砂漠の集落リトール、水源確保
「はい。アントレン様、これ持って下さい!」
「えっ?俺?」
「ここを優しく持って、魔力を込めて下さい!水源はどこ?ってお願いしながらですよ!」
「わかった…取り合えずやってみるか」
今日は朝から、水源探しだ。ナナセさんは、ダウンジングをアントレン様にさせるみたいだ。一応、僕とマイさんはお店に残る。昨日挨拶と一緒に、ドライシャンプーや食料も配ったし、パラレルの紹介もしたので、誰かお店に来るかもしれないからだ。まぁ、期待はしてないけどね。
※※※
「誰も来ないわね…」
「マイさん…僕もこんなに来ないとは…」
もうお昼も大分過ぎたが、お店には誰も来ない。まさに閑古鳥が鳴いているよ。わかってはいたけど、一人も来ないとは…。オースリー王国では忙しかったから、余計に寂しい。
「ナナセ達は、どうかしらね」
「さぁ…上手くいってると良いけどさ…」
「変な事してないかしらね…」
マイさんと店内の掃除や、新しい計画を考えながら二人の帰りを待っていると、扉の開く音と鈴の音がする。
「キクチさん!マイさん!やったよ!」
「あれ、ストムさん?どうしました?」
「水源を見付けました!」
水源探しの報告と共に、ストムさんが慌てて入って来た。一瞬、お客様かと思ったよ。そこは残念だけど、とても良い報告だ。しかもいつの間に手伝ってくれてたんだよ。
「物凄い量の水が、確保出来そう!」
「そんなにですか?」
「そうだよ!集落中で大騒ぎだよ!」
それで僕達も確認しに行く。どうせ待ってても、誰も来ないしね。
※※※
「こりゃ…凄い…」
「本当に…」
僕とマイさんは、その光景に驚愕した。砂漠に似合わない、水の溢れる光景に…。
「そのまま、オアシスまで水路伸ばして下さいね!」
「了解です!ナナセ隊長!」
「魔法で、しっかり水路固めて下さいよ!」
「ナナセ隊長!こっちは…」
「そっちは、畑の方向に引いてください!それと集落も囲うように、水路を作りますよ!」
「「「「「はい!」」」」」
いつの間にか、皆がここに集まって一緒に作業してたんだな。こりゃお店には誰も来ないよ。ていうか、ナナセさんは隊長になったの?
「あっ、店長!お姉ちゃん!」
「お疲れ様…凄いじゃない」
「どうしたのこれ?」
「ダウンジング大成功です!すぐに反応が出て、反応の強い所を掘ってみました」
「ナナセちゃんには参ったぜ。まさかさ、あんな鉄の棒が自分の意思とは関係無く、クルクルと回るなんてね」
ビックリするぐらいの、反応だったんだな。アントレン様まで呆れてるくらいだ。
「魔法で砂を固めながら掘っていかなきゃだから、凄く時間が掛かってな…結局皆にお願いして、手伝って貰ったよ。俺も一人じゃキツいからな」
「この下に水があるって言ったら、皆が協力してくれました」
「…あれは…ある意味、脅しって言うんだがな…」
ナナセさん…何してるの…?無理矢理は止めてよね…。
「まぁ、本当に水が出るならって感じでさ、半信半疑で手伝ってくれた」
「それで、ストムさんが来てくれたんですね。とにかく、良かった。でも…何で、今まで水が出なかったんですか?こんなに出てるのに…」
「それはな…あれだよ」
アントレン様が顎で先を示す。目を向けると…そこにあるのは、おそらく掘って出てきた鉱石。金が混ざってる様にも見えるけど、きっと違う…。なんだこれ?
「これはな、多分オリハルコンが混ざってる。ディンドンとかがいれば、はっきりわかるだろうが…まさかこんな所で見れるとはな…」
「オリハルコンて…何か伝説の武器とか作る…」
「ああ、そうだ。魔力のこもった伝説の石だ。滅多に見れないな」
「かなり沢山ありそうですけど…」
「そうだな。まぁオリハルコンをどうするかは今後考えるとして、要するにこれがあるから掘れなかったんだ。硬過ぎてな。俺でもかなり苦労する」
「まさか…この砂の下には、オリハルコンの岩盤があって、その下に水脈が流れてるって事ですか?」
「多分そうだな。あれはかなり硬いから、今までは誰も掘れなかったのかもしれない。でも今はナナセちゃんの詠唱魔法で、かなりパワーアップしてるからな。俺なら出来るが、それでも普通の人には厳しいだろう」
アントレン様がいて、本当に良かった訳だ。それにしてもオリハルコンか…。変な利権でも生まれなきゃ良いけど…。
「他の人達にも詠唱を教えましたけど、岩盤は掘れませんでした。アントレン様にしか…。でも効率は良くなったので、砂を固めたり、水路を作って貰ったりしてるんです!」
「ああ、皆が喜んでたよ。かなり生活が改善されそうだってさ。気付いたら隊長だぜ?元団長で、一生懸命働いてる俺はそっちのけでさ」
「ふふっ、アントレン様は下僕の様に見えたのよ、きっと」
「マイ…それはひでえよ…」
「ははっ、良いじゃないですか。取り合えず水源が、確保出来たんですから。これで緑化計画も、成功するかもしれないしね」
僕達は取り合えず、オリハルコンをマジックバッグにしまい、水路作りに励んだ。僕の作った菜園にも伸ばして貰ったよ。本当に集落の人達も喜んでいた。子供達も水浴びをして遊んでたし、大人達もそれに混じって楽しんでいた。久々に見る光景に涙を流す人も…本当に良かった。
※※※
「他にも水源はありそうですけど…どうします?」
ナナセさんが聞いてくる。
「うーん…どうだろうね…リトールでは大丈夫みたいだけど、オリハルコンに気付く人がいたら…変な利権問題が出なきゃ良いけどさ…」
「確かにちょっと大変かもな…かなりの高級品だからな…まぁ今回の場所が、たまたまオリハルコンだっただけで、他もそうとは限らないが…」
「私達はいつか…砂障壁の向こうにも行くつもりでしょ?その時には、悪い人達が来ない様にしなきゃだし…それにこっち側も、まだ近くにいくつか集落がある事ぐらいしか知らないからね…」
「取り合えず、暫く様子を見てから考えてみようか」
僕達は新しい水源に関しては、様子を見る事にした。他の集落に頼まれたら、動くかもだけどね。緑化も上手くいけば広げたいし、少しでもこの地域に貢献しなくちゃね。
「店長!順調じゃないですか?」
「でもまだ、一人もお客様は来てないけどね…」
そう、まだ一人も来ていない…。オシャレの普及には、まだまだ苦労しそうだよ。とにかく地道に活動しますよ。地道にね。