ザドー王国首脳陣、リトールと共に
会談は終わらない…。まだ肝心な話は、聞いていないし、見えてこない。
「そもそも…教国とは、どういう関係なんですか?教国はあまり他国と、交流していないと聞いていたので…」
「それが…私にも良くわからい…クサーヤ様の父…シオカララ様に頼まれ行動していましたので…」
「私もです…父には何も聞いていないんです…たまに指示がきて、それに従うだけなので…」
何が目的だったんだろう…。シオカララ様に、話を聞かなくてはいけなそうだ。
「突然…死んだ事にしてくれとお願いされ…その後で教国の方を紹介されました…クサーヤ様への気持ちを知っていたのか…それも盾にされました…後は指示通りに…でもどうして従ってしまったのか…」
「私も突然…色々と試すから協力しろと…何故か断る事も出来ず…気が付いたら側妃になっていました…もしかしたら母さえ生きていればこんな事には…」
「ううむ…いまいちわからないな…」
「そうですね…やはり国家転覆は、本来の目的では無いのでは…どっちにしろ、そのシオカララ様という方に話を聞かなくてはですね」
「そうだな。ワーンズ、すぐに叔父上を拘束してこい。ゴビ、クサーヤ、居場所はわかるのか?」
「おそらく…私の実家近くのカンツメの森にいるかと…詳しい場所はわかりませんが、そこで身を隠していると聞いてます…」
「陛下、すぐに向かいます」
「ああ、頼む。それとこの二人も拘束し、城に幽閉しておけ。また尋問する」
「はっ!」
ワーンズ様達が、ここを出ていく。そしてゴビ様とクサーヤ様も、連れていかれる。これで一段落だ。
「教国は無くなってしまったからな…教皇含め悪事に手を染めてた者は、殆ど粛清されてしまったらしいからな。そっちの情報は期待出来ないか…」
「それなら、オースリー王国かダウタウーン公国を頼ってみろ。その二国が中心に教国を粛清したからな、その辺も調べてあるかもしれない。今は教国もリリーシュ連合国になって、まだまとまってはいないだろう。調べるなら、先に二国に聞いた方が早いはずだ。その手がかりから、連合国に聞けば良いさ」
「お前は…」
「俺はオースリー王国の出身者だ。『銀翼の騎士団』の元団長さ」
「まさか…アントレン…『天下雷神』のアントレンかっ!」
「おう。良く知っているな」
「最近では…教国も無くなったからな…こちらにも漫画や情報が入ってくるさ…どうりでうちの騎士達が敵わないはずだ…」
「王都で暴れて悪かったな」
「いや、今となってはどうでも良い…それにしても何でこんな所に…」
「まあ、色々とあるのさ。それと二国に聞く時は、俺の名は伏せてくれ。今更目立ちたくも無いしな」
まさかのアントレン様の正体に、皆は驚いている様だ。こっちにも少しづつ、文化が入ってきたんだなぁ。良い事だ。
※※※
その後も話は続いた。今までの経緯も含めてね。古代遺産もダウンジングして、探す事も決まった。試しにやってみたら、方角的にさっき話に出ていた、シオカララ様がいるであろう方角だった。
「そして、それで砂障壁を止めると…」
「全てがはっきりしたらですけどね。取り合えず、リトールの独立を認めて下さい。下手な介入はしないと」
「この十年何も出来なかったしな…俺は構わんが…クジランやタクラはどう思う…」
「私も構いません。その砂漠化の停止は、こちらにも影響が出ています。最近オアシスの水量や緑も増えてきたと、報告が上がってました。まさかそちらでそんな事があったとは、思っていませんでしたよ。なら恩人の願いは応えるべきでしょう」
「アタシも同感だね。正直、オリハルコンは惜しいけどね。でもこのザドー王国への貢献は、歴史上でも最大級さ。文句は言えないよ。誰だって納得するよ」
よし…。これでリトールは、何とかなりそうだ。後は上手く、交流をしていけば良いさ。
「ちょっと待って…あなた、そうするとストムは他国の代表になるんでしょ?折角戻ってきてくれたのに…」
「確かにそうだな…」
「お母様…別にいつでも会えますから!隣街とでも思って下さい!」
「そんな事を言っても…十年振りなのに…いきなりお別れみたいで…」
確かにそうだ。家族は十年離れていた。ましてや元王女…代表には無理があったかもな…。
「うん…うん…そうだな、そうしよう!わかった!俺は決めた!」
「あなた…どうするの?」
「俺は王を降りる。ハーリケン、今からお前が王だ」
「えっ?僕が?父上…急に何を…」
「それで俺もリトールに住む!エレーカシ、場所を用意してくれ!何ならストムの家で良い!」
「あなた!ナイスアイデアよ!そうしましょう!私も行くわ!」
「父上!母上まで!急過ぎます!クジランも何か言ってくれ!」
「陛下…流石にそれは大変でしょう。新しい国なのですから…宰相の私の知識も必要になるでしょう、それなら私も行きます」
「クジランまで何を!タクラ何とか…」
「アタシも歳だしね、新しい国で隠居も良いね…まだ住人も少ないだろう?発展に協力するよ。ザドー王国は、次世代の若者達に任せるさ!」
「タクラ…嘘だろ…皆どうしたんだよ…」
衝撃だよ…。ザドー王国の首脳陣が、国を乗り換える…。そんな事あるの?この世界の人の行動力を、改めて見せ付けられたよ…。まともなのはハーリケン様だけなの?他の文官や護衛も、気のせいか羨ましそうにしてるし…。
「これは大変な事になりましたね…」
「エレーカシさん…大変過ぎますよ…」
「ああなった陛下達は、誰も止められません。この大陸で唯一、教国と対等に戦ってきた人達ですから。豪胆なんですよ。きっとワーンズも来るって言いますよ。もしかしたら離れていた他の家族も多く来ますね。僕の妻もまだ会ってはいませんが、ワーンズが伝えてくれたようで、もう準備しているそうです」
「来るって言うか、狂ってるよ…ストムさんも大丈夫?変な部下も出来そうだけど…」
「ふふっ、大変でしょうけど、嬉しくもあります。十年振りの対面で、ここまで決まるなんて…きっと私達の為でもあるんですよ…リトールの皆もザドー王国に戻るより、今の街の発展を優先しそうだし」
「それはそうだけどね…はぁ皆はリトールに来ちゃうのか…」
結局、一連の問題が解決次第、タイーフン様達は移住する事になった。でも王はさっきの発表で決定したらしい。ハーリケン様が、頭を抱えているけどね。戴冠式も何も無いし。
※※※
そして僕は一応準備していた、バーベキューを用意する。結界のおかげで、無事に出来る。シオカララ様拘束の報告が来るまでは、憩いの時間だ。それが今日なのか、明日なのか、その先なのかはわからないが。
「これは美味い!焼きそばは国宝だな!」
「外で食べるのも新鮮ね」
「向こうの大陸は、楽しそうだな」
「このタレも中々…」
「僕も取り合えず、自棄食いだ!」
皆は楽しそうにしてくれる。首脳陣や他の側近、騎士の方もこちらのメンバーと再会を祝っている。ストムさんや、エレーカシさんは人気者だ。因みにタイーフン様、食べ物は国宝になりません。ジーク様を思い出したよ…。そして改めてタイーフン様と話す。
「キクチ…ありがとう…改めて礼を言わせてくれ」
「いえ、こちらこそ色々と、無理を言ったりして…」
「良いんだ。良い判断だと思うぞ。おかげでこれからが、楽しみでしょうがない」
「ははっ、僕は不安ですけどね」
「まぁ、そう言うな。十年はそれほど重かったんだ。死んだと思っていた者達が、生きていた…かなり苦労したはずだ…死んだ者も多くいるだろう…そしてこれから国中に、発表もする。喜ぶ者…中には悲しむ者もいるだろう…でも皆、お前達に感謝しない奴はいない。どんな事でも認められるさ」
「ありがとうございます…」
「でも、今日みたいにあんなに皆が、カッコ付けていたら少し興醒めするかもな!あえてボロボロの格好をさせた方が良いかもな!」
「はははっ!そうですね。でも今日の為に、皆が張り切ったんです。褒めて上げて下さいよ!」
「はっはっは!そうだな!わかってるさ。でも良く見ればわかる。以前より痩せた顔や体…荒れた肌…無理してるのが、痛々しく思える程にな…」
「本当に…その通りですね…」
わかってくれている。この十年を。リトールにいる皆にも、早く伝えて上げたい。そして僕達はこのまま、ここで一夜を過ごす事になった。ストムさんは家族と同じテントに、エレーカシさんも騎士仲間と共に過ごし、他の皆もそれぞれの知り合いや、気の合う者同志で過ごしていった。今後の可能性に胸を膨らませながら…。