美容室の二人、首脳陣の追求
「キクチとナナセよ、お前達は何者だ…」
王様にそう言われて、言葉に詰まる。ただ、いつか深く追求されるとは思っていた。それがきっと今なのだろう。
「キクチ殿、ナナセ殿しっかりと答えて下さい。場合によっては拘束もあります」
「私達にそんな事させないように、しっかり答えてね」
ヤッカム様、王妃様も真剣だ。笑顔は一切ない。
「俺達もそんな事したくないしな」
「ええ、それにとても感謝もしていますからね」
アントレン様、タハラシ様も同様だ。決して敵意があるわけではない。
「店長…」
「ナナセさん大丈夫。僕が話すよ…」
僕は正直に話す事にした。この国の人達はとても誠実だと思う。平民から国王まで、常に僕達やオシャレを受け入れてくれた。面倒臭い事も多かったがとても充実しているし、何よりこの国を気に入っている。
「どこから話せばいいか、わかりませんが…まず簡単に説明させて下さい」
「うむ」
「最初はいきなり僕の店が、この国に繋がったんです」
「繋がった?」
「はい。遠くの島国から来たと、いつも説明していましたが…全く別の世界、もしくは違う星だと思います」
「やはりな…」
僕達以外が何故か皆納得している。そして僕は何かしらの神の啓示なのかもと思い、オシャレという文化を発信し始めた事を伝えた。
※※※
「ほらジーク、私の言ったとおりでしょ?敵意なんてあるわけないって」
「俺もそう思っているぜ、だがこの二人だけだ。背後に何もないとは言いきれん」
「ディーテ、この国を預かる者としては、簡単に済ます訳にはいかないぞ」
「ジーク…お父様…」
王妃様は信用してくれているのかな。でも確かに国を代表する者としては簡単な判断はできないだろう。
「俺達はキクチを恐れているんじゃない。その圧倒的な技術力にビビってるのさ」
「アントレンの言う通りです。あれが軍事力となっていたら、とても敵わない。それが私達の見解です」
「アントレンとタハラシの言う通りだ。それだけ脅威を感じているのだ」
「僕達には、そんなつもりは全然…」
「わかっている。攻め込むつもりなら、お前達は技術や商品など提供する訳がない。少しこちらを調べたら、即戦争を仕掛けているはずだ」
まさかそこまで考えているとは思わなかった。きっと裏では色々と調べてたのかもしれない。良く考えてみれば、知らない技術がいきなり現れるのは恐怖の対象になるのだろう。確かカメラもそうだ。昔は魂が抜かれると思っていた人が多かったはず…。そしてさらに驚く話も教えてもらった。過去に同じ様な迷い人がいた事があるそう。何百年も昔の話らしく、詳しい話はそんなに残っていないそう。今、学者に調べさせている最中だそうだ…。
※※※
「だから今日来てもらった。ちゃんと自分の目で確認したくてな」
「それで結果は…」
「大丈夫に決まっているだろう。一応の確認をしただけだ」
「最初からそのつもりでしたわよ」
「ありがとうございます!」
色々とおかしいと気付いていた部分があったらしい。商品は売ってても、仕入れているようには見えない。何もなかった場所にいきなり店ができていた。全くどこから来たかわからない等々。辻褄が合わない事が多すぎるらしい。逆にスパイや工作員としては、バカ過ぎてあり得ないと判断したぐらいだ。
「私達にはチート能力ないですもんね」
「そうだね。ただの美容師だから」
そう僕達は凄いスキルがあるわけでもないし、知識に関しては美容師としての知識ばかり。物は仕入れているだけで作れる物はない。魔法も使えないし。
「場合によっては王都に居を移してもらうつもりだったんだが、それも無理そうだな」
「そうですな、さすがに家は持ってこれません。ディーテ残念だったな」
「もう!お父様わかってますわよ」
「でも最悪にならなくて良かったな!」
「私もホッとしてますよ。恩人を斬りたくはないですからね」
最後さりげなく怖いんですけど…。まぁそういうものか。
「確信はないが、ラルベリマルサーヌピヨン様の導きかもしれないな」
「ラル…?」
「俺達が信仰している神だ。数百年前の迷い人が、ラルベリマルサーヌピヨン様のお導きではないか、という伝承が残っている」
「そうなんですか…」
「それにおそらくキクチの店は、加護が掛かっている」
「…?」
「パラレルは何度か襲撃されているぞ。しかもそこそこの手練れに」
「えっ?!」
いきなりのビックリ発言だ。聞くと、うちのお店は普段から特殊部隊が見張ってくれていたそう。自分達でもトラブルを避ける為に、色々とギルドにお願いしたりはしていたが、それでもどこかの悪い商人や貴族が動いていたらしい。
「だが、誰も入れなかった。店に弾かれたのだ」
「いつのまにそんなことが…」
「まぁうちの奴等が後処理してるしな。いつも朝には片付いていたはずだ」
忍び込もうとした人達は、店に傷一つ付けられなかったらしい。ガラスを割ることもドアを開けることも。魔法も効かなかったらしい。そして部隊に捕まえられていたそう。
「全く気付かなかった…」
「夜間というのもあるが…きっと音も遮断されていたのだろう。まぁそれで、ラルベリマルサーヌピヨン様の加護だろうと判断した」
「だから私達は絶対的にあなた達を信じているわ」
ラルベリマルサーヌピヨン様とは女神で、この世界を創ってくれたと信じられている。名前はダサいが。
「きっと素晴らしい神様なんですね!店長」
「僕達を守ってくれているのだから、ありがたいね」
「でも名前が長くて変で覚えられませんよ!リリーシュ様とか、かわいい名前だったらすぐ覚えられるのに」
「ナナセさん!あまり信仰されている神様の悪口は良くないよ。いつだって宗教は戦争の元になるくらいなんだから…」
「ははっ構わんよ。長いのは事実だし…ジークフリートに改名している自分が言えた事ではない…っ何だ!?」
「何だこれは!」
その瞬間、部屋全体が白い光に包まれる。どこからか女性の声が…。
「ありがとう…キクチにナナセ。リリーシュ…素敵な名前ね…」
そして光は消え元の部屋に。皆驚いた表情をしている。
「ジーク様、今のはまさかっ!」
「間違いない…きっとラルベリマルサーヌピヨン様だ」
「私もそう思いますわ!」
「お声を拝聴する日が来るとは…」
「俺は今日という日を忘れないっ!」
皆が驚き、感動に打ち震えている…。ナナセさんはそうでもないが。そして神は改名を喜んでいると判断した、ラルベリマルサーヌピヨン様はリリーシュ様として、名を変える事が決まった…。なんという事だ…今日たった一人の美容室アシスタントの手によって、王族と国、そして神様の名が変わった…。国民にどう説明する気なんだろ…。
「良かったですね店長!」
「良かったのかな…?はぁ…」
その後夕食を皆で頂き、各々今日の感想や今後の動きを、楽しく話すことができた。そしてその場で僕達を監視していた隠密の部隊に、『影』という名前をナナセさんが付けた。どこからか「俺達にも…やっと日の目が…」等という言葉が、聞こえたのは黙っとこう。隠密が目立とうとするのもおかしいが…。そして王様が自ら、お店の裏口をチェックする事も決めた。この国で一番魔力が強いのは王様らしく、何かあった時、対処出来るのは自分だと言っている。周りの人は少し白い目で見ている…。向こうに行ってみたいだけだきっと…。そして夕食も終わり…。
「明日は騎士の訓練見てくれ、何か良くなる事がないか頼むぜ!」
「私も是非、お願いします」
アントレン様とタハラシ様により、今日の泊まりが確定した…。少しでも、これでやっと帰れると思った自分が恥ずかしい…。王城の豪華な一室で一泊することになった。あらかじめ用意していた様だ。
※※※
部屋の窓を開け、風を浴びながら一息つく。
「疲れたぁ…」
「でも楽しかったじゃないですか!」
「そう…かもね」
「にしても同室にされるとは思いませんでした!」
「夫婦だと思ってるのかな?」
話をしながら、窓から王都を見下ろし感慨に更ける。
「もっとオシャレを広めなくちゃね」
「そうですね。リリーシュ様もきっとそう望んでますよ」
そんな会話をし、眠りにつく。因みに夫婦だと思われていた訳ではなく、お店でいつも一緒なのが当たり前なので、つい同じ部屋に案内してしまったそうだ。そんなこんなで、美容師二人の王都の一日目がこれで終了した。そして明日は明日で、やはり大変な事になる…。
 




