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ENDよければ何とやら  作者: 星野夜
第1章『闇組織編・変故1』
29/42

28話目『RELEVANCE。』

 以前と変わらず、ただいま授業中の星野夜です。「教科書120ページ開いて」と先生の声が響き、そして開くものの目を向けず、パソコンの画面だけを見つめております。


 さぁてと、今回から『闇組織編・変故』に入ります!ここからストーリーが急展開を迎え始めます!

(と、言ってるものの…正直、自分でもまだ穂先真っ暗なんですよ…。)


 今回は『闇組織編・変故』の第一話、28話目『RELEVANCE。』です。


(先生がうるさいなー。)

 月曜日の放課後。兎姫は気だるそうに部室へとやって来た。扉を開くと右手に矯正バンドを付けた海美が先に部室へと来ていたのが見えた。いつもは兎姫に追従していたけど、今日は兎姫が遅すぎたので先に来たのだ。あの遅刻屋直樹もすでに来ている。つまり、兎姫が遅いのだ。最近、兎姫はいつも遅刻している。そして気だるそうにソファーに倒れるのだった。

「あの…兎姫さん?」

「んあ~…何だー?」

 兎姫はうつ伏せでソファーに倒れた状態のまま言った。

「…何か最近変ですけど…一体何をしてるのですか?もしかして喧嘩とか?」

「ちげぇーよ。…徹夜だ徹夜。」

 直樹が気になって机に伏せていた顔を上げた。

「兎姫が徹夜か…珍しいって訳でもないけど、確かにおかしいな。いつもだったら―――」


 兎姫が部室へとやって来た。

「ってか、窓ガラスまだ直んねぇのかよ。いい加減にしろよマジで。」

 そう愚痴ってソファーへと飛び込む。数回身体が跳ねて、そして止まった。

「今日もナイスダイ部です、兎姫さん。」


「って感じだろ?なのに、どーしたって言うんだ?ちょっと心配になるだろ、無駄に。」

「無駄にって何だよ、無駄にって。俺は疲れてんだ。人間誰だってそんな時期があるだろ?要するに、男は一夜に3ラウンドもやれないって事とおんなじなんだよ、分かるか?」

「「分かるかぁ!!!」」

 と、海美と直樹が同時にハモった。

「息ピッタシだな、おい。」

 そんな時、部室の扉が開いた。三人はそこへと注目するが、誰も立ってはいない。

「何だよ…誰もいねぇじゃねぇか。」

「会長…ここです、ここ。」

 どこからか女子生徒の声が聞こえた。それは扉の方からだ。兎姫は誰もいないはずの扉を見る。そして視線を下げた。そこには身長の小さな金髪が目立つ女の子が一人。兎姫は重い身体を動かしてその女の子の前に座り込んだ。

「お嬢ちゃん、ここは幼稚園じゃ―――ブッ!」

 兎姫の顔面に女の子の拳がめり込んで、兎姫は後ろへと倒れた。

「幼児じゃないですから。」

 これには衝撃。海美と直樹が同時に目を丸くして驚いていた。

「とととと、兎姫さん!我慢して!」

「そーだ!お前、幼女には手を出すんじゃねぇぞ!」

「出さねぇーよ、バーカ。」

 兎姫は身体を起こし、そして幼女を優しそうな目で見つめた。

「全然、痛くな~い。」

「会長、救世部の審査結果を発表しに来ました。ふざけていると廃部にしますよ。」

 そのセリフに飛び起き、即座にソファーに姿勢正しく座った兎姫。女の子はその前の椅子に座りました。

 この金髪の目立つ女の子は生徒会執行部の一人、狐火木ノ葉。一度月曜日に、救世部を訪れ、そしてこのような事を救世部に宣告した。


『私は、救世部の部活動を評価しに来ました。活動を確認、評価し、その善悪によって、救世部を廃止するか否かを決めます。』


 その結果を発表しに来たのだ。兎姫、海美、直樹の三人は一同、木ノ葉に注目する。木ノ葉は至って冷静沈着に淡々と説明し始めました。

「それでは、結果を言います。…救世部は―――」

 正しい姿勢の兎姫、緊張して汗が止まらない海美、唾を飲み込んだ直樹。

「救世部は…廃部―――」

「んだとぉ!」

 兎姫はブチ切れて立ち上がり、オールに手をかけた。海美と直樹が慌てて兎姫を押さえ込んだ。木ノ葉は何も動じず、席から立とうという姿勢も見せていなかった。ただ無表情で見つめいた。

「まぁまぁまぁまぁ、兎姫さん!手を出したら負けですって!」

「馬鹿か、お前!いくら生徒会長でも、それはマズいって!」

「ドケェ!海美、直樹!」

「―――にはなりません。」

「はぁ?」「え?」「何?」

 木ノ葉の言葉に、三人の動きがまるで時間が止まったかのようにストップした。

「…救世部は廃部にはなりません。継続、という方向で決議されました。おめでとうございます、会長。」

 そこから数秒間、全員は黙り込んだ。サッカー部の外周走の掛け声が通り過ぎた後、三人は歓声の声をあげた。三人共、廃部にならなかったことを心から喜んでいた。そんな姿を見上げていた木ノ葉。一瞬だけクスッと笑って、そして席を立った。

「それではこれで。会長、くれぐれも落ち着いた行動をお願いします。」

「待て、木ノ葉!」

 兎姫は木ノ葉に訊きたいことがあった。

「なぜ、廃部にならなかった?この部活動は評判が悪いんだろ?ラジオの収録の時に言ってたのを覚えている。なぜだ?」

 木ノ葉は振り返り、無表情で説明した。

「そのラジオ…私も訊きました。吹奏楽部一年の緋音ナナさんがMCを勤めている『スクールズ・フリーダム』というラジオ番組でしたよね。」

「聞いてたのかよ…どれだけ生徒会執行部の仕事を忠実にこなしてんだ、お前。」

「…確かに迷惑がかかっている事は目を瞑れませんが…その事よりも多くの生徒を助けてきたのも事実でしょう。今回、一週間見てきましたが、特にこれといった悪い所はあまり見られませんでした。演技だとしても、私の目から、耳からして評価した上では、合格ラインでした。それだけでしょう。会長、念入りにもう一度だけ言いますが、くれぐれも学校内での行動を謹んでください。それでは。」

 そう説明を終えると、木ノ葉は颯爽と部室を出て行った。

「良かったですね、兎姫さん。あれだけ救世部を愛してたんですから。」

「まぁな。…学校内での行動を慎め…かー。つまりだ、学校外だったら何したって良いって訳だなぁ!ふははははははははははは―――」

 ガラガラ。

 直後、部室の扉が少しだけ開き、木ノ葉がひょこっと顔を出して兎姫を見つめた。

「じぃー…。」

「は、はは…じょ、冗談だよ…冗談。」

「一つ、伝え忘れていました。ソファーの中、机の下、デスクの中、窓ガラスの上、ロッカーの上、本棚の本の裏、入口の上、立てかけてあるパイプ椅子の座の裏、貼ってあるポスター裏、コンセントを調べてみてください。そこに盗聴器を仕掛けておきました。勝手に仕掛けてしまってすいませんでした。」

 そう言って扉は閉まった。

「ははは…んだと?盗聴器だって?」

 三人は木ノ葉の言った場所を全て確認する。言った通りに盗聴器は見つかった。全部で10個。

「…いつの間に仕掛けられたんだ?あの幼女…油断できない…。」

「兎姫さんも大変ですね…色々と。」

「全くだ…。」

 兎姫は机の上に並べられた盗聴器を見つめていた。すると、一つだけ何か異物が付いているのに気づいた。それは巻かれた小さな紙だった。

「んだよ?この紙は?あの幼稚園児が何か仕掛けたか?」

 紙を開いた兎姫。そこにはボールペンで、

『幼稚園児じゃないです。幼児扱いしないでください、会長。』

 と、書かれていた。

「・・・・・・。」

「ふふふっ…兎姫さん、見透かされていますね、木ノ葉さんに。」

「ますます油断できねぇ…。」


 狐火木ノ葉の包囲網から解放されてゆるゆるになっている救世部。暇マターが分泌されている気密状態の部屋の中、三人はいつも通りに暇を持て余していた。先週、龍谷の割った窓ガラスは未だに直ってはおらず、陽の光は皆無。それがより救世部の気密性を上げていた。

「…あぁ~あ…暇だ…。」

 兎姫はソファーに寝転がり漫画を読んでいたが、急に漫画をどこかに投げ捨てた。

「どうしたんですか、兎姫さん?いつもの事じゃないですか。」

「…読み終わっちまったんだよ、漫画が…。」

「今まで何冊読んできたんだ?あと、どこに漫画を収納してんだよ?」

 直樹は突っ伏していた机から顔を上げ、兎姫にそう問う。

「…あ、知らなかったか、お前ら?」

「「何が?」」

 兎姫は立ち上がり、自分の寝転がっていたソファーを開いた。ソファーの中には空間が存在していた。そこに大量の漫画が積み上げられていた。ここにきて初めて知った二人は驚愕の表情を見せていた。

「…俺はいつもここにしまってる。知らなかったみたいだな。特別に作った空間だ。」

 海美は少し興奮気味に、

「じゃ、じゃあ兎姫さん!もしかして、この空間、さらに下に―――」

「あぁ、地下が存在する。」

「ホント?!」「マジで?!」

 兎姫はソファー内に積んであった漫画を全て取り除いた。すると、その床に謎の扉らしきものが出現した!海美と直樹は興味津々にその扉を見つめていた。まるで―――

「貧乏がテレビを欲しそうに見つめている瞳みてぇな顔してんな。」

「それはもう、こんなの見ちゃったらそうなるでしょう!」

「ガキかよ…。」

 兎姫は少しニヤついて、そして扉を開いた。ギギギッと重そうな軋み音を立てながら、扉は縦に開く。中は真っ暗で埃っぽいけど、反響音を聞いただけで理解できた。この空間がどれだけ広いかを。

 兎姫は重そうに開いた扉を固定して言った。

「久々に開けた…実に1年ぶりってとこか…。こいつは地下室だ。何のために設置したか…それについてはノーコメントだ。」

 兎姫はライトを用意し二人に渡すと、何の躊躇もなく地下室へのはしごを降り始めた。そして地面に着くと、上へとライトを照らした。そして深さが明らかとなった。だいたい2メートル強ぐらいの深さだった。海美と直樹も兎姫に続いて降りて扉を閉めた。真っ暗な空間を三つのライトだけが照らしていた。

「…さぁてと…ちょいと案内でもすっかー。あ…そういやぁ、今日は部室大掃除があったな…。面倒だからどーでも良いか。ついて来な。」

「良いんですか?そんなんだと薄汚い女って見られますよ?」

「薄汚いって何だ?汚いで十分だろうが。」

 兎姫はライトを地面にかざしながら、どこかへと進み始めた。二人はその後をついて行く。ライトに照らされて地面がただのコンクリートだと見て取れた。だいぶ地下は広い空間だった。二人の想像以上の広がり様だった。これなら人が住める程だ。

「あの…兎姫さん?」

 海美の少し震えた声で呟いた。

「ん~?何だ?」

「あの…何か広くないですか?」

「・・・・・・。」

 しばらくの間、無言の兎姫の背中を怯えたような目つきで見つめる海美。

「・・・・・・。」

「あ、あの~、兎姫さん…何か言ってくださいよ…。」

「あ?あぁ…そーだったな、ちょっと考え事があってな。」

 まぁ、ここは本来、学校に非公認で作った地下室だ。バレたら非常にマズい場所だ。学校内で知ってんのは俺と、その後ろにいる二人だけだ。…しっかりと扉を閉めたか、直樹の奴…。

 兎姫はそんな事を思っていた。ただ、口にした言葉はそれとは全く異なる事だった。

「広いってのは…確かにそうだが、まだこれは通路に過ぎねぇ。本当の地下室はここから先にある。」

「まだ歩くんですか?」

「あぁ…。ってか直樹、ついて来てんのか?」

「いるけど…。」

 一番後ろ側から直樹の低い声が響いて耳に届いた。

「おぉ、いるかいるか…。てっきり俺は、どこか道を間違えてしまったのかと。」

「あっそう…。」

 直樹は一人勝手にふてくされた。


 それからすぐの事。救世部に一人の人間がやって来た。背高で艶やかな黒髪を持つ、白衣を着た女性。救世部顧問の氷見だ。

「NOBODY IS?珍しいわね…依頼の最中でしたか…。それとも…大掃除をしたくないのかしら?その割には…本を整理している跡が残ってるけど。」

 それはソファーの中に収納していた漫画だった。部員がいなければ掃除ができないので、氷見は仕方なく、兎姫の帰りを待っている事にした。


 そんな頃、三人はとある扉の前までやって来ていた。

「…あのぉ~、そこは―――」

「ここが地下室…。とはいえ、俺も入った事がないんだけどな。だから、内装は特に分からん。まさか、この部屋に入る日が来るとは思いもしなかった。」

 兎姫はその扉を開く。そしてライトで室内を照らした。暗くて良く分からないが、狭そうな部屋だと理解できた。そして、壁にスイッチがあるのも見つけた。兎姫はそのスイッチをONにする。直後、天井の蛍光灯が点灯し、室内が明らかとなった。三人はその内装を見て、皆同じ反応をした。驚嘆といったところだ。

「この内装は―――」

「もしかして―――」

「そのまさか―――」

 その部屋の内装は救世部そのものだった。全くそっくりに作られた部屋。机の配置も椅子の配置もソファーの配置も、壁紙のポスターまで忠実に再現されている。初めて見た彼らは何も言えなかった。とりあえず、三人はその部屋に入っていつもの指定の位置に座り込んだ。

「「「・・・・・・。」」」


 救世部に一人の依頼者がやって来た。扉が開かれたが、そこには誰もいなかった。部員のいない部室の中、氷見は部員を待っていた。開いた扉を見つめる。誰もいない空間を見つめている。すると、一人の生徒が身体を半分だけ出した。じっと氷見を見つめている。氷見もその生徒を黙ったまま見つめ返す。その生徒の手には一眼レフカメラが構えられていた。

「じぃー…。」

「・・・・・・。」


 1分後…。

「じぃー…。」

「・・・・・・。」


 5分後…。

「じぃー…。」

「・・・・・・。」


 10分後…。

「じぃー…。」

「・・・・・・。」

 両者、どっちとも何も口にはせず、ただただ黙り込んだまま見つめ合っていた。まるで空間が凍りついたように、救世部の空気だけがガッチリと固まっていた。


「…あの、そろそろ何かしませんか?」

 じっと座り込んでいた海美が不安げに訊いた。

 兎姫、海美、直樹は今、地下室に存在する、救世部に瓜二つの部屋に皆、座り込んでいた。蛍光灯の冷たい光だけが部屋を照らしていた。その部屋の外に出れば、存在するのは吸い込まれそうな闇だけ。今や、兎姫なしでは帰れない。

「…何って何?」

 兎姫はソファーに寝転がってそう呟いた。

「だから…他にも案内とか―――」

「えー…何かだりぃ~し…面倒だし…このまま寝てたい…。」

 海美はそんな兎姫に近寄って身体を揺さぶった。

「ほらぁ、起きて!今日は大掃除もあるし、それに私たち、兎姫さんなしでは帰れません!」

 兎姫は気だるそうにソファーから起き上がって座り込んだ。

「んだよ…せっかく眠ろうとしてたとこを…。」

 兎姫は大きくあくびをする。女子生徒には見えないぐらいのだらしなさだった。

 考えてみれば、兎姫がだらしないのは元々の事だった。最初の頃から何一つ変わっていない。意識してみれば、兎姫がどれだけだらしないかが見えてくる。

 まず、兎姫はシャツを入れない。男子生徒の考えと同じである。

 頭髪、しっかりとセットすることなんかしない。女としての身だしなみがなってない。兎姫曰く、『だってセットすんのに時間かかんじゃん?あの無駄な時を過ごすくらいだったらとっとと学校へ行けってもんだろうがよ。』と呟いていました。

 スカート、短い。まぁ、これはちょっと女子感あるけどな。学校へ行くとスカート短い女子いるよねー。でも、『わざわざ短くすんの面倒。』とか兎姫は思いそうだが…。兎姫曰く、『スカートを短くすんのに体力なんて使わねぇよ。最初から短いスカート履けば良いだろうが。』って言ってました。

 靴下、白色じゃない。まぁ、分かるよ、その気持ちはさ。無地なんてもんじゃオシャレじゃないからね。だけど、学校だぞ、一応。ましてや生徒会長だぞ。何考えてんだよ?

 そもそも、オールを持ち歩く女子がどの世界にいるよ?そこから歪曲してるんですよ。

「…何か、すげぇー、侮辱されてる気がすんな…。」


 救世部、扉が開いてから20分が経過した頃、ようやく扉で身体が半分隠れている生徒が口を開いた。

「部長…かと思ったんですけどー、やっぱり人違いでしたー。どうみても生徒って年じゃないですもんねー。アラサーって感じですから。」

 そう呟いた。その話し方は独特で、片言というよりは棒読みと言った方が言いのだろうか、そんな話し方だった。文章に悪意が籠っているが、彼女自体、特に皮肉気味に言った訳でもなく、ただ普通だった。

「そうですか…それは残念でしたね、不知火さん。」

 氷見は至って冷静にそう答えた。

 この生徒の名は不知火融化しらぬいゆうか。写真部所属の女子生徒。普段からほぼ無口だが、喋るときはとことん喋る。話し方が特徴的で、どことなく片言感があるが、棒読みとも思える。意識はしていないようだ。元々、こんな話し方らしい。いつも肩から一眼レフカメラをぶら下げており、スクープな瞬間に瞬時に構えてシャッターを押せるようにとのことだった。

「…はてさて…氷見先生、ところで部員の人たちの姿が見当たりませんが、一体どこへ行ってしまったんでしょーか?」

 棒読み感満載の口調で不知火は訊く。氷見は分からないと一言だけ返した。

「ところで…そこに積まれている明らかに部室には必要のない物資は一体?」

 それは兎姫の漫画だった。

「あ、あれはですね…ちょっとした依頼で…。」

 氷見は珍しく嘘を吐き、そして兎姫の漫画をソファーの中へと収納した。不知火はそんな氷見の不可思議な行動に目を光らせていた。

「そうですねー…部長がいなければ意味ないですねー。しばらく待っていよーかなー。」

 不知火は持っていた一眼レフで部室全体が写るように写真を一枚取った。それから堂々と入ってきて、直樹がいつも座っている椅子に座った。


 地下の部室。だらけていた兎姫が急にソファーから立ち上がった。二人はそんな兎姫に反応して目線だけ向ける。

「…じゃあ、行くか?そろそろ…。」

「そうですね。」

「ところで、まだ何かあんのか、兎姫?」

 兎姫は直樹の問いに答える。

「まぁ、あるにはあるが…時間がねぇな。」

「ここで全員ダラダラしてたからな。」

 直樹は少し呆れ気味にそう呟いた。

 三人は地上にある部室と瓜二つの地下部室から出た。再び暗い闇の中へと歩み始めた。そして地上への出入り口へとやって来た。直樹が扉を閉めていたため、地上からの光は差していない。上へと伸びる鉄パイプ製のはしごが眼前にある。

「…これですよね?」

 海美が不安そうに兎姫へと訊いた。兎姫は首を傾げる。

「何言ってんだよ?これ以外、どこにあるんだよ?」

「だってさ…見慣れないというか何というか…。」

 海美は先程から何を言っているのか。兎姫と直樹は訳が分からず訝しげに海美を見つめていた。

 兎姫はライトを口に加えてはしごを上り始めた。そして天井部に当たる扉を開こうと手を伸ばした。

「…?」

「どうかしましたか、兎姫さん?」

 兎姫は右手で扉を押し上げようとするが、扉は一向に動く気配がなかった。

「・・・・・・。」

「どーかしたのか?」

 兎姫は再び、今度は本気で叩くように押し上げようとするが、やはり動かない。兎姫の顔色が悪くなり始めた。冷や汗が止まらない。しかし、暗い地下の中では二人にその様子は伝わっていない。

「あの…兎姫さん?」

「聞こえてねぇのか?」

 2メーター下から二人の声が反響して兎姫へと届いていた。聞こえてない訳ではなかった。ただ、兎姫はある事に気づいてしまって言葉にならないだけなのだ。

 兎姫は真っ青な顔のままではしごを降りてきた。そして地下の床に足を付けると一言、

「出れねぇ…。」

 そう言った。

「何ですか?」

「扉が何かしらの力で押さえつけられている。閉じ込められちまった…。」

「なななななな何でですかっ?!」「はぁあ?!冗談じゃないぞ、それは?!」

 海美と直樹が同時に驚いて、同時に別の言葉を放った。広い地下内に反響して音が消えた。兎姫は大きく溜息を吐き、仕方なさげに髪をかき上げた。

「こーなっちまったらー、仕方ねぇ…。とりあえず…飯にすっか?」

「「なぜ故にぃぃぃぃぃっ?!」」


 氷見と不知火のいる部員のいない救世部。そこにまたしても一人の生徒がやって来た。扉を元気良く全開し、救世部に飛び込んで着地した。

久留米くるめ二等兵、救世部に到着しましたぁ☆」

 派手に自己紹介してきた彼女。身長が低く、茶色の短髪で童顔。黒の額布を付けている。どう見ても校則違反の緑色の迷彩服に身を包んでいた。腰のベルトの右側にポーチをぶら下げていて、黒光りするパースエイダーが収められていた。明らかにサバイバルゲームをやってそうな見た目だった。

 二人はそんな久留米という人間を無表情で見つめた。

 久留米は笑顔で、

「あの!ここが救世部ですよね!依頼を頼みに参りました!」

「…あ、そうですか。」

 氷見は少し面倒なのか適当にリアクションを取った。

(ここはもしや、シャッターチャンス!キランっ!)

 不知火は持っていた一眼レフを即座に向けて、ピントを何も確認せずに一枚、写真を取った。その動きの俊敏さに、久留米は反応できなかっただろう。不知火の写真は手ブレもせず、ピントも合っていた。しかし、その写真には久留米の姿が写っていなかった。これには不知火は少しだけ驚くが、表情の変化は何一つなかった。

「ほぉほぉ…これはこれは…。」

「『常に警戒心を持って行動しろ。』とね。誰であっても最初は敵視していないと、何をされるか分からないから。シャッターチャンスはないですよ~。」

 久留米は明るい笑顔でそう言った。久留米は不知火の一眼レフから逃れたというのだ。それを理解している不知火は一眼レフの紐を首に掛け、戦意喪失を認めた。

「仕方ないですねー。写真部として、逃してしまった以上は、負けを認めなければなりませんしねー。」

「分かればよろしいのだ、分かれば!」

 久留米は壁に立て掛けて畳まれているパイプ椅子を展開し、その椅子に座った。ニコニコとしながら二人を見つめていた。氷見と不知火は互いに顔を見合わせ、そして再び久留米を見つめた。

 不知火は久留米に質問を投げかけた。

「ところで…その腰にぶら下げた『はじき』はモノホンですかー?」

 いつも通りの何の抑揚もない口調で言う。

「あはははは!んな訳ないじゃ~ん。これが本物の拳銃だったら―――」

 直後、割れていてダンボールを貼り付けていた窓ガラスのダンボールに穴が空いた!同時に何かの破裂音が響いた。氷見と不知火は咄嗟に反応して穴の空いたダンボールを見つめたあと、久留米を見た。久留米の右手にはいつの間にか引き抜かれていたパースエイダーが。銃身から硝煙らしき白い煙が上がっていた。

「この様に…本物だったら、あのサイズより数段広く穴が空くでしょう!これは単なるガスガンですよ!」

 呆気に取られてしまった二人。しかし、表情には何の変化もなかった。

 久留米は硝煙の出ているパースエイダーを右腰のポーチに収めた。

「…そうですか…。そういえば、ガスガンは18禁に指定されているのではないでしょうか?」

 氷見はそう指摘する。確かに、ガスガンは18禁に指定されている。そもそも、社会はなぜ、危険を知っていてこのような物を作ったのか18禁に指定するぐらいならば、作る必要などないのでは。と氷見は考えていた。

「そうだよ~!けど、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ~、フフフフフフフ…。」

「バレてますけど。」

「なぬっ!」


 地下内で、兎姫と海美と直樹は一先ず、先程の地下部室に戻っていた。出られない状況に陥ってしまっている現状を打破する策を練っていた。あとついでに食事も。地下内は非常食備蓄子でもある。その非常食を三人はかじっていた。

「さぁて…どーすっか?」

「どうしましょう?」

「どーにもできないだろ?」

 この有様だった。そんな時、どこからか音が響いて反響した。枯れた破裂音だった。

「…んだ?今のは?」

「何か…非常にまずい気が…。」

「今のはもしかして…ラップ音って奴か?」

 ラップ音とは、心霊現象の一つで、幽霊の力か何かで、不可解な原因不明の音が鳴る事である。ほとんどは何かを叩くような打撃音に近い音だ。

 幽霊や怖いものが大嫌いの海美は顔を青くする。一方の兎姫は至って平然だった。兎姫は幽霊、UFO、UMAなど、非科学的なものを怖がる傾向はない。信じてないのかどうかは不明なところだ。

「ラップ音だなんて…冗談はよしてよ、直樹。」

「冗談なんかじゃねぇよ。」

「どーだか…。まぁ俺はどっちにしてもどーでも良いがよぉ。どーせ、危害は加えねぇんだし。もし、加えてくるものなら問答無用でぶっ飛ばす!」

「敵なしか、お前。」


 救世部では顧問の氷見、写真部の不知火、サバゲーしそうな久留米の三人が默座していた。そんな救世部にまたまた一人の生徒がやって来る。扉が開き、三人は同時に反応した。そこには文芸・芸術部所属の真昼が立っていた。

「あのー。直樹、いない?」

「今は不在です。」「いませんねー。」「直樹って誰?」

 三人は同時にそう呟いた。真昼はちょっと顔を歪ませた。

「う~ん…つまり、いないって事ね。顧問の氷見先生。直樹がどこにいるか知ってる?」

「知りません。」

 一言、それだけ答えた氷見。真昼は仕方ないと溜息を吐いた。

「じゃあ、使うしかないね。スキャナーON!」

 真昼の視覚上に文字が流れ始め、そして氷見の座るソファーの下に印が付いた。これは小説クオリティーと言って、小説系の部活動の真昼だからこそ使える、確実に中二病且つ、ファンタジー要素満載の明らかにやってはいけない禁忌。真昼だからこそのマイペースだった。そんな真昼を許してやってください。

「氷見先生。ソファー下、そこに直樹がいるみたいですね。もしかして地下室でもあるの?」

「いいえ、そんな情報は聞いた覚えもありません。」

 氷見はソファーから立ち上がり、座の部分を外して中から兎姫の漫画を全て取り出した。すると、そこには一枚の分厚い扉があった。氷見はそれを引き上げる。すると、そこには地下室へと続くはしごがあった!これには一同感嘆する。しかし、氷見と不知火は何も表情が変わっていないが。

「これは…聞いてませんね。一体いつ、こんなものが…。」

「見えてるものと実際の本質は違うってことだね。お先~。」

 真昼は躊躇なくはしごで地下へと降り始めた。そのあとを追うように、氷見、不知火、久留米の順で降り始めた。そして、上の扉を閉め切った。久留米がライトの電源をONにして、地下内を照らした。

「…わぁ~おぅ…救世部に知られざる秘密基地があったとは!」

 久留米は奥を照らし、目をキラつかせてそう叫んだ。地下内に声が反響した。

「兎姫は知ってたのかしら?」

「ほぉ~、これはスクープですねぇー。」

 不知火は持っている一眼レフでフラッシュ撮影していた。

 氷見と不知火と真昼は、ライトを持つ久留米を先頭にして歩き始めた。地下内は四人の想像よりもはるかに広がっていた。真っ暗な空間を久留米の軍用ライトのワイドな光が照らして地下内がハッキリと視覚に入っていた。しばらく歩いていると、別れ道を見つけた四人。前方と左右に別れている。

「別れ道ですね~。どーします、おふたりさん?」

 久留米は楽しそうに二人に訊く。

 氷見は、

「私は右ですかね。特にこれといった理由はありません。女の勘というやつです。」

 不知火は、

「左ですねー。右なんてありきたりでつまらないですしねー。」

 真逆の意見だった。氷見と不知火はお互い顔を見合って火花を散らせていた。

「三つしかないもんねー。四人だと、人数が多いよね。私はここらへんでログアウトしておこうかな。直樹見つけたら言ってよね。じゃあ~ね、みんな。」

 真昼はそういうと、その場から姿を消した。小説クオリティーの厨二能力だ。そんなことは普通なのかというぐらい、三人は普通に見送っていた。

「つまり全員違う意見だよね!となれば、こうだ!」

 久留米は二人にライトを手渡した。

「これで別れられるよね?」

「「最初から出してくれれば…。」」

 三人はそこから分裂して別行動を取ることにした。右通路へ氷見が、左通路へ不知火が、直進するのは久留米。

「じゃ、また後で~♪命運を祈りまーす!」

 久留米は軍用ライト片手に前へと進み始めた。

「それでは…私も行きましょうか。こればかりは先生としての職は放棄ですね。」

 氷見は右通路へと足を進めた。

「…スクープの匂い、ですね~。」

 不知火はカメラとライトを構えながら左通路へ。


「思い出した!」

 兎姫が急に立ち上がった。海美と直樹はビクッと体を震わせた。

「出入り口を二つ作ったんだったな!何でもっと早く思い出せなかったんだか…。」

「「出口が二つ?」」

 海美と直樹の声がハモった。

「そーだ。出入り口とそれにもう一つ、緊急脱出経路を作っておいた。」

「また、何でそんなものを…。」

 海美は呆れて訊いた。

「好奇心だよ、好奇心。幸い、今回は役立つみてぇだから良いんじゃねぇか?」

「やれやれです…。」

 三人は早速そこへと向かう事にした。地下部室の電気を消し、再び外の空間へ。兎姫はライトを闇へと向け、そして進み始めた。しばらく歩いていくと、出入り口と同じ扉が上に見えてきた。

「あれだ…あれ。」

 入ってきたときの扉と瓜二つ、全く同じような見た目の扉が天井部にあった。はしごも同じような配置だった。

「何か…さっきも来たような…。」

 見覚えがあるという海美。そんな訳はないのだが。

「んなわけねぇだろ?さっさと行くぞ。」

「はい…。」「そーだな。」

 兎姫ははしごを上り、そして扉を…開けた!隙間から光が差し込んで、兎姫から下にいる二人まで直線で明るく照らした。兎姫は久しぶりの光に眩しくて目を細め、そして上へと出た。

「・・・・・・。」

「兎姫…さん?」「そこはどこの部屋なんだ?」

 兎姫はどことなく動揺したような顔で下の二人を見た。下では二人が兎姫の様子を不安げに見上げている。

「・・・・・・。」

「マズい…って事じゃ―――」「ヤバい…て事じゃ―――」

「マズい…って事だよ。」

「「はい?」」

 兎姫は上へ来いとハンドサインを送ると、先に外へ、地上へと出た。

 海美と直樹は互いの顔を見合って、

「どう思う、海美?」

「どうでしょう…あの兎姫さんがマズいと言った日には…大丈夫では、ないでしょうね…。」

「それもそーだな。」

 そして二人、笑い合ってからはしごを上り始めた。そして眩しい光に包まれて地上へと出た二人。そこで目にしたものとは!(ちょっと在り来りな言葉で表現した自分に恥ずかしさを覚えます)


 久留米二等兵は直進中。とある扉を見つけた。

「やや…これは…敵アジトだな!突撃ぃ!」

 本当に敵アジトならば突撃した瞬間、即お陀仏です。

 久留米は扉を思い切り蹴り開けた。敵アジトではないので、これはこれで迷惑になります。扉の奥は真っ暗闇でした。久留米はすぐそばに設置されたスイッチをONにした。すると、そこには地上の救世部と全く同じ風景の部屋がそこにあった。つまり、部室二号室という事になる。

「こんなところに隠れ家を作っていたとはぁ~…感嘆したぞ、救世部~!」

 この久留米という女は簡単に感嘆する軽い女です。それでも軍人か!

 久留米はズカズカとその地下部室に侵入し、そして勝手に捜索し始めた。お前はスパイか!


 地上に出た兎姫、海美、直樹の三人。そこで見た景色は…。

「綺麗だな…。」

「そーですね…。」

「それどころじゃないんだけどな…。」

 三人は山奥の深い森の中に立っていた!後ろには人工物の屋根と、その下に枯葉に擬態できる配色、俗にいう迷彩色で塗られた扉が一つ。緊急脱出扉の先は山奥へと通じていたのだ。

「多分、学校付近の山奥だろうが…なぜ、こんなところに繋がってやがる?」

「兎姫さんも知らないんですね…。」

 三人を包むのは深緑の森林。360度どこ見ても草木しか目に入らず、頭上からは赤く染まった夕焼けの木漏れ日が差し込んでいた。

「…まぁ、ここで立ち往生もなんだ…とりあえず、戻るぞ…。」

「そうですね。」「面倒だな。」

 兎姫は開いていた扉を締め切ってロックをかけておいた。まさか見つかる訳もないが、見つかったときのための処置であった。

 三人は適当に山を下って学校へと戻ることにした。そもそも、どの方角に学校があるかなんて分かっていないので、戻れる訳もなく結局日が暮れた頃にたどり着いた。


 久留米は部室捜索が終了し、特に何もなかったので先へと進むことにした。そして先ほど、兎姫たちが脱出したあの扉を見つける。もちろんロックがかかっているので開くはずがなかった。

「…開かないなー…仕方ない。こういう場合は強行突破だ!」

 久留米は右腰のポーチからパースエイダーの型をしている18禁ガスガンを取り出し、頭上の扉へと向けて何発か発砲した。枯れた破裂音が地下内に反響し、何発かの弾丸?が扉の鍵部分を大破させた。これは本当にガスガンなのかと疑いの目が向けられている久留米二等兵。久留米曰く、

「本物と偽物の区別がつかないようじゃ~、まだまだ三流ですね、皆さん!」

 とのことだった。

 扉の鍵を無理やりこじ開けて久留米は脱出する。そして森の中へと出てきた。

「ほぉ~!これは何と本格的!まさか、ここまでの設備が備わっているとは…。何をおっぱじめようとしているのだ、救世部!」

 そこまでの設備ではない設備を褒め称える久留米。やはり思考回路がそもそもアレなのだ。致し方ない…。

 久留米は持っていた硝煙がまだ消えていないパースエイダー型のガスガン?を右腰のポーチにしまい、そして山を降りることにした。もう日が暮れて真っ暗な山奥だが、久留米二等兵なら大丈夫だろう。どうせ軍人?なのだから。


 部室へと戻ってきた三人は、早速元の安定の位置に付いた。兎姫はソファー、海美はその横にある小さな椅子、直樹はデスクへ。

「…あ、そーいえば…俺らが入っていった後、誰も部室には残ってなかった訳だから…ソファーの中に漫画がしまわれてるのはどういう事だ?」

「今日は大掃除でしたよね?もしかしたら、誰かが片付けてくれたのかも。」

「なるほどなるほど…だから扉が開かなかった訳かー。そいつが誰だか知らんが…見つけ次第ぶっ飛ばす!」

(…反論できない自分が…ちょっと恥ずかしいな~)

 なんて思っている海美でした。

「そいつは兎姫の事を思って片付けてくれたんだ、大目に見てやろうぜ、大目によぉ。」

 直樹はデスクに突っ伏したまま独り言のように呟いた。

「ありがた迷惑なんだよ、こっちは!あの地下室で眠りに就くとこだったんだぞ!」

「まぁ、そーだけど…現に生きてんだから良いだろ?」

と、気だるそうに呟く直樹。

 兎姫は怒りが引いてきたのか、大きく溜息を吐いてソファーに寝転がった。

「じゃあ、もー面倒だからどーだって良い…。寝る!」

「おやすみ~。」

「んあぁ…。」

 兎姫がソファーで仮眠を取ろうと目を閉じたその時、救世部の扉が勢い良く開かれ、一人の生徒が飛び込んで来た。

久留米くるめ二等兵、救世部に到着しましたぁ☆」

 バカみたいに煩い人間がやってきた。低身長、茶髪のショート、黒の額布を巻いている童顔の女子生徒。校則違反の迷彩服に身を包み、右腰のポーチに黒光りするパースエイダーが収められていた。サバイバルゲームオタクになってそうな風情の生徒だった。兎姫は面倒そうに疲れ目でその生徒を見つめた。

「んだよ、お前…。第二次世界大戦の生き残りか、クソオタク。」

「久留米二等兵は依頼をしに参った所存でございます!」

 色々とカオスな文法で説明してきた。キャラ設定もブレブレだ。

「そーですかー。」

 兎姫は海美にハンドサインで『後は頼む』と伝えた。

「あの、とりあえず座ってください。」

 海美はその生徒を依頼者席に座らせた。海美はその近くに椅子を持ってきて座り、とりあえず依頼などを聞きに入った。

 その生徒の名前は久留米炉利くるめろりと言う名前だと判明。何部に所属してるか聞いてみたけど、

『自分の所属を敵には明かさないのが軍人です!』

と、訳の分からない理由で聞き出せなかった。

 久留米炉利の依頼は兎姫の好奇心を刺激するような危険な内容だったが、兎姫はなぜかいつものやる気ムードではなかった。

「おい、ロリータ二等兵。それはなんだ、俺らへの軍隊介入か、それとも共犯希望か?」

「誰がロリータだ!これは歴とした依頼ですって!」

「つまり、ハッキリとした犯罪ってことか?」

「違う~!」

 久留米は頬を膨らませて否定している。

 何だ、このとてつもない2次元仮想物は?

 兎姫はそんなことを思いつつ、久留米を蔑視していた。

「じゃあ、こう考えましょう。久留米さんの依頼は軍事的要因として処理して、バレた時にはそう言い訳しましょう。それでも無理そうなら、全て久留米炉利さんに背負ってもらうってことで。良いですよね、兎姫さん?」

と、海美はらしくない提案をした。その時の海美の顔がとてつもなくブラックであったため、兎姫は一瞬寒気立ってしまった。

 うわ…何かめっちゃブラックなんだけど…。あいつ、こんなキャラだったか?もしかして、俺に影響されちまって…何か…申し訳ないな、海美。

「お、おぅ…俺は良いけどよぉ…それじゃあ、久留米が可哀想じゃないか?」

 兎姫もらしくない言葉を放った。いつもの兎姫から出る言葉にしては優しすぎている。

「そうです!私は依頼者なんだし、もっと丁重に扱うべきじゃないのか?」

「ふ~ん…でもさ、この依頼、断ったって良いんですよ、私たちが。そうなれば、あなたは一人で実行に移さなければいけない…。ふふふ、賢く考えましょうよ、久留米さん。あなた一人でどこまで行けるのかなー?」

 海美はらしくない鬼畜思考でそう言葉を放つ。久留米を確実に煽っていた。そんな海美を兎姫と直樹はゾッとして見ていた。これには久留米もギブアップした様子で肩を落としていた。

「良いよ、受け入れる…。その代わり、こっちも条件が―――」

「それならこっちはお断りしますので、どうぞお帰りください。」

 海美は依頼者が目の前にいるのにも関わらず、席を立って出入り口の扉を全開にした。

「分かった分かった分かったから~!もぉ~…じゃあ、無条件で引き受けます~。でも、そこまでするんだから絶対に成功するんでしょうね?!」

 久留米は必死そうに立ち上がってそう叫ぶ。海美はニヤリと小さく笑った。

「当然ですよ。救世部はどんな依頼でも引き受け、100%成功させる現代における最高峰の万事屋。ですからね、兎姫さん?」

「お、おぉ…(ハードル上げすぎだろうが!いつからそこまで高嶺に登り詰めたんだよ?)。」

 こうして久留米炉利の依頼を引き受けることとなった救世部。久留米は疲れたのか、最初の時の笑顔とは逆に、俯いたまま救世部を出て行った。その後数秒、救世部には不気味な静寂が立ち込めていた。

「み、海美…お前、何が―――」

「どうですか?真似してみましたけど…上手くいってましたか、兎姫さんの真似?」

「お、俺の真似?」

「さすが海美ってとこだな。兎姫の付き添い人だけはあるな、完璧じゃん。」

 直樹はバカ笑いしながらそう答えた。その直後、直樹の顔面にオールが激突して直樹は椅子ごと倒れた。

「ま、まぁ、上手かったかもな…。お前はやっぱりいつもどおりで良いんだよ…いつもどおりで。」

「そーですか?」

「絶対そう絶対そう!」

 兎姫は何度も頷いて強調する。海美はそんな兎姫を見ていつもどおりの笑顔を見せた。


 久留米が出て行ってから数十分が経過した頃、救世部顧問の氷見が疲れ顔でやって来た。

「INCOMPREHENSIBLE…一体全体…どういうことかしら、兎姫?」

 氷見が息を荒げてそう呟いた。

「あ、氷見ちゃん…。何か気分悪そうだけど、大丈夫?」

 兎姫は読んでいた漫画を机に置いてそう訊いた。

 氷見はとりあえず、依頼者がいつも座っている兎姫の前にある席に座った。そして、真面目な雰囲気で兎姫に問いかけた。

「ストレートに訊きますが…地下室はいつからできていたものなのですか?」

 その言葉に、三人は驚愕の表情を見せた。

「そ、それ…何で知って―――」

「真昼の力でね…。それより、これは一体なぜ存在しているのかしら?」

「えっと…これは…暇つぶしにとぉ~…。」

 動揺している兎姫に、氷見は小さく溜息を吐いて呟いた。

「まぁ、深堀りはしませんよ…。ただ、このような事態は初めてなので。」

「はははは…。」

「笑ってはいられませんよ。…地下室の件なんかとは比較にならないぐらいの危機に陥ってしまっていることに気づいていないようですね、全員。」

「え?」「はい?」「何?」

 三人共上の空。

 氷見は真剣な顔で説明を始めた。

「以前に、兎姫と海美はラジオに出演しましたよね?」

「はぁ?知らねぇぞ、そんな事。お前ら、いつの間にそんなもんに―――」

「この前、緋音ナナに呼ばれてな。」

「楽しかったですね、兎姫さん。」

「聞いてねぇぞ、それ!それにオンエアの方も聞いてねぇぞ!」

 氷見は一度、パチンと音を鳴らし、場を粛正し沈めると、再び説明を始めた。

「それで…そのラジオ放送が影響したのか何なのか…とある組織が動き始めてしまいまして―――」

「四陣『ゼピュロス』『ボレアース』『エウロス』『ノトス』だろ?」

「!…知ってましたか…それなら話は早いです。つまり、その四陣が兎姫を起点に動き出している訳です。あなたは一体何をしたら四陣にマークされるのかしら?」

 兎姫は黙り込み、ソファーに体を埋めた。海美と直樹は話についていけず、クエスチョンマークが浮かんでいた。

「これは教師人生初の前代未聞の事件なのですよ、兎姫。いつの間に、そこまで深い闇に沈み込んでいたのですか?」

 氷見の真剣な質問に、兎姫はソファーから起き上がってしっかりと座り込んだ。そしてどことなく悲しげな顔で独り言のようにブツブツと何かを話し始めた。

「…それは…ここにいる全員知らないことだ…。ちょうどいい機会だから、一応言っておくけど…俺は組織の頂点に立つ王女だ。」

 突然のカミングアウトに皆、驚きが隠せない様子だった。表情をあまり変える事のない氷見ですら目を見開いて驚いている。誰も、兎姫が組織の人間とは思いもしないだろうから。

「海美も直樹も氷見ちゃんも…訊きたいことは山ほどあるだろうけど、一度話を聞いて欲しい…。俺は確かに組織の人間…しかもその組織を動かす頂点だ。故に狙われやすいのは分かりきってる事…。俺が裏組織に関わってしまうのはこれが原因だろう…。頂点だからこそ、俺にはやらなければならないことがある。四陣『ゼピュロス』『ボレアース』『エウロス』『ノトス』と、『坂田政治界家』…こいつらをほっておくことはできねぇんだよ…。今放置しておけばどうなるか…。お前らにも、危険が及ぶかもしれねぇ…。危険は承知でやって来てんだ…。組織をまとめ上げる頂点としても、ここで引き下がることはできない。」

 いつもに増して真面目で真剣な兎姫の言葉に、海美と直樹は言葉を失った。だから、氷見が、隠そうとしている動揺を隠しきれずに言った。

「しかしながら…それは教師として…見過ごせませんね。」

「止めないで欲しい…学生の俺としても…。」

「誰も止めはしませんよ。」

「え?」

「教師としては…この言動は見逃せないのでしょうけど言わせてもらいます。…兎姫、後悔しないように思う存分…やってきなさい。兎姫のいいとこはそういうとこでしょう?」

 氷見は普段見せないような笑顔でそう言った。兎姫はちょっと赤面しながらも、軽く一度だけ頷いた。


兎姫「まぁ、俺は別に気にしてねぇことだが…今まで読者には隠してきた事を暴露した。分かっていて言わなかったのは信用してねぇとか、そんなんじゃねぇよ。ただただ面倒だった、それだけだ。」

海美「そーなんですか?」

兎姫「それ以外に何があるんだ?」

星野夜「いやぁね、実言うと、この秘密をどう暴露させようかと考えていて、思いつかなかったから適当に暴露させただけです(笑)。」

兎姫「・・・・・・。」

直樹「まぁ、気持ちは分かるが…。」

兎姫「だから俺に言わせたわけか…処罰対象だな。」

星野夜「まぁまぁまぁまぁ、待てって!俺をぶっ飛ばしたら次回が―――」

兎姫「そのセリフを吐くやつは大抵、ぶっ飛ばされんの分かってんだろ?」

直樹「俗にいう負けフラグってやつwww。」

海美「ご愁傷様です。」

兎姫「そーいうこったぁ、覚悟しな!」


 そして断末魔が響いて消えた。

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