か…」
騎士から渡されたシザーというハサミを見て、かなり大変な事がわかる。これから美容師の学校を作ると聞いて、学生に渡したい事もわかった。という事は、これからこのシザーを持つ奴が、この国にたくさん出てくるって事だ。つまりそれを他国出身のキクチに任せっきりで、用意してもらっていたら面目が立たない…。
「それをこの国で何とかしろよって事だな」
「その様です」
確かにかなり世話になってるけど、俺達にもプライドがある。鍛冶ギルドのギルドマスターの名に懸けて、シザーってのを作ってやるぜ…。キクチを見返してやる。次に会うのは、とんでもない完成品を見せ付けるときだぜ!これは俺のドワーフとしてのプライドと、このシザー達との戦いだ!
※※※
「キクチく~ん、そのセニングというシザーを使っている所を、僕ちんに良く見せて欲しいんだけど~」
「ディンドンさんどうしたんですか?いきなり…気持ち悪いですよ!」
俺はドワーフとしてのプライドを、あっさり捨てた。すぐ会いに行った。難し過ぎるんだよ。普通のシザーはまだ良い。問題はセニングと言われる、すきバサミだ。細かすぎる…。カット中の客には申し訳ないが、使っている所を観察させてもらう。ちょうど客もギルデの野郎だしな。
※※※
「なるほど…ここで噛み合って、ここの毛は逃げるから切れないのか…角度も…そうするとやはり強度か…」
「ディンドン大変そうだな」
「うるせぇギルデ邪魔すんな!」
「お前が私のカットを邪魔をしているのではないか」
「そういやそうだ」
ギルデといつもの悪態を付きながら考える。
「なぁそのシザーというものはそんなに難しいのか?」
「あぁ。細かすぎて鉄の強度がな。修正も難しい…まぁなんとか形に出来るってだけだ」
「キクチ何か良い案はないんですか?ディンドンも大変そうですし」
キクチはうーんと考える。ここでヒントをもらうのは悔しいが、さっきプライドは捨てたしな。
「うーん、良くわからないですけど、ミスリルとかってないんですか?国の予算が降りるなら、多少高くても良い材料を使わせてもらえませんかね」
「確かにな。ミスリルは魔法効果も作業効果も高い、強度も期待はできるが、細かい作業をするのには向かない。失敗したら大損だからな」
「じゃあ、少し大きく作ってから、小さくする事は出来ないんですか?最近じゃナナセさんのお陰で、魔法効果もかなり上がっているようですから」
「……」
「どうしました?」
「……」
「おい!ディンドン!?」
「……そっそれだー!」
そうだミスリルで少し大きく作ってから、魔方陣を組み込めばいい。ミスリルなら魔法効果をうまく調節出来る。圧縮魔法は…多分いけるはずだ。学者にも確認をとろう。こうしてはいられない、すぐに取り掛かろう。
「ありがとう助かったぜ!」
「そうですか。良くわかりませんけど…」
※※※
それからいくつかの失敗を経て、自分で納得のいくシザーが出来た。学者も納得の出来だ。
「良いですね!練習用としては凄く良いと思います」
「練習用だと?」
「僕達の国の本気はこれですから…うふふ」
「こんにゃろう…」
キクチが自分のシザーを見せ付けてくる。確かにあれは別物だ。今の俺達にはまだ無理な代物だ。冗談とはいえ、やっぱり悔しい。俺のプライドに懸けてそれを越えるものを、いつか作ってやるぜ!因みに俺のプライドはもう捨てる事はない!
※※※
「キクちゃ~ん、カットウィッグの作り方の事なんだけど~僕ちんにアドバイス~」
やはり、ある程度の妥協は考えないとな!




