※オースリー王国の国王ジーク、知って気付く※
「ジーク様…ザドー王国より、使節団がやって来ました…急ではありますが謁見を求めてきてます…」
「珍しいな…国交はまだ先かと思ってたが…」
向こうの大陸とも国交は始まったが、まだリリーシュ連合国だけだ。そこからドワッフルやザドー王国に、商品や情報が流れるのはわかる。だが連合国からもかなり南方にあるし、まだまだ先の話だと思っていた。伝令もそう思っていただろう。
「内容は何だ」
「それが、直接話したいと…それに…」
「どうした…何があった…」
「国王も自らいらしてます…」
「何っ?」
「最近、王を継いだそうで…挨拶も兼ねたいそうです」
国王だと?いきなりだな…。
「ヤッカム、タハラシ…どう思う」
「ちょっと、わからんな…取り合えず会ってみるべきではないか?」
「私もそう思います。教国の事とかではないでしょうか…」
「その可能性もあるな…会ってみるか…」
そして俺は、ザドー王国の王に会う事にした。どんな話を聞かされる事やら…。最近はキクチ達もいなくなって、刺激も少ないから楽しみだ。
※※※
「俺が国王のジークフリート・ヴァン・オースリーだ」
「僕はザドー王国の国王ハリーケン・ザドーです。今日は忙しい中すいません。若輩者ですが、よろしくお願いします」
随分と腰が低いな…。歳は俺より幾分か下だろうか。
「国王になったばかりらしいが…」
「はい。父が急に隠居すると言いまして…仕方無く」
「何かあったのか…」
「実はそれも含めて、色々とお話をさせて頂きたく、そして協力もお願いしたいと思ってます…」
いきなり怪しいだろ…。面倒事か?
「皆さんも砂障壁はご存じだと思いますが、実は砂障壁を突破しました…」
「何っ?…あの天災をか…」
「ジーク…信じられません…あれは誰かに突破出来る様な代物では…」
「皆さんが信じられないのは、良くわかります。僕達も信じられませんでしたから」
「どういう事だ…」
「こっちからじゃないんです…あの中から帰還してきたんです…トンネルを掘って、地下を通って…」
「あの中で…人が生きていたのか…」
「砂を通ってか…」
こちらは全員絶句だ。砂障壁の中に生存者がいるなんて、誰も思ってなかった…。中は砂嵐は起きてなかったのか…。信じられん…。
「十年耐えてました。それこそかなり過酷な状況の中で…」
「それはそうだろう…砂障壁の内側はどうなってたんだ…」
「砂障壁をある程度進むと、普通の砂漠だったみたいです。それでも砂嵐や砂塵はあった様ですけど…何とか皆で協力して過ごしていた様です。多くの死者も出ていましたが…」
「そうか…それでも良かった…生存者がいたのだからな…それで、その報告だけでは無いだろう…用件は何だ」
「実は…砂障壁が人の手によって起こされた物だったんです。意図的に、古代遺産を起動させたんです…」
「まさか…あれを…そんな事をする奴が…」
そんな事が出来たとはな。意図的に災害を起こす事が出来る奴がいるのか…。かなりの極悪人だぞ…。
「ジーク…わかりました…ここに来た理由…」
「ヤッカム、言ってみろ」
「教皇の仕業なんでしょう…それで調査の協力を求めにきたと…」
「ヤッカム様、その通りです。恥ずかしい話ですが、ザドー王国内に犯人はいましたが、協力者として教皇もいたんです。どうやら教国に古代遺産を起動する鍵があるらしく…それを探し出して破壊するか封印しようかと…」
「なるほどな…俺達が教国を潰したしな…ダウタウーン公国と協力して粛清も行ったし、俺達が一番情報を持ってる訳か…」
「はい。砂障壁から出てきた人達に、アドバイスも受けて助けを求める事を薦められました。連合国に聞くより先に聞けと…向こうからの突破口も、その人達に大分助けられましてね…僕達が何も出来なかった分、本当に感謝ですよ」
凄く出来る奴がいたんだな…。それでも十年掛かった訳だ…。
「ちょっと待って下さい…」
「どうした、タハラシ…」
「その人は十年、砂障壁の中にいたんですよね…なのに何故、こちらの情勢を知ってるんですか?」
「確かに…変だな…どういう事だ」
「えっと…気付きませんでした…喜び浮かれていたせいで…でもオースリー王国出身と言ってましたよ…」
「名前は…」
「えっと…目立ちたく無いと言って…名乗りは…」
これは、隠してるな…。目立ちたく無いのは、本当かもしれんがな…。こいつは知っているな…。
「まぁ、良いさ…そのうちわかるだろう」
「そうですね、じゃあ詳しい話をさせて下さい」
それから俺達は、どういう状況からどうやって打破したかを、詳しく聞いた。とても面白く、刺激的な話だったよ。だが色々と、何か隠してるのはわかる。本当の事しか言ってないが、本当の事で言ってない事がある。俺にはそう見える。
※※※
そして謁見を終え、ザドー王国の奴等は帰っていった。しっかり協力はしてやるさ。色々と興味深いからな。
「ヤッカムどう思う…」
「怪しいですね…特に活躍している連中が…胡散臭過ぎます…」
「俺もそう思う…でも本人達も、そんなに隠す気は無いんじゃないか?目立ちたく無いってのは、冗談とも取れる…」
「私もそう思います…ジーク様、その王都で暴れた武人てどう思います…オースリー王国出身ですよ?」
俺達は気付いていた。
「こっちの事情に詳しく…」
「無鉄砲に王都に乗り込み…」
「無礼に謁見を求めて…」
「衛兵といざこざを起こし…」
「それを全員打ち倒す…」
「私はこれが出来る馬鹿を…一人しか知りません…」
「私もだタハラシ…大馬鹿は一人だな…」
「俺もだ…超馬鹿な奴を一人知っている…」
「「「アントレンだ!」」」
おそらくどういう理由かわからんが、きっとアントレンが砂障壁の中にいたんだ。中で協力して突破してきたんだな…。もしかしたら、キクチ達もいるかもしれないな…。呪いを解除したり、結界を作ったり、国を興したり、色々とアントレンだけじゃ無理だろうからな…。これは楽しくなってきたぞ!
「色々と調べなきゃだな…」
「ザドー王国に、転移陣の設置も要請しましょう」
「というか、もう行きたいな…」
忙しくなるぞこれは…。あいつらがいなくなって、半年くらいか…。戻ってくるには早すぎる気もするが、関係無いな。取り合えずディーテや、子供達にも教えてやるか。あいつらとまた会えるかもってな!