異世界美容室パラレル、再び開店
「転移はもう出来ないとか、言ってなかった?」
「時空が歪むから、どうたらこうたらとか言ってましたよね!」
「僕に言われても…アントレン様はわかりますか…?」
「場所が離れてれば…可能性はあるな…違う大陸か、違う異世界なら…」
「そんな事ってあるの…?」
でも間違いない…。僕達は、また来てしまったよ。異世界にね。再オープンかな?これは…。
「アントレン様。取り合えず、状況を把握しに行きましょう」
「そうだな」
「ナナセさんとマイさんは、お店で待ってて。一応、危険も確認してくるからさ」
そう言って、僕とアントレン様は探索に出る。お店の中からも確認したが、やはりそんなに大きな集落では無さそうだ。そして砂漠の集落だけあって、砂も舞っている。ここで美容室を開くの?皆ストールとかタオルみたいなの被ってるし…。これは大変なんじゃ…。
※※※
「すいません…ちょっとお聞きしたいんですけど…」
「はい?あれ、あなたは…」
「僕達は最近あそこに、引っ越しして来た者です。僕はキクチです。一応、美容のお店です」
「俺はアントレンだぜ」
僕達は、見付けた女性にいきなり声を掛けた。かなり怪しまれている…。一応、僕は自分のお店を指差し、自分も紹介する。然り気無く、お店の紹介もした。でも完全に不審者を見るような目だ…。当然だけど。
「いつの間に…この砂漠で、あんなに立派な店構えを…ああ、私はここに住んでるストムよ…どうやってここへ…?」
「すいません…実は自分達も良くわからず、ここに来てしまって…ここはどこですか?」
「何?ここがどこか、わかって無いの?」
「はい…」
「…怪しいけど…まぁいいわ。ここは砂漠の集落でリトールと呼ばれているわ…まさか外から?でもそんな訳…まだ私達の知らない集落でもあったのかしら…?でも、まさか…」
リトールか…僕は知らない。アントレン様の方を見ると、アントレン様も知らない様だ。ストムさんはかなり戸惑っているし、僕達をやっぱり不信の目で見ている…。当然だろうけど、どういう事だろう…。
「すいません、無知な者で…砂漠は見ててわかるんですけど…場所はどの辺ですか?大陸とか…」
「そこまで知らないの?本当にどうやってここへ?…ええとあっちの方角…北に見える膜みたいなのわかる?」
「何か薄く色も…砂ですか?」
「まさか…」
「あら、あなたはわかった?」
アントレン様は、何かに気付いた様だ。
「あの向こうが、多分…砂漠の国のザドー王国よ。まぁ今は行けないけどね…国もあるかわからないけど…滅んでなければ…」
「やっぱり…砂障壁か…」
「アントレン様、もしかして…」
「ああ、わかったよ…ここが、どこなのか…」
「それは、良かったわ…。もしまた何か聞きたい事があったら、いつでも声を掛けてね。私はあそこの家に住んでるから…私も話を聞きたいしね…あなた達が何者なのかを…どうやってここに辿り着いたのかを…」
「ありがとうございます。また改めてご挨拶に伺いますね」
そう言って、ストムさんと僕達は別れた。そして急いでお店に戻る。アントレン様の話を聞く為に。
※※※
「ここは、お前達が来た世界と同じ世界だ」
「本当にアントレン様?私は信じるけど」
「僕も信じたいよ。また、皆に会えるかもしれないしね」
「時間が狂ってさえなければな…」
「そんな可能性もあるのね…」
「取り合えず、俺がわかってる事はまだ少ない。で、良い事も、悪い事もある」
アントレン様の話に、浮き足立つ僕達。しかしアントレン様の話で、背筋が伸びる。
「おそらく、ここはリリーシュ連合国と同じ大陸だ。リリーシュ連合国から大分南下した所にある、砂漠の集落の一つだろう。まず連合国の南にはザドー王国がある。砂漠の広がった大地を治めているはずだ。前は教国もあったし、大陸も違うから国としての交流は全く無かったが、時代が同じなら国はあるはずだ」
「そうなんだ」
「そして更にその南には、砂障壁がある。これが実は大問題でな…」
「大問題?」
「あれは確か…十年前ぐらいに突然出来たはずだ。そしてこっちの大陸は二分されたんだ。理由は誰にもわからない…。そして俺の知る限り、砂障壁を越えた者は一人もいないはずだ…正直俺は、砂障壁の向こう側は砂嵐で壊滅してると思っていた…なのにここは…」
「ここはそれの向こう側って事?」
「ああ…」
本来なら、壊滅していると思っていた場所か…。台風の目みたいな事なのかな…。周りは砂漠だらけとはいえ、オアシスや畑の様な者も見えたし、そこまで壊滅している様には見えなかった…。
「一度しか見た事は無いが…外側から見た時はとても近付けなかった。中がこんな状態とは…」
「店長!もしかして、エルフィの世界樹みたいなのが、あるんじゃないですか?」
「多分それは違う…そんなレベルでも無いんだ…とても太刀打ち出来ない…それにそんな物があれば、そもそもこんな状態にならない…」
「なるほどねぇ。キクチくん…要するに、それをどうにかして、更にオシャレを広めろって事じゃない?」
「そうかもね…まぁいつかリリーシュ様の声も聞けるだろうし…取り合えず、お店を開店かな…」
「そうですね!」
僕達はお店をオープンする事にした。もう少し周りを、調べる事も必要だけどね。
「でもオープンするにしても、とてもヘアスタイルを楽しめる環境では無いね…」
「そうね…キクチくんの言う通りよ。この砂の舞う環境は髪も服も、とてもじゃないけど楽しめない…」
「水も貴重だろうしね…それならドライシャンプーでも用意してみるか…」
「店長!それは良い考えです!」
「そうね!良いかもしれない!」
「おっ!らしくなってきたんじゃないか?」
そして僕達は、これからやっていく事を考える。どうなるかは全然わからない。でもこの世界をまた変えてみせる、という気持ちは統一された。まぁやってみるさ!