リトールの未来、ザドー王国の信用
「私の詰めの甘さで、皆さんに迷惑を…」
「仕方無いさ…僕も甘かったし…」
今は居残り組で会議をしている。そしてナナセさんは、体調管理の甘さを絶賛反省中だ。
「ナナセさん達に反省されたら、何もしてこなかった私達はどうしたら良いんですか?」
「すっすいません…」
それでも、反省は必要だと思う。今後大きな問題が、起きない為にもね。それに引きずり過ぎても、しょうがないし。そしてこれから本題の話があるから、反省もここまでだ。
「それで話とは…」
「トンネル工事が完成するまでに、はっきりしようと思って」
「はっきり?」
「ええ、このリトールなんですけど…ザドー王国に属しますか?僕は独立国にして欲しいんですけど…」
「なっ何故?」
「余り…メリットが無くて…」
皆は驚いている様だ。ザドー王国は祖国だから、当然といえば当然か。
「皆さんにとっては祖国ですし、向こうに家族がいる方もいます。ストムさんは王族ですしね。でも…」
「でも?」
「このリトールの街としては困るんです…ザドー王国に入られると、水源や緑化はきっと介入されます。変な利権でも生まれたら厄介です。結界に関しても、多分都合良く使われる気がします…かなり過ごしやすいですからね。駐屯地にでもされたら、どうします?納得出来ますか?」
「それは…納得出来無いかもしれません…」
「そうでしょ?皆さんが、苦労して作った集落なんです。もう街と言っても良いでしょう。それを…十年以上見捨てられていたのに、いきなり利権で荒らされ、勝手に住まわれ、挙げ句の果てに税金まで取られたりするかもしれません…これでは、僕は嫌ですね」
皆も理解はしてくれていると思う。
「それにオリハルコンの事もあります。以前あった小国も、これで滅んだのかもしれませんし。それがザドー王国に、どれだけ影響与えるかわかりません」
「でも…家族や…」
「別に、交流をするなとは言ってません。ここを守る為の、最善を尽くしたいだけなんです」
「言う事はわかりますけど…」
「もう一つあります…はっきり言って、僕はザドー王国を全く信用していません。むしろ危険と考えています」
「そっそんな…それは私の家族…王族をですか!?」
皆はかなり驚いている。ストムさんは、少し怒っている様にも見える。
「正直わかっている事は、教皇が砂障壁を起動させた事だけです。理由は、全くわかってません。そこにメリットが見えませんから…」
「それが何で…」
「でもザドー王国なら?可能性が出てきます。ここはザドー王国の領地なのだから…何か影響があるとしたら、絶対にザドー王国です」
「それはそうですけど…まさか…」
「僕は内通者がいたんだと思ってます…教国と共謀して、何かをした人がいるはずです。それが王族とは言いません…でもある程度の地位が無いと無理でしょう。ただ救いなのは、もう教国が無いことです。とにかく…もしこっちを滅ぼす為に、砂障壁を起動したのなら…生きて出てこられたら、向こうは困るんですよ…」
皆は信じられない、といった顔をしている。確かに憶測でしか無いからね。
「以前、ダウタウーン公国の公主に、話を聞きました。教国は南には侵略しないと…理由は環境や砂障壁です。だから他の大陸を侵略すると…そして実際にその計画はありました。まぁ、結局全て失敗して、死んでしまいたけど…」
「ならザドー王国は関係無いんじゃ…」
「違うんです…実はそれだけじゃ無く、こうも言ってました…「親しい者もいる」と…だから砂漠の王国には攻めないと…」
「そんな馬鹿な…」
「あの教国の為に動くなんて…」
実際、皆は教国をかなり嫌っていた。だからこそ尚更信じられない。教国と協力するとは、思えないのだろう。
「何故十年前、砂障壁を起動させたのでしょう…必ず意味があるはずです。もしかしたら、それがストムさんの命だったり、同行していた騎士や学者に関係してるかもしれません…殺すつもりではなくザドー王国に戻れなくする事が、目的だったのかも…」
「私は王位継承権も、兄がいるので関係無いですし…騎士や学者にそこまでするとは思えない…」
「調査隊とは限りません…この地域かもしれませんよ。当時あった街、場所、あとは人。隠蔽したい何かがあったのかも。ザドー王国にとってか、個人にとってかはわかりません。でも必ず、十年前に何かしらの利益を得た人がいるはずです…結果として教皇にも繋がる何かが…」
「昔あった街とか…調べてみるか…」
「ギルドも怪しいな…」
皆は考え始める。平民も多いし、知らない事も多いけど知恵を貸して欲しい。
「と言っても、あくまで仮説ですからね。最善を尽くしたいだけです。わかって貰えましたよね?独立国にしたい訳が…」
「ええ、良くわかったわ…それでその後は?」
「トンネルが開通したら、向こうと会談をしたいです。そして今した話を、聞かせたいですね」
「大丈夫なの?」
「皆さんは受け入れてくれましたから、おそらく向こうの人も受け入れてくれるかと…あくまで希望ですけどね…でも…」
「でも?」
「多分…物凄く敵対してくる人がいるかと…「そんな訳無い」「馬鹿馬鹿しい」「戦争になるぞ」とか言ってくる奴は要注意です。犯人候補ですよ…」
「誰でも言いそうだけどな…」
「それはそうです。だからこそ、過去を知る皆さんで見極めて下さい。それだけじゃありません…他にも、やけに取り入ってこようとする奴が、いるかもしれませんよ?「すぐに見付けましょう」「あいつが怪しい」「是非協力させて」…なんてね。怪しいでしょ?まぁ、こんな簡単にはいかないでしょうけど…」
「私達が、細かく見ていかないとか…」
「はい、そんな簡単にボロを出すとも思えませんし、こっそり接触してくる可能性もありますから、注意は怠らないようにしましょう」
まだトンネルも開通してないし、少し先の話だから、しっかりと計画は立てたい。
「まだ時間はありますから、良く考えましょう。国の体制も、決めたりする必要がありますしね。それと…トンネルが開通して古代遺産を見付けても、問題が解決するまでは、砂障壁はそのままにしておきましょう」
「どうして?」
「いきなり攻められたら、負けるからです。移動手段がトンネルだけなら、どうにでもなりますけど…砂障壁も無く一度に来られたら、多勢に無勢でしょう」
「そこまで考えなきゃなのね…ザドー王国も信用されなさ過ぎね…」
その後も話は続いた。何かヒントがあるかもと、各地を調べる事も決まった。以前街があった場所や、周辺も色々と調べてくれるそうだ。ストムさんや、元調査隊のメンバーも、記憶を皆で辿るそうだ。死んでしまった者の事も、思い出すらしい。皆でやれる事は出来るだけやり、ベストな状態でトンネルを完成させる。僕達はそう決めた。
※※※
「店長も色々と考えますね!」
「そりゃそうでしょ…折角ここまで頑張ったのに…僕達は加護があるからまだ良いけど、皆は違うしね」
「それにオシャレも、今のままじゃ簡単に広まりませんもんね!」
「本当だよ、貨幣も無いし、ギルドも無いし、雑貨屋も無いし、無い無い尽くしだよ。僕達のお金が減るだけさ」
文化は出来てきてるけど、これからだ。ザドー王国との交流で、今後が決まる。最悪向こうの大陸に行って、ジーク様達にお願いすれば良いさ。反則かもだけどね。