オースリー王国マリー、恋愛と移住
ジーク様の懇親会後、僕達は遅くまで飲んでいた。マリー様も買ってきたDVDアニメに夢中で、夜更かしの真っ最中だ。ナナセさんとマイさんはもう帰ったけど、僕とアントレンはジーク様とまだ会話を楽しむ。
「それでどうするんだ、これから」
「そうですね…来年には、一回オースリー王国に行きたいです」
「コンテストは良いのか?」
「どっちにしろ、まだ一年経ってませんから…戻るには早過ぎですよ。もう少し成長してから行きます。皆には申し訳無いですけど…」
「そうか…でも安心しろ。サロンの街の連中には、まだ何も言ってないからな」
「えっ?そうなんですか?」
「ああ、いきなり登場させて、驚かそうと思ってな」
ジーク様達らしい…。でもその方が良いかも。変に期待されても困るし。そして話の方向が変わる。
「アントレンもマイの関係も、全然進んで無さそうだが…」
「うるせぇよ…こっちだって、色々あるんだよ…」
「ははっ、いきなりここに来ましたしね。確かに色々あったかも…でもマイさんも、わかりにくいからなぁ」
「そっそうだよな!俺もそう思ってた!」
「お前も子供じゃないんだから、もっと動けよ…」
マイさんは、多分アントレンの事を好きだとは思う。ただ友達としてなのか、男としてなのかはわからない…。たまに二人でご飯食べたり、出掛けたりしてるのにな…。
「キクチもナナセと、くっつかないのか?のんびりしてると、また結婚候補が現れるぞ…ストムあたりを、そのうち周りが薦めてくると思うしな」
「僕の話は良いんですよ!まぁ確かに面倒なのは困りますけど…」
「俺も…ナナセちゃんとキクチが結婚してくれれば、付き合いやすいのかもな…」
あまり適当な事を、言わないで欲しい…。ましてやマリー様もいるし、変な事は言わないでよ…。
「そうすれば、焦って行き遅れない様に動くかもな。はっはっは」
「ふふっ、ジーク様…それは失礼ですよ。それにナナセさんだって、それなりに良い歳になりましたよ。今のナナセさん位の歳に、マイさんは結婚してましたしね」
「そんな言い方したら、ナナセちゃんはもう行き遅れみたいじゃないか」
「「「あっはっは!」」」
ここにいない人の話で、笑い話をするのも悪いよね。
「誰が…三十過ぎた行き遅れのバツイチですって…?」
「私をいつの間に…アラサーの行き遅れに認定したんですか…?」
いきなり後ろから声が聞こえた…。一瞬にして凍り付く部屋…。誰も振り向けないし、声も出せない…。ただ怯えて震えるだけ…他の二人も顔が真っ青で身動きが取れない…。ヤバイ…。ただマリー様だけどこ吹く風だ。
「ちょっと気になって、戻ってきたら何なの?これは…」
「嫌な予感がしたんですよね…」
「いっ、いや、違うんだ…キクチが…」
「僕も…ジーク様が…変な事言って…」
「おっ俺じゃない…あっアントレンが勝手に…」
女の勘て怖いよ…。前も同じ様な事が、あったのに僕達は学習出来ていなかった…。言い訳も通じない…。
「じゃあサヨナラ…」
「来世でお会いしましょう…」
「やっやめて…」
「許して…」
「ごっごめんなさい…」
「「許しません!」」
「「「ギャー!」」」
その日の絶叫は、リトール中に響いたらしい…。
※※※
しこたま躾られた僕達は、三人でコンビニに買い出しさせられたよ。また二人を交えて飲みなおすらしい…。いつもなら喜んで着いてくる二人も、かなり沈んでたよ…。
「私の事を変に言ったら、こうなるってわかってるのに…成長しないものね…」
「私まで…そういう扱いにされるなんて、驚きです!店長だって三十歳過ぎてるじゃないですか!」
「申し訳無い…」
説教が終わらない…。勘弁してくれよ…。
「そうは、言っても…俺もお前達の心配をしてるんだぞ?」
「ジーク様のはお節介です!私達は自分で決めるんです!」
「ナナセの言う通りよ…変に詮索されたくないわ」
ジーク様も勇気あるなあ。反論してるよ…。アントレンなんて、さっきからお酌しかしてなのに…。
「わかったー!」
「おっ、急にどうした?マリー」
「マリー様?」
いきなりマリー様がテレビを離れ、こっちに来る。
「お父様!私もここに住みます!」
「「「「「えっ?」」」」」
「マリー、いきなりどうした…」
「私が恋のキューピッドになるよ!」
「マリー様、何を言って…」
マリー様が、変な事を言い出す。
「私が皆の恋のアドバイスをする!」
「マリーにそんな事…」
「出来るよ!アニメで恋愛マスターになったの!」
「馬鹿な事を…」
「どうせ向こうにいても…そこまでやる事無いし、こっちで出来る事も多いしね!」
マリー様が、話をどんどん進めていく。
「キクチさん!私がここに住んでも良い!?」
「どっどうしたの、いきなり…」
「何?私の事、嫌いなの?」
「いっいえ、全然…」
「なら、好きって事ね!じゃあ問題無し!」
「マリー様、いくら店長でも男性ですし…一つ屋根の下ってのは…」
「ナナセさんの信頼する店長は、そこまで変態なの?」
「そんな事は無いですけど…」
「何かあったら、アントレンも守ってくれるよね?」
「それは当たり前だけどな…」
「なら問題無し!部屋も余ってるみたいだしね。家賃もお小遣いから出すから!」
「そんなのは要らないけど…」
あれ?いつの間にか、リトールに滞在する事は決定してない?どこに住むかが、問題になってるけど…。
「ジーク様…良いんですか…?」
「…ちょっと困るが…社会勉強という事で暫く…お願いしても良いか…?」
「ディーテ様達には…」
「かなり怒られるだろうな…土下座は確定だ…」
「お父様!お母様には、私がお手紙書くから大丈夫!」
「キクチくん…良いの…?」
「さあ…?わからないよ…仕方無いとしか言えない…」
「こういう時のマリーは、テコでも動かないからな…」
僕達の恋愛成就の為に居座るの?そんな事ってある?でもマリー様は頭が良いからな…。他にも何かあるかもね…。
「この国では、平民だから様付けは止めてね!」
「じゃあマリーちゃんて私は呼ぼうかな…」
「僕もそうするよ…よろしくねマリーちゃん」
そんな話をしていると、マリー様はマジックバッグを取り出し、更に中から荷物を出し始める…。それを見た僕達は驚愕する…。まさかベッドや本棚が出てくるとは、全く予想してない…。
「マリーまさか…」
「嘘でしょ…?」
「最初からそのつもりだったの…?」
沢山の服や家財道具を並べ、部屋作りを始めるマリー様。最初から、ここに移住する気だったのか…。
「たまたま準備してただけ!たまたまね!たまたまだよ!」
「「「「「嘘付け!」」」」」
という事で、新しい住人が一人増えた。また騒がしい日々が始まるよ…。