元王子サバシオ、勉強と友達
学校と言っても、全員が友達な訳ではない。それはわかってる。でも確実に一人浮いている子供がいた。サバシオ君だ…。タイーフンさん直々にお願いもされ彼も参加していたが、一人だけ皆とは違った。
「帝王学を学んでいたし、頭も飛び抜けて良いはずだから、つまんないのかな…」
「どうだろうね…あんまり子供達と過ごす事も無かっただろうから、戸惑ってるだけかもしれないし…」
「マリー様は、孤児ともすぐ仲良くなれたんだけどね…」
毎日学校があれば慣れるかもだけど、週に二日だから時間が掛かりそうだよな…。
「算数の授業を少し工夫しようかな…」
「どんな風に変えますか?」
「良い案を頼むわ」
僕達はドッジボールで、懇親会の様に親しくなる場を与えたつもりだった。子供とはいえ、そんなに簡単じゃないよね。そして僕達は計画を立て、算数の授業に挑む。
※※※
「それじゃあ、チーム分けしまーす!私の言う通りに別れてね!」
ナナセさんの指示で皆は分かれる。年齢とかで、バランス良く分けたつもりだ。チーム名も決めた。そして説明は続く。
「算数の問題を出すけど、その前にあそこの木まで行ってタッチして戻ってきて下さい!そしたらこの石をここに運んでね!そしたら問題を言うから、答えを言って下さい!わかった?全員で協力してよね!」
「「「「「はい!」」」」」
皆で協力するゲームで算数を教える。サバシオ君だけじゃなく、皆もより仲良くなれると思う。上手くいけばだけど…。
「じゃあ、行くよ!…よーい…ドン!」
「走れー!」
「急げー!」
皆が元気良く、一斉に走り出す。彼等の戦いは始まった。
※※※
各場所をクリアして、皆は答えていく。全員無事にクリアは出来た。だが…。
「一番最初にゴールしたのは、ウサギさんチームでした!問題も正解です!」
「やったぁ!」
「よしっ!」
「で、得点は…0点です!」
「「「「「えっ?」」」」」
「なっ何で!?」
折角ゴールして答えも合っていたのに、無得点という結果に皆は驚く。でもそれを気にせず、ナナセさんは話を続ける。因みにサバシオ君はウサギさんチームで、彼も困惑している。
「二位のトリさんチームも、答えは合ってましたが0点です。因みに七位までは0点です」
「「「「「えっ!」」」」」
「嘘だ!」
「私は出来たよ!」
「僕も一生懸命走ったのに…」
更に驚き、文句も出始める。でもナナセさんは続ける。
「八位のヒツジさんチームは、答えが間違ってたのは残念だけど、2点獲得です。そして残念ながらビリのトラさんチームは、答えは間違っていましたが、4点獲得です」
「何で!僕達の方が早かったのに!」
「そいつらは、答えも間違ってるじゃんか!」
当然文句は出る。当たり前だ。彼等は得点システムを理解していない。
「はいはい!次行きますよ!…また位置に着いて下さい!」
ナナセさんは気にせず、先に進める。子供達は良くわからないまま、言葉に従い位置に着く。
「行きますよー!よーい、ドン!」
疑心暗鬼のまま、ゲームはまた始まる。
※※※
二回戦も結果はほぼ同じだった。さっきと同じ様に、問題の解けないチームが得点を上げる。そしてそのまま三回戦も行い、同様の結果に…。子供達は完全に混乱している。
「何でこうなるか、わかりますか?ちゃんと考えて下さいね!最初に協力してって言ったでしょ?得点のあるチームと、自分達のチームの違いを。得点のあるチームも、どうやったらもっと点が貰えるか考えましょう!」
「わからないよ…」
「うーん…」
「もしかして…」
皆は悩む。でも気付いた子供もいるかもしれない。
「じゃあ、もう一回戦行きますよー!」
「はっはいっ!」
「皆と違うところか…」
「私達は何が良かったんだろ…」
そして四回戦は行われた。その結果、いくつかのチームは得点を獲得した。
※※※
「何で…僕達は…」
「私達は何が違うの?」
「やっぱりだ!」
「やったー!」
そのまま五回戦も行われる。この時には皆が気付き、上手くいき始めた。サバシオ君のチーム以外だけど…。
「僕達は何が悪いんだ…」
「サバシオ君が協力しないからだよ」
「えっ?」
「そうだよ。皆は助け合うから、点が入るんだよ」
「そんな…」
「でも僕は一生懸命やって…」
「一人でね…勝手に走って、勝手に答えて、石を持つ時だけ手伝って貰って…ズルいよ…」
「そんなつもりは…」
サバシオ君は頑張り屋さんだ。凄く真面目で、何でもやろうとする。元王族だから責任感も強い。ましてや親が犯罪者だから、余計に頑張る。それが空回りしてるんだ。
「僕は皆の為に…」
「つまんないよ…それじゃ…」
「でも勝たないと…」
「そんなの関係無い!」
大人びてるし、今まで子供との付き合いも無いから、あまり遊んだ事も無いのかもね。そこでナナセさんが助けに出る。
「サバシオ君…チームの皆の名前を言える?」
「えっ…?」
「さっきのドッジボールの時の、メンバーの名前でも良いよ?国語の時の隣の席の子は?誰か一人でも名前を知ってる?ていうか知ろうとした?」
「そっそれは…」
「知らないでしょ。誰も…」
「うっ…」
「自分しか見てないんだもん。それじゃあわからないよ。そのままじゃ、いつまでも一人だよ。一人になりたいなら別だけど…」
「そんな事は…」
サバシオ君は何を思ってるのかな…。頑張ってこれから、何をしたいのかな…。
「はっきり言って、サバシオ君は子供だよ。大人じゃ無い。大人ぶってもしょうがないよ?ここは王様を決める場でも、何でも無いからね」
「そんな事はわかって…」
「じゃあ、まずは友達を作って。そして皆で良く学び、良く遊び、良く過ごして。そして成長してね…いつか良い大人にる為に」
サバシオ君は背伸びし過ぎだし、このままだと疲れちゃうよね。これで少しでも肩の荷を降ろして貰えるとね。
「…サバシオ君…一緒に頑張ろ?…私はアムロレだよ。今度は覚えてね!」
「俺はシャアアだぜ!サバシオ!これから一番取ってやるさ!」
「僕はカミュ。これから仲良くしてね」
「皆…ありがとう…僕はサバシオ…これから改めてよろしく!」
多少ギクシャクはしてるけど、これで上手くいくはずだ。きっとサバシオ君にも友達が出来るはずだし、皆ももっと仲良くなる。
※※※
そのまま授業は続き、皆は協力しあった。足が遅くても皆で走り、重い石を皆で持ち上げ、問題を皆で考え、わかる子供がわからない子供に教え、皆で笑顔になる。いつのまにか皆は友達になっていた。子供の順応性は流石だよね。
「じゃあ今日の授業は終わりです!お疲れ様!」
「お疲れ様でした!」
「ありがとー!先生!」
「さようなら!」
皆は満足気に帰っていく。サバシオ君も今日のチームメイトと、仲良く帰っていった。
「良かったね。皆仲良くなって」
「店長の言う通りでしたね!あっという間に問題が解決しました!」
「ナナセの説教も中々良かったわよ」
「えへへ…」
僕達も中々満足のいく一日だった。次の授業はもっと良くなるだろうね。因みにこの後、サバシオ君から話を聞いたタイーフンさんとモーンスンさんが、お店にやって来てお酒を置いていったよ。サバシオ君の変化に気が付き、相当嬉しかったんだろうね。こりゃ授業がある度に、何か貰えそうだよ…。