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異世界美容室  作者: きゆたく
一年目、異世界王国飛翔篇
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異世界美容学校、開校計画


「まず何人くらい集める予定なんですか?」


「もう集まっていますわ。厳選して15人です」


「最初は貴族中心に声を掛けた。思いのほか集まったのだが、かなり減らした」


「貴族の遊びとか思われても嫌なんですけど…」


「いえ、本当に熱意のある者だけですわ。リストをご覧になって下さい」



 侍女からリストを渡され、見てみる。志望動機や今現在の仕事、家族構成、今後の目標まで細かく書かれている。他の領地の子供や、元騎士や元影、侍女までいる。名前を見ると何度もパラレルに来たことのある人達もいる。ハマナンさんみたいに、身分を隠してまで、いつも来てくれていた人もいるようだ。これは相当熱意のある人達ばかりかもしれない。そしてある項目に気付く…。



「えっ…皆さん貴族籍から抜けるんですか…?」


「ええ。だから相当の覚悟を持つ者しか残っていないわ」



 そこまでやるか…。でも美容師として認められれば、美容師の資格と共に貴族籍に戻れるようなシステムにしたらしい。



「本当は平民も参加させたいが、ここまでの無理強いはできない。最初はお金もかかるし、どれだけ時間が掛かるかわからないしな…ちなみにキクチはどれくらい掛かると思う?」


「全く予想できません。やってみないと…皆さんの飲み込みの早さとやる気次第…後は僕達がどれだけ時間を取れるか…なんですが…」



 確かに…平民にそこまでの覚悟を求めるのはどうかと思う…。失敗の出来ないプロジェクトと考えれば、妥当な判断なのかもしれない。そして掛ける時間。これは本当に問題だ。しかし実は一つ当てがる…。



「ナナセさん…お願い」


「はい。実は私の姉でマイって言うんですけど、その姉に講師を手伝ってもらおうと思っています」



 ナナセさんの家族は、僕達が異世界で美容師をしていることを知っている。いつも何故なら裏口から入って来て、ナナセさんのカットモデルやパーマモデル等をしに来るからだ。今まで表に出るのは遠慮してもらっていたのだが、先日外に出れる事もチェックしてわかった。それを考えるときっとこちらの人も地球に行けると思う。



「良いのですか?」


「元々美容師なんですが、二年前結婚した時に美容師を一度離れまして、相手方の実家に入ったんですけど…お姑さんと揉めたりしたのか…何だかんだで一年位で離婚しまして…今ちょうど無職でして…えへ」



 それにナナセさんの姉のマイさんは、僕が以前働いていた店の一つ上の先輩でもあった。その繋がりもあってナナセさんは僕のお店で働く事になったのだ。そんな先輩は結構頼りになる。



「腕はかなりいいと思いますよ。多少ブランクはあると思いますけど、僕の先輩ですし」


「ただ、お姉ちゃんは、ちょっと性格がきついんですよね。かなり厳しい指導になると思います」


「怒っているときは、ナナセさんそっくりだよ」



 ナナセさんが睨んでいるが、事実だ。まぁそれはともかく、それでもきっと人員不足なのは間違いない。それで用意したのは…。



「これは僕が必要だと思った知識をまとめたものです。これを元に学者の方々が、生徒に授業をして欲しいです。今日学者の方々に来て頂いたのはこの為です」


「これは…」


「接客マニュアル、毛髪化学、衛生管理、基本的な商品や道具の知識です。実際の技術は僕達が教える事になるでしょうが、それを高める為にも絶対覚えてもらいたい知識です」



 渡した数十枚のレポート。日本の美容学校で習う十分の一位の内容だろう。僕が必要だと思ったものを、わかりやすくまとめた。完璧とは言わないが、かなり良くできていると思う。学者の二人がパラパラとめくり、内容を見てくれている…。



「素晴らしい…。こんな素晴らしい物を私達に頂けるなんて…是非やらせて下さい」


「きっと理解できない内容もあると思うので、次の打ち合わせにでも聞いて下さい。僕達も後から思い出して、あれこれ言う事もあると思いますし」


「わかりました」



 後は道具と施設だ。シャンプー台やカット椅子、鏡等の施設は鍛冶ギルドにお願いする。ドライヤーやシャワーノズルも鍛冶ギルドで大丈夫。タオルやカットクロス、シャンプークロス等は、服飾ギルドがなんとかしてくれるらしい。問題は…。



「ハサミだ…キクチの使っているハサミは完成度が高すぎるようで、鍛冶ギルドでも大変らしい…」


「そうですね…ハサミ…ヤッカム様、僕達はこれをシザーと言います。とりあえずシザーは僕がいくつか見本を渡します。それを参考に作ってみて下さい」


「良いのかしら?それは高級品なのでしょう?」


「ディーテ様、流石に普段使っているものは渡せません。これは僕にとっての魂と言っても、過言ではありません。なので、昔使っていた練習用のシザーをお渡しします。これで無理なら、こちらで買って用意します」


「そんなこと言ったら、鍛冶ギルドも燃えるだろうな。ディンドンの顔が思い浮かぶよ」


「そうですね、ハマナンさん。でもあまり僕達を頼りすぎるのも、今後の事を考えると良くないかなって思います。いつか僕達はいなくなるかもしれませんから…」


「店長!それは気が早すぎます!」


「ははっそうだね。でも僕達が売っている多くの商品も、いつかオースリー王国の人達が、自ら発明して作ってもらわないとね。じゃないと文化は停滞するよ」


「キクチの言うとおりですわ。今この国は『おしゃれ』で文化が発展しています。が、それはキクチやナナセの力なのです。私達はそれにあぐらをかく訳にはいけませんわ」



 そんな話をしながらその後も計画を積めた、学校の建設場所や大きさ等を決めた。パラレルの近くにしてもらったのは、ありがたいことだ。ハマナンさんが融通を利かしてくれたのだ。そしてまた近々打ち合わせをする事になり、本日は解散となった。余談だが、他に作って欲しい物として、カットウィッグとクランプをお願いしてみた。顔だけのマネキンと、それをテーブルの上に付ける固定具みたいな物だ。カットウィッグを見せた瞬間に皆が叫び声をあげたのは、後の笑い話になる。こちらの世界は様々な髪色だから、作ってもらえるとありがたいなぁ。



※※※



「あー疲れた!」


「ナナセさんお疲れ様」


「お姉ちゃん大丈夫ですかね?」


「楽しみにしてるみたいだし、頑張ってもらうよ」


「ふふっそうですね!良く言っておきます」


「やめてっ!僕が怒られる!」



 まだ打ち合わせも途中ではあるが、本気で美容師を目指す人達が、この国にいると思うと張り切らずにはいられないそんな夜だった。


 

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