30話目『SUDDENLY。』
はいはいはいはい、忙しい季節になりましたねぇ…(笑?)。小説執筆速度がガタ落ちです…。
あ、申し遅れました。小説家、星野夜でーす。
30話目…結構ギリギリでした…。来週に延ばそうとも思いましたが、とりあえず投稿。
(本当のとこを言いますとね…まだ30話目…完成してないんですぅ~wwwww\(^o^)/)
しょーがないから、前後半で切り分けることにしましたよ。ま、長かったから丁度良いかと。
ノトスの出現…予告通りです。が、そこまで深入りする場面とは言えませんね。だったら31話目のほうが深いかも…(何て言ってしまっていいのか、俺?)
ま、今回は兎姫と海美がノトスに追われるお話です。
それでは、どーぞ。
「今日の朝からずっと…私たち、狙われてるんです、『ノトス』たちに…。」
「はぁ?」
火曜日の救世部。遅れてやってきた兎姫と海美はなぜか全身ボロボロの状態だった。直樹は二人に事情を訊く。すると、海美は『ノトス』に狙われていると答えたのだ。
急に『ノトス』という何かに追われていると宣告された直樹は訳が分からず呆れ顔になった。
「どういう事だ、おい?その『ノトス』ってのはぁ―――何だ?」
「あれ?知らなかったのですか?」
「以前にお前にも言ったはずだぞ。」
直樹は数秒間、斜め上を眺め続け、そして放った言葉は―――
「忘れた。」
チーン…。
「んだよ、めんどくせぇ…。いちいち説明させんな。」
と、半ギレで言ったものの、兎姫はその後、直樹のために渋々説明をした。
『ノトス』とは、裏組織『四陣』の中の一つ、科学研究組織だ。組織の頂点にいる兎姫にとっては、『ノトス』は完全に敵だった。そんなノトスが兎姫、海美を狙っているのだ。
「分かったか、ん?忘れんじゃねぇぞ、次は説明しねぇからな。」
「お、お…おう…(今日はヤケに優しいな、こいつ)。」
直樹はしっかりと頭の中でノトスの事を何度も連呼して記憶に留める作業をした。
「それで、何があった訳?」
「あぁ、それ言ってなかったな…。」
30分ぐらい前の事。時刻は4時に回ろうとしている。
救世部の活動開始時間は4時からなので、直樹は部室へ向かっている。一方の兎姫と海美も部室へと歩いていた。
そんな時だった。廊下に一人の生徒が飛び出してきたのだ。兎姫は咄嗟に、背中に背負っていたオールを構えた。
「みぃつけたぁ!」
その生徒はニヤリと笑って兎姫たちを指差した。その笑顔はとてつもなく不気味だった。その生徒は白衣に身を包んでいて、どう見ても科学研究部の部員にしか見えない。身長は男子の割に小さく、そして黒いショートの髪をしていた。
兎姫はそんな男子を見下すように睨みつけた。
「誰だ、テメェ?クソみてぇな笑いしやがって…狂い乱れた自嘲の笑みか?」
「これは生まれつきだ~よ。」
兎姫は今にも殴りかかりそうだったが、その衝動を抑え付け、とりあえず訊いた。
「お前、誰だ?見つけたと言ったが…俺らに用か?」
その時、目の前の男子が問答無用で飛びかかってきた!兎姫は警戒態勢から攻撃態勢になって、オールを飛びかかってきた男子へ突きを仕掛けた。海美はその瞬間に危険のない後ろ側へと飛び退いた。もう手馴れているのだろう。飛びかかってきた男子はその突きを腹部にモロに食らった。オールの先端が腹にめり込む。
その瞬間、兎姫は気を緩めてしまった。それが凶と出てしまう。腹にオールを食らった男子はそのまま倒れるのではなく、そのオールを掴んで引っ張った!予想外の動きに反応できず、オールを掴んだまま、兎姫は引っ張られ、そして男子の左拳ストレートが顔面にクリーンヒットし、逆に兎姫の方が倒れた。というより、吹っ飛んだ。逃げきれていなかった海美を巻き込み、二人して廊下の壁に激突して倒れた。
「いててて…っごめ―――」
兎姫は起き上がって海美に礼を言おうと口を開いたその瞬間、視界に敵の蹴りが入って直後、蹴りの衝撃を受け、背後の壁に後頭部を強打して、兎姫は倒れた。
「兎姫さん!…まさかこんな―――」
起き上がって兎姫を見た海美がそう口を開いた直後、海美は敵の蹴りによって横へと飛ばされた。
廊下には第三者の生徒たちが何事かと集まり始めた。「誰か止めろよ」とか「先生を呼んで来い」などの言葉が飛び交っている。そんな中、白衣の敵は兎姫の前に立った。兎姫は意識を失い、倒れている。
「あれれれれぇ?『不良潰しの何とやら』がこんなーもんかよ?」
海美は壁を使って立ち上がった。辛うじて骨折している右手は守れたようだ。
「あなた…一体何でこんな事を?!」
海美の叫びに白衣の男子は悪魔のような笑みで振り向いた。海美は顔を青ざめる。
「何でだ~ろね~?」
白衣の男子は海美へと飛びかかろうと足を動かした。海美は驚いて右腕を庇って身をかがめる。
「待てよ、カス。」
と、兎姫の声が聞こえ、白衣の男子は足を止めて振り返る。その瞬間、兎姫のオールが男の顔面をなぎ払い、男は勢いよく地面に倒れた。兎姫は単に気絶の振りをしていただけだった。
「逃げろ、海美ぃ!」
兎姫は海美にそう叫んで、一緒に走り出した。廊下に集まっていた生徒たちをかき分け、兎姫と海美は一階の玄関から外へ。一方の白衣を着た男子は笑顔で立ち上がり、顔を手で押さえた。
「おぉ~おぅ…痛い痛い…。」
白衣の男子はすぐさま追おうとするが、他の男子生徒がその動きを妨害した。喧嘩の強そうな数人組グループが白衣の男子を取り囲んだ。
「やぁやぁ、白衣君。うちの兎姫ちゃんをまぁよくもあそこまで痛めつけてくれたもんだ。」
「そんなお前には処罰が必要なようだ。」
「後悔しろ、マッドサイエンティスト。二度と研究できねぇ体にしてやるからよぉ。」
と、色々な言葉が飛び交った。彼ら不良は以前に兎姫に救われた者たちだった。実は、密かに兎姫のファンというものが校内でできているのだ。兎姫はそんな人間たちに救われたようだ。
そして、数人組の不良VS白衣の男子の勝負が始まった。
兎姫と海美は一先ず見晴らしの良いグラウンド中央まで上履きのままやって来た。ここならどの方角からあの男が来てもすぐに反応できる。空は灰黒い雲が張り詰めているため、太陽の光をシャットアウトし、地上は暗くなっていた。春なのに少し肌寒い空気が地上に立ち込めている。湿度が高いので雨が降りそうだ。
兎姫と海美の二人は荒くなっている呼吸を整える。咄嗟に逃げ走ったため、兎姫は愛用のオールを校内に置いてきてしまった。
「…ったく、あのヤロー…覚えておけよ…。」
兎姫は校舎を睨んで、怨念の籠った低い声でそう呟いた。
「そ、そーですね…。危うく、二度も骨折するとこでした。あの時に兎姫さんが守ってくれなければ…また病院送りにされてました。ありがとうございます、兎姫さん。」
海美は不安げに、でも笑顔でそう礼を言った。兎姫はそんな海美を見て悲しげな目を向けた。
「…急に畏まってどーしたよ?俺がお前を守るのは、今に始まったことじゃねぇだろ。」
「そうですけど…何か懐かしくなっちゃってさ…。」
「はぁ、何言ってんだよ?」
海美はどこか懐かしげな表情で兎姫を見つめていた。兎姫はそんな海美を怪訝そうに、でも慈しみの目で海美を見ていた。すると、海美は急に満面の笑みで大笑いし始めた。兎姫はそんな海美を見て、頭がおかしくなったかと思っていたが、そのうち、つられ笑いし始め、お互い笑いあった。
「…何してんでしょうか、私たち?」
「さぁな。面白けりゃ…どーだって良いだろ、今は。だが…そうも上手く回らないのが人生だってな、あそこを見ろ。」
兎姫は校舎の入口を指差す。そこには白衣の姿をした男子生徒が一人、グラウンドにいる兎姫と海美の二人を確認して、こちらへと走ってくる姿が見えていた。
「…ですね、兎姫さん。…何か殺されそうです…。」
「それならば言っておこうか…じゃあね、海美。」
「えっ!言っておくって…お別れの言葉ですか?!早くないですか?!」
海美は急な別れの言葉に驚いて声を荒げた。こうしている間にも、白衣の男子生徒はこちらへと近づいている。
「じゃあ、仮にお前の言うことが本当になったらどーすんだ?俺らの最後の言葉が適当なもんでいいのかよ?」
「良いですよー。」
「良いのかよっ!」
「冗談です、冗談。もちろん、嫌に決まってます。だから私からも、さようなら。」
「あぁ、元気でな。」
「はい!」
海美は元気良く返事をして、すぐさま白衣の男子生徒が走ってくる方向とは逆方向、校門へと走り出していった。兎姫はそんな海美を見送らず、背を向けたまま、遠くから走ってくる白衣の生徒を睨みつけていた。
一方の二階廊下では、数人の不良グループが呻き声を上げて倒れていた。廊下にはたくさんの野次馬生徒たちが集まって騒めいていた。そこに教頭がやって来て、生徒に事情を聞いた。
「何?白衣を着た生徒が暴走しているだと?!」
教頭は当然、驚きを隠せなかった。
「これは指導対象…退学は間逃れないぞ!」
教頭はすぐさま生徒の情報を頼りにグラウンドへと駆けていった。
野次馬生徒たちはすぐさま教室の窓から顔を出してグラウンドを確認した。一人の白衣の男子がグラウンド中央にいる金髪の女子へと走っていく姿が目の当たりになっていた。学校中のほとんどの生徒がそれを見ているため、外から見たら校舎からたくさんの顔が見える状態になっていた。
「これは何事でしょうか?」
一人の白衣を着た人間がやって来て教室内の野次馬たちに問い質した。その生徒は灰色の細いフレーム眼鏡をかけていて高背で体型のスリムな男子生徒だった。いかにもエリートという雰囲気を醸し出していたその人物は科学研究部員の令輝だった。令輝は3年2組所属の委員長でもあった。
野次馬たちは外で走っている白衣の男子と似た姿をした令輝を見て、すぐさま警戒態勢になった。令輝はそんな彼らを見て首を傾げた。
「その化物を見るような瞳は何ですか?私が化物にでも見えているのかい?」
「お前の後輩が暴走してんだよ!責任取りやがれ、研究部!」
一人の2年生が3年生の令輝に強い口調で怒鳴り立てた。令輝は野次馬たちが先ほどから外を眺めているのを見て、自分もその光景を見ようと窓へ近づいていった。野次馬たちは3年の令輝に恐れて皆、令輝から離れていった。そのため、窓の周りには生徒がいなくなった。令輝はその窓からグラウンドを眺める。一人の白衣の生徒がグラウンド中央に立っている女子生徒めがけて走っている姿が目に入った。
「…ひょっとするとあれは…1年1組の…。」
令輝はその人物を知っていた。同じ科学研究部員であったから。
「そうですね~、責任は私自身ですか…。仕方ありません、行きますか…。」
令輝は渋々、その教室を出て行って、マイペースにゆっくりと校庭へと足を進めるのであった。
海美はとっくに学校外へと飛び出して誰も歩いていない小さな路地に来ていた。民家が点々としていて、緑の多い場所だった。
「…何か勢いで出ちゃったけど…兎姫さん、大丈夫かな…?」
海美は独り、心配そうに呟いた。
「な~に湿気たツラしてんだよ、海美?」
背後から男の声がして、海美はビクッと一瞬体を震わせた。そして飛ぶように振り返ると、そこには一人の生徒が立っていた。右肩にバッグを背負って帰っている最中のようだ。
「あ、龍谷さん!どうしたんですか、こんなところで?」
「ってか、俺の帰路だし。その言葉はそっくりそのままお返しすんぜ。お前こそ、一人で何してんだ?お前が一人なんて珍しいな。兎姫はどーした?それに、お前…上履きのまんまだしよ…。」
龍谷は海美の格好を不審げに思った。その質問に海美は答えようと口を開くが、その時、
「逃げてきたんだよ…。」
と、小さな声がその質問に答えた。それは龍谷の後ろ、足あたりから聞こえた。そこには龍谷に隠れて小さな男の子が立っていた。白濁色の髪の毛をしていて、蒼く澄んだ瞳が海美を睨むように見つめていた。その瞳はどこか死んだ魚のようだった。黒いパジャマらしき服を着ていた。
「おぉ、そーか。」
龍谷は根拠のないその男の子の言葉をすんなり信じた。
「あの…その、何で知っているの?」
海美は疑問でならなかった。
白濁色の男の子は答える。
「息荒い…。上履きのまま…。土埃…。」
と、荒削りな答えが出てきた。海美はそれだけで確かに理解できた。特に土埃に関して。この路地はコンクリートで覆われているため、土なんて存在しない。よって、服に付着している土埃は学校で付いたものだと推測できる。
「…相変わらず、無愛想なのね、メラちゃん。」
海美は中腰で龍谷の後ろにいる男の子に笑顔でそう言った。メラと呼ばれた男の子は赤面して龍谷の足に隠れた。
「ははは!全く、海美の言う通りだ。メラ、お前そんなんで立派な男になれんのか?」
「メラちゃんはメラちゃんのまんまで良いの♪」
海美はメラの事が大好きだった。もちろん、異性としてではなく、母性が働いての事だ。しかし、メラは一向に海美と目を合わせてくれない。メラは無愛想な上に人見知りだった。そんなとこも可愛いと海美は言うが、内心ちょっと悲しげだった。一度で良いから話し合いたいと海美は思っていた。多分、メラは龍谷以外の人間とはほとんど口を聞かないだろう。メラは龍谷には良く口を開くが、その他の人間は皆、海美と同じような有様。仕方のない事だった。
「んで、メラの言う通り、逃げてきたのなら…一体、何があったんだ?兎姫に何かあったか?」
龍谷は心配げに海美にそう訊いた。海美は兎姫を思い出して再びブルーな気持ちになってしまった。メラはそんな海美を黙って睨んでいた。
「…実は兎姫さんが―――」
「随分としつけぇじゃねぇか、テメェ!」
兎姫は走ってきた白衣の男子に向けて大胆に飛び蹴りをする。当然、その蹴りは簡単に避けられた。そして直後、兎姫は男のラリアットによって地面に叩きつけられた。砂埃を上げて背中から地面に不時着した兎姫は受け身を取ったものの、呼吸ができなくなった。白衣の男はそんな兎姫に容赦なく、倒れる兎姫の腹を蹴り飛ばした。兎姫は転がって仰向けに倒れる。
「ゴホッ…き、効くかよ…んなもん。」
兎姫は目の前に立っている白衣の男を見上げてニヤリと笑った。男はそんな兎姫を同じように笑顔で見返す。
「やせ我慢はいけな~いよ、兎姫ぃ…。」
男は兎姫の襟元を掴んで無理やり持ち上げ、左手の拳で殴りかかろうと構えた。その時、兎姫は男を見て悪魔の笑いを浮かべた。
「じゃあ、テメェはどれだけ我慢できんだぁ…よっ!」
兎姫が直後、男の股間部目掛けて膝蹴りを繰り出した!兎姫の膝蹴りは男の股間部に容赦なく決まり、グニャリと気持ち悪い感覚が伝わった。さすがにこれには男もたまらず呻き声を上げて崩れ落ちた。兎姫は掴まれていた襟元が離れ、背中を打って着地する。
「ざまぁ~っw!ふはははははははは!」
兎姫は大爆笑しながら立ち上がり、大急ぎで校舎へと逃げ走った。白衣の男はしばらく悶えて立てそうになかった。その隙の間で、兎姫は自分の教室まで走ってやってきた。教室にはたくさんの野次馬たちが兎姫の帰りを歓迎した。ボロボロの兎姫は教室に来てそうそう、なぜか拍手喝采に包まれた。兎姫は訳が分からず不抜けた顔をしていた。
「さっすがは『不良潰しの獄兎』だ!あのヤローに一発かましてやったな!」
あ、そーいやぁ…こいつら、教室から傍観してやがったな…。
兎姫は両手を高く上げ、二度三度手を叩いて騒がしい教室を粛正させた。そして皆に対してこう言った。
「はーい…みんなに今から問題を出しまーす。今からあなたたちはどうなるのでしょーか?1番、何もない。2番、私からの慈愛の拷問。3番、抹殺。はい、選んで~。」
「1番!!!」
即答だった。皆が一斉に何のズレもなく、そう叫んだ。兎姫はそんなクラスメイトを見て小さく溜息を吐いた。
「あ、そー。ところで…誰か俺のオール知らねぇか?廊下に置いてきたんだが…。」
「それなら確か…教頭が職員室に持ってったよー。」
一人の男子生徒がそう答えてくれた。兎姫はそれを聞き、再び小さく溜息を吐いた。面倒そうに兎姫は教室を出て行き、職員室へと向かうことにした。
「―――という訳なんですが…。」
海美は龍谷に事情を説明した。その間、龍谷は真面目に、龍谷の足に隠れているメラは至って変わらず海美を睨み続けていた。
「そりゃあー…大変そーだな…。俺が一発ぶっ飛ばしても良いが?」
「龍谷…危ない…。」
メラが龍谷のズボンを引っ張って呟いた。
「どーせ雑魚だ、問題ねぇって♪」
「ううん…負ける…。」
メラはボソボソとそう呟いた。メラの言葉にしては何も根拠が無くて不思議だった。龍谷はそんなメラに笑顔を向けた。
「心配か?」
「ううん…別に。」
冷たく返されてしまった。龍谷はそんな無愛想なメラを見て笑った。メラはそんな龍谷を無表情で見つめている。
「お前らしい答えだな。…海美、お前次第だ、どーする?」
高笑いの一転、急に真剣な顔つきで聞いてきた龍谷に、海美は真剣に黙考した。そして答えを出す。
「私は…一人で、行きます…一人で。迷惑かけてられないから。龍谷にも…メラちゃんにもね♪」
海美はメラを見つめて笑顔でそう言った。メラは海美に見つめられて、目線を下に下げた。
その時、誰かの声が響いた。
「なぁ~にぃしてるのぉ~、みんなぁ?!」
と、女子の声が聞こえ、三人は同時に声の聞こえた方を見る。その瞬間、その主らしき人物が飛び込んできて、派手に地面に転がった。まるでロードローラーが地面を均すかのように鮮やかに直線を描いてその女子は5メートルぐらい転がっていった。三人は珍獣を見る目でそれを見送り、
「あ、私もう行きますね。」
「おう、気張ってけよ。」
「・・・・・・。」
と、飛び込んできた女子生徒には触れず、別れを告げた。
「ちょちょちょちょ、ちょっと待ってぇ~!」
女子生徒は大慌てで飛び起きる。三人はとりあえず、振り返って反応だけはした。その女子はセーラー服の上からパーカーを着ていてフードで顔が隠れている。地面を転がりまくって衣服ボロボロの女子生徒は元気良く叫んだ。
「みんなぁ~、何してるの~?!」
空気読めと言わんばかりの空気が立ち込める帰路。海美と龍谷はその女子生徒を疲れ顔で眺める。一方のメラは相変わらずの睨み目。先ほどまでの空気を裂く様に入ってきた謎の女子生徒の勢いは新幹線レベルの超特急だった。…つまり、何が言いたいかというと、この女子生徒の勢いが松岡○造に負けるに劣らないぐらいの破壊力を持つために、暑苦しくて近づきたくもないと思っているのだ、三人は。だから、彼女の「何してるの?」に対しての応答を誰がしようか、今、テレパシー(閑談)で話し合っているのだ。
(…海美、何か反応してやれよ、可愛そうだろ?)
(そういう龍谷こそ…何で無視を決め込んでるんですか?)
(だってああいう…猪突猛進な奴ってのは扱いが面倒臭いんだよ…。)
(そういってる龍谷こそ、人のこと言えないですよね。出会った初期に部室の扉を蹴り開けるほどの猪ぶりでしたしね♪)
(うっせぇ!しゃーねぇーだろ?!だってどう見たってお前らが刹那の誘拐犯にしか―――)
龍谷はそこで言葉を詰まらせた。
(…刹那さん…のことですか…。やっぱり、忘れようとしても…忘れられないですよね…。まさか…身近で友達が…殺されるなんて。)
海美と龍谷は刹那のことを思い出してお互い悲しみに打ち拉がれた。(今、目の前にいる猪突猛進な女子生徒に触れたくないのだが)女子生徒の話題はとっくにどこか遥か彼方へと流れていた。先ほどのボケの展開から一転、急にシリアスな空気が流れ始めたが、その話を聞いていない目の前のパーカーを着ている女子生徒だけが一人、別の空気に取り残されていた。
「あ、あの~?…おふたりさん、聞いてます?」
「あ…わりぃ、完全に眼中になかった…。で、何だっけ?」
龍谷は無理してボケを続ける。もうこれ以上、傷ついている龍谷を酷使させないであげてほしい。だが、それは無理な話だ。なぜならば、そうでもしないと話が続かないのだから(笑)。頑張って欲しいものだ、龍谷よ。
目の前で勝手に放置されていた女子生徒は言います。
「だからさ…あぁ~もう…何でもない!」
勝手に逆ギレ。三人はそんな女子生徒に冷たい視線を送る。
「せっかくお困りの海美ちゃんのために学校飛び出してやって来たのにさ…この有様だもん。私が来る必要もなかったみたい。」
この言葉に海美は食いついた。
「あ、あの!それってもしかして…あの白衣の生徒のことじゃ―――」
「そーだけど?でも、必要性ゼロって感じじゃん。私がいなくても海美はやってけるみたいだし。じゃあね、みんな。」
セーラー服の上からパーカーを着て、フードで顔の隠れている女子生徒はそう言い残してどこかへと歩き始めた。
(おいおい…あいつ、一体誰だったんだ?)
(…えっと、何か名前知られてたんだけど…見た感じは全くの赤の他人って感じだったし…。)
(じゃあ何か、あのヤローは今回の騒動一つ如きで駆けつけてきたって訳か?)
(…さぁ?どーでしょうか?)
海美と龍谷は再び、テレパシーと言う名の閑談をした。
海美は先ほどからウズウズしてて堪らなかった。気になってしまうのだ、あの生徒が。なんせ、名前も知られていて、あの騒動も見ていて、それで駆けつけてきたお人好しだ。顔も隠れて名前も分からない。こんな謎めいた人物に、海美は興味が湧かない訳がありません。海美は帰っていくその生徒に一声、
「あの!あなたは一体誰ですか?!」
と、叫んでみた。
すると、それを少し離れた距離で訊いた女子生徒は呆れたという表情で振り返った。
「えっ?!何だって?」
聞き間違いだと、女子生徒は思っている。海美は再び、同じ言葉を叫ぶ。やはり、聞き間違いではない。そう分かった女子生徒は走って海美の頭にチョップを繰り出した!
「いてっ!」
「何で分かんないのよ?!もぉ~、顔隠れただけじゃん!」
そう言ってその女子生徒は着ているパーカーのフードを脱いだ。すると、そこには海美の見覚えのある人物の顔があった。元気そうな明るい笑顔が特徴の生徒。それは文芸・芸術部の副部長、真昼だった。
「あ、真昼!」
「やっとかいっ!…顔一つでこんなんだとは…はぁ~あ。」
露骨に落ち込む真昼。海美はそんな真昼に一言、優しく言った。
「大丈夫…悪くはないよ、顔。」
ちょっと皮肉が入った言葉だったが、純粋な海美ちゃんは全くそれに気づいていない。その言葉が良いと自己判断してそのまま言ってしまったのだ。笑顔で優しく言ったゆえに、余計陰湿に見えてしまう。この言葉をもらった真昼は俄然やる気が失せたことだろう。真昼は、漫画の落ち込みを表現する時に用いる効果線が額辺りから下に落ちるように掛かっている、それが見えるのではないかというぐらいに落ち込み、地面の側溝に座って流れる雨水を見つめてブツブツと何かを唱えていた。
(あ…何か悪いこと言っちゃったかな?)
海美は暗い表情で俯いて座る真昼の横に座って言った。
「あの…ごめんね、何か。」
「ううん…別に良いんだけど…私なんて所詮それぐらいだし…。」
真昼は一向に回復する兆しがなかった。海美は小さく溜息を吐き、直後、信じられない行動に出た。海美は立ち上がると、真昼の尻を蹴り飛ばしたのだ!真昼は勢いでそのまま側溝の奥、草むらに顔からダイブした。さすがに龍谷もこれには驚いて目が点になっていた。睨み目だったメラも一瞬だけ表情が崩れた。海美は顔面ダイブで倒れている真昼を上から見下す態勢で、
「(えっとこの場合は…)いつまでもグズグズしてんじゃねぇよ、この小心者!」
と、らしくない罵倒を浴びせた。無理して言ってる演技感が半端ない。海美は恐らく兎姫の真似をしているのだろう。だが、海美はなぜ兎姫の真似事なんかをしたのだろうか。
草むらに顔を突っ込んでいた真昼は一瞬だけ何が起こったか理解できてなかったが、すぐに状況を飲み込んで顔を上げた。そこには悪い顔をして見下している別人のような海美の姿が。
「…海美ちゃん…?」
「あぁ?とっとと起きろ、めんどくせぇ!」
海美は地面に座り込んでいたポカンとしている真昼の服を引っ張って無理やり引き上げた。真昼は恐怖に歪んだ顔、ではなく、訳が分からず動揺している顔だった。海美はそんな真昼にらしくない言葉でこう言った。
「お前が居たって何も変わらねぇんだよ、分かるか?弱い自分を嘆けば全て許されるとでも思ってんのか?そんなんだからいつまで経っても成長しねぇんだよ。弱い自分を受け入れて突き進め、ウジ女!」
一息で意味不明な文を叫び、そして海美は真昼を突き飛ばすように離した。真昼は海美に責め立てられたからか、ついに我慢できずに泣き始めてしまった。声は出さなかったが、涙だけが頬を伝って流れているのが見えた。
「わーわー!泣かないでよ!…ゴホンッ…えっと…私、じゃなかった…俺は別にお前の行為が気に食わない訳じゃないんだ…。ただ、この件は結構危ないし…真昼には安静にいてほしいだけだ。それだけなんだ…それだけだ。ごめんな…なんか遠回しに言っちまって…。だから…じゃなくて…えっと―――あぁあっ、もう!何でこう言葉が出てこないんだよ!…ただ一つだけ言っておくことがあったな。…ま、真昼…ありがとな。」
海美はよそを見ながら、ちょっとだけ頬を赤くして恥ずかしそうにそう呟いた。この言葉を聞いた真昼は泣き止むどころか、もっと大声で泣き始め、そして海美に抱きついた。海美は少し驚いたが、そのまま小さく泣きじゃくる子供のような真昼を抱いて頭を摩りながら、
「…うんうん、泣いてて良いんだよ、今はさ。」
そう囁いた。
それを無情で傍観していた龍谷は、
(ナンダコレ?この茶番は何だ?)
と、呆れていた。
(…ほっといたら?)
メラが龍谷にテレパシーという名の閑談をした。
メラは龍谷の右手を掴んで一人で歩き始めた。龍谷はメラに連れられどこかへ。その間、海美と真昼はずっと同じ態勢だった。
「…女子って…分からねぇな。」
「龍谷は…知る必要ないよ。」
メラは龍谷の言葉を冷静に一言で返した。龍谷はそれにまたしても笑い、
「ま、そーだな。」
と、清々しい顔でそう返すのであった。
ところで、この茶番劇は一体何だったのか?それは作者の私の感情が不確定だったのでしょうね。この文を書いていて途中から自分でも良く分からなくなりました(笑)。少しおしゃべりが過ぎましたか…。この辺で終わるとしましょう。
あ、そうでしたそうでした。まだ忘れていることがありましたね。
兎姫は教頭の弱みに漬け込んで没収したオールを奪還したそうです。その後、パーカー姿の真昼と笑顔で帰ってきた海美が兎姫と合流。真昼は部活がないからそこで二人と別れて帰っていった。オールを取り返した兎姫、なぜか笑顔だった海美はそこで一息吐きました。そして二人は疲れ顔で部室へと向かうのでした。
一方の白衣の男は…兎姫の股間部膝蹴りという違反技をモロに受け、しばらくグラウンドで悶絶していたが、すぐに立ち直った。そして兎姫を追っていったが、そこで同じく白衣姿の令輝と鉢合い、令輝がその白衣の男を一撃で征した。
「やれやれ…これだからあなたという人は…。」
と、至って冷静にそう呟くのでした。
「―――で、今に至る訳な。そりゃ~、お互い大変だったろうに。」
直樹は、最初は心配していたが、最後になるともうどうでも良くなったのか、適当に受け流した。
ここは救世部の部室内。白衣の男の追跡を逃れた兎姫が、気だるそうにソファーに寝転がり、真昼を罵声からの慰めを上手く使った『アメとムチ使い』で丸く収めた海美は、兎姫の近くの椅子に座っていた。直樹は出入り口の左にある机に突っ伏す。いつも通りの救世部がそこにはあった。もう忘れているだろうけど、未だに窓ガラスは割られたまま。ダンボールがガラスの代わりに貼られて、外からの風と光をシャットアウトしていた。そのため、救世部の気密度は高く、生暖かい空気が籠って気持ち悪かった。何より、光が入らないため、人工光だけが救世部の頼りだった。冷たい蛍光灯の光が生暖かい空気と混ざってそれはもう混沌ですよね。居心地の悪い事請け合いです。兎姫愛用のオールはソファーから手が届く範囲の壁に立てかけていた。最近はオールも消耗が激しいようで、傷が増えている。※『オールはそもそも武器ではありません。しっかりとした使い方があります。』
「ところで…何でノトスだって分かったんだ?話を聞いただけじゃ分からなかったが…。」
直樹はふと思い出して訊いた。確かにそれはそうだった。
「あ、それなら証拠に…あの白衣の男の人は科学研究部所属でした。=ノトスと関わりがある訳です…。」
「あ、そっかー。確かに、PCのメールにも書いてあったな…ノトスが何やらって。」
そんな時だった。閉め切った救世部の扉を何者かが開いた。籠った空気が一気に外へと放出され、生暖かい空気が廊下へと流れ出した。そこに立っていたのは一人の女子生徒でした。校則違反なのではないかというぐらいの薄茶色をした長い髪を持ち、瞳の色は黒ではなくて水色。日本人の瞳の色とは違うことから外人及びハーフだと見れる。身長はちょうど兎姫と同じくらいで170弱くらい。表情はすごく和らいでいて笑顔だ。
「あの、良いですか?」
と、まるで虚空というものを音として発声したような澄み切った美しい声が救世部の室内に響き渡った。その瞬間、割れた窓ガラスに貼られていたダンボールが剥がれ落ち、気圧が変化したために風が吹き抜けた。入口から窓へとタイミング良く吹き抜けた風が、神風のように見え、それが彼女に神々しさを吹き込んだ。救世部の三人組はその生徒に見とれ、しばらく誰も口を動かすことなく、その生徒を熟視していた。
「あ、あの…大丈夫ですか?」
その生徒がそう答えると、兎姫は我に返った。
「…あ、わりぃわりぃ…。つい見とれちまったぜ…同性なのに…。あ、そうだ…そこに座ってください。」
兎姫はあまりに神々しかったためか、不思議と勝手に口調が敬語になっていた。
その神々しい?女子生徒は兎姫が指定した目の前の椅子に座った。座る時に長い髪がふんわりと揺れ動き、幻想を見ているような感覚を思わせる。兎姫はまたしても彼女に魅了されてしまった。
「…あの…どこを見てるんですか?」
「はっ!…あぁ、ああ…あ…そ、それで依頼だったか…。何の依頼なんだ?」
兎姫はまたしても自我を取り戻して動揺気味に訊いた。女子生徒は答えます。
「…父の様子が最近おかしいのです。何をしてるのか分からないけど…滅多に家には帰ってこないし、それに帰ってきても私に何か目も向けてくれないんです。」
「んだとぉ!こんなにも美しいってのにか?!」
直樹がそう叫んだ直後、オールが顔面にぶつかって直樹は倒れた。
「あはははは、あいつは気にすんな。」
「で、では…。それで、私はつい出来心で父の部屋に入ってしまったのです。父はいつも私に言ってました。『勝手に部屋には入るな。』と。でも、その約束を破ってしまいました。まだ父には見つかってないのですが…どうすれば良いのでしょう?」
その女子生徒は困った顔で俯きながら話していた。完全に魅了されている三人は、その彼女の悲しげな顔を見て、胸が苦しくなった。締め付けられるのを越して絞られているかのような苦しさが体を蝕んだ。それぐらい三人はのめり込んでしまっていた。彼女の悲しげな顔はごく普通なのだが、今の三人にとっては、その表情は世界の終焉を目の当たりにした宗教者のような悲しげな顔に見えていた。
兎姫は彼女の依頼を聞いて俄然やる気の炎に火が点いた。というより爆発したのだ。
「んしゃぁ!そんなもんは俺が蹴りつけてや―――」
「危ない!」
彼女がそう叫んだ。彼女は兎姫の背後から何者かが襲いかかる影を見ていた。兎姫が振り返るが、そこには既に謎の男が!
「むぎゃっ!」
兎姫は男に押しつぶされて、悲鳴を上げた。男は兎姫の上で急に忠誠の構えで座り込んで目の前の依頼者の彼女へと手を差し出した。
「おぉ!女神よ!どうか、この私を下僕として扱ってくれませんか?!」
「え?」
困惑する彼女。男は続けます。
「私は今からあなた様の下僕になります。いいや、ボディーガードにでもなります!あなたにこの命を捧げます!永遠にあなたの元で働かせてください、ゴッド・ヴィーナス!」
男はそう言い切った。彼女はちょっと引き気味に青い顔をして恐ろしがっていた。
実は先ほど、この男は兎姫を襲おうと背後から忍び寄っていたが、襲いかかる瞬間、とある人物の澄み渡る声を聞いて心が入れ替わったらしい。見ての通り、出し抜けに神々しい声を聞いて男は完全にに魅了されてしまった。
兎姫は起き上がって男を跳ね除けた。男はそのまま兎姫の座っていたソファーに背中から落ちて着地する。
「こいつ!またしても敵か!彼女には一ミリたりとも触れさせねぇぞ!」
直樹は兎姫へとオールを投げ、兎姫はそれを空中で掴むとすぐさま、ソファーに倒れる男の顔に向けて構えた。
「まぁ、待てって、兎姫。」
「はぁ?」
「―――そういう訳か…。つまり、あんたは俺の命を狙おうとしてたって事か。」
兎姫はソファーに寝転がって侵入者の男の言葉を聞いていた。男は壁際で体を縛られて拘束されていた。依頼人の女子はその男を見て怯える。
「なぁ、兎姫。俺はあの女子生徒に命を捧げても良いと考えている!ノトスとも契約を破ってやる!お前らに危害は加えねぇから紐を解いてくれ!」
男はそう叫んだ。
「ノトス?お前もノトスって訳か…。」
兎姫は立ち上がってオールを持ち、拘束されて無防備な男の眼前にそのオールを向けた。そして悪そうな顔で言った。
「じゃあ、紐を解く代わりに条件を付ける。1、ノトスの情報を渡せ。2、俺らの安全を保証しろ。3、俺らの仲間になれ。どうだ?」
「兎姫さん、仲間にするって…?」
海美は不安そうに訊く。
「そのままの意味だ。もし、こいつがノトスを裏切ってくれれば…こいつは相当使えるとは思わないか?さ、どーすんだ、侵入者くん?」
「良いよ!分かった!分かった!」
即答だった。
「んじゃあ、よろしくな。」
兎姫は男の紐を取り外した。男は一度背伸びをすると、すぐさま女神様(笑)の前に跪いた。
「女神!ゴッド・ヴィーナス!どうかお慈悲を!」
「え、ええ…え?あ、うん…良いよ。」
彼女は澄んだ声で適当に答える。男は感激して彼女の手を両手で握り、何度も何度も振り続けた。彼女は手からの振動でガタガタと体を揺らされていた。
「おい、そこらへんにしておけよ…。その前にまず、整理したいことがある。お前、そこに座れ。」
兎姫はその男を依頼者の右横に座らせた。男はキラキラした目つきで彼女を見つめていた。その熱い眼差しを受けて、その女子は笑顔だったが内心困惑していた。
(この女子生徒の声だけで…これか…。)
「とりあえず、お互いの名前を教えろよ。何て呼べば良いか分かんねぇだろ?」
女子生徒は答えようと口を開くが、その瞬間、男が先に言葉を放った。そのため、その女子は開いた口をすぐに閉じて苦笑いした。
「俺は女神に仕えし神官!名前は八宮隆之介!」
キラリと輝いた瞳で兎姫にそう訴えかけた。
(うぅ…重っ…こいつ。)
八宮隆之介は年齢27歳。身長は181センチと高背。上はジャケットで、下はジーンズを履いている。黒い髪の毛はボサボサに荒れまくっていた。
次いで、隣に座る女子生徒は言った。
「私は青峰小鳥です。今回、救世部に依頼しにきた生徒です。」
そう言っただけだったが、青峰小鳥の澄み切った声に一同は魅了されてしまった。
青峰小鳥は兎姫と同年代で2年。身長も兎姫と変わらない。校則違反の長く薄茶色の髪と何でも見透かしてるような水色の瞳が特徴の女子生徒。彼女はハーフらしい。
「…あの、皆さん?大丈夫ですか?」
青峰は自分を注目して惚けている四人に困惑しながらもそう呟いた。
「あ…ゴホンッ…で、依頼は確か…父の抹殺だったか?」
「え?」
「・・・・・・。」
兎姫のボケに対しての適応力のない、そもそも笑いに無免疫の青峰は突っ込むことなく疑問を抱いたために、兎姫は返しが言えずに口を詰まらせた。
「…青峰さんにツッコミは早いですよ…兎姫さん。」
海美が柔らかなツッコミを繰り出して兎姫をアシストした。
「ま、それはそーだな。整理させてくれ。青峰、簡潔に説明するとだ、お前は一体何を依頼しに来た?」
「あの…父との約束を破った事をどうやって説明しようかなって。」
「ふ~ん…じゃあ俺らはお前の謝罪のアシスト役ってことになるな。お前の父は普段、あまり家には帰ってこねぇんだろ?」
「…はい…。」
「それじゃあこっちの不都合だ。青峰、お前の携帯よこせ。」
「え…何で?」
「良いからよこせって。父と仲直りしたいんだろ?」
「はい…。」
兎姫の強引な取引を正式に引き受け、青峰は自分のスマートフォンをすんなりと兎姫に渡してしまった。兎姫はそのスマートフォンで父に電話をかけた。青峰は青い顔をして止めようとするが、
「良いって良いって。解決させたいんだろう?」
と、言って止める気配がなかった。父とあまり話すこともない青峰は父を私情で呼ぶなんてことは重々しくて到底できるような事ではなかった。だからこそ、兎姫が電話して呼ぶなんてことは尚更だった。青峰は両手を握って心の中で祈祷していた。すると、横に座ってそれを見ていた隆之介が青峰の握り拳の上に手をそっと置いた。
「大丈夫さ…兎姫はああ見えても組織の頂点に立つ権威を持つ人間。それなりに作戦があるのですよ。」
と、青峰を見つめて優しく言った。青峰は最初こそ隆之介に怯えていたが、今の隆之介を見る限りは恐怖心が芽生えることはなかった。龍之介の真面目でまっすぐした、侵入者とは思えない瞳に、青峰は信頼してみようと思っていた。だから、青峰は龍之介の手を両手で握った。二人は重苦しい緊張感の中、兎姫の持つ青峰のスマートフォンから流れる待機音を聞き入っていた。その待機音は2分間流れ続け、そしてついに父との交信に成功した。
『どうしたんだ?急に電話をかけてくるなんて。』
父親らしい最もな声が聞こえた。青峰は緊張で手を震わせた。
「えーっと、もしもし~…青峰小鳥の父親か?」
『誰だ?小鳥の友人か?』
「ちげぇよ、バーロー。俺は救世部で部長をやってる兎姫ってもんだが…あんたの娘、困ってるそうだぜ。何でちゃんと接してやんないんだ?」
「え…あの、部長さん?それって―――」
兎姫は青い顔で困惑している青峰に、人差し指を口に当てて静かにするよう伝えた。
『こっちは仕事が忙しい。構ってやれるほど暇じゃないんだよ。あの子はもう高校生だ。一人でも何とかできる年頃だろう。いつまでも親にばっか頼ってはいられないんだ。それは分かってくれるかね?』
「いいや、分かんねぇな。分かりたくもねぇな、そんなこと。俺には親がいねぇがこれだけは言ってやれる…。あんたは確実に青峰小鳥を嫌ってる!違うか?」
『しっ失礼な!自分の娘を愛してやれない親など親では―――』
「口ばかり達者で行動しねぇテメェの言葉になんて何も信憑性もねぇんだよ!あいつがあんたをどれほど愛しても、あんたが受け入れてくれなきゃ、小鳥の中の愛はいつか死んで枯れちまうんだ。仕事が忙しいのは分かってるが、それ以前にまずやらなきゃならないこと、あるだろ?」
兎姫はややキレ気味で携帯にそう叫んだ。青峰は泣きそうな顔をしている。
『…悪いが、君の戯言には付き合いきれない。この辺で切らせてもらう。』
そして兎姫との通信は切断された。しばらく、兎姫は何も言わずその携帯を無表情で眺める。携帯の非通話音が無情にも救世部に鳴り続けた。何も言う気にはなれなかった。兎姫はスマートフォンを机の上に置き、ソファーに寝そべった。
「…だとよ、小鳥。あれが、おめぇの父の本音だ。理解したか、父のことを少しは?」
兎姫は冷たくそう訊いた。青峰の目には涙が溜まり、流れ落ちそうだったが、小鳥はその涙を辛うじて我慢していた。しかし、さすがに我慢の限界だった。小鳥は涙を流し、隣にいる隆之介の胸に顔を埋めて大声で泣いた。青峰の澄み切った純粋な涙は四人を死にたくなるほどに苦しめた。まるで小鳥の感情が乗り移ったかのようなリアリティーのある感情が心の中を蝕んだ。海美は青峰の涙につられ泣き、兎姫は顔を逸らす。直樹も心苦しさを必死で堪えていた。隆之介は小鳥に抱きつかれて一瞬恥ずかしくなったものの、すぐに悲哀な感情にまとわりつかれて、そして静かに泣いた。
そんなタイミングで一人の人間が救世部を訪れた。白衣を着ている身長182センチの女性。長くて艶やかな黒髪が揺れていた。その人物は救世部顧問の氷見だった。
「…CONFESSING(懺悔)?これは一体何事かしら?」
兎姫は悲しく小さく呟く。
「救って…やりたい奴がいる…。」
氷見は壁に立てかけていたパイプ椅子を開き、兎姫の横に置いて座った。
「兎姫が救ってあげたいなんて珍しいわね。物心でもつきましたか?」
「バ、バカ!んな訳ねぇだろ!」
「―――なるほど、つまり父をどうにか連れてきたいわけですね。」
「そうなんです、先生。」
青峰は涙を流しながら震えた声でそう呟いた。
「青峰、もう良いよ。そろそろ帰れ。もうこれ以上お前も、空気も悲しくしたくないから…。」
兎姫は青峰にそう言って、青峰と隆之介は二人で部室を出て行った。兎姫は涙を拭き、深呼吸を一度してから氷見に言った。
「氷見ちゃん、俺…ちょっと出かける。」
「暗くなる前に戻りなさいよ?」
「分かってる!」
兎姫は壁に立てていたオールを背中に背負い、部室を出て行く。海美も涙目を拭いて後をついて行った。部室には直樹と氷見だけだった。直樹はいまだに苦しんでいるようだ。そんな様子を見かねた氷見は直樹に近づく。
「直樹…具合が悪いのですか?」
「…もう、もう酔生夢死しても良い…。」
と、直樹はどこか悲しげにそう呟くのだった。
何か、投稿していると、友達がどんどん先に帰っていくんですが…これ、あれですか?急ぎ目にしたほうがいいやつですかね?
あ、何か二人帰って行った…電車の時間がヤバい!
あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!
…すいません、ふざけました。
やばっ、門限来た!もう帰る!