集落のストムとエレーカシ、砂障壁と過去
水源を確保した夜に、皆で集まって宴会を開かれた。僕達も誘って貰えた。折角呼んで貰ったので、食料とお酒を用意したよ。砂も舞っているので、バーベキューは出来ないけどね。そしてリトールにも代表者みたいな人はいるらしく、その方の家で大人達が集まった。ドライシャンプーを配ったときも、ここだけは目立ってた。話を聞くと、何かあっても良いように、ここだけは大きな家を建てたらしい。避難場所も兼ねているらしい。
「一応、この集落の長をしているエレーカシです。本当に今日は、ありがとうございました」
「いえいえ、こちらこそ呼んで頂き、ありがとうございましす」
「何を仰いますか!ナナセ隊長含め、皆さんには感謝しかありません!お酒や食べ物まで用意して頂いて…」
やっぱり一番は、ナナセさんなのね。ナナセさんも満更では無い顔をしているし。皆さんも、久々のお酒と宴会ということで、張り切ってるしね。喜んで貰えるなら、こちらとしては最高だ。
「ところで…何故この集落に?いきなり立派な家まで作って…」
「実は…」
僕達は今までの経緯を伝えた。向こうの大陸では、皆が当たり前の様に知っているし、今更隠す必要も無いだろうしね。
※※※
「嘘だろ…」
「でも…」
「ちょっとその前に…」
「ああ…」
皆は当然の様に驚く。飲んでいたお酒も、ここで手が止まる。僕達の事もそうだけど、それ以外に…。
「砂塵の向こうは、無事なんですね!」
「ええ…そうなんだと思いますけど…ねぇアントレン様…」
「ああ、俺の知る限りでは、ザドー王国はある。教国は潰したけどな。今じゃ連合国で、良い国になりつつあるぜ」
その話を聞いた皆が、喜びの声を上げる。こっちの人達も、向こうが滅んでいたと思ってたみたいだ。
「お父様達も生きている…」
「ストムさん?どうしました?」
「キクチさん、ストムは…ザドー王国の第一王女だったんです…」
「えっ!」
「エレーカシ、もういいのよ…それは関係無い…ここで生きていく事を決めてからは、ただのストムよ…でも生き別れた家族が、生きていると知ったら…」
「ああ…会いたいね…僕にも妻がいた…向こうにね…」
そんな人もいるのか…。王女まで大変だ…。タイミング悪く、砂障壁が出来たんだろうな…。
「ここら辺は、ザドー王国の一部でした。十年前までは…。その頃はオアシスもまだ多くあり、この辺も街として機能していました。でもオアシスは年々小さくなってましたから、定期的に視察はしていたんです。打開策も考えたり…」
「そうなんですか…」
「そして十年前、私は二十人程の使節団と共に、こちらへ訪れていました…」
「僕も、その使節団の護衛騎士としてね…」
「他の者も、ここに何名かいます…。それで私達は各地を見て回り、これから帰ろうという時に…突然あの砂塵が現れました…」
「本当に何の前触れも無くね…」
原因はわからないのか…。何かヒントでもあればな…。
「私達は戸惑いました…。でも向こうの状況もわからず、どうして良いか判断が付きませんでした。一緒に来た学者も、全く理解出来ませんでした」
「俺達の情報もそうだ…。自然現象とも人為的な仕業とも…とにかくわからないそうだ…」
「アントレン様…」
「俺は国が違うから、はっきりは知らないが…ザドー王国は砂障壁が出来た後に、何度も突破を試みたはずだ。だが、結局近付く事も出来無かったと聞いた…」
「僕達もです…あれは無理です…それにしても砂障壁ですか…ぴったりの名前ですよ。あれに対して…」
「エレーカシさんも…」
「それで私達は、ここで生活していく事に…ひたすら、その砂障壁ですか…それが治まるのを期待して…でも、一週間が過ぎ、一月が過ぎ、一年が過ぎ…気付けば十年です…いつしか王族という事も忘れ、集落の一人として過ごしてました…」
それは大変だな…。それだけどうしようも無い事なのか…。
「そして…砂障壁の影響もあるのでしょう…この十年で更に木々は減り、オアシスも減り、人も減り、街も無くなり、この集落が点々とあるくらいです。今すぐではありませんが、滅びの一途を辿っていたんです…」
「だけど今日、あなた達が…」
「そうです…あなた達が希望を見付けてくれました…ありがとうございます…」
「そうですか…僕達に出来る事があれば、何でもしますから、頭を上げて下さいよ。これからも協力していきましょう」
その言葉に皆も喜んでくれる。こっちの世界にも可能性は充分あるからね。期待に応えていこう。今のままじゃ、オシャレも普及しないから。
「アントレン様!」
「何だ?いきなり、ナナセちゃん?」
「あの砂障壁って、鑑定魔法で見れますか?」
「…なるぼどな!その手があったか!」
「何?鑑定魔法って…」
ナナセさんが、鑑定魔法の説明をする。皆も詠唱を真似して、試しにやってみる。
「うおっ!何だこれ…」
「凄い!わかるぞ!」
「わっ私も!森羅万象の神よ、この真理を教え賜え!」
「しかも何か、カッコ良くない?」
皆があっという間に使いこなす。昼間と同じく、詠唱にも感動してる。様子を見てると、こっち側は未だにオシャレ文化は無いんだと思う。普段から砂まみれの生活をしているし、今はシンプルな格好で気付き難いけど、きっとダサいんだろうね。普通に服とかを選ばせたら、目も当てられないはずだ。
「キクチくん、今オシャレの普及を考えてたでしょ…」
「マイさん、バレました?」
「当たり前でしょ…本来の目的でもあるんだから…」
リリーシュ様は、この砂漠にも色々と文化を作って欲しいはずだ。頑張らなくちゃね。
「よし!明日は砂障壁の近くに行こう!」
「エレーカシ…大丈夫?」
「俺も行くから、安心しろ」
「アントレン様…余計に不安だよ」
「お姉ちゃん…」
という事で、明日は砂障壁に向かう事に…。何人かの男性と、アントレン様が行く。僕達はお留守番だ。加護も無い状態で、アントレン様は一人で守りきれる自信が無いそうだ。せめて、タハラシ様や影がいれば…と嘆いていたよ。きっとそれだけ危険なのだろう。珍しくナナセさんも、素直に従ったもんね。そして何か解決法が見付かる事を祈って、ちょっとした宴会は終わる。
※※※
「お酒も喜んでくれて、良かったなぁ。ねぇアントレン様」
「ああ、久々だろうからな…この状況じゃ、ろくに酒も作れないだろう…その日の水で精一杯だ…」
「変えたいですね…この状況」
「勿論、変えてやるよ」
そして大変な一日が終わり、また大変な一日を迎える。僕達はまだ数日だけど、ここの人達はこれを十年間繰り返している。僕達は頑張らなきゃいけない、この世界の為にも…。