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ENDよければ何とやら  作者: 星野夜
第1章『闇組織編・変故1』
30/42

29話目『STRATEGY。』

 お久しぶりです…もちろん、星野夜ですー。

 一週間かけて何とか作り上げましたが…ちょっとヤバいですね、色々と。30話目はまだ作ってないんですよー。間に合うかな、来週までに…。


 まぁ、そんな星野夜の事情なんか気にせずに!

 今回は29話目『STRATEGY。』です!注意:この回は結構話が長いです。皆様方、どうか飽きずに読んでいただけると幸いです。

 と、保証もかけまして準備OK!では、そろそろ本編に移りましょう!それではどうぞ!


――――――――――ここから先は僕自身の余談になるのですが…上記まで読んで本編に移っても良いです。


 ってことで、第二ラウンド突入!

 ここでは僕、星野夜の余談を記載したいと思います。

 ※つまんないよーw。


 余談…ですかねー。それならひとつだけ…。

 この作品を作っていく中、最初は人物名のかな読みを()内に記載していました。でも、最近になると、ルビを振って人物名の上にかな読みを記載する形式になってます。…どっちにすれば良いのやら…困ってますけど…適当にこのままにしておこうかな。

(まぁ、そのうち直しますよ、そのうち…。)


 あと、後輩が結構「遊ぼうぜー」とか振ってくるため、小説執筆が遅れたりします。ちょっと困ってるんだよね…。ま、間に合ったからいいけど…宣言します。

《30話目は絶対に遅れるぞっ!!!!!》

って大宣言!声が反響するぐらいの大声量。

 仕方ないと終わらせるべきか…星野夜はただ〆切に呑気なだけだと終わらせるべきか…。

 でも、あれですよ…。とあるプロの小説家が言ってましたよ。『小説家は〆切に追われる生き物』だって。

 確かにそうですね…初心な僕でもそれは少し思いますよ。

(嘘つけ!上記で『星野夜はただ〆切に呑気なだけだと終わらせるべきか…。』なんて言ってたろ!)

 …ま、まぁ、そうですけど…。


 でも、その小説家は言ってました。〆切までに書き終えて提出したとき、拘束していた全てから解放されて、温かい気持ちを取り戻すって。

 その言葉、信じて執筆を頑張っていこうと思います…。ありがとうございました、尊敬するある小説家へ…。


 最近になって、その小説家の書き方によってきてるなーとも思います…。オリジナルを半分ぐらいは残しておかないとね。

 深夜1時近くを回ろうとしている。辺りはすっかり冷め切って、不自然なくらいに物音がしないのが不気味だ。夜空には雲一つなく、星々が煌めいていた。春の時期でもこの時間帯まで回ってしまうと寒いものだ。兎姫はくるぶしまで届く長さのウィンドブレーカーを寒そうに羽織っていた。口から吐く白い息が風になびいて消えていった。その横に海美が寒いのにも関わらず、普通の長袖姿でニコニコとしながら一緒に待機していた。何かワクワクしている様子だ。その後ろに直樹がコートを着て眠そうにあくびをした。直樹は先程まで眠っていて、兎姫が無理やり寝起きドッキリで起こしたためにまだ睡魔が襲いかかっていた。立ったままでも眠れそうな雰囲気で、時々コクリと首を傾けて倒れそうになっていた。

「ったく…何でこんな事しなきゃいけねぇんだよ…。」

 兎姫は面倒そうに溜息を吐いた。

「まぁまぁ、久留米炉利さんの依頼ですし…。」

「べっつに~…俺はどーだって良いんだけどよぉー。」

「救世部はどんな依頼もこなす…んじゃないのですか?」

 兎姫はまた、今度は前よりも大きく溜息を吐いて頭を抱えた。

「そんな初期設定なんかどーだって良いだろ?人生は綺麗事だけではやってけねぇんだよ、おとぎの国の王女様。」

「ですけど…部活動ですよ?」

「今更、部活動とか言いますかぁ?こんなもんは部活動でも何でもねぇだろ?そもそも部活は授業の一環みたいなもんで、深夜は活動時間外だろうが。救世部と謳ってはいるけどなぁー、救世主がそう簡単に現れると思ってんじゃねぇぞ。人生そんなに甘くねぇんだよ、未熟生どもが!」

 兎姫は一人勝手に怒り出した。そんな兎姫をなだめる海美。それを暇そうにあくびしながら眺める直樹。

「救世部は特別ですって!きっと、私たちを必要としている人はいるんですよ!現に、一人以上は来るじゃないですか!久留米さんの依頼だけ受けといてキャンセルなんて贔屓はできませんよ。」

 兎姫は海美の明る苦しい声が煩わそうに顔をしかめる。

「だってよ…そもそもなんだよ。第一、あのロリータ二等兵の依頼を引き受けたのはお前であって俺じゃねぇし。全く、今日は眠りてぇとこなのに…。」

 そうやって愚痴をグチグチブツブツと呟いていた。そんな兎姫の言葉に責められた海美は急に暗い表情で俯いてしまった。

「…だって私は…兎姫さんの…兎姫さんの役に…立とうと…。」

 兎姫は困った顔で小さく溜息を吐いた。

「そー俯くんじゃねぇよ…。確かに有難迷惑だけ―――」

「やっぱり…。」

「そーじゃねぇよ。だからな、俺が言いてぇのはもっと―――」

「ZZZ…。」

 直樹の寝息が辺りに響いた。壁に寄りかかって眠っている直樹。ついに眠気に負けてしまったようだ。兎姫はそんな空気を読まない直樹の腹に一発強い拳を決め込んだ。直樹が一瞬だけ呻き声を上げてぶっ飛び、地面に背中を強打して倒れる。兎姫はそんな直樹には気を向けず、再び海美を説得し始めた。

「ゴホッゴホッ…な、何だよ…兎姫?!しばらく息が止まったぞ、バカ!」

「―――って訳だからブルーになんなよ、海美。」

「そ、そうでしょうか…?」

「ああ、お前に頼んだんだしな、依頼を代わりに訊いてくれと。」

 完全に空気の直樹。勝手に兎姫と海美で納得してしまっていた。

「あのー…俺、何なんすか?ゴミ虫ですか?」

「じゃあ、そろそろ行くか、海美。」

「はい、兎姫さん!」

 兎姫は海美を連れて歩き出した。地面に座り込んでいる直樹を無視して。

「って俺は?!」


 真っ暗な空間で三つの人影が蠢いていた。ゆっくりと足音を立てずに一列になって歩いている。その人影はどこかの扉を開くと、二人をそこへと誘導した。そして扉をゆっくりとなるべく音が鳴らないように閉じた。

 それと同時に、真っ暗な空間に光が差した。三つの人影たちが先程までいた室内を一筋の光が照らしてた。そして部屋の中が肉眼で見とれるようになった。それは研究室のような部屋だった。研究室というにはあまりにも広いその空間内では、謎の研究を施行している最中の工程が見て取れる。2メートルはある高い棚には大小様々なビーカーやフラスコが置かれ、その中には何やら怪しげな物質が保管されている。机の上には乱雑に置かれた実験資料が。意味不明な数式や論文、図などが記載されている。見ているだけで頭が痛くなりそうな資料だ。その付近に資料内の実験のために必要な器材等が、同じく乱雑に置かれていた。良くアニメで見るような研究室のように、どことなく厨二チックな外見であった。

 光が差す光点のところに、三人の人影が立っていた。背後の強光が三つの人影を研究室内へと伸ばしていた。

「普段ならもっと遅くに来るらしい…。間に合うか…。」

 女性の低い声がそう呟いた。

「ポジティブに行きましょうよ、ポジティブに。」

 もう一人の明るい女性の声がそう言った。

 三人の内の一人は何も言わずに黙ったまま仁王立ち状態でいた。

「気をつけろ、ここからが問題なんだ。」

 低い女性の声が二人にそう言い、二人を連れて中へと慎重に入った。その直後、研究室内に非常ブザーが大音量で流れ始めた!

「ヤバっ!呆気ないな、これは!」

 低い女性の声が焦り気味にそう叫ぶ。

 残りの二人はパニック状態に陥っていたので、低い女性の声が首根っこを引っ張って無理やり外へと逃げ出した。

 それから数分後、大人数の武装警備員が真っ暗な研究室に押し寄せた。皆、手に警棒、腰に拳銃を備えている。彼らは研究室に入るなり、電気を付けて研究室内を明るくした。しかし、そこには何も変わらないいつも通りの研究室があった。警備員たちは皆、動揺して口々に話し合っている。

 その武装警備員のリーダー格の人間が皆に伝える。

「どうやら誤作動らしい。念のため、一班は一度辺りを徘徊しておけ。警戒を怠るな。二班は監視カメラのチェックを頼む。残りは解散!」

 その声が止むのと同時に、一班以外は颯爽とその場から退却していった。二班は監視カメラが管理されている監視部屋へと足早に駆けていった。研究室には一班の武装警備員五名とリーダー格の男一人だけが取り残されていた。

 リーダー格は一班の五人をそれぞれ別の場所へと徘徊するように命じた。そして自分は研究室に残った。


 昨夜、救世部はとある人間に逆依頼をしていた。情報処理部部長の牧野霧都まきのきりと、高校三年生。いつもキマった黒のヘアスタイルで身長が170センチ代の男子生徒。頭脳明晰でハッキング能力では随一。右に出る者はいない程。それ故に情報処理部の部長までに成り上がった。

「そんなチョー秀才エリート君に頼み事があるんだが…少々厄介事でな…。」

 兎姫は霧都に依頼内容を話す。

「それはそれは…穏やかではないですねぇ…。」

 霧都は少し頭を悩ませていた。

「それは私の立場からして、正直に申しますと引き受けたくはないところですね。」

「嫌なら良いんだ、嫌なら。お前以外にもハッカーなんて何人でもいんだろ?そいつらに頼むわ。邪魔して悪かったな、部長。」

 兎姫はそう言って席を立とうとした。その時、やる気の炎に火が点いたのか、霧都は立ち上がって兎姫に言った。

「良いでしょう。あなたの実に分かりやすい挑発に乗ってあげましょう。その依頼、引受させてもらいますよ。私が他の駄目ハッカーと違うとこをお見せしましょう。」

 その言葉を聞き、兎姫は内心だけ凶悪な顔でニヤついていた。

(計画通りぃ~。)


 次に兎姫は体育教師を訪ねる事にした。体育教師の坂出武さかいでたけしはすでに帰宅していて学校にいないと言われたため、ルセに頼んで秘密裏に教員室から個人情報を抜き取り、兎姫は武のいる自宅へとやってきた。この時には夜9時を回っていて既に門限オーバーではあったものの、夜行性の兎姫には全くもって関係ない事であった(実質上は関係性100%なのだが…)。

 体育教師、武の家は普通の一軒家だった。普通の入口、普通のベランダ、普通のガーデン。見るだけで溜息の吐きそうな、普通過ぎる家だった。二階はカーテンが閉め切られ、誰もいる気配はない。一方の一階は同じくカーテンは閉め切られてはいるが、明かりが点いていて何やら賑やかな会話が聞こえていた。

「…あいつ、無駄に一軒家とか買ってんだな、体育教師のくせに…。」

 兎姫はそうぼやいた。

「?…体育教師にでも恨みがあるのですか?」

 海美は不思議そうに訊いた。

「いや…ただ気に食わねぇだけだ。」

 兎姫は賑やかな一階のリビングらしき場所の窓を眺めてそう呟いた。海美は良く理解できていなかったため、ボーッとしていた。兎姫はボーッとしている海美を残し、一人でズカズカと武の家へと足を踏み入れ進み始めた。海美はそんな兎姫に気がついて、慌てて後を追った。兎姫が堂々とブザーを押そうと指を出したとき、海美は兎姫に言った。

「良いんですか?そんな勝手に入って…。」

「入らなきゃ押せねぇだろうが、ブザーをよぉ。」

「そうじゃなくて…だって私たちは元々、武先生の自宅なんて知らないんですよ?なのに、何で来れたのかってなるじゃないですか。」

「知らん知らん、そんなこと。後のことは後回しだ。」

 兎姫は躊躇せずにブザーを押した。家の中にブザー音が響いた。その音が玄関前の二入にも聞こえていた。扉越しに誰かが走ってくる足音が近づいてきて、そして玄関の扉が開いた。中から見慣れた一人の男性が普段は見ない愛想を振りまいて出てきた。

「はいはい、誰で―――」

 兎姫は扉が開いたのと同時に、その男性の首を掴んで後ろへとなぎ飛ばした。その男は突拍子も無い攻撃に反応できず、あっさりと飛ばされた。身体が浮いたかと思うと直後、背中に強い衝撃を受け、視界が上を向いた。男はしばらく息ができずにもがき苦しんでいた。

「とっととととと兎姫さん?!何で急に?!」

 海美は驚いてカミカミだった。

 兎姫は、男が立ち上がろうとしているのを見て、男の前に立ってオールを眼前に構えた。そしていつも通りの緊張のない声で言った。

「よぉ、坂出武。元気そうで何より。」

「お前は兎姫か?なぜ俺の家を―――」

 兎姫はオールを構えていない左手の人差し指を口の前に近づけた。

「ちょいっと頼みごとがあってなぁ。お前さんには強制的に受けてもらう。じゃないと…あの事、言っちゃうよぉ~。」

「やめろやめろやめろ!それだけはやめてくれ!」

 武は兎姫に何かしらの弱みを握られている。兎姫はその弱みを利用して強制的に武を協力させようとしているのだ。案の定、武は兎姫の策略に乗った。

「やれやれですね…本人も、悪知恵も、良く働くんですから。」


 深夜。兎姫、海美、直樹の三人は二人の人間と、町外れにあるとある店に集まり話し合いをしていた。その店はカクテルやバーボンなど、酒類を売っているバー。学生は普通、しかも深夜に来てはいけない場所ではあるが、この店のバーテンダー兼オーナーが少しばかし頭のおかしい…いや、親切なので、兎姫たちを入れてくれた。そしてこの店は、兎姫の行きつけのバーなのだ。だが、兎姫は酒を飲みはしない。いつも、兎姫はコーラを頼んで飲んでいる。他に頼めるジュースなどがないためだ。今現在も兎姫はコーラ片手に話し合いに参加している。他の四人も同じようにコーラを持っていた。

 五人は店の一角、一番後ろ側の席に着いていた。初めて入る四人の内、海美と直樹は緊張でそわそわしている。救世部の依頼で付いていくことになった情報処理部部長の牧野霧都は至って冷静で、いつも通り無表情で静かに座っていた。その横に、体育教師の坂出武が戸惑いの表情を浮かべていた。学生がこんな場所にいることを、教師として見逃せる訳がない。が、今の坂出武は弱みを握られていて、この事を黙秘するようにと兎姫に言われた。坂出武は今、救世部の裏活動を目の当たりにしている。

「どーだ?俺、行きつけのバーは?結構静かで良いだろ?」

と、笑顔でそう言った兎姫に対して、二人は、

「「…あ、そ…そーですね…。」」

と言った感じだった。

 バーカウンターで一人、コップを磨いているバーテンダーが静かに笑った。

「それはそれは、良かったです。兎姫は相変わらずのワルっ子ですねー。」

「んだよ、マスター。俺は至って普通だって。」

「どーだか。」

 ここで、教師の武が黙ってはいられずに、ついに口を開いた。

「兎姫。お前、これはどーいう事だ?」

 兎姫はそんな武に対して、いつも通りの顔で極普通に言った。

「どーもこーも、こーいうこった。見ての通り、バーに来て作戦会議ってとこだよ。」

「学生が深夜にバーなんかに来て、一体何考え―――」

「シャットオフ!お前は俺の言うことだけ聞いてりゃ良いんだよ、クソ公!」

 そう言うと、武は黙り込んだ。

 直樹はゾッとして青ざめていた。

(おぉ~、怖ぁ~。見たかよ、海美?)

(あははは…兎姫さんらしいかな…。)

(お前、兎姫のどこにホレちまってんだ?)

(ブフッ!べっ別にホレてる訳じゃないです!…良い人なんですよ、兎姫さんは。ただ人相とかの問題があるだけですよ。)

(それ、言えてるな。)

 そんな会話をコッソリと話し合っていた海美と直樹。お互い、クスクスと笑っているのを兎姫が気づいて、

「何笑ってんだ、お前ら?」

と、変な奴みたいに見られてしまった。

 しばらく雑談に華が咲いていしまい、時間がロスしてしまった。だが、兎姫は急ぐ様子もなく、ただ普通に作戦を説明し始めた。

「じゃあ、作戦を説明する。今回、情報処理部部長と体育教師を呼んだのには理由があってな―――」

 そこから数十分、兎姫は綿密に立てた計画を説明し続けた。兎姫自身、そこまで作戦を考えるのには尽力しなかったようではあるが、その計画はなかなかの質だった。海美と直樹は兎姫が説明している間、ずっと口が開きっぱなしだった。前のめり気味で聞き入っていた。一方の依頼で連れてこられた情報処理部部長の牧野霧都は依然として表情を変えずに聞いていた。体育教師の坂出武は教師にも関わらず、半分眠りそうになりながら聞いていた。時折、首がカクンと落ちて目を覚ましていた。

「―――ざっとこんな感じだが…異論は…ないよな?」

 海美は、

「もちろん、ありません♪」

と、楽しげに言った。

 直樹は、

「…どーでも良い…。」

と、ニヒルに答えた。

 霧都は、

「仰せのままに。」

と、表情を変えずに言った。

 武は、

「どうなったって文句はなしだからな!」

と、冷や汗をかいて言った。

「じゃあ…行くか。」

 五人は依頼を果たすために目的の場所へと向かう。店を出る前、兎姫はふとある事を思い出して留まった。

「あ、ちょっと待ってくれ。」

 四人は店の外で振り返る。兎姫だけが店の中にいる。

 兎姫は緊張感ない声で、

「まだコーラ飲みきってねぇや。」

 そう言った。


 作戦会議を終えた五人はそれぞれ持ち場についた。ターゲットは中央科学研究所第一支部。ここは数々の研究成果を打ち出しているエリート研究所であった。この前も一人、ノーベル化学賞を授与された人間が一人出たという。中央科学研究所第一支部の研究成果は世界にも誇れるほどだ。そんな近付きがたい偉大なる場所、中央科学研究部第一支部へと侵入しようとしているのだ。いくら深夜とはいえ、国立のこの研究所に容易に侵入できる訳もなく、三人は物陰に潜んで何かを待っていた。

 前方には堂々たる巨門が建てられ、敷地の周りを高さ2メートル弱の鉄柵で囲われている。鉄柵の先端は槍のように尖っているため、この鉄柵を上って超えることはできそうにない。誤って手を滑らせてしまった場合、鉄柵に身体が突き刺さって死んでしまう。入口は前方一箇所のみ。問題はそれだけではない。入口の門を普通に潜った場合、赤外線センサーに反応して非常ベルが鳴る仕組みだ。それに加え、敷地内には監視カメラが見たところ十数個は設置されている。これを全て攻略するには方法は一つだけだった。だが、まだその時ではないため、三人は待機するしかなかった。

 その最中、兎姫は愚痴をブツブツ呟いて海美を萎えさせてしまい、海美を再起動させるために励ましていた。直樹はそんな二人を無視して立ち寝していたため、兎姫に腹パンされて吹っ飛んだ。

 そんな最中、急に中央科学研究所が停電した。建物内の蛍光灯も、外を照らしていた街灯も、全ての電気系統に関わる機械が停止した。

「…作戦通りだな…。」

 兎姫は少しだけ口角が上がってニヤついたような顔で呟いた。

「兎姫さん、これは一体…?」

「中央科学研究所は見ての通り、監獄島みたいな状況だ。監視カメラに赤外線センサー…。これら障害物を越えるには手段は一つだけ。停電を引き起こして機能を停止させることだけだ。」

「だが、こんな大掛かりな停電…どうやって引き起こしたって言うんだ?」

「それは後でだ。ここまでの規模の施設だったら回復に一分も所要はしないはずだ。すぐに停電は直る。今のうちに中へ行くぞ。」

 辺りに第三者などがいないかを注意深く確認し、三人は大急ぎで門を潜って敷地内へと

足を踏み入れた。研究所の入口の止まってしまった自動ドアを無理やりこじ開け、そして堂々と中へ。研究所内はまだ停電中なので薄暗かった。なぜかフロントには人一人もいなかった。逆に好都合なのだが。

 フロントはまるで空港のように広く、そして同じく空港のようにゴミ一つなく綺麗だった。床の白いタイルは磨き上げられ、窓ガラスは曇一つなく外の光を透過していた。中央から左右に病院のように長く廊下が伸び、前方にはワイドな階段が二階へと伸びていた。人の気配は全くしない。まるで廃墟のように静かだった。停電しているというのに、誰の声もしない。

「…妙だな…。」

「…ですね…。」

「…そだな…。」

 三人はフロントの中央で留まり、周りを見回す。長い廊下の奥までは暗くて見通せないが、見た感じ人の気配はなし。階段から二階を覗いてみるものの、人の気配なし。兎姫は罠かとも思いながらも、そんなはずはないと結論付け、作戦を続行することにした。

「…まぁ、何か思ったよりクズそうだから…警戒を怠らずに作戦続行で。」

「兎姫さん…今頃ですが、大丈夫なんですか?」

「心配すんな、問題ない。」

「フラグ立ってんぞ、信用できねぇ。」

「っせぇな、直樹。そんなもん気にしてたら人生謳歌できねぇぞ。フラグなんてなぁ、身近にいくらでも存在すんだからよぉ。」

(だからこそ、信用できねぇんだよ、バカ。)


 三人は目的の部屋を目指して忍び足で進んでいた。兎姫を先頭に、海美、直樹の順だ。長い長い廊下を進んでいる。停電で蛍光灯が点いていないため、廊下は薄暗く不気味。窓の外から差し込むわずかな光が廊下を照らしていることで、辛うじて肉眼で地面を捉えることができていた。

「兎姫…ヤケに静かじゃないか?それに、停電が一向に直らない。これぐらいの施設ならすぐに復旧するんじゃないのか?しなかったとしても、人力で直すはず。その割には遅すぎる。」

 直樹は海美越しにその言葉を吐いた。兎姫は複雑そうな顔で歩き続けていた。

「なぁ、何か知ってるのか?それとも、これは何か非常事態でも―――」

「ちげぇよ。多分…おそらくは…俺が見くびってただけかもしれない、奴を。」

「「…?」」

 兎姫の言葉の意味が理解できず、二人は疑問を抱いていた。


 そんな頃、入口の巨門を不審な三人組が通り抜けた。停電中なのでカメラにもセンサーにも引っかからず、普通にやってきた。

 一人は黒くて長い髪を持つ女。深夜の防寒対策として黒革で作られたジャケットを着込んでいる。左腰のベルトにポーチが引っ掛けられて何かがしまわれていた。もう一人は茶髪ショートヘアーの女子。年齢は見るからに高校生ぐらいだろう。ラフな服装、薄い水色のワンピースを着ている。常に笑顔を振りまいていた。最後の一人は唯一の男。金髪の髪をしていて、纏まったひと束の癖毛が前髪に垂れていた。口元を長いマフラーで隠していた。服装は上下黒一色で、その上からベージュ色のコートを着ていた。

「何と好都合…見よ、この状況を。まるで私らのために起こった非常事態かのようだ。」

 黒革ジャケットを着た女がニヤケ顔でそう呟いた。その声は意外と低い声だった。

「ついに神がこっちについてくれたんですかね。私たちの運勢最悪ですし。」

 ワンピースを着ている女子が笑顔でそう問いかけた。

「それはない、それはない。私らの悪運は折り紙付きだからな。」

「そーですか。」

 そんなたわいもない話をしながら、研究所の自動ドアのところまでやってきた。三人のうち、唯一一人だけの男は無言で黙って後についていた。自動ドアはなぜか半分だけ開きっぱなし状態だった。その隙間から中へと入る三人。時間が遅いからかは分からないが、停電しているというのに誰一人として姿が見えなかった。フロントは真っ暗で不気味な雰囲気を放っている。左右に伸びる長い廊下も誰の気配もなく寒々しい。二階へと続く広い階段も同じ状況だった。三人はとりあえず、中央部で立ち止まった。

「これは一体全体何が起きてる?」

 低い声の女が訝しげにフロントを見回す。

「…みんな、家出かな?」

 ワンピースを着ている女子が冗談紛れでそう言った。低い声の女と無口の男はそれを無視して、そして女の方は言った。

「罠と見るべきか…幸運と見るべきか…どっちだ?」

 ワンピースを着ている女子は言った。

「じゃあ、前者で。折り紙付きなんでしょう、悪運は?」

 その言葉に、低い声の女は肩を落として呆れたという感じで溜息を吐いた。

「お前にそう言われると…何か対抗したくなるな。」

「何で?!」

「いや、ちょっとムカっと来ただけさ。じゃあ、後者を選ぶとしようか。」

「結局そーなるんですねー。」

 ワンピースを着ている女子はムスっとした感じで、棒読みで言った。


 それは突如鳴り響いた。ただでさえパニック状態の中、追い打ちをかけるように響き渡った。武装している警察隊が一瞬ビクッと身体を震わせた。警報音が待機部屋に鳴り響いたのだ。赤いランプが点灯し、その部屋を真っ赤に染め上げた。停電してしばらく不安だった状況が過ぎ去って、直らないが一息ついていたその矢先、今度は侵入者。先程まで暇そうにあくびをしていた武装警備隊が一瞬で凍りついた。

「武装警備隊出動だ!場所は研究室!」

 リーダー格の武装警備員らしき人物が他の武装警備員を仕切ってそう叫んだ。数十人の警備員がリーダー格を中央として基準に、二列の隊列を作って向き直った。そして隊列を崩さずに待機室から全員が飛び出した。リーダー格は一番後ろについていった。

 そして警報のあった研究室へとやってきた。扉を蹴り開け、数十人の武装警備員が中へと押し流れていった。しかし、研究室内は至って変わらず、何の異状もない。ただ停電で蛍光灯が点いてないため真っ暗なだけだった。

 武装警備隊はあまり広くはない研究室をくまなく捜索し、侵入者の姿がないのを確認した。するとリーダー格の武装警備員は皆にこう伝達した。

「どうやら誤作動らしい。念のため、一班は一度辺りを徘徊しておけ。警戒を怠るな。二班は監視カメラのチェックを頼む。残りは解散!」

 そう伝えると、すぐに隊列が分散されて研究室内から出て行った。研究室内に残ったのはリーダー格の武装警備員一人だけだった。

 その男は全員がいなくなり、足音が聞こえなくなったのを確認すると、研究室内に置かれたパイプ椅子に座り込んで、武装ヘルメットを脱いだ。ヘルメットをして蒸し暑かったため、頭部から凄い量の汗が流れていた。

「はぁ~…お疲れ、俺。…そして、おめでとう、俺。」

 男は自分にそう言った。


 武装警備隊一班が不審者三人組を発見したとの報告が、研究室内にいる男の元へと伝わった。

「おぅ、分かった。絶対に逃すな。」

 そう言って、無線を切った。


 武装警備隊一班が長い長い廊下を走って前方数十メートル先を走っている三人組を追っていた。三人組は二人が女で一人が男の姿をしている。武装警備隊は全員、警棒を手に持って追っていた。

「やっべぇ!マジでこれは!まさかバレるなんて!計画違いだ、こんなもん!」

 一人の女がそう叫ぶ。もう一人の女はそれに反応はするものの、喋れる余裕がなかった。一方の男は少し疲れているようではあるが、まだ全然走れる様子だった。

 その三人組は長い長い廊下走ってフロントを横断、そのまま逆方向の廊下へと直行していった。それから数秒後、数十人の武装警備員たちが三人を追ってフロントを通過していった。さっきまで静かだったはずのフロントに、大勢の足音が響いて、軽い地響きが起こっていた。その音はすぐに小さくなってどんどんフロントから離れていった。


 兎姫、海美、直樹の三人はこの頃、何かを背中に担ぎながら非常階段を上っていた。非常階段は建物の外壁に設置されているため、外の景色が良く見えていた。高くなるにつれ、強風が巻き起こり、髪の毛をハチャメチャに振り回した。三人は息を切らしながら上り続け、数分で屋上まで上り詰めた。屋上は当然のように強風が吹いている。開けている屋上には誰の影もない。ただ電波塔が一本だけそびえ立っているのが見えるだけだった。

「着いたぞ…。」

 兎姫は背後の二人にそう伝えた。後ろをついて来ていた二人はもう疲労困憊で屋上に倒れた。お互い、全身汗まみれになって息が荒くなっていた。

「…ったく、仕方ねぇ奴らだ。」

 兎姫は担いできた物を取り出した。それはとても長いワイヤーだった。先端部にはフックが取り付けられていて何かに固定できるようになっていた。兎姫はそのワイヤーを持って屋上の鉄柵に上り、そして鉄柵にそのワイヤーのフックを引っ掛けた。そして、そのワイヤーを地面まで垂らした。次に、海美が担いできた物を取り出した。それは大量の滑車だった。歯車が直径10センチ程度の大きな滑車だ。外の光に反射して鈍色に輝いている。その次に、直樹の担いできた物を取り出した。それは謎の木箱。とても重く、動かすとガチャガチャと鉄同士がぶつかり合うような音が鳴る。木箱の上側には鉄金具が付けられている。兎姫はその鉄金具と滑車を合わせた。綺麗に接続されてひとつとなった。その数は5個。それらをワイヤーを止めた鉄柵の前に置いて、兎姫は二人に言った。

「準備…完了だ。それにしても…良く頑張ったな、直樹。」

 兎姫は笑顔でそう言った。直樹は不意を突かれ、目を丸く見開いて驚いていた。

「…そ、そうか?」

 直樹はややてれ恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「じゃ、とっとと退散するとしようか。奴らに気づかれないうちにな。」

 その時だった。屋上の出入り口の扉が開いた!そこから一人の武装警備員がやって来た。ガッチリとした防弾ジョッキを着込んでいて、頭部は防弾ヘルメットを被っているため顔は見えない。腰のベルトには警棒と拳銃が引っ掛けてあり、いつ敵が襲いかかってきても対応できるように抜きやすい作りになっている。その男は兎姫たちに気がついてこちらへと走ってきた。海美、直樹の二人はさっきまで疲れて倒れていた状態から一変、飛び上がてすぐに兎姫の後ろに隠れた。兎姫はそんな二人を見て溜息を吐く。

「警戒止め。あいつは敵じゃねぇよ、仲間だ。」

 兎姫はそう呟くが、明らかに武装警備員は敵意むき出しだった。手には警棒が構えられている。

「あれ、どう見たって敵じゃないですか!」

「攻撃態勢だぞ、あれ!逃げようぜ!」

「良いから良いから。」

 武装警備員は兎姫の前まで来ると、持っていた警棒を高く振り上げ―――投げた!警棒は段違いな方向へと飛翔していき、鉄柵を越えて地面へと落ちていった。海美と直樹はポカーンと口を開いて凍りついた。

「よぉ、武。作戦通りに動いてくれたんだろうな?」

 兎姫は武装警備員を体育教師の武の名前で呼んだ。

 武装警備員はヘルメットを取った。そこには体育教師、坂出武の顔が。武装警備員になりすましていたのだ。それを知らなかった海美と直樹は唖然としている様子だった。

「じゃあ、後は頼んだ。俺らは先にログアウトしてくらぁ。」

「…これで捕まったら、永遠にお前らを呪うからな。」

 武はそう冗談を呟く。

 兎姫は海美、直樹を連れて屋上の出入り口から出て行った。


「作戦成功…といったところですかね。さすがは無理難題を越えてきた女子生徒だ。」

 コンピュータ制御室。巨大なデジタル画面が部屋の壁を覆っている。周りは真っ暗で、デジタル画面から発生している緑色光が室内を照らしていた。そのデジタル画面の操作パネル前に一人の人物が座っている。キマったヘアスタイルの身長170センチ程度の男だ。服装は研究者の着ている様な長い白衣だ。

 操作盤の上に一台のパソコンを置いていた。その画面内には訳の分からない数式や文字がザーッと並んでいる。そのパソコンから黒い回線が伸びて、その操作盤の入力線へと繋がっていた。彼は今、操作盤にアクセスし、ハッキングして乗っ取っているのだ。

 巨大なデジタル画面の一部には監視カメラの映像が出力されていた。このコンピュータ制御室では見れないはずの映像だ。普通、このような映像は監視室という場所に置かれたパソコンでしか確認できない。しかし、彼は監視カメラをハッキングすることで、その映像をこちら側へと出力できるようにしたのだ。

 その映像には三人組の姿が撮されていた。その三人組は縦一列になってゆっくりと廊下を歩いている。一番前に金髪の女子。二番目にフワリとした茶髪の女子。三番目に弱そうな黒髪の男子。彼はその三人のことを知っていた。金髪女子が兎姫。フワリ茶髪が海美。ひ弱男子が直樹。その三人組は出口を目指して歩いているようだ。辺りを警戒しながら、ゆっくりと忍び足で進んでいる。時折、何か物音に反応して後ろを振り向いたり、ビクリと身体を震わせたりしていた。

 そもそも、停電しているというのに、なぜこの部屋、コンピュータ制御室だけ電源がついているのか。それは、この男が原因だった。彼はこの研究所内を停電させた張本人。研究所全ての機器に連動するこの操作盤をハッキングし、そしてこの部屋を除く、全ての電子機器を停止させたのだ。なので、いつでも自由に機器を起動、停止できる。そして今、知り合いの姿を確認するために監視カメラを起動して、ここのパネルに映像を出力しているのだ。

「これでほぼ役目は終了しました。後は全員が無事に出て行くことができれば、ミッションコンプリート…ということですね、救世部部長さん。」

『まぁ、そーなるが…そう簡単に行くもんか?』

 その声は兎姫だった。兎姫が彼の声に反応して答えたのだ。彼は兎姫と無線でやり取りをしているのだ。

 兎姫はある事を彼に訊いた。

『霧都、お前が言っていたバカ三人組はどーなった?』

 霧都と呼ばれた彼は答える。

「あの三人組でしたら―――」

 霧都は操作盤を使ってカメラを切り替える。すると、そこには兎姫たち三人組とは別の三人組の姿が。どこかの部屋に籠っている様子が見える。

「―――あの三人組は今、警備員から逃げ切ってどこかの部屋に籠城しているようです。」

『そーか。ところで一つ聞きたいが…停電させたの…お前か?』

「はい、その通りですが何か?」

『エクセレント、上出来だ。やっぱり部長だけはある。まさかこの規模の停電をここまで操作できるとはな。恐れ入った、というところか。』

 兎姫のその言葉を聞いて、霧都はニヤリと笑みを浮かべた。だが、兎姫と話すときは至って冷静。

「これで分かっていただけたでしょうか?私が他の駄目ハッカーとは違うことが。警報も私の仕業ですから。」

『はいはい、分かった。』

 兎姫の声がそう聞こえ、そして無線が途絶えた。


 とある部屋から三人組の人間が廊下に出てきた。一人目は黒くて艶やかな髪の女。黒いジャケットとジーンズを着ていて、左腰にポーチを吊っていて中に何か細長いものが入っているのが膨らみで分かる。二人目はフワリとした雰囲気を醸し出す茶色いウェーブ髪の女子。私服なのかは分からないが、場に合わないフワリとした薄い水色のワンピースを着ていた。三人目は金髪の髪を持ち、纏まったひと束の癖毛が前髪に垂れていた。季節違いの長いマフラーを首に巻いているため、口元が隠れていて表情が分かりづらい。上下一色の服とベージュ色のコートを着ていた。

 その三人組は廊下を見回す。停電中で蛍光灯がついていないため、その長い長い廊下の奥までは肉眼で確認はできなかった。しかし、見るからには誰もいないようだ。だけど、その暗い暗い廊下のどこからか人の気配か何かがヒシヒシと伝わってくる。三人はその廊下の奥を見つめる。

「…誰もいないようだが…何か気配がする。先ほどの警備員どもはやり過ごしただろう。…今度は誰だ?」

 黒髪の女が低い声でそう呟いた。訝しげに廊下の奥に潜む闇を見つめていた。他の二人も同じくその闇を見つめていた。

 するとその時だった。闇の中で何かが蠢く姿が見えた。三人は同時に身をかがませる。向こうにいる何かはこちらの存在に気付けていないようだ。あちら側でも同じように闇しか見えていないようだ。それから数秒後、足音が聞こえ始めた。少しずつ大きくなっていく、そしてその何かが突如、姿を現した。距離は離れているため、何かはこっちの存在に気付けていないようだ。その何かは当然人間。三人組の人間だった。その三人組は廊下からフロントに出てきた。どうやら出入り口から出て行くようだ。

「…あれは、確実に科学者ではないな。武装警備員にも見えない。どう見ても―――」

「学生ですね、私と同い年ぐらいの。」

 茶色髪の女子が女の言葉を代わりに言った。

「どうします?」

「そうだなー…とりあえず、怪しいから尾行するぞ。」

「ラジャー♪」

「・・・・・・。」

 茶髪の女子はノリノリで、コートを着ている男は至って無言のままだった。

 そして三人はフロントから外へと出て行こうとする怪し気な三人組を尾行し始めた。

 謎の三人組の学生たちはフロントにある、今は停電中で止まっている自動ドアのこじ開けられた隙間から外へと出て行った。そのまま帰るのかと思いきや、その三人組はなぜか出口のある敷地内正面の巨門とは逆の研究所の裏側へと回っていった。そして、裏側につくと、三人は何かの作業をし始めた。鉄柵に何かを取り付けているように見える。黒髪の女と茶髪の女子、そしてコートを着ている男はその様子を陰から確認していた。

「一体、何ものでしょうかね?」

 茶髪女子が何か楽しげにそう訊いた。

「さぁ、何だろうか?ワイヤーか何かの紐を鉄柵に取り付けているようだ…。その紐の先は屋上に続いている。」

「もしかすると…あれで侵入しようと?」

「いや、違うな。元々中にいたのにわざわざ、外に出てからまた戻るんて事、普通はしないはずだ。そう考えると、これは―――」

 そんな時、謎の三人組の会話が女の耳についた。

「さぁてと、準備OK!これで依頼が終了って訳か。」

 金色の髪をしている女子がそう言っている。

「そーですね。ところで訊きたいんですけど…一体何を運ぶんでしょうか?」

 もう一人いるふわふわした感じの女子が金髪の女子にそう訊いた。金髪の髪の女子は普通の口調で答えた。

「あれ?知らなかったっけ?あれだ、あれ…えっとー確か、あいつは…『軍事に使われる素材集』だって言っていたが…見たところ、液体火薬とかだった…。それと、良く分かんねぇーけど、パウダーとかコアとか何やら色々入っているようだ。あいつ、一体何に使うつもりだ?マジのサバゲーでも始めようてわけか?」

 そんな時、屋上からワイヤーを伝って箱がひとつ滑り落ちてきた。その箱は鉄柵に激突し、跫音を響かせて止まった。謎の木箱だ。箱の外には黒ペンキで『ブライマー』と書かれていた。その文字を見た物陰に隠れている三人組の一人、黒髪の女は驚いて咄嗟に飛び出てしまった。

「あ…。」

 すぐさま鉄柵前の三人はその女に気づいて警戒態勢に入った。

 黒髪の女は左腰のポーチから何かを取り出し、三人の学生の一人、金髪の女子に向けた。それは拳銃だった。黒いフレームの6発装填のリボルバー。撃鉄を上げて撃った。金髪の女子は逃れるために動いたため、初撃は肩をかすって外れた。三人の学生は縦断から逃れるために物陰に隠れた。黒髪の女はそんな三人を追う。物陰に隠れていた二人の仲間はその様子を傍観していた。

「あぁ~あ、バレちゃったー。折り紙付きの不運ですねー。」

「・・・・・・。」

 黒髪の女は敵が隠れた物陰へと入っていき、そして二人の前から姿を消した。その数秒後、何か轟音が響いて静まり返った。

「あれれ?何か静かになったけど…何?」

「・・・・・・。」

 その時、物陰から一人の人物が出てきた。金色の髪を持つ女子学生の姿だった。つまり、黒髪の女は彼女を逃したと言うことだ。女子学生は一人、悠々とワイヤーのところへと歩いてきた。いつの間にかワイヤーを滑って運ばれた木箱の数が5個になっていた。それぞれ黒ペンキで何か書かれている。女子学生はそれぞれ箱からひとつずつ、何かを取り出して地面に座り込み、組み立てている。二人はそんな姿を無言で眺めていた。

 コートを着ている男がふと、ある事に気づいてバレるのを承知で逃げ出した!

「あ、ちょっと―――」

 その直後の事、作業をしていた女子学生は立ち上がった。その手には明らかに怪しげな機械が。女子生徒は物陰に隠れている茶髪の女子にその機械を向けてスイッチを押した。瞬間、爆発音が響いて持っていた機械から何か丸い物体が発射された。それは茶髪の女子と逃げている男の間ぐらいの距離で落ちて、そして大量の爆煙を巻き上げた!一瞬にして辺りを灰世界に塗り替えた。夜だから煙幕の効果が絶大だった。敷地内の4分の1がその煙幕に埋まり、その空間には煙の焦げ臭さが立ち込めた。


「実験終了…霧都、効果はどのくらいだ?」

『4分の1くらいでしょう。正しく正常しました。』

「そーか…。」

 兎姫は無線で霧都とそんな会話をしていた。

 今、兎姫は研究所の裏側に立っている。辺りは灰色の煙幕で取り囲まれ、周囲360度の視界が奪われている。

 兎姫の手には一丁のグレネードランチャーが握られていた。装填数が0発になっている。ついさっき撃ったのだ。撃った弾丸はスモークグレネード弾。着弾点から膨大な量の爆煙を巻き上げる、完全不殺傷性の弾丸。主に相手の視覚を奪うための弾だった。それを撃ったために、ここまで煙幕が広がっているのだ。

 兎姫はそんな煙幕の中をスタスタと歩く。兎姫は一台の機械を頭に取り付けている。それは暗い空間でも認識可能にするための装置、通称『暗視ゴーグル』というものだった。赤外線で温度を感知し、対象物の存在を認識する。そのため、煙幕の中でも行動可能だった。

 煙幕の中、兎姫の視界には赤色のシルエットが浮かび上がっていた。それは人間の形をしている。おそらく、煙幕に怯んで屈んでいるのだろう。赤外線でその姿が良く分かる。兎姫はその人物へと足音を立てずに近づき、そしていつも常備しているオールで頭部を一撃。煙幕の中、不意を突かれてその人物は気絶した。

「二人目…ん?」

 兎姫は赤外線でその人物を見ていたが、どことなく誰かに似ているように見えた。なので、兎姫はその気絶した人物を持ち上げ、背負い、研究所の裏側の煙幕の届いていない場所へと運んで、その人物を寝かせた。暗視ゴーグルを取り外し、そしてその顔を見て、そして絶句した。その人物はどこからどう見ても海美だった。服装こそ違うが、それを除けば完全に海美の顔だった。

「…海美?なのか?」

「兎姫さん、終わりましたか?」

 物陰から海美がそう訊いている声がして、兎姫は我に返った。この人物は海美ではない全くの別人。しかし、あまりにも似過ぎていたので戸惑った。

「あ、あぁ、いや…あと一人だ。ベージュ色のコートを着ている金髪の男だけだ。」

 兎姫は海美と瓜二つの人物を壁際へと寄せた。そこにはもうひとり、別の人物が倒れていた。その人物は黒い髪を持つ女だった。先ほど、拳銃を向けて発砲し、命を狙ってきた人物。銃弾は当たらなかったが、兎姫の肩を軽くかすめて傷を付けた。

 兎姫は物陰に隠れている海美と直樹の所へと行った。海美は心配そうに、直樹は不安げに兎姫を見つめていた。

「そーだな、そろそろ帰らないか?」

「「え?」」

「そろそろ帰らないか?」

「「はい?」」

「だから、そろそろ帰ろうかって言ってんだよ、バカ!」

 直樹は急な提案に戸惑って、オドオドしく訊いた。

「な、何でだ?まだ、武先生がいるし、それに霧都も。」

 兎姫は直樹の肩を軽く叩いて、そしてニヤリと笑みを浮かべて言う。

「俺の指示に従ってれば良いんだよ、童貞君。」

「なっ!」

 直樹は兎姫に言い返そうと口を開くが、兎姫はその口に手を当て塞いだ。そして小さく一言。

「あいつらには策がある…。」

 そう伝えた。直樹はそんな兎姫を訝しげに見つめているが、結局その言葉を信じることにして、指示通り、帰ることにした。ワイヤーによって下ろされた5つの木箱を柵の間から通して外側へ。木箱の縦幅は短いため、柵の隙間へと通すことができるのを考慮していた。全て通すと、三人は煙幕の満ちている側とは逆側、研究所の裏を迂回して出入り口の門へと行くことにした。裏を周る際、直樹は倒れた二人の人間を見つめ、そして手を胸部に当てて黙祷した。二人の人間はぐったりとしていた。

「ご愁傷様でした。兎姫に狙われたが最後です…。運が悪かった、それだけ。」

 そう呟くと、黒髪の人間の近くに座り込み、何かしてから、直樹は二人の後を追った。

 それから数分後、一人の人間がその倒れている二人の人間へと近づいてきた。それは二人の仲間の一人、金髪で上下黒服、ベージュ色のコートを着た男だった。その男は二人を無言で見つめた。

「・・・・・・。」

 その金髪の男は無言のまま、座り込んで茶髪の女子を叩いて起こそうとする。しかし、その女子は一向に起きる気配がなかった。次に隣に倒れている黒髪の女を起こそうと叩く。その女はすぐに気がつき、頭を押さえて立ち上がった。

「うぅ…な、何―――」

 その時だった。女の背中になぜかついている紐が、紐の先にある円柱形の何かから引き抜けた。男はそれに気づき、飛び逃げようと構えるが既に遅かった。円柱形の何かは黒髪の女のすぐそこで起爆し、膨大な量の光と鼓膜が破れるくらいの響音が放たれてコートの男と黒髪の女は大ダメージを受けた。男はふらついて地面に倒れ、女は耳を押さえて転がりまわった。その円柱形の何かは軍事兵器『スタングレネード』という手榴弾の一種だった。ピンを引き抜くと起爆して、閃光と響音で視覚と聴覚の自由を奪う。彼らはしばらく立てないだろう。一方の茶髪の女子は気を失っているため、何も感じてはなかった。


 兎姫と海美と直樹の三人は巨門から普通に出て行った。その数秒後の事だった。敷地内のどこからか甲高い音が響いた。

「…本当にえげつねぇことするよな、兎姫。」

「安心しろ、命に別状はねぇ。」

 青ざめて兎姫を見つめる直樹に、兎姫は平然とそう答えた。

「ところで、何かしたんですか?」

 海美だけが状況理解をできていない。

「知らないほうが良い事もあるんだよ。」

 兎姫はそう誤魔化して研究所を背に帰っていった。海美もその後に続く。そして直樹だけが研究所前の門に取り残された。研究所内は未だスモークグレネード弾による煙幕に包まれている。直樹はそんな研究所内を見つめて小さく溜息を吐いた。

「兎姫は一体…何手先まで読んでるんだか…。」


 コンピュータ制御室。真っ暗な部屋の中、電子パネルの怪しげな光がよく目立っている。操作盤の上にパソコンが置かれ、操作盤からコンピュータをハッキングするためのコードが伸びていた。その前に一人の学生がゆったりと椅子に座っていた。その人物は画面に映る監視カメラの映像で三人組が巨門を潜るのを確認していた。

「脱出成功ですか…。そろそろ私も時間ですかね。」

 そう呟くと、彼は机の上に置いていた白衣に身を包んだ。その姿はどこからどう見ても完全に科学者に見える。身長が高いので、学生には見えず、むしろ大人に見える。

 彼は自前のパソコンをバッグにしまって部屋から出るつもりだったが、その前に少し興味のある一文を見つけた。それはハッキング先のコンピュータ内で見つけたファイルに入っていたもの。メール文だ。

『一週間後、試作品を回収しに行く。その時までには研究を終わらせておけ。』

 それだけの文だったが、明らかに意味深な文だった。宛先はノトスと、送り主はボレアースと書かれていた。彼はそのメールが気になったのか、自分のパソコン内に全てコピーして保管した。

「では、そろそろ行きますか…。」

 彼はパソコンを自分のバッグにしまい、それを持って廊下へと出て行った。廊下は停電中で真っ暗だった。その長い長い廊下を極普通に、まるで自宅を歩いているかのような歩行速度で平然と歩いていた。すると、前から武装警備隊の一団がやって来た。その一団の中のリーダー格の人間が彼に気づいて目の前で立ち止まった。

「すいませんが、侵入者を見ませんでしたか?三人組の。」

 リーダー格の警備員が彼にそう訊いている。彼はハッカー、敵ではあるが、白衣を着ているだけで誤魔化せている。

 彼は科学者口調で、

「私の視野で判別できる範囲内にはまず存在していませんでした。」

 そう言った。

「そうか、悪かったな、仕事の邪魔して。」

 リーダー格はそう返して、そのまま一団と一緒に通り過ぎていった。

 彼はそれを見送ると、再び歩き出し、フロントまでやって来た。そして止まっている自動ドアの隙間から出て行った。

 外では煙幕が張られていて視界が遮られている。彼はそんな煙幕なんかは気にせずに出入り口の巨門目指して歩き始めた。しばらくして煙幕を突っ切り、視界が開けた。そこは巨門前だった。彼はそのまま巨門を潜ろうと足を浮かせる。その瞬間だった。

「動くな。」

と、低い女の声が背後から聞こえ、彼は立ち止まって振り向く。そこには黒革ジャケットを着ている女が一人。手には一丁の黒く輝くリボルバーが握られて、銃口がこちらへと向けられている。見るからにその拳銃は6発装填式。リボルバーの撃鉄がすでに上げられていて、引き金を引けば撃鉄が落ちて撃針を押し、銃弾内部の点火薬を爆発させる。その爆発によって銃弾内部にセットされている発射薬が誘爆し、弾心と呼ばれる鉄の塊が銃口から放たれる仕組み。

 白衣を着ている彼は銃が向けられても至って平然を装い、緊張感のない口調で言った。

「どうぞ、躊躇せずに撃ってもらって結構。さぁ、どうぞ。」

 そして彼は両手を上に挙げ、自分は無駄な抵抗をしない意を示した。

 銃を構えている女が彼の心を狙い、そして引き金を引いた!撃鉄が振り下ろされ、弾倉に当たった。しかし―――

 カチンッ。

「・・・・・・?」

 発砲音の代わりに鉄同士の軽い打音が聞こえた。女はそれに首を傾げる。その隙を突き、白衣の彼は動き出した。前方へと一気に間合いを詰め、そして左手で女の拳銃を薙ぎ払った。女は勢いで腕ごと左側へと薙ぎ払われる。その瞬間、白衣の彼は女の顎へ強烈なアッパーを食らわせた。鈍い音と共に女は後方へと飛ばされて地面に背中を強打した。

「っな…んだ?」

 白衣の彼は倒れた女の前に立ち、見下した状態で口を開いた。

「どーも、マヌケな三人組のリーダーさん。」

「!…なぜ、それを?」

「先ほどから監視カメラ越しに見ておりましたので。」

「監視カメラは停電で止まっているはずだ…。」

 白衣の彼は説明を始めた。

「あ、それ?停電を引き起こしたのはこの僕です。コンピュータ制御室で操作盤をハッキングしまして、自由自在に機器を停止、起動できるようにしました。僕はその部屋で自由なタイミングで監視カメラを起動し、あなたがたの存在を確認しておりました。」

 それを訊いた女が絶句して黙り込んだ。白衣の彼は続けて説明をする。

「それとあれですね。あなたがた三人が研究室にやって来た時、警報が鳴りましたよね?停電しているのに警報が反応すること自体、おかしいとは思いませんか?」

「それも…お前か…。」

 女は呆れた表情で彼を見ていた。

「はい、その通りです。それに、あなたは金髪女子校生に襲われませんでしたか?」

「それも…見てたのか?」

「もちろん。…実はその三人組、僕とグルでして…。あなたがたが尾行しているのはあらかじめ、無線を通して説明しておきました。ですから、すぐに対応できました。あなたの仲間の男もまんまとハマりましたね。あなたの背中にスタングレネードの罠を引っ掛けたのは、あなたがたが三人組だと言うことを知っていたからです。なので、金髪の女子校生が罠を仕掛けておいたのです。仲間は必ず仲間を見捨てないでしょうから。そして案の定、あなたと男はスタングレネードの罠にハマりました。」

 それを聞いた女は頭を抱えていた。しかし、彼の説明は終わらなかった。

「そうですね、あと一つ、あるとすれば…あなたが今さっきした行為ですね。僕を射殺しようと銃を構えた…その行為です。」

「もしかして…それも読んでいたと?」

「僕が生きているのであれば、そういう事になるでしょうね。あなたが伸びている最中に、僕の仲間の一人があなたの拳銃をすり替えておきました。先ほどあなたが持っていたのはモデルガン、ではなく本物でしたが、同じ型の別の拳銃です。銃弾は当然装填されていません。この期を予想しての事です。」

「お前…一体何者なんだ?」

「探偵…なんて名探偵コ○ンみたいなセリフは言いませんよ。今回の作戦は全て僕の案ではありません。あの時、あなたを倒した金髪女子校生の作戦でした。僕はその作戦にのっただけですので、別にこれといった凄いとこはありませんよ。」

 そう答え、倒れている女を背に、白衣の彼は巨門を潜って外へと出て行った。女は倒れた状態のまま、真っ暗な空を眺め、そして高らかと哄笑した。


 研究所付近の裏路地。光が入らず、真っ暗な路地で会話が聞こえていた。

「脱出成功…ですかね。あなたの思惑通り、女は狙いに来ました。」

『そーか、それは良かった。あのバーで俺らは待ってるから、早く来いよ。』

「分かりました。」

 白衣姿の牧野霧都は無線で兎姫に報告を済ませた。そして帰ろうと足を動かした時だった。背後から何者かの気配がして霧都は振り向いた。そこには闇に紛れて一人の人間が立っていた。上下黒服、ベージュ色のコートを着た姿の男。霧都は見覚えがあった。コンピュータ制御室の監視カメラ映像に映っていた三人組のうちの一人だ。

「あなたは確か…マヌケな三人組の一人…。」

「・・・・・・。」

 男は無口のまま、霧都を睨んでいた。霧都はその男の視線には動じず、緊張感のない口調で言った。

「そうですね、あのリーダーさんにもネタばらしをしたので、あなたにもしておきましょうか。スタングレネードトラップについてを。」

 その時、男が急に動き出した。腰から一本のナイフを取り出し、構えて突撃してきた。霧都は逃げようともせず、立ち尽くしてそれを見ていた。

「では、ネタバレしましょう。」

 その直後だった。男がナイフを霧都に突き刺す瞬間、男の頭部に強烈の衝撃が走って、男は地面に倒れこんだ。その背後には武装警備員が一人、パイプを手にして立っていた。

「これもあらかじめ策を考えてましてね。あなたが私を追ってくるのを考え、武装警備員一人をここに…あ、ちなみに、この人はグルです。…いえ、実のところ、あなたの襲撃は予想外でした。助かったのは単なる偶然でしたね。やはり、あなたがたは運が悪い。」

 殴られて倒れた男は気を失っていた。霧都の言葉は何一つ届いていない。

「それでは武先生、行きましょうか。」

「近頃はこんな物騒な奴がたくさんいんのか?人の生徒に手を出すなんて許せない奴だ。」

「ま、良いでしょう…許してあげても。過ぎたことは過ぎた事です。」


 再び、兎姫行きつけのバーにやって来た白衣姿の霧都と武装している武。兎姫、海美、直樹の三人はバーの奥、外からは死角になっている席でそれぞれコーラを飲みながら話に熱中していた。とにかく、深夜だというのに煩いくらい盛り上がっていて、カウンターのマスター兼バーテンダーがその様子を温かい目で見つめているところだった。

「兎姫、終わったぞ。」

 武が話で盛り上がっているところを割り込んできた。

「んだよ、武…。今、おもしれぇとこなのによぉ。」

「それどころじゃないだろ。」

 武は背負っていた何かを皆の前に置いた。それは計5個の木箱。兎姫たちが必要としていた目的の品だった。

「これ、どういうことだ?説明してもらうぞ、生徒会長。」

 武は兎姫に言い寄る。兎姫は溜息を吐いて、そして武にこう切り出した。

「じゃあ…俺が言う代わりに、お前の秘密を暴露するってーのはどうだ、ん?」

 兎姫は実に悪そうにニヤついて低い声でそう言った。これには武は顔をしかめた。武は皆に言うことのできない秘密がある。それを握っている兎姫。いくら武が何かを言ったとしても、兎姫には勝てない。つまり、兎姫は優越権を所有しているのです(笑)。

「え、ナニソレ?面白そうですね~、兎姫さん。私も知りたいな~。」

 話に盛り上がっていた延長線上、海美が兎姫の悪ノリにノリ始めた。

「実はな、武の奴は―――」

「あぁぁぁぁぁっ!言うな、バカ!」

 武は叫び声を上げて兎姫の声を遮断した。

「んだよ、うっせぇなー。体育教師か、バカヤロー。」

「体育教師だ!」

「何で駄目なの~!兎姫さんだけ知ってるなんてズルいですぅ~。」

「そうだよな、喜びや幸せはみんなで分けるもんだよな。ってことで、言っていいか?」

 兎姫は目を輝かせ、キャラにないことを口にして武に願う。

「駄目だ!」

 武は一言即答。立っているだけなのに汗がすごかった。

「おいおい、兎姫。お前、それいつから知ったんだ?武の野郎がいなくなってから、内容を教えてくれよ。」

 ついには直樹もノリ始め、武は大ピンチ。先ほどから冷や汗が止まらなくなっていた。そんな武を見て、隣にいた霧都は手助けしてあげることにした。

「救世部部長の兎姫さん。そろそろ雑談は止めにして、本題に入りませんか?正直に言ってもらいましょう。この木箱の中身、これは確実に―――」

「軍事兵器…といったところだろ。」

 霧都の言葉を引き継いで、兎姫はそう言った。

「そうです。これは明らかに軍事兵器。一体、依頼者はなぜこの軍事兵器を盗むまでして欲しているのか。それを訊きたいところですが…当然、救世部員が知ってる訳もないでしょうから、その依頼者を今から訪ねに行くことにしませんか?」

と、普段の霧都からは考えられないような意外な提案をされて、兎姫はしばらく考え込んだ。そして、

「…まぁ、それもありか…。」

 霧都の提案に乗る事にしたのだ。

 霧都は兎姫たちには聞こえない声で、

「良かったですね、話題…変わりましたよ。」

と、武にそう呟いた。


 時刻が午前4時を回った頃、救世部三人と牧野霧都、坂出武の五人は依頼者の家、久留米炉利の家へとやって来ていた。既に深夜を過ぎたため、東の空が明るくなり始めている。炉利の家はすぐ近くの町中にある。二階建ての青い屋根の家だ。

「あの…本当に行くんですね…。」

 海美が炉利の家を眺めながら兎姫にそう訊いた。

「今更何言ってんだよ。」

「あれは冗談かと…。」

「冗談だったら最初から依頼なんて受けなかったさ。」

 兎姫はそう言い終わらせ、炉利の家のインターホンを押した。町中はまだ静かなため、中で鳴ったブザー音が外まで届いた。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

「おい、起きてねぇんじゃないのか?」

 黙り込む4人の代わりに武がそう呟く。兎姫は再び、インターホンを押す。再び、ブザーの音が聞こえたが―――

「「「「「・・・・・・」」」」」

 同じ結果になった。

 まだ早朝。深夜を開けたばかりだ。普通、起きている訳がない。当然の結果だった。

「じゃあ…最終手段はこれだな。」

 兎姫はインターホンを連続で押し続けた。ブザー音が連続で鳴り続けて、家の外まで聞こえていた。これは相当鬱陶しいはずだろう。確実に眠りを阻害できると兎姫は考えていた。そして計画通りに反応してくれたようだ。インターホンのデジタル画面に一人の人間が映った。大人の女性だ。眠たそうな顔で言った。

「はい…どちら様ですか?」

 兎姫はその画面越しに言った。

「久留米炉利の依頼を完了させた。話がしたい。」

 明らかに怪しまれるような文法で兎姫は言った。画面に映る女性は訝しげに兎姫を見る。兎姫は金髪で澄んだ目をしている。その見た目が余計に怪しまれるのだ。

「…あの、お友達?ですかね?」

「そうだ。じゃなければ、そちらのお子さんの名前を知ってる訳ねぇだろ?良いから開けろって。じゃねぇとあの軍人ロリータを―――うがっ…。」

 海美が兎姫の首根っこを引っ張り、ポジションチェンジした。

「す、すいません!兎姫さんが無礼を!…えっと、私たちは久留米炉利さんの依頼を承った者ですが…。学校内では救世部という名前で活動しています。救世部は生徒の悩み、頼み事を引き受け、手助けすることが目的の部活動です。最近、久留米炉利さんが救世部に依頼を頼みに来まして、私たちはその依頼を引き受けました。そして依頼を終了したので報告をしようと来た所存です。久留米炉利さんは何かしら悩みでも持っているのではないでしょうか?」

 海美は流暢に説明をした。さすがは普段から依頼人の依頼を訊いているだけはある。まるでセールスマンのようだった。海美の優しい口調に、画面越しの母親らしき人物はちょっと心を開いたのか、久留米炉利を呼んで来てくれるという。そしてインターホンの映像が途切れた。

「どうですか、兎姫さん?」

 海美は笑顔で振り向く。兎姫はヤレヤレと頭を抱えていた。

 しばらくしてから玄関の扉が開き、中から迷彩色のパジャマを着た久留米炉利が眠たそうに目を擦りながら出てきた。寝起きだからか、静電気によって跳ね上がった髪の毛は手入れされていない。

「んむ~…何です~?」

「よぉ、炉利。俺だ。」

 炉利はしばらくマジマジと兎姫の姿を見つめ、目の前の人物が兎姫だと理解した瞬間、飛び上がった。

「んだよ、そこまで驚くか、ん?」

「え、えええ、えっと、何でここに?」

 状況がイマイチ飲み込めていない炉利は動揺して口が上手く回っていなかった。兎姫の後ろに立っていた海美がそれについて説明した。そして眠気の覚めた炉利はようやく状況を把握して、そしていつも通りのテンションに戻った。

「それじゃあ、もしや…もしや、依頼を~―――」

「完了させたんだ。」

「イェ~イ!」

 久留米炉利は嬉しさで兎姫とハイタッチする。兎姫はいきなりのことで抑制が効かず、ついハイタッチしてしまった。

「ま、まぁ…あれだ、こんなとこで説明なんておかしいだろ?中に入るぜ。」

「どうぞどうぞ、皆さん!」

 久留米炉利はスリッパを5つ用意し、一階のリビングに案内した。早朝でまだ暗いので、リビングの電気を点けた。それほど広くないリビングにはソファーが二つ、机が一つ、大きく細いテレビが一台、東側に窓があって庭に繋がっていた。兎姫たちはソファーに座る。久留米炉利は椅子を持ってきて机越しで皆の前に座った。

「別にお茶とか出してくれても良いんだぜ?遠慮しないからよ。」

「それ、炉利さんの方のセリフですし!がめつい!がめつすぎる!」

 海美が久々にツッコミ役に回った。そもそも、海美のキャラでツッコミ役を貫き通すのは無理があるだろうと兎姫は思っていた。その証拠に、兎姫は呆れ顔が隠しきれていなかった。

 一方の久留米炉利は、

「そうでしたね、失礼しました!今持ってきますんで、待っててください!」

 この子はとてつもなく純粋な子なので、兎姫が言った言葉は正しいとそのまま認識してしまっている。悪いのは自分の方だと思い込んでしまっている。兎姫に漬け込まれそうな人材だ。久留米炉利自体は全く不快だとも思っていないようだ。そして本当にお茶を持ってきて全員に配分した。

「お、どーも、ロリータ二等兵。」

「誰がロリータだ!」

 兎姫は堂々とそのお茶を飲み干した。そしてお茶の入った湯のみを机に置くと言った。

「冷てぇぞ、炉利。寒いのにわざわざクールなもん持ってくるか?オ・マ・エ・は・馬・鹿・か?」

「すみません!今すぐ用意するので怒らずにお待ちください!」

 久留米炉利は焦って立ち上がり、全員の湯のみを回収する。兎姫以外の4人は別に良いとは言っていたが、純粋久留米ちゃんは、「そんなこと、無礼に当たります!客人を持て成すのは軍人として当然ですので!」と、訳の分からない自論で聞かなかった。だが、やはりホットのお茶を作るのには時間がかかるため、しばらく久留米炉利は戻ってこなかった。

 直樹はそんな兎姫の姿を見つめて顔を青ざめていた。

「…がめついってより…狡猾って方が似合ってんな、あははははは―――」

 直後、直樹の顔に兎姫の拳がめり込んで直樹はソファーの後ろに倒れた。

「誰が悪じえ働く良い女だ、バーロー!」

「誰も言ってないっ!」

と、海美は突っ込んだ。

 直樹は顔を押さえてソファーに再び座ると、心を落ち着かせていた。しかし、笑いが止まっていない。何かにツボってしまったのだろう。笑いを堪えているが、微かに笑い声が聞こえている。案の定、再び殴られてノックアウトした。


「ところで…話を切り替えますが、久留米炉利とは一体何者でしょうか?失礼ですが、常人、には到底思えません。ミリタリーオタクならば、確かに原物の武器、兵器などに憧れを持つことは理解できますが、盗みの依頼まで頼んで…欲しいですかね?僕には考えられない。それとも、何かしらの企みでも練っているのでしょうかね?」

 情報処理部部長、牧野霧都の言葉に、一同は黙り込む。

「救世部の皆さんは毎回、このような依頼を受けて来たのですか?」

「…まぁ、な。」

 どいつもこいつも…全く、問題児ばかりだ。『金を奪い返せ』だ、『勉強を代わりにやれ』だ、『見張り番をしろ』だ…。挙げ句の果てに、盗みときた…。救いようのないバカばっかだ…。まぁ、そこにちょいと愛着が湧いちまうのも確かってことか…。何言ってんだろう、俺?

「今回のケースはランク5に当たる…最上位の依頼だ。こんな依頼は希にあるぐらいだったが、ここ最近はヤケに物騒な依頼が多い…。世も末か?」

「久留米炉利のような普通の生徒が一体なぜ、その最上位の依頼なんかを頼んできたのでしょうか?そこに疑問を持ちませんか?日常生活において、そのようなランクの依頼は普通、出てはいけないもののはずです。そんな依頼が多くなっているということは、この学校内で何か影が潜んでいる、なんて考えすぎでしょうが…一応、警戒はしておいたほうがよろしいかと…。」

「あぁ、ご忠告どーも。」

 その時、久留米炉利が大急ぎで湯気の出るお茶をお盆に乗せて持ってきた。

「すいません、待ちましたか?!」

 炉利は息を荒げてそう叫ぶ。兎姫は気だるそうに一言、

「お前…ボレアースって知ってるか?」

 そう言った。

「ボレアース?…って兎姫さん、それは一体―――!」

 海美は直後思い出し、兎姫を見開いた目で見つめた。

 久留米炉利は兎姫の言葉に一瞬だけ笑顔のままで硬直していたが、すぐに口を開いて、

「知ってます!知ってますよ!」

と、とびきりの笑顔でそう叫んだ。これには兎姫と海美は驚いて絶句した。一方の直樹、霧都、武は状況理解ができてないため、黙り込んでいた。

 兎姫が言う『ボレアース』とは―――

「神様ですよね!私wikiで見たことあります!確か…どっかの方角の風の神でしたっけ?それがどうしたのさ?」

「んだよ!神の方かよ…考えすぎも駄目って訳か…。」

 兎姫は久留米炉利の答えを訊いて落胆した。兎姫が求めている答えとは違っていたからだ。

 兎姫が言う『ボレアース』とは、日本の裏組織『四陣』の一つ。四陣は『ゼピュロス』『ボレアース』『エウロス』『ノトス』の四つ。それぞれ風の神の名前に沿って名付けられている。そのうち、ボレアースとは秘密軍事組織の集団。久留米炉利が軍事についてのオタクだから、兎姫は一応(もし久留米炉利がボレアースの一員だったらを仮定した話で)、ボレアースについてを訊いてみたのだ。兎姫は海美と直樹などには伝えているので、海美が驚いたのは知っていたからだ。一方の直樹は完全に覚えてないらしい。

「おいおい、お前ら…そのボレアースって何だよ?」

 体育教師、坂出武が空気を読まずに利いてきた。

「うるせぇな、テメェには関係ねぇだろうが。女の会話に水差すんじゃねぇよ、クソドロビッチ。」

 兎姫はガン飛ばして言った。武は先生の立場とは思えないぐらいに沈み込んだ。

「知らねぇなら良いんだ、悪かったな、久留米。邪魔したぜ…。」

 兎姫は久留米に優しくそう言って、立ち上がり、出ていこうと歩き出した。久留米は急に優しくなった兎姫に首を傾げる。

「あ、もう行くんですか?」

 海美は兎姫にそう訊く。

「あぁ、もう用はない。行くぞ、海美。」

「はい、兎姫さん♪」

 海美は笑顔で立ち上がって兎姫の後に続いた。直樹と霧都、武の地味キャラ三人は無言で顔を見合わせた後、久留米を見た。久留米はぽわんとしていた。

 直樹は気だるそうな兎姫と、その後を追う笑顔の海美を見て、

「何だかな~…。」

と、独り言ちた。

「直樹さん、どうしますかね?僕らも帰りますか?」

 霧都は直樹にそう訊いた。

「俺はもう帰りたい。というか、眠りたい!」

 武は問答無用で帰るつもりだ。一方の直樹は、

「う~ん…帰っても良いが…その前に一つ用事がある…。」

 直樹は久留米を見つめ、キリッとした目つきで言った。

「まだお茶を飲みきってない。」


 兎姫と海美は直樹、霧都、武の三人を久留米の家に残し、先に帰っていた。早朝の明るくなり始めている薄青い空と星がちらついている薄暗い空の境界線を歩いていた。つまり、何が言いたいかというと…二人は南へと歩いているということ。薄暗い路地を二人で歩いていた。

「良いんですか?」

「ん、何が?」

「あの三人、まだ久留米炉利さんの家に残ってますが…。」

「ほっとけ、男どもは。男は男にしか分からない『The World』てもんがあんだろ?」

「そうですけどー…。」

「それよりな、今、俺らは自分の身の安全を第一に考えたほうが良さそうだ…。」

 兎姫は背中に背負っていたオールを右手に持った。海美はそんな兎姫を不思議そうに見ていた。

「海美、俺の前を歩け。」

「はい?」

「良いから。」

 兎姫は海美の後ろに回り、そして後ろの暗い路地に向けて言葉を放った。

「お嬢ちゃん、こんな暗い夜道に一人でどこへ行くつもりだ?」

 その言葉が発せられた数秒後、物陰から一人の人間が出てきた。海美はそれに気づいて咄嗟に兎姫の背後に身を隠した。その人間は薄暗くて分かりづらいが、兎姫は理解していた。その人物は薄い青のワンピースを着た女子。研究所で出会った三人組敵グループの一人だった。

「良くお分かりで…。」

「いい加減にしてくんねぇか…そろそろ飽ききってんだよ、読者も俺らもな。何回逆襲してきてんだ、テメェらはよぉ…。ポケ○ンのロケッ○団か?」

 注意:兎姫の発言に一部、ネタ発言が含まれています。兎姫の悪ふざけをお許し下さい。

 ワンピースを着ている女子は覇気のない口調で言った。

「別に襲撃しようとしてる訳じゃないわ…。あなたたちのチームワーク及び戦略には感服しましたので。」

「それはどーもw」

「そこで一つ…あなたたちに訊きたいことがありまして…。」

 その女子の言葉を聞いて、兎姫と海美はお互いのキョトンとした顔を見合った。

「…実は私たち、あなたたちの狙っていたものと同じものを狙っていたのよ。」

「ふ~ん…。」

「訊きたいことは…あなたたちの奪ったものについて。それは何なの?」

 その女子の真剣な質問に、二人はこう答えた。

「何だって聞かれてもな…。ナンダカンダと訊かれたら!」

「答えてあげるが、世の情け!」

「世界の破壊を防ぐため!」

「世界の平和を守るため!」

「愛と真実の悪を貫く!」

「ラブリーチャーミーな敵役!」

「ってのはどうだ?」

「答えになってないでしょ!」

と、突っ込まれてしまった。


「ポケ○ンを引きずってこないでくれる…。話がだいぶ脱線しましたよ。で、結局何を奪ったの?」

 ワンピースを着た女子が再びそう訊いてきたので―――

「ナンダカンダと訊かれたら!」

「もう良いっ!」

 今回は早かった…。

「悪い悪い…ついネタをぶち込みたくなってな(作者的にもw)。」

 ワンピースの女子は大きく溜息を吐いて、そして急に背を向けてどこかへと歩き出していった。海美はその背中へと叫んだ。

「あの…どこへ行かれるのですか?!」

 その女子は一度、振り返り、

「あなたたちの馬鹿さ加減が知れたから良いのよ、もう。何を手に入れたか…理解できたし。」

 そう言って再び薄暗い路地を歩き始め、そして闇の中へと消えてった。兎姫と海美はお互いの顔を見合い、そして首を傾げた。

「…何かしけちまったな…帰るか?」

「そうですね。」

 二人は女子の歩いて行った方角を背にして、南へと歩き出した。この時にはすでに太陽が水平線から顔を出し始めていた。

 二人のいなくなった薄暗い路地の一角、先ほどの女子が闇の中から二人の背中を優しい目で見つめていた。

「…何を手に入れたかなんて明白じゃない…。ひとえに…金だよ。」

 クスクスと笑いながら独り、そう呟いた。

 その数秒後―――

「ってか、俺は馬鹿じゃねぇからなぁ!」

と、言う誰かの声が遠くから聞こえた。


 火曜日の放課後、直樹は珍しく一番に救世部へとやって来ていた。扉を開いて直樹は驚く。誰もいない、明かりの点いていない部室に。恐る恐る入るが、特に異常なし。直樹が驚いているのには訳がある。救世部の部活開始時間は基本4時以降から。現時間は開始時間より30分もオーバーしている。普通、兎姫と海美は時間前にはやって来ている。そのため、この状況に驚愕しているのだ。

「昨日のアレで寝不足か?」

 直樹は一人、部室のスイッチを入れ、誰の声もしない部室のいつものポジション、入口から左側に設置されている広机の一角に座って顔を机に伏せた。気だるそうに眠りに老けていると、しばらくしてから扉が開く音で目が覚めた。

「う~い…誰ですかー?」

 直樹は寝ぼけ眼を擦って確認する。入口に立っているのは兎姫と海美の二人だったが、いつもと様子が違う。お互い、全身を砂埃などで汚れまくっていた。兎姫の服は穴だらけになっていて、オールも損傷が酷い。海美の方は服などが土汚れでくすんでいるだけだった。海美は右腕を骨折で矯正中なのに、こんなになるまでに動いていて大丈夫なのかと直樹は思った。

「ど、どうしたんだ、それ?…ボロボロじゃねぇか…。」

 兎姫と海美はいつものポジションに無言で着いた。そして、兎姫が第一声を放った。

「しつけぇんだよ!あのヤロー!」

 その声が密室の部室内に反響し、そして綺麗に消えた。

「…あのヤローって何?」

 兎姫は面倒そうに右手を海美の肩にポンっと置いて、海美にパスした。海美は疲れ顔で直樹に説明する。

「今日の朝からずっと…私たち、狙われてるんです、『ノトス』たちに…。」

「はぁ?」


 救世部もそろそろ危なくなってきました…。書いている自分ではありますが…なんかおもしろくなってきましたね!自己満足です、すいません。

 闇組織編・変故は長くなりそうな気配がします…。

 今回、29話目の最後に海美がいった言葉が次回に響くでしょう…。『ノトス』ご登場になりそうです…。

 次回は見逃せませんよ、なんてハードルあげていいのか?

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