大忘年会と大新年会、皆の想いと僕の想い
「きのこ持ってきたぞ!」
「僕も海産物を沢山ね!」
「ライオトーラ様、オターク様、ありがとうございます。その辺に置いといて下さい」
「私も沢山持ってきたよ」
「ショークパ様もすいません」
僕は今、バーベキューの準備で大忙しだ。元主婦で料理の得意なポンデリーン様や、各国王妃様も絶賛奮闘中だ。
「普段はこんな事、任せっぱなしだからね」
「シヒリ、妾もじゃ…」
「サハラは美容学校にも行ってるんだから、まだ良いわよ。私なんて本当に何もしないわ」
「アイドーラ、私みたいに元主婦の知識があると便利よ」
「ポンデリーンみたいに、一回死ななきゃね私達は。来世に期待よ」
皆、好き勝手喋りながらも、僕やポンデリーン様の指示通り行ってくれる。
「私はジークもするって聞いてたのに、騙されたわ」
「ディーテ、私も…」
「シャームネーも?やっぱり…後でお仕置きね…」
「妾も…カナヤが手伝うと聞いていた…」
「私も…」
これは後で揉めるな…。男性陣を見てみると…もう飲み始めてるしね。
「沢山、バーベキューセットも用意したから、使ってくれ」
「ディンドンさん、ありがとうございます」
「最後なんだ、気にすんな」
「そうですよ。私達も手伝いますから」
「ギルデさんも…」
良く見れば、ヤシノさんやユニクさんのギルド勢、エルメスさんやリダリーさんの冒険者勢、エルフィの皆まで来ている。こりゃ大変だよ。お酒や肉が足りないかも…。
「キクチさんの為に、謎の緑肉を用意してますから!」
「料理は私も出来ます!」
「私も!」
「マリベルさんに、ポニョンさんに、プルトンさんもお揃いで…嫌な事は勘弁して下さい…」
「あら何でダメなの?聞きたいわ」
「僕も興味があるね」
「ナヤマンさんに、ハマナンさんも…止めて下さい。トラウマなんですよ…」
皆、順番に挨拶をしに来てくれる。本当に感謝だね。
「「「「「一気、一気!」」」」」
向こうでは、銀翼の騎士団も盛り上がっている。国防は大丈夫か?まぁそれだけ平和になってるって事だけどね。
※※※
「今日は僕達の為に、ありがとうございます!とことん飲み明かしましょう!乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
そこからは戦場だった。皆で食事の取り合いだ。身分や種族は関係無い、そこにあるのは食欲だけだ。
「店長!皆、凄いですね!」
「そうだね!でも僕達も負けないよ!」
「そうですね!飲みましょう!」
僕達もあの戦場に入っていく。でも食料が減ってくると、また作らされる。大変だよ。
※※※
「流石に多すぎるよ!お酒が足りない!」
「キクチくん、最後だから関係無いよ!日本に買い出しだ!誰か付いてこい!」
「「「「「ウオォォォー!」」」」」
「マイさん…大丈夫?」
そこからは順番に、日本に買い出しまで出るようになったよ。もう僕達が異世界人という事も皆知ってるしね。決まりなんかあったもんじゃない。でも最後ぐらいは良いよね、リリーシュ様!
「妾も行きたいのじゃ!」
「俺も最後にもう一回!」
「僕も行きたいよ!」
「何だよ、やるのか?」
「やってやるよ!」
「てめぇら勝負だ!取り合えず、腕相撲でな!」
もう訳わからない…。何で腕相撲なんだよ、じゃんけんだろそこは…。ライオトーラ様が有利だから、自分で提案したけど、皆は酔っ払って気付いてないし…。好きにしてくれ…。
※※※
案の定、年越しの瞬間はハマナンさんのオリジナル魔法、魔花火で大盛り上がり。でもその盛り上がりは一瞬だ。すぐまたお酒と食に戻る。そして日本行きを掛けて、また謎の勝負が始まるし。
「良し、次はキクチに謎の緑肉を食わせるぞ!」
「「「「「ワアァァァー!」」」」」
「やっ嫌だー!」
「許さん!最後なんだ!」
最悪だ。無理矢理食べさせられる!逃げろ!
「師匠!ここは通しません!」
「オーパイさん、そこを退くんだ!あっちょっと、皆…無理矢理…あっ…イヤー!」
※※※
ひどい目にあったよ…。まぁ最後と思えば…許せないな…。絶対に許さん!
「キクチ、大変だったな!」
「アントレン様…最悪ですよ…」
「まぁ皆の選別だと思ってくれ」
「はい…わかってますけどね」
「今のうちに言っておくよ…」
「何ですか?」
「…俺もお前らに付いていく事にした…」
「えっ」
嘘だろ!向こうでアントレン様の居場所は…作りにくい…。生活もどうやって…。働き口や戸籍も無いし…。
「キクチ、お願いだ。しばらく、お前の家に置いてくれないか」
「向こうで生活するには…あまりにも厳し過ぎるかと…」
「わかってる…上手くやる、絶対に迷惑は掛けない!」
「皆には…何て言うんですか…」
「ジークには伝えた…騎士団も辞めた…」
「良く納得しましたね…」
「完璧にはしてないさ…」
そりゃそうだろうな…。でも許してくれたんだ…。
「そうですか…マイさんには…」
「マイには、まだ伝えていない。キクチの了解を取ってからだ」
本気なんだ…。この気持ちに応えたいけど…。
「もしかしたら、向こうに戻った段階で加護が無くなります。そうしたら、言葉も文字も通じなくなるかもしれません…それでも良いですか?」
「ああ、最初からそのつもりだ。ヤッカムにもそう言われたよ」
「そうなんですか…」
「弟さんやタハラシ様は…」
「ナシコレンは納得してたよ。兄さんらしいとさ。タハラシは…大喧嘩だ。思いっきり殴られたよ。でも…いつかわかって貰えると思う…」
そこまで言うなら…。僕は構わない。むしろ嬉しく思う。
「わかりました。僕は受け入れます。でも…マイさんに確認を取って下さい」
「ああ、勿論だ。断られても、振られても行くけどな」
「ははっ、アントレン様らしいですね」
ここで一つの決意を、受け入れる。日本に帰ってからも大変だよ。
※※※
「アントレン様は付いてくって?」
「カズヤさん…」
「俺は絶対に付いていくと…そう思ってたよ」
「そうなんですか?」
「だから安心して、ここに残れるしね。彼は絶対にマイを選ぶと思ってた。それに、僕にも報告をくれたよ」
「義理堅いですね」
「うん。彼らしいよ。俺に任せてくれ、だってさ」
そうか、カズヤさんにも報告を…。
「私はまだ許して無いがな」
「タハラシ様…」
「キクチ殿…」
「はい…」
「アイツを頼む…」
「はい」
「アントレンは、バカで、不器用で、マヌケで、雑で…でも私よりも…強く…私よりも…真っ直ぐで…私よりも…カッコ良い奴なんだ…」
「ふふっ、そうかもですね…」
「きっと誰かの支えが必要なはず…それが私にはもう出来ないからな…キクチ殿に任せるよ…」
「はい。任されます」
「私は行けないが、誇りと気持ちは渡したつもりだ。受け取ってくれ」
「はい!」
熱く握手をする。タハラシ様も何だかんだ言って、アントレン様を気にしている。多分この世界で一番だと思う。同僚であり、ライバルであり、一番の親友なんだ。皆、わかってる。
※※※
そして朝まで僕達は飲んだ。眠る人もいたけど、そこからまた飲み始める。間違い無く、もう一日飲み明かす。お前ら、最高かよ!
「店長…もう飲めません…吐きそうです…」
「もう…少しゆっくりしな…二階で寝て良いから」
気が付けば、勝手に僕の家で寝ている人もいる。まぁ良いけどさ。どうせ起きたら、また飲み始めるしね。
「キクチさん、今日は誘ってくれてありがとう」
「あっ、ユウリさん、やっと来たんですね」
「うん。年越しは旦那の実家だしね。今来たけど、凄いねこりゃ」
「本当にね。あっちで、サイトウさんとポンデリーン…いやアスカさんが飲んでますから」
「うん、ありがとう。私は今日でお別れだからさ、とことん飲むよ!写真とかもたんまり撮るから!」
ユウリさんは、サイトウさんとポンデリーン様の決断を、あっさりと認めた。そして今日が今生の別れになる…。でもそれが二人の為だと理解し、いつか自分が死んだら、転生するつもりで生きていくそうだ。その決心は本当に凄いと思ったよ。でも悲しい、寂しいの気持ちは絶対にある。せめて今日が最高の日であって欲しい。
※※※
「もうダメ…」
「まだいける…」
「酒を買いにいくぞ…」
次々と倒れていく。二日間の二徹だ。無理もない…。とにかく最高の二日間で、最高の仲間と一緒に、最高の思い出が出来た。来週には皆と別れるけど、この日を皆が忘れなければ良いな…。
新作を書いて見ました。良かったら見てみて下さい。
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『キルの矛盾と整合は、生と死か』です。