表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
汗と涙とファイアボール ――異世界レスラー格闘記――  作者: 石和¥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/45

vs誇りと現実

「やっちまったな」


 俺の隣で、ベローズが無表情のまま告げる。

 実況解説の拡声魔道具は最大音量になっているようだが、耳を(つんざ)く大歓声に掻き消されて何も聞き取れない。ただ、興奮しているのはわかる。実況も解説も観客もだ。


「そうですね」


 俺は応えたものの、なんともリアクションしにくい。

 やはりエイダには、まだ難しかったか。事前に説明は試みた。頭では理解してくれた。善処すると約束してもくれたが、俺にはわかっていた。

 あの男に、敗者を演じることはできない。

 当然だ。その明白なイメージが、自分のなかにないのだから。わからない役柄など、誰も演じられない。政治的な妥協も、意に沿わぬ服従も。劣った相手への敗北も。エイダにはわからない。

 それは貴族として致命的な欠陥なのだろうが、無垢な超人マスク・ド・バロンを輝かせる芯でもある。だから。


 これでいい。


「それまで! 勝者ッ、マスク・ド・バロォーン‼︎」


 試合終了。もはや完全グロッキーのグンサーンに反撃する力はなく、最後はバロンの()()()脳天砕き(ブレーンバスター)に沈んだ。


 コーナーポストから受け手と共に落下するのを雪崩式、というような説明をエイダにした覚えはある。だが、中央闘技場にはリングもロープもコーナーポストもない。おそらく、この世界の人間は見たこともない。

 それを想像でどう解釈したのか誤解したのか、マスク・ド・バロンが放ったのは魔法で生み出した本物(マジ)雪崩(なだれ)で自らも吹き飛びながら相手を床に叩きつけるという荒技。

 うん。ふつうに頭おかしい。

 対空時間の長さと高さと破壊力に、“いや馬鹿それマジで死んじゃう!”と心のなかで叫んだのだが、まあ結果だけ言えばグンサーンは……試合後も、生きてはいた。


「グンサーンがこうなると、オサーンは最初から潰しにくるぞ」

「でしょうね」


 俺は他人事のように答えたが、実際そうだろうとは思う。

 これはどうしたもんかな。相手は利害を喰い合う敵対団体からの刺客。段取り潰し(シュート)なのは覚悟してる。地下闘技場から送り込まれてきた戦奴は勝ち負け以前に、俺とエイダを再起不能にするのが目的だ。

 身体と、商品価値を。万場の観客の前でブチ壊す。先鋒のグンサーンは、もう無理だろう。となればオサーンはなりふり構わず毀棄(つぶ)しに掛かってくる。


「「「「オオオオオオオオオオオオォッ‼︎」」」」


 無数の賭け札が紙吹雪のように舞い散るなか、マスク・ド・バロンが高々と腕を上げる。マスクで表情は見えないが、魔力も気力も体力も使い果たしているのはわかった。あいつ、俺以上にペース配分を考えないタイプだからな。

 だが最後はちゃんと締めないと、という職人意識が身体を動かしているようだ。


「「「「バロン‼︎ バロン‼︎ バロン‼︎ バロン‼︎」」」」


 いつしかバロンコールはピッタリと息が合って、観客の足踏みとともにスタジアムを揺るがせている。見たところ、バロンの人気は安泰。このまま伸びれば実力も不動のトップ選手になれそうだ。

 それもこれも、中央闘技場が生き残れれば、の話だが。


「そんじゃ、もうすぐ出番なんで」


 俺はベローズに声を掛けて、選手控え室に戻る。


「お前は、どこから入るんだ?」

「どこって、入場ゲート(あそこ)からですよ。何を期待してんですか」


 馬鹿鳥仮面を超えるリングインなんて、要求されても俺にはできん。あんなもん、やる方がどうかしてる。しかも、ぶっつけ本番とかホント、頭おかしい。

 あのナチュラルな才能が、真摯な向上心と迷いなき情熱が。俺にはとてつもなく眩しく、羨ましい。


◇ ◇


「おう、タイト。無事にやっているようだな」

「ありがとうございます。バークスデールさんも」


 選手控え室に入る通路で、擦れ違ったネリスの父バークスデールと軽く挨拶を交わす。

 俺と同じく戦奴となった彼は上級剣術師クラスで順調に勝ち星を重ね、初級拳闘師クラスの人狼兄弟オファットとマイノットも中級に上がったようだ。

 俺も彼らも扱いは犯罪奴隷だが、既定の金額を貯めれば解放される。どうやら奴隷から解放されるのは、興行がらみで借金を積み増した俺が最後になりそうだ。

 そういや、俺とエイダは中級の魔導師クラスから上級に上がったが、クラス分けで審議が行われ、ふたりとも無制限クラスにされてしまっている。

 まあ、主に俺のせいなんだが。


“剣術師ではないが拳闘師とも呼べんし、間違っても魔導師じゃない”というのが大ベテランの永世名誉王者“鉄人”ジェンタイルと興業進行管理人(ブッカー)ベローズの共通見解だそうな。


「お前には感謝している。いずれ礼はさせてもらう」


 お礼参りでもしそうな口ぶりだが、顔は優しげな笑みを浮かべていた。


「だから、無事に生き延びろ」

「はい、必ず」


 俺は気持ちを切り替え、試合に向かう。エイダが果たせなかった、敗戦の段取り(まけブック)を受け入れるために。

【作者からのお願い】

「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、今後の励みになります。

お手数ですが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 雪w崩wれwしwきw シャイニングウィザードなんかも名前教えてやれば、きっと次から派手なエフェクトが付くぞw
[一言] 負け試合を熱くさせる。 ヤバい、どんな風にさせるのかたのしみです。 ただ、X世代には受け入れられないのかもしれません。 それが、残念。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ