トンネルの開通、ザドー王国との接触
あれから無事に、トンネル工事は進んでいった。砂障壁の真下も無事に通る事が出来たし、後は向こう側に出るだけだ。
「向こう側に結界はありませんから、多少進んでから外に出ようと思います」
「エレーカシさん…出来るだけ周辺に、人がいない所で…」
「わかってますよ。トラブルは避けたいですからね」
「向こうに出たら、小さい結界は張りましょう。桜も用意しますから…魔力はそこそこ与えるに留めて。そして会談の出来る小屋も作りましょう」
「どのくらいで気付かれますかね…」
「わかりません…出たとこ勝負ですね」
「まぁ皆が張り切ってますから、すぐに出来るとは思います」
トンネル工事は順調だったが、砂障壁が起動された原因に関しては、全くわからなかった。向こうで話を聞くか、調べるしか無さそうだ。
「でも、周辺を改めて調べた事で、緑化の進み具合や、新たな食材や資材も発見出来ましたから」
「皆さんが、色々と調べてくれたおかげですね」
「皆には感謝ばかりですよ…私は元王女なのに…もっと協力出来れば…」
「ストムさんには、会談で活躍して貰いますから。矢面に立って頂きますし、一応この国の代表ですからね」
「上手くいけば良いんですけど…」
「僕達も全力でフォローしますから」
この国は『緑のリトール』としてスタートさせた。国王とかではなく、代表がいるだけだどね。それがストムさんで、皆の意見で決まった。本人は否定するが、誰よりも責任を持って行動してたし、積極的に参加もしていた。元王女という事は関係無く、単純にその人柄で選ばれたんだ。多分この世界初の、民主主義国家が誕生したんじゃないか?でも、今後どうなるかはわからないし、今はまだ小さい街だから問題も少なくはない。これからストムさんを中心に、素晴らしい国を作って欲しい。
※※※
「よし!カッコ良くなりました!」
「ありがとう、ナナセ隊長!いやぁ変わるもんだなぁ。これで向こうの奴もビビるさ!」
「ふふっ、全員が敵って訳じゃ無いですよ!でも…会談でこっちの凄さを、皆に見せ付けてやりますけどね!」
「その意気だよ!隊長!」
会談に向けて、トンネル工事以外も頑張っている。それは見た目を変える事だ。男はカッコ良く、女は綺麗に。髪は勿論の事で、服装もマイさんが中心にデザインをして、皆で作っている。ここにきて、新しい植物が有効に使われているみたいだ。
「それでも服やアクセサリーが足りないから、多少は日本で買ってくるわ」
「それもしょうがないですね…まだこの地域でファッション文化は、始まったばかりですから…」
「でも、皆の飲み込みの早さや、勢いには驚くよ…美容学校やユニクさん達を思い出すわ…」
「それがこの世界の良いところですよ。近いうちに、きっと服飾ギルドなんかも出来ますよ…それに服飾関係は年配の方や、結構歳がいってる人も多いんでしょ?」
「ええ、オバチャンパワー恐るべしって感じね。十年分の鬱憤を張らしてるみたいで、たまに怖いし…」
トンネル工事の時みたいに、倒れる人は出ないよね?まぁそんな感じで、見た目の改善も進んでいる。会談の参加に関係無く、普段着の作成も行われている。オシャレな人が、街を埋め尽くす日も近いはず。そんな希望を抱きながら、街の発展に僕達は尽くして過ごす。
※※※
そして、一報が入る。トンネル工事を始めて、四ヶ月程経過してとうとう…。
「開通しました!向こう側に辿り着きました!」
「よしっ!」
「やったぁ!」
エレーカシさんとアントレン様が、報告しにやって来た。無事向こう側に、トンネルが開通したんだ。多分数㎞は掘ったはずだ。日本じゃ考えられないスピードだろうね。そしてエレーカシさんは、祖国への到達にかなり興奮している。でも終わりじゃない、これからだ。
「まだ砂嵐の範囲内だったので、すぐに整地をし桜を植えています。小屋の資材も搬入しています」
「それで…周辺は…」
「特に目立った所は無さそうです…人の気配もありませんでした。なので僕達が来たんです」
「そうですか…皆にも伝えなきゃですね。ひとまず順調です…後は向こうに、来て貰うだけです…」
予定通りだ。でも街までの距離もわからないし、偵察が必要かな…。余りこっちからは、接触したくないけど…。
「こっちから出ちゃ駄目なんですか?」
「もし捕まったりしたら嫌ですし…皆さんが家族に会いたいのはわかりますけど、家族を人質にされたくもありませんから…」
「私達の正体が、すぐにバレてしまうのは…」
「ストムさん…出来れば、会談までは避けたいですね…何が起きるかわかりませんから…」
姿の見えない敵と対峙するのに、準備は怠りたくない。
「俺が動く」
「アントレン様…」
「俺なら素性がバレても構わないし、誰より強い自信もある。そんな簡単に捕まったり、殺られたりはしないさ。軽く魔単車で、調べて来るさ。上手くいけば、ザドー王国の奴等を呼べるだろう」
「何か不安ね…」
「マイ…そんな事言わないでくれよ…」
マイさんの気持ちもわかるけど、取り合えずアントレン様に任せる事にした。これが吉と出るか、凶と出るかだ。
※※※
「これで、準備は良いかな…ストムさん行きましょう」
「はい」
暫くしたら、僕達は向こうへ行く事になった…。しかも予定外にね…。どういう経緯かわからないが、期待とは裏腹にアントレン様の行動は、結果として凶と出たらしい…。何やってんだよ、アントレン様…。
「じゃ、行ってきます」
「店長、気を付けて下さいね!」
「キクチくん…上手くやってよね」
僕は砂障壁を抜けた先に向かう。ストムさんも代表として、一緒に向かう。向こうでは、アントレン様やエレーカシさんが、何とか対応しているはずだ。祈るしかないけどね…。
「まさか…もう軍が動いてるなんて…」
「ストムさん…完全に予定外ですよ…アントレン様は何をしたんだよ…」
向こうでは、何故か軍に取り囲まれているらしい…。どうしてこんな事に…。皆が無事だと良いけど…。