表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界美容室  作者: きゆたく
四年目、異世界砂漠開拓編
108/136

集落のストムとエレーカシ、砂障壁と過去


 水源を確保した夜に、皆で集まって宴会を開かれた。僕達も誘って貰えた。折角呼んで貰ったので、食料とお酒を用意したよ。砂も舞っているので、バーベキューは出来ないけどね。そしてリトールにも代表者みたいな人はいるらしく、その方の家で大人達が集まった。ドライシャンプーを配ったときも、ここだけは目立ってた。話を聞くと、何かあっても良いように、ここだけは大きな家を建てたらしい。避難場所も兼ねているらしい。



「一応、この集落の長をしているエレーカシです。本当に今日は、ありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそ呼んで頂き、ありがとうございましす」


「何を仰いますか!ナナセ隊長含め、皆さんには感謝しかありません!お酒や食べ物まで用意して頂いて…」



 やっぱり一番は、ナナセさんなのね。ナナセさんも満更では無い顔をしているし。皆さんも、久々のお酒と宴会ということで、張り切ってるしね。喜んで貰えるなら、こちらとしては最高だ。



「ところで…何故この集落に?いきなり立派な家まで作って…」


「実は…」



 僕達は今までの経緯を伝えた。向こうの大陸では、皆が当たり前の様に知っているし、今更隠す必要も無いだろうしね。



※※※



「嘘だろ…」


「でも…」


「ちょっとその前に…」


「ああ…」



 皆は当然の様に驚く。飲んでいたお酒も、ここで手が止まる。僕達の事もそうだけど、それ以外に…。



「砂塵の向こうは、無事なんですね!」


「ええ…そうなんだと思いますけど…ねぇアントレン様…」


「ああ、俺の知る限りでは、ザドー王国はある。教国は潰したけどな。今じゃ連合国で、良い国になりつつあるぜ」



 その話を聞いた皆が、喜びの声を上げる。こっちの人達も、向こうが滅んでいたと思ってたみたいだ。



「お父様達も生きている…」


「ストムさん?どうしました?」


「キクチさん、ストムは…ザドー王国の第一王女だったんです…」


「えっ!」


「エレーカシ、もういいのよ…それは関係無い…ここで生きていく事を決めてからは、ただのストムよ…でも生き別れた家族が、生きていると知ったら…」


「ああ…会いたいね…僕にも妻がいた…向こうにね…」



 そんな人もいるのか…。王女まで大変だ…。タイミング悪く、砂障壁が出来たんだろうな…。



「ここら辺は、ザドー王国の一部でした。十年前までは…。その頃はオアシスもまだ多くあり、この辺も街として機能していました。でもオアシスは年々小さくなってましたから、定期的に視察はしていたんです。打開策も考えたり…」


「そうなんですか…」


「そして十年前、私は二十人程の使節団と共に、こちらへ訪れていました…」


「僕も、その使節団の護衛騎士としてね…」


「他の者も、ここに何名かいます…。それで私達は各地を見て回り、これから帰ろうという時に…突然あの砂塵が現れました…」


「本当に何の前触れも無くね…」



 原因はわからないのか…。何かヒントでもあればな…。



「私達は戸惑いました…。でも向こうの状況もわからず、どうして良いか判断が付きませんでした。一緒に来た学者も、全く理解出来ませんでした」


「俺達の情報もそうだ…。自然現象とも人為的な仕業とも…とにかくわからないそうだ…」


「アントレン様…」


「俺は国が違うから、はっきりは知らないが…ザドー王国は砂障壁が出来た後に、何度も突破を試みたはずだ。だが、結局近付く事も出来無かったと聞いた…」


「僕達もです…あれは無理です…それにしても砂障壁ですか…ぴったりの名前ですよ。あれに対して…」


「エレーカシさんも…」


「それで私達は、ここで生活していく事に…ひたすら、その砂障壁ですか…それが治まるのを期待して…でも、一週間が過ぎ、一月が過ぎ、一年が過ぎ…気付けば十年です…いつしか王族という事も忘れ、集落の一人として過ごしてました…」



 それは大変だな…。それだけどうしようも無い事なのか…。



「そして…砂障壁の影響もあるのでしょう…この十年で更に木々は減り、オアシスも減り、人も減り、街も無くなり、この集落が点々とあるくらいです。今すぐではありませんが、滅びの一途を辿っていたんです…」


「だけど今日、あなた達が…」


「そうです…あなた達が希望を見付けてくれました…ありがとうございます…」


「そうですか…僕達に出来る事があれば、何でもしますから、頭を上げて下さいよ。これからも協力していきましょう」



 その言葉に皆も喜んでくれる。こっちの世界にも可能性は充分あるからね。期待に応えていこう。今のままじゃ、オシャレも普及しないから。



「アントレン様!」


「何だ?いきなり、ナナセちゃん?」


「あの砂障壁って、鑑定魔法で見れますか?」


「…なるぼどな!その手があったか!」


「何?鑑定魔法って…」



 ナナセさんが、鑑定魔法の説明をする。皆も詠唱を真似して、試しにやってみる。



「うおっ!何だこれ…」


「凄い!わかるぞ!」


「わっ私も!森羅万象の神よ、この真理を教え賜え!」


「しかも何か、カッコ良くない?」



 皆があっという間に使いこなす。昼間と同じく、詠唱にも感動してる。様子を見てると、こっち側は未だにオシャレ文化は無いんだと思う。普段から砂まみれの生活をしているし、今はシンプルな格好で気付き難いけど、きっとダサいんだろうね。普通に服とかを選ばせたら、目も当てられないはずだ。



「キクチくん、今オシャレの普及を考えてたでしょ…」


「マイさん、バレました?」


「当たり前でしょ…本来の目的でもあるんだから…」



 リリーシュ様は、この砂漠にも色々と文化を作って欲しいはずだ。頑張らなくちゃね。



「よし!明日は砂障壁の近くに行こう!」


「エレーカシ…大丈夫?」


「俺も行くから、安心しろ」


「アントレン様…余計に不安だよ」


「お姉ちゃん…」



 という事で、明日は砂障壁に向かう事に…。何人かの男性と、アントレン様が行く。僕達はお留守番だ。加護も無い状態で、アントレン様は一人で守りきれる自信が無いそうだ。せめて、タハラシ様や影がいれば…と嘆いていたよ。きっとそれだけ危険なのだろう。珍しくナナセさんも、素直に従ったもんね。そして何か解決法が見付かる事を祈って、ちょっとした宴会は終わる。



※※※



「お酒も喜んでくれて、良かったなぁ。ねぇアントレン様」


「ああ、久々だろうからな…この状況じゃ、ろくに酒も作れないだろう…その日の水で精一杯だ…」


「変えたいですね…この状況」


「勿論、変えてやるよ」



 そして大変な一日が終わり、また大変な一日を迎える。僕達はまだ数日だけど、ここの人達はこれを十年間繰り返している。僕達は頑張らなきゃいけない、この世界の為にも…。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ