砂漠の集落リトール、緑化計画
僕達はすぐに行動した。材料屋のサトウに連絡をし、急いでドライシャンプーを持ってきて貰った。サトウも驚いていたけどね。まさかまた異世界に戻ってるとは、思わなかったのだろう。因みにドライシャンプーとは、水が必要無くても使えるシャンプーの事だ。直接頭皮や髪に塗布して洗い、そのままタオルで拭き取って終わるという便利アイテムだ。被災地や、お風呂に入れない方、病気や怪我をしている方等に使われる事が多い。普通のシャンプーに比べて、どうしてもスッキリ感と洗浄という意味では負けるが、でもこの環境ならとても良いアイテムのはずだ。
「悪いな。急いで貰って」
「いや、別に良いけどさ。また難儀な状況じゃないか」
「本当にな…まぁまた協力を頼むよ」
「了解だ。いつでも連絡してくれ」
そう言って、サトウは帰っていく。本当にあいつには助けて貰ってるよ。やっぱり友達は大事だよな。
「見てきたぞ。大体はわかったよ」
「色々と話も聞かせてくれたわ」
そこで更に情報収集に出ていた、アントレン様とマイさんが帰ってくる。
「大体この集落で、二百人位の人がいる。子供もそこそこいる。それに近くにも三つ程、集落があるそうだ。でもどこも、同じ様な状況らしい。砂障壁も十年前くらいに出来たらしいから、多分時間軸は同じ世界だな」
「砂障壁が出来てから、砂漠化も進んだらしいわ。以前はもっと緑もあったそうよ。今はまだ大丈夫らしいけど、このままいくと、水や食べ物も不安があるみたい。外にあったオアシスも、年々と小さくなってるそうよ。そしてこの十年で多くの人が亡くなってるそうよ…」
「そうですか…」
「ていうか、私達がここにいる事も信じられ無いそうよ…皆どこから来たか知りたがってたわ…私が知らないと言うと、本当に残念そうで…」
「店長どうします?」
僕達が出来そうなのは…。というより、この砂漠でしなきゃいけない事は何なんだろう…。この砂漠の民を助ける事が、最初だろうか…。
「緑化と水源探しか…それとも…砂障壁の突破を試みるか…」
「どちらも大変そうね…」
「俺は、砂障壁は無理だと思うぞ」
「うーん…」
考えはまとまらない…。地球でも砂漠化を止める事は出来てないし、砂障壁なんて存在すら知らなかった。
「取り合えず、土や肥料を蒔いてみようか…そこに木や植物や種でも植えてみてさ」
「お店からなら、水は確保出来るわね」
「アントレン様に砂を掘って貰って、場所を確保しましょう!」
「俺だけ?」
効果があるかはわからないけど、やるだけやってみよう。そして力仕事は、アントレン様に押し付ける!そしてナナセさんも、意見を出してくる。
「私もダウンジングで、水源探してみます」
「嘘でしょ?ナナセ…」
「お姉ちゃん、知らないの?昔はダウンジングで探してたんだよ?」
「迷信じゃ…」
「とにかくやってみるの!魔法も使えば、上手くいくかもしれないしね!」
「ナナセちゃんが言うなら、可能性はありそうだけどな」
確かに可能性はありそうだ。お店も開店休業状態になりそうだし、やれる事はやってみますか!
「ドライシャンプーも来たしさ、各家に配ってくるよ。使い方も紹介してね。折角だから、スーパーで食料も買ってきてさ、お菓子や果物でも一緒に渡そうと思う」
「それは良いですね!流石、店長!」
「やっぱりキクチくんは、優しいわね」
「買い物だな!よし行こう!すぐ行こう!」
アントレン様は自分の見たい物や、買いたい物の事で既に頭は一杯だな。まぁ良いけどさ。ついでにホームセンターにも行って、開拓用品を揃えてみるか。
※※※
そして大量の食料や道具、土や肥料を買ってきた僕達は、早速仕事に取り掛かる。
「マジックバッグに感謝ね」
「本当にサイトウさんのおかげだよ。もしかしてさ…こんな事になる予想でもしてたんじゃないかな。今後も役に立ちそうな物も、一杯入ってるしさ」
「カズヤさんも、そんな雰囲気だったしね」
「お前らが、巻き込まれ体質だからじゃねぇか?どうせ、また巻き込まれるとでも、思ってたんじゃねぇか?」
確かに…。僕達三人は何故か納得してしまったよ。まぁ、とにかく今は作業だ。
「じゃあこの辺の砂を、掘っていきましょう。アントレン様お願いします!」
「人使いが荒いな!」
「ははっ、僕も手伝いますから。マイさんとナナセさんで、土と肥料をスコップで混ぜてて下さい」
「はーい!」
「OKよ!」
そして僕達は砂を掘って、そこに土と肥料を入れていく。こんな仕事ばかりに、ならないよね?
※※※
「あれ?あんた達…何してるの?」
「ああ、ストムさん、こんにちは。ここに緑を増やそうと思いまして」
「えっ!本当に?それは助かるけど…そんな事出来るの?」
「正直…わかりません。でもやってみるつもりです。道具や多少の種や植物は、用意してありますから」
「そうなんだ…わかった!じゃあ私も手伝うよ!新参者にばかり、苦労させる訳にはいかないからね」
「それは助かります!」
そして僕達は整地し、植物を植える事が出来た。何種類かの野菜の種や苗を植え、花や木も植えてみた。環境に合うかはわからないけどね。砂も舞ってるし、ビニールハウスも必要かもしれない。美容師じゃなくて、農家になりそうだよこれじゃ。毎日、水など撒きながら様子を見ていこう。
※※※
「久々にこんな事したよ。ありがとう楽しかった」
「いえ、こちらも手伝って貰って、助かりました」
「長い事、新しい植物の種や苗なんて…見てなかったからね…」
「そうですか…」
「まぁ、上手くいかなくても良いさ、出来れば成功して欲しいけどね!私達はこの環境の辛さを知っているからね…。今までも色んな失敗もしてきたさ」
「ストムさん!安心して下さい!店長の案はきっと上手くいきますから!」
「ふふっ、そう?じゃあ楽しみにしてる」
そんな会話をして、ストムさんは帰っていった。そして次は、各家にドライシャンプーと食料を配っていく。これはかなり喜ばれた。小さい子も大人も関係無くね。戸惑ってる人も多くいたけど、取りあえずは良しとしよう。どこから来たかわからないし、外への出方も知らないしね。
※※※
「じゃあ明日は、まず水源探しをしましょう!」
「張り切ってるね、ナナセさん」
「ナナセちゃん、自信ありそうだな」
「ナナセらしいわ」
「実はこっそり、これを買ってきました!」
ナナセさんがジャーンと出したのは、ただの鉄の棒だ。しかも二本…。
「まさか…」
「お姉ちゃん、そのまさかです!アントレン様、この鉄をここで曲げて下さい。角度は直角で」
アントレン様は訳もわからず、鉄の棒を力任せに曲げる。それを手にしたナナセさんは、宣言をする。
「はい!これでダウンジングの準備は完了です!」
「嘘でしょ…」
「あれで、準備万端なのか?」
「僕の緑化計画の苦労が、馬鹿みたいだよ」
ナナセさんは得意気に、鉄の棒を持っている。流石にそんなに簡単ではないと思うけど。でもまぁ、ナナセさんだしなぁ…。水源探し…どうなる事やら…。