リトールの年末、アントレンの作戦
ナナセさんまで同居する様になって、数日がたった。リトールでは、信仰祭も終わりもう年末だ。オースリー王国より暖かいせいか、そこまで寒くなる事も無く雪も降らなかった。
「もう年越しか…」
「街は騒がしいですけどね…」
年越しといっても、まだまだ街の再建等で忙しく、皆もゆっくりする感覚は無いらしい。信仰祭も僕達でパーティーをして、皆にも差し入れとかしようかと思ったけど、ストムさんに止められた。いつまでも僕達に甘えず、今年は慎ましく今出来る精一杯で過ごす事にしたのだ。
「ジーク様にも色々と言われてたし、自分達でなんとかしたいんだろうね」
「祭り事だったら、いくらでも協力したいですけどね!」
「本当にね…オースリー王国じゃ、かなり盛り上がってるんだろうなぁ」
ジーク様が帰ってから、オースリー王国の情報はまだ入ってこない。マリーちゃんもいるし、誰が送られてくると思ってたけど、誰も来ない。アントレンもいるし、僕達を信用しているのかな?
「キクチ!今年の年越しは、たらふく飲もうぜ!」
「ははっ!当然ですよ!アントレンとの毎年恒例だし!今年のじゃなく、今年もだしね!」
アントレンは早くも年越しムードだ。二週間も先なのに…。
「今年は私もいるからね!年越し前にDVDレンタルに行こう!最近は、アニメ以外も見たいんだよね」
「私もいますからね!うっかりマリーちゃんに変な事をしないように、しっかりと見張ってます!」
「皆もここにいるなら…私もここで年越ししようかな」
マリーちゃん、ナナセさん、マイさん…。この三人が、最初から年越しの飲み会にいると、ちょっと緊張するな…。男だけで飲むから良いんだよね…。去年は皆で盛り上がったけど、アントレンやジーク様、カズヤさんにサイトウさん…毎年面白かったよね。こればかりは、アントレンも同じ気持ちじゃないかな。
「キクチ…実は少し考えててな…」
「何ですか?まさか、悪巧み…?」
「ふっふっふ…男祭りを開催するぞ…」
皆に聞こえない様に、こそっと話し掛けてくるアントレン。年越しの計画を立てているらしい。バレたら怒られそうだけど、楽しそうじゃないか。男祭り…いい響きだよ。
※※※
そして、あっという間に大晦日がやってきた。流石にこの日ばかりは、街も人もゆっくりとしている。僕達もパラレルで、朝からのんびりとしていた。でもそこに…。
「アントレン!問題発生だ!」
「ワーンズ、どうしたっ!」
「魔物だ…ちょっとヤバイかもしれん…!すぐに来てくれっ!そうだっ!キクチも来てくれ!少し知恵を借りたいっ!」
「わっわかりましたっ!」
そして僕達は、パラレルを出ていく。他の皆には、先に忘年会でもしててと伝える。外には主だったメンバーが集まりだし、すぐに出発する。
「よしっ!行くぞっ!」
「「「「「オーッ!」」」」」
※※※
僕達は街から離れ、ある場所に来ていた…。
「上手く行きましたね!」
「俺の計画は完璧さ!」
僕達がたどり着いたのは、密かに騎士団が作った小屋…。
「ミスレンも気付いてませんでしたよ」
「エレーカシ、ターチルドも逆に俺に気を使ってたよ…」
「俺もだ…モーンスンもすっかり騙されてる」
そう、僕達は何かトラブルがあった様に見せかけて、密かに集まり男祭りを開催する事にしたのだ!エレーカシさん、ワーンズさん、タイーフンさん、そして他のメンバーも妻や家族を騙してここに来ている。若者から年寄まで、総勢五十名だ。
「本当に楽しみだったよ!」
「俺も!嫁が怖くて参加しない奴等は、勿体無いよな!」
「ああ、こんなチャンスは中々無いからな!騎士じゃない奴等なんかは、参加すら出来ない…あいつらは、泣いてたぞ…」
「クジランも、血の涙流してた…あいつは完全に文官だからな」
「タイーフンさんは強くて良かったですね!」
残念ながら、参加しない人も勿論いる。嫉妬から情報が漏れる可能性もあったが、次の機会を考えると彼等にそれは出来ない。そして口封じもしてある。彼等の口封じは、あらかじめ渡したお酒だ。参加しても、しなくても、僕達の結束は硬いのさ!
「じゃあ、早速飲みますか!」
「そうだな!そうしよう!」
そして僕達は準備していたお酒や料理を、マジックバッグから取り出す。騎士達も鎧を脱ぎ、私服に着替える。計画に抜かりは無いのだ!
「明日の昼頃に、少し疲れた顔して帰れば完璧さ!」
「少し怪我して帰りましょう!ちょっと訓練すれば、あっという間だし!」
「で…魔物には逃げられたってか!」
「「「「「あーっはっはっは!」」」」」
僕達は絶好調だった。一気にフルスロットル全開で、お酒を飲んでいく。この後、とんでもない事になるとも知らず…。僕達はやっぱり甘かったんだ…。僕達は無事に年を越せるのか…。