25話目『RIPPLE。』
さぁ~てと、今日も書き終わったことだし、ベッドでのんびりと怠惰生活を送るかな~。
あ、こんにちわ。小説書くのが遅いくせに暇だ暇だと喚いている星野夜です。
今回は25話目ということですが…少々疲れましたね。なんせ、24話目あとがきで兎姫にケイオーされてしまいまして、身体の節々が痛いのである。
…今回は兎姫がソファーに封印されているようですし…安全は保障されている…のだろうけど。
雑談話に花を咲かせたい所存であります。って、無理に難しい言葉を使わなくてもいいと思ってしまった自分。
そういえば、見ました24話の最後。兎姫が再び借金取りから借金取りしにいったことです。
あいかわらず、兎姫はなんでもしますねぇ~。尊敬の意を示しますよ、まったく。
現実にこんな奴がいたらマジで私刑もんだねぇ…。
(そっと私は兎姫の様子を確認した。未だにソファーでうずくまって動かない。私はホッとして胸をなでおろした。)
いつもはこのタイミングではっ倒されるはずだけど、どうやら今日は良い感じに眠りについてるようだ。(今なら愚痴言ってもバレんよな?)
あ、そうだった!確か24話目では新キャラ登場したんだっけ。
名前は『狐火木ノ葉』だったよね。あの金髪の女の子。いやぁ~ねぇ、あの無愛想な感じと、ちょっとロリテイストが含まれている感じ…なんともたまらんですね。
≪コイツ、変態だ…≫
え?何を言う?男たちは皆、幼女とか、熟女とか…あとはあれだ、老女とかに萌えるんだろ?い、いや燃えるんだろ?
私は読者を小説の世界へと引きずり込ませ、そして抜け出せなくなるくらいにしてやりたいのだよ。
≪その割には、小説の書き方…下手だよな?≫
んなこというなよ、バーカ!こっちだって必死になってk―――
海美「星野さんはただいま、語り癖に燃えているようで、ほっておきましょう。それではどうぞ!」
紗奈の依頼を終えてから数十分後の事、一人の依頼者がやって来た。それは以前、休日中に依頼しに来たが、兎姫によって伸されて依頼を頼めなかった人物、野猫三だ。名前は三と書いて『みぃ』と呼ぶ、名前も行動も大変面倒な人間だ。
「依頼、頼めるかにゃ?」
このように、野猫三はネコ語を話す(どーせ、語尾にニャとか付けてれば何とかなるとか思ってる奴なんだろう?)。
「そーか、そこに座れ。」
兎姫はいつも通り、ソファーに寝転がって漫画を読むお決まりのルーティーン。野猫は兎姫の前に座る。
「で?何の用?」
兎姫は適当に訊く。どうやら、野猫三の事を覚えていないらしい。野猫三は緊張気味に、らしくない態度で言う。
「あの…私、妹が…いるんですよ…。」
「…それだけか?」
「いえ…。妹は十年前、ある事件に巻き込まれて…寝たきりになってしまいまして…。今、中央病院にいるんですけど…。」
「ああ、そんで?」
兎姫は興味がなさ気に漫画を読みながら聞いている。野猫は非常に言いづらそうにしていた。
「…あの、それで…妹を助けるには手術が必要だって…言われて…。でも、そんなお金なんて持ってないし…。それで―――」
「却下。」
兎姫、即答。あまりにも突拍子だったものだから、野猫もイマイチ把握できていなかった。
「お前…救世部が万事屋みてぇーに、何でもやってくれると思ってんなら勘違いだ。俺ら救世部は人助けを目的とした部活動だ。もちろん、報酬は頂くけどな。だが、お前のその依頼、金を援助しろ…って魂胆だろ?馬鹿じゃねぇのか?報酬を受け取る側の俺らが、金を払うってのは理にかなってねぇ。それに!もし、その依頼を無理にでも俺らに押し付けようなら…お前に降りかかる依頼金請求額は俺らが援助する額より多額になる訳だ。そう考えるならば…結果的に救世部、じゃなくてお前自身で金を作り出したほうが圧倒的に合理的、だろ?」
正しくその通りな結論を言い渡されて、野猫は何も言えずに黙り込んだ。
「お前の妹さんには(´・ω・)カワイソスだが、救世部は支援(ヾノ・∀・`)ムリムリ。諦めて、自分の力で貯めるこった。」
ふざけ気味にそこまで言うと、兎姫は再び、漫画に没頭し始めた。もう、野猫には一切興味がないようだ。野猫は小さく溜息を吐くと、挨拶だけして颯爽と部室を出て行った。
「…兎姫…良いのか、それで?」
机に突っ伏している直樹が顔を上げずに、口だけ動かしてそう言った。
「俺が決めた事だ。問題ねぇよ。」
と、顔も目も向けずに漫画を読みながらそう呟いた兎姫。
(ちっとも説得力ねぇな…。)
と、突っ伏したまま頭の中でそう呟いた直樹。
中央病院、ルセと海美のいる356号室。
「…お前、派手にやられたなー。酷い怪我じゃん。」
ルセは痛々しそうに海美の怪我を見つめる。ルセの銃傷は少し引いてきているようだ。一方の海美は右腕骨折、左足刺し傷。しばらく時間がかかりそうだった。
「ミスだよミスー。まさか転けるなんて思わなかったし…。あれ?そう言えば…何で待ち伏せなんかしていたんだっけな~?」
海美はあの時の記憶が断片的にしか思い出せていない。多分、頭に食らった一撃のせいだろう。記憶が吹き飛んでいる。
「まぁ、いいや。」
「良いのかいっ!」
「それよりさ、ルセ。最近、襲撃とかなかったの?」
海美はルセにそう訊く。ルセは苦い顔つきで海美から顔を逸らした。何か襲撃があったのだろう。
「…ま、まぁ…ざっと4回ぐらい…あったが、争いになる前に伸してやった。」
「非常にマズイね、それ。私もマーキングされちゃったと思うし…。」
「ターゲット同士、頑張っていこうぜ、海美。」
そう言ったルセは不意に窓ガラスを開けた。その瞬間、窓の外に男が一人、飛び込んでこようと武器を構えているのが見えた海美。叫ぼうと声を出すより前に、ルセが敵を確認もせず、顔面に裏拳をヒットさせた!敵は意表を突かれて、一撃で地面へと落ちていった。
「…と、このように、いつ何時狙ってくるかは分からねぇ。敵も敵だな。窓の外から侵入する選択肢しかねぇし…。それに、わざわざ三階まで登ってくるとはな。バカにも程があるぜ。」
ルセは一つも焦りも緊張もなく、ボーッとした顔だった。そんなルセに、海美は笑うしかなかった。
ルセが襲撃者を一撃ノックダウンした頃、一階ロビーでは兎姫が完全フリーな状態(つまり、下校後の事)でやって来ていた。いつも寝室内で着ているサイズの一段階大きいTシャツを着ていて、ズレそうな程大きいズボンを紐で結んで履いている。愛用武器のオールはさすがに持ってはなく、完全手ぶら状態だ。
兎姫はロビーの受付で看護師に訊いた。
「…なぁ…じゃなくて…あの、野猫三の妹さんのお見舞いに来たんですけどー、何号館ですかねぇー?」
兎姫は慣れない口調で話す。看護師がすぐさま検索し、そして兎姫を野猫三の妹のいる病室、255号室に連れてきた。兎姫は一人で話したいと看護師を去らせ、そしてゆっくりと扉を開き、中へと入った。
「失礼すんぞ…野猫深未…ってどーせ聞こえてねぇか。」
ベッドの上に一人、眠りに就いている女子が。兎姫は近づいて顔を見た。そしてちょっとだけ驚く。野猫三の妹、野猫深未は顔がそっくり、瓜二つだからだ。少しだけ、幼さが残っているが。
(…似てんな、思ったより…。)
兎姫は近くに立てかけてあったパイプ椅子を展開し、野猫深未のそばに座った。
「よぉ、深未。救世部のあいつと同じ名前だから、ちと面倒だな。…お前の姉が今、必死になってお前を助けようとしている。何の病気かなんて知らんけどな(笑)。どーやら、話によれば、相当な金が必要になるらしいじゃねーか、お前の手術にはよぉ。何年後になるか…あいつが金を溜め込んで、お前に会いに来るのは…。」
兎姫はしばらく間を開ける。静かな時間が過ぎていく。風でカーテンが揺らめく音だけが聞こえている病室。数十秒、兎姫は黙り込んでから、また話し始めた。
「…そーだったな、俺…お前とは初対面だ。誰か分かんねぇだろう?俺はあいつの知り合い、そんだけだ。お前の見舞いをしに来た訳じゃねぇ。別にお前がどーなろうと、俺の知ったこっちゃない。所詮は赤の他人ってとこだしな。まぁ、あいつ(野猫三)が何かお前の話をしてたから見に来ただけだ。じゃあな。元気になれよ、野良猫ちゃん。」
兎姫はそれだけ言って立ち上がり、病室を後にした。扉を開いて出て行く時、偶然、野猫三と鉢合わせになった。野猫三は驚いた表情で固まる。兎姫はそんな野猫を無視して通り過ぎようとする。が、野猫三が兎姫を止めた。
「待って!」
「あぁ?何だよ?忙しいから10秒で言いな。」
と、野猫三を見向きもせず、背中を向けたまま言った兎姫。
「な、何で妹の病室に?」
「…単なる部屋違いだ。俺は『みみ』の見舞いに来てやった…そんだけだ。隣の病室と間違えた、それだけだ。」
そう言って、兎姫は隣の病室、256号室へと入っていった。野猫三は未だに驚きが隠せないという様子で廊下に立ち尽くしていた。
「よぉ、海美。元気~?」
「あっ!兎姫さん!もちろん元気ですよ!」
「ルセ、お前も元気そーだな。」
「はい!兎姫様!」
兎姫はルセと海美のベッドの間にパイプ椅子を立てて座った。
「んで?…海美、何でお前、あの時、俺と一緒に拘置されてたんだ?」
兎姫は素朴な疑問を海美にぶつける。
「そ、それがですねー…思い出せないんですよ、困ったことに。」
海美は縮こまってそう呟いた。兎姫は仕方ないという表情で溜息を吐く。
「ま、仕方ねぇか。今回は許してやるよ、お前が俺を呼ばずに勝手に行動したことをなぁ~♪」
「あ、気づいてました?」
「当たり前だ、俺を誰だと思ってる?俺は―――」
「救世部部長の兎姫様だぞ、海美!それぐらいできて当然だ!」
と、ルセに先を越された兎姫。
「って、それ!俺のセリフ~!…はぁー、ったくぅ~…どいつもこいつも、何でこうなるんだよ?俺は疫病神か?」
兎姫は疲れたという感じで溜息を吐く。
「あ、そうだ…兎姫さん。救世部は大丈夫ですか?兎姫さんはコミュニケーションが不器用ですから心配でしたよ。」
「無駄な心配しやがって!もちろん、良いに決まってんだろ?ただ…ちょっとめんどーなもんが一つあるがな。お前は…お前らはゆっくりと休んどけ。俺が全て引き受ける。」
そう言って、兎姫は立ち上がり、病室の扉を開いた。
「じゃ、また今度。その時まで、怪我を直しておけよ、馬鹿っていう怪我をな。」
中央病院の帰り際、兎姫は道端に一人の人間が倒れているのを見つけ、そこへと駆け寄った。男が一人、意識はあるようだが、弱っている。鼻に損傷を受けていて鼻血が出ている。その手にはあきらかに危険な香りを漂わせる物が一つ。鉛色の刃が太陽の光を反射して怪しく光る。それはナイフだ。
「?…どーした、オッサン?喧嘩にでも負けたのか、武器まで使ってよぉ?」
兎姫の声に反応し、男は鋭い目つきで兎姫を見上げる。兎姫は極普通の日常のような暇をしている時の怠惰な目で男を見下ろしている。
「ほっとけよ、ガキが。」
「…ま、俺は関係ねぇからどーだっていいが、アンタ、今、困ってんのか?」
「は?」
「困ってるか、訊いてんだよ?」
男は『何だコイツ』と言わんばかりの表情で兎姫を見る。それはそうだ。普通、道端で倒れている人間を見つけたら、救急車を呼ぶか、放置の二種類。だが、この女子高生は男に問いかけている。助けようともしない。
「…まぁ、困ってんのには困ってんだが、お前には関係―――」
「あるね。俺は救世部部長、兎姫!金さえ払ってくれれば、どんな問題も俺が解決してやらァ。どーだ?一つ、俺に騙されてみねぇか?」
トコトン暇なのだろう。兎姫は珍しく外部の人間に依頼を収集しようとしている。普段、動くのもカロリーの無駄遣いだと動かない兎姫が、今日はこの様子だ。どうしてしまったのだろうか?
男は訳が分からないと呆れているものの、何か閃いたらしく、兎姫を試すような質問をしてきた。
「じゃあ仮に、もし、俺が暗殺者だとしよう。お前が俺の代わりに暗殺でもしてくれんのか?」
「…金の切れ目が縁の切れ目ってなぁ。金額次第では考えてやっても良いけどよ(笑)。ジョーダンだ。」
「…どーだって良い。俺は、ただ馬鹿してただけだったよーだな。どこの馬の骨だか知らんが、知らない大人にはむやみに話しかけるもんじゃないぜ。」
男はそれを言うと、立ち上がってどこかへ去っていった。
「忠告どーも。」
兎姫はつまらないと大きくあくびをした。
次の日、水曜日の放課後。兎姫は一番乗りで救世部へ。それから数分後、なぜか、文芸・芸術部副部長の真昼がやって来た。兎姫はソファーの上で寝転がって、何かをする訳もなく、ただ黙って天井を見ていた。真昼はそんな兎姫に訝しげな視線を送る。
「…と、兎姫?」
「・・・・・・。」
まるで死人かのように無言で仰向けになっている兎姫。真昼の声が聞こえていない。
「お~い、兎姫さん~?きーこーえーてーる~?」
真昼は兎姫の眼前に手を振り、わざとらしい口調で兎姫に言った。
「ん?何だよ、海美?ねみぃ~から、大声出すんじゃねぇーよ。吹部の発声練習か、バアキャロ(推測:兎姫はバカヤローと言ったのでしょう)。」
どうやら意識はあるようだが、睡魔が襲っているらしい。いつもより気だるそうな顔つきになっている。真昼と海美を見間違えている。真昼が部室にいることにも違和感を感じていない。
「海美じゃなくて真昼で~す!どーしたの、元気ないけど。」
「…んあ?真昼?…あー、真昼か。どーした、依頼か?」
兎姫は眠たそうに手で視界を遮った状態で口だけ動かし言った。
「いやさぁ~、氷見先生に『海美がいなくなって、兎姫が悲しんでいるようですので、真昼、海美の代わりに救世部員をしてくれないかしら?』って言われて、それで来たんだけどー…。ところで、海美ちゃん、大丈夫?」
「『救世部とは違って静かな病室の柔らかいベッドの上で病院食を食べていられるから幸せです!』って言ってた。ニート化しおって…羨ましいじゃないかー。」
※実際のところは全て兎姫個人の想像です。海美の言葉とは違います。
「あははは!海美ちゃんらしい!」
※海美の言葉ではありません。
「ま、そーいうことだから。お前、海美の代わりだろ?依頼人来たらよろしく頼むわ―――」
それだけ言うと、兎姫は一瞬で深い眠りに就いてしまった。静かになった救世部室内。真昼が一人、兎姫の横、海美がいつも座っている椅子に無言で座る。そして思った。
(噂通り…校内一、暇な部活動…。)
真昼が来てから数十分、ずっと静寂と真昼のあくび音が聞こえていた。そんな時、部室の扉がゆっくりと開かれる音がした。椅子に座って半寝状態だった真昼。扉の音で意識が戻り、顔を上げた。入口に一人の大人が立っている。サッカーのベンチコートぐらい大きいコートを着ている、その姿に見覚えがなかった真昼。外部の人間だと推測できる。
「あのー、どちら様で?」
「金さえ払えば…何でも解決してくれるっつーのは…本当だろうな?」
「あ、え、えっと…それは…はい、そうです。」
困り果てた末、適当に肯定した真昼。そもそも、なぜ外部の人間がいるのか?、その疑問がどこかへ飛んでいってしまった。
真昼は男を自分の前の席へと連れ出し、そこに座らせて相談を訊くことにした。
「その、それで…依頼は一体?」
「ちょいとな、俺と一緒にスパイ活動をして欲しくてな。」
「はい?」
普段から聞きなれない言葉に、真昼は聞き間違えかと首を傾げる。男はもう一度、全く同じ言葉を何の躊躇もなく言った。
「でも…なぜ私なんかに?」
「…実はな…今回の作戦は二人組での潜入でな、俺には前まで相棒がいたが…ホームに侵入者がやって来て普通に殺されちまった。…だが、俺には悲しみに暮れる暇なんてねぇ。今回の作戦は、絶対に成功させるとお互い決意した。この期を逃せば、もう二度と訪れることがない。相棒の分まで背負ってくれる新しいパートナーが必要なんだ、一時的にな。そこで、アンタに依頼を任せたって話だ。」
あまりにも場違いな依頼に、初めて救世部の仕事をする真昼もどうすれば良いのか判断しづらかった。兎姫はグッスリと眠りに落ちていて起こせそうにない。自分で判断するしかないのだ。
「はぁ…で、ですが…私なんかに務まる任務ですかねぇ?」
「ただ来てくれるだけでもありがたい。二人組じゃなければ意味がないんだ。」
真昼はしばらくの間、口に手を当て、無言で考え続けていた。真昼は必死そうな男の揺るぎない視線に打たれ、挙げ句の果て了承することにしてしまった。あまり乗る気のない真昼。そんな真昼を尻目に、男は露骨に喜んで退室していった。
「…あぁ、行っちゃったし、言っちゃったよ…。でもさ、救世部はどんな依頼も解決するんだったよね、兎姫さん?」
「ZZZ…。」
真昼の問いかけに、兎姫は寝息で答えた(笑)。
図書室に雫石刹那とそのボディーガードナーの龍谷がいる。刹那はいつも通りで制服の上から黒色の外套を羽織っている。龍谷は運動しないのにも限らず、相変わらずの指定ジャージ姿だった。他の生徒は誰もいないため、図書室は耳鳴りが聞こえるほどに静かだった。
「…最近、どこかに行ったりしてるけど、異常事態でも起きてるの?」
心配そうな顔で小さく呟く刹那。龍谷は笑顔で無邪気に、
「んな訳ねぇだろ、心配症過ぎんだよ。俺がいれば問題ねぇぜ!」
「…説得力無い…。」
「んだとぉ?信用しろよ、幼なじみだろ?」
「…じゃあ、信用するけど…一つだけ条件が…。」
「条件?」
「次、どこか行く時は…私も一緒に行く!」
これには龍谷は驚いて立ち上がる。
「はぁあっ?!ダメに決まってんだろ、俺についていけば―――」
「危険に晒されるから?」
「そうだ!お前を守るのが俺の役目なんだぜ!わざわざ危険に模を投じさせるなんか断じてできない!」
猛反発する龍谷。声が図書室内に反響する。刹那は少し泣きそうな目をしていたが、必死で食らいつく。
「じゃ、じゃあ、龍谷自身は良いの?危険だと分かってて身を投じる事が。」
「俺はボディーガードナーだ。危険だと分かっててやってる。」
「それじゃあ、私の身を常に守っているのも仕事よね?なら、私のそばにいなくちゃダメでしょ?でも、龍谷には行かなくちゃいけない所がある。じゃあ、私もついて行かなくちゃ。」
その言葉を聞き、龍谷は応答に困り果てた。確かに、刹那のそばにいなければ守ることもできない。だが、龍谷には他に仕事もある。その二つを両立するには、刹那の言った方法しかない。でも、良く良く考えれば、それはそれで、刹那を危険に晒しているのだから守るもありゃしない。つまり、刹那の方法は上辺だけは両立しているかのように思えるが、実際の所、それは両立どころか矛盾する選択だった。だから龍谷は刹那の条件を断る、とはいけなかった。幼なじみの刹那に頼まれたこと。龍谷にはその頼みごと守らなければならない理由があった。だから、どうしても、どう悩んだとしても、結果論はイコールイエスということになってしまう。龍谷は渋々、刹那の条件を飲んだ。
「全く…お前って奴は…これだから守りたくなっちまうんだよ、死に急ぎ。」
「そっちもね。」
それから数秒間、無音状態になり、それから二人は笑い始めた。静かな図書室に二人の笑い声が響く。
時刻は5時を過ぎた頃。真昼はとっくに部室からいなくなっており、ソファーの上の兎姫だけが取り残されていた。兎姫は気だるそうにゆっくりと立ち上がると、両手を伸ばした。
「ふぁ~…眠っ…。そういやぁ、直樹の奴、来てねぇな。…サボりか?」
一方の直樹はと言うと、ちょうど今、二階から落とされて地面に背中を強打した頃だろう。直樹は鳩ヶ谷澪奈の依頼を諦めずに実行していた。弟は一向に良くはならなそうだ。
「…容赦ねぇな、あいつー。頭ん中割れちゃってんだろうが。どーしてくれんだよ?」
血だるま直樹は気だるそうにゆっくりと立ち上がると、軽く身体をひねった。
「あ~あ、せっかくの制服も台無しだな。ま、次の日にはどーせ新しくなってんだろうけどな(笑)。」
直樹はあれから一日一回、必ず澪奈の家に来ては弟に二階ベランダから突き落とされる日々を送っていた。弟の方もいい加減飽き始めたようで、最初は殴って落としていたが、今となってはただただ突き落とすだけ。そのおかげもあって、窓ガラスが割ることはなくなり、直樹の身体に切り傷ができることもなくなった。だが、毎日のように澪奈の家へと繰り出す直樹は言っちゃ悪いが、変態だ。
「んだよ~、これも依頼の一環だぞ。第一、何で俺がやんなきゃいけない。この分野は兎姫の奴だろ!何してんだよ、兎姫は?…サボりか?」
「誰がサボりだ、暇マター生成機が!」
兎姫の声が背後から届き、直樹は振り向く。そこにはオールを肩にかけて立っている兎姫の姿が。直樹は一瞬で青い顔になる。
「と、兎姫っ?!い、いつからそこに?!」
「あぁ?今ちょうどだ。…お前がサボってねぇか見に来たが…どーやら、苦戦ってとこらしいな。」
「あぁ、そーなんだ…澪奈の弟が―――」
その瞬間、直樹の顔面に兎姫のオールがクリーンヒットして直樹は地面に転がり倒れた!殴られた頬の部分が赤くなっている。
「ななななな何すんだよ、兎姫?!」
当然のように動揺する直樹。救世部に入ってからというもの、このような仕打ちは日常茶飯事となってしまっている直樹。身体が慣れてきているようで、痛みより先に疑問が浮かぶようになっていた。
「お、無事みてぇじゃねぇか。ちょっとしたチェックだよ、チェックー。その身体の傷でお前は平気なのかどーか?まぁ、口が開けんなら、問題ねぇがな。」
「だったらもっと別の手段ってもんがあるだろっ!」
「ねぇよ!」
「あれよっ!」
「ところで、兎姫、サボりを見に来たはいいが…そんだけ?もしかして、もしかしてだけど…この依頼を手伝いにとか~―――」
「ちげぇよ、バーカ。俺はもう帰るんだよ。お前は、まだ依頼が終わってねぇから残業ってとこだなぁ~www。用事があるんで、ここらへんでドロンさせてもらいますよ。」
「んなっ、何だって?!待てよ、と―――」
言い終わる前に兎姫は動き出し、猛スピードでその場から消え去った。
「無責任女学生め…。仕方ない、とっとと弟を粛正して、俺もドロンさせてもらいますかー。」
この後、再び澪奈の弟へと向かっていった直樹は逆に粛清されてしまいましたwwwwwwwwwwwwwwwww。
兎姫は久々に実家へと向かうことにした。実は、母親のいる方の家は別荘で、もう一つ別に実家があった。以前、兎姫が何回か口にしていた人物、兎姫の執事クロが住んでいる館。森の中にひっそりと佇んでいて、その敷地内面積は相当なものだった。2メートル弱の石でできた外壁が館を取り巻いている。だが、その館の存在を知る者はほとんど居らず、誰も近寄ることがない。そもそも、森の中へ行く人間は登山者やバードウォッチャーぐらいだからだろう。兎姫は母にメールで、『今日は実家に行くから夜飯は抜きでいい。』と送って森の中へと歩き出していった。
館の無駄に巨大な門を潜り、数メートル進んだところで兎姫は止まった。玄関の扉まで約10メートル先。兎姫はなぜかそんな位置で立ち尽くしていた。両側にはガーデンらしい場所が広がり、足元から直線で芝生の道が伸びている。
兎姫は肩に掛けていた学校指定バッグの中から一つ、何かを取り出すと前方へと投げ飛ばした。それは野球部のボール。ボールはまっすぐと玄関まで向かう。5メートル先辺りを転がっていったその時、ボールの真下が大爆発を起こし、ボールが粉々になった!爆風と爆煙を巻き上げ、ガーデンは視界ゼロの状況になる。兎姫は爆風に少しだけ怯みながらも、すぐさま門の外へと逃げて木々に身を潜めた。
しばらくして爆煙が風に流されて視界が開けくると、玄関辺りにアサルトライフルを構えて徘徊する兵士が5人程度見えた。
「…なるほど…以前のようにはいかない訳か…。」
兎姫はバッグから発煙筒を取り出し、着火して兵士のいる15メートル先へと投げ飛ばした。発煙筒は一人の兵士の頭部ヘルムに当たって地面に落ち、辺りに白煙を巻き上げる。兵士たちはすぐさま玄関へと集合して警戒態勢に入った。
兎姫は白煙が回ったのを確認すると、木々の間を縫うように移動して大回りで館を迂回する。そして裏側の外壁へと来た。兎姫は外壁を登って立った。館の裏口が見えていた
しかし、兎姫はそのまま敷地内へは降りなかった。バッグから鉤爪の付いた長い紐を取り出すと、それを振り回して館の屋根上にあるアンテナに引っ掛けた。
「…一筋縄じゃいかねぇか…。」
兎姫は長い紐を使って館の三階へと登っていく。訳ではなく、その紐を持ったまま外壁の外へと降りた。紐は随分と長く、ちっとも足りなくならない。兎姫は木々の中へと紐を伸ばしていく。そして、少しだけ高そうな木の上に紐を繋げた。
「そろそろ、発煙筒の効果が切れる頃か…。」
兎姫は再び木々を縫って大回りで迂回する。そして再び門の前まで来た。木々に隠れ、敷地内、玄関辺りを確認する。白煙は晴れていて、警戒態勢でゆっくりと徘徊している。
兎姫は徘徊している兵士にバレないように急いで門の裏の外壁に身を潜める。近くに一人の兵士がやって来た。兎姫はアサルトライフルを構えている兵士が近距離まで迫ってきたのを確認すると、オールを構えて飛び出した!兵士が兎姫に気づき、銃器を構えて射撃しようと構える前に、オールで兵士の顔面を殴り倒した。倒れた兵士のアサルトライフルを敷地外へと蹴り飛ばし、兎姫は倒れている無防備な兵士を立たせて盾のように構えた。それと同時に他の兵士も気づいて銃器を構えた。
「ま、待て!撃つな撃つな!」
慌てる兵士を無視して、残りの4人の兵士は一斉に兎姫を狙って射撃し始めた!兎姫は兵士を盾にする。連続的に鳴り響く破裂音と共に、暴れる兵士の身体に全弾ヒットして赤い液体が辺りに飛び散った。
「容赦ねぇな、奴ら!」
兎姫は兵士の盾を捨て、外壁へと隠れる。アサルトライフルを構えて残り4人の兵士たちが走ってくるのが見えていた。
兎姫はバッグから二本の小さい木刀を取り出す。
そして兵士たちが門を潜り抜けるその瞬間を狙い、一人目の顔面へと持っていた学校指定バッグを投げ捨てた!一人目の兵士は視界が遮られて立ち止まる。その瞬間、兎姫は飛び出し、一人目の後ろにいる二組の兵士を二本の木刀で、同時に顔面を打ち、一撃で伸した!一番後ろにいた兵士がそれに気づいてアサルトライフルを構えるが、兎姫との距離が近すぎた。飛び出してきた兎姫の勢いの乗った蹴りが腹に直撃して倒れる。一人目の兵士がバッグを投げ捨て、兎姫に気づいてアサルトライフルを構えた。兎姫は咄嗟に飛び蹴りを食らわせた兵士を盾にし、突っ込む。その兵士ごと、一人目の兵士を潰した。その間、たった10秒。たった10秒で四人の兵士が伸されてしまった。
兎姫は落ちていた学校指定バッグを拾い、中を確認して二本の木刀を中に収納した。
「さぁてと…これで一段落ってとこか。」
学校指定バッグを肩にかけ、兎姫はゆっくりと敷地内の芝生でできた一本道を歩き始めた。先ほど、地面が爆発したところに大きな爆破跡と焦げができていた。これは地雷。外部から侵入してくる敵に対策しての事だろう。館の玄関から5メートルの地点で跡がある。爆発範囲から考えれば、もう地雷は仕掛けられていないだろうと察する兎姫。
「だが…それだけだったら…苦労しねぇよ。」
ここには赤外線レーザーが張られている。触れれば、警報がかかって兵士の軍勢のお出ましってこったぁ。だからといって、ガーデンの方には足を踏み入れられねぇ。踏み入れば瞬時に外壁の小銃のオート射撃の的になっちまう訳だからな。
兎姫赤外線を確認できる眼鏡を装着。それを付けて玄関前まで歩いて来たが、再びそこで立ち止まった。玄関の天井部には丸い形をした監視カメラが二つ。そして扉には暗証番号が。
兎姫は再び学校指定バッグの中から鉤爪付きの長い紐を取り出した。先ほどの物とは別の紐だ。それを再び上へと投げる。二階のベランダの柵に引っかかる。兎姫は紐を登り、二階ベランダに立った。鉤爪を付けたまんま紐を回収。自分の腰に紐を巻きつけ固定した。
次に、ベランダから普通に室内へと入らず、館の壁のちょっとだけ突き出た部分に足をかけた。それは人一人がやっと横歩きできる程度の細い部分。そこから少しずつ歩いて館の左側へ。西側の二階ベランダまでやって来た。命綱として付けていた腰の紐を外し、先端に重りを付けて投げ捨てた。鉤爪が固定されている紐は重りの遠心力と共に西から南へとターザンロープのように動き、そしてガーデンの方まで流れていった。重りが赤外線レーザーに触れて警報が鳴る。案の定、玄関から大量の兵士たちがアサルトライフルを構えながら出てきた。しかし、そこにはやられた兵士の身体が5つあるだけ。兎姫は西側二階のベランダにいるので死角。気づかれることはない。
そして普通に室内へと入って来た。なぜか、窓の鍵を閉めていない。
「俺の部屋だからだよ、鍵閉めてねぇのは。」
そう、この部屋は兎姫の部屋。鍵を閉めてなかったのはそういう事らしい。鍵を閉めないなんて、防犯意識の薄い兎姫。
「っせぇぞ、ナレーター。ここまでの道のりを見てきただろうが。こんな所に入ってこれるのは大怪盗かその手の分野のプロフェッショナルぐらいなもんだ。普通の空き巣なんかとは訳が違う。それに、ここは深い森の中。まず、気付かれるかどうかだろ?侵入する奴なんていねぇよ。」
兎姫は持っていた学校指定バッグをベッド上に投げ飛ばし、部屋のタンスの一番下の段から必要な小道具を取り出してバッグに詰め込んだ。重くなったバッグを肩にかけ、兎姫はゆっくりと部屋を出る。
「あのさ~…本当に行くんだよね?」
真昼が何かを見上げながら、隣にいる依頼者の男に訊く。
「当たり前だろ、じゃねぇと俺のメンツ丸潰れだ。」
真昼と依頼者の男は今、とある巨大な家の前。スパイの手伝いをしている。豪勢な作りのその家には周りを囲うように石が積まれている。一箇所だけ入口があり、二人はそこから中を確認する。なぜか分からないが、その家の敷地は随分と汚れている。その敷地に住民なのかは分からないが、同じ服を着た人物たちが辺りを彷徨いていた。一体何がしたいんだか。
「どーする?これじゃあ、中には…。」
「これぐらい、どーにだってなるぜ…裏へ回る。」
真昼と男は迂回して裏へ。しかし、その時だった。どこからか銃弾が飛んできて真昼のバッグに直撃した!真昼は驚き、腰を抜かして倒れる。
「バカ野郎!早く立て!」
男は真昼を立たせると、石の外壁から離れる。どうやら、外壁の上部に銃器が設置されているようだ。しかし、幸い、真昼にも男にも怪我はなかった。
「これは…一筋縄じゃいかん訳か…。さすがの組じゃねぇか、ワクワクするぜ。」
男は真昼を連れ、外壁から少し離れ気味に回って裏へとやって来た。
「次は…ん?何だ、あれ?」
男は何かを目にする。それは紐だった。誰かが侵入したのか、紐が家へと伸びていた。
「ラッキーじゃ~ないか~!あれを使って中へ行くぞ!」
男と真昼は紐を伝って二階へ。中に侵入した。そこはトイレだった。床がピカピカに洗浄され、悪臭どころか良い匂いの香るトイレだった。綺麗すぎる。
「わぁ~おぅ、ちょ~綺麗じゃ~ん!」
トイレの綺麗さに見とれる真昼。自分の家もこんなトイレだったらな~と、妄想を膨らましている、どうしようもない哀れな夢見がちガールだ。これも真昼の入っている文芸・芸術部の影響か?
「何してんだ、真昼?早く行くぞ。」
真昼は男の後について行き、トイレの外へと出た。そこは長い廊下になっていて床がトイレと同じように綺麗だった。
「わぁ~、床も完璧ぃ~!」
「馬鹿野郎!でけぇ声出すんじゃねぇ!バレんだろうが!」
二人は辺りをゆっくりと警戒しながら徘徊する。そして階段を見つけると三階へと上がっていった。
龍谷は仕事場へと呼び出しを喰らい、上司のいる家にやって来ていた。刹那がどうしてもついて行くとダダをこねていたため、仕方なく刹那を連れてやって来ていた。
「本当に来んのかよ?お前の身体能力でじゃ…追いつけねぇぞ、マジで。」
「良いの!ついてくもん!」
ちょっとヤキモチを妬いている刹那。
「ま、まぁ、お前が来る来ないはお前次第なんだがよぉ…俺にはお前を守らないといけない義務があるんだよ…。お前には怪我して欲しくないし、それに死んで欲しくもない…。だから、今回はお前も俺が連れて行く…。後戻りなんてできねぇからな。」
「分かってる~!」
しばらく暗い森を歩いていくと、急に開けた場所が現れた。そこが上司のいる家だった。四階建ての大きな家。庭も大きい。そして安全面も最強だった。
龍谷は入口の門の陰に隠れて様子を見ていた。すると、不思議なことが起きているのに気が付いた。普段はいるはずのない警備隊がそこにはいた。それに爆発した跡も見える。どうやら爆弾テロがあったようだ。龍谷は様子確認のため、その警備隊へと近寄っていった。
「どーしたんだよ、これ?何があった?」
一人の警備員が龍谷に気づいて振り向いた。
「あ、もしかして龍谷さんですか?実は、先ほど―――」
龍谷と警備員が話している姿を遠くから、門に隠れて眺めている刹那。どことなく悲しそうだった。
しばらくして龍谷が戻って来た。
「問題ねぇって。今回は特別、普通に入れるみたいだしな。ラッキーだぜ?普段なら、こんなことはない。」
刹那は俯いている。龍谷はそんな刹那を訝しげな顔で見つめる。
「どーした?具合が悪いのか?」
「ち、違うよ…そんなんじゃなくて…。何でもない…。問題ないよ、龍谷。」
「そっか…行くぞ、刹那。」
龍谷は刹那の手を取り、二人で家の中へと入っていった。警備員は外を確認するため、ずっと徘徊していた。
部屋の外には長い廊下が続いていた。誰も歩いている気配はないが、兎姫は慎重に、警戒を解かずに歩き始めた。床は大理石でできている豪華な仕様だが、この冷たい大理石の床が逆に滑りやすい。
「相変わらずの綺麗さだな…どんだけ時間を持て余してるんだか…。」
その時、誰かの声が廊下に響いたのに反応した兎姫。すぐさま自分の部屋の中へと隠れる兎姫。
二人組…一人は男、もう一人は女といったところか…。
兎姫は声が消えるまで部屋に籠っていた。そして出ようとドアノブに手をかけたが、そこで留まってしまった。適当に入ったその部屋に興味が湧き始めたのだ。そこは物置倉庫といった場所。館中の普段はあまり使わないものや、永久保存系、非常食など、多種多様な物品が適当に置かれていた。兎姫は適当に倉庫内を徘徊する。あまり開けていないらしく、埃がすごかった。それに湿気も。密閉された空気が気分を悪くさせていた。だけど、どうしても気になっている兎姫。倉庫奥に保管されている一枚の手紙を手に取る。それは送り主の名前が書かれていない無題の手紙。なぜ保管されているかは不明。謎の手紙だった。
真昼、そして依頼者の男は三階のとある一室の中にいた。二人共、何か防護服のようなものを敵に着せられていた。
実は数分前、男は三階で敵を二人、伸して服を奪い取った。真昼と男はその服装に着替えて潜入したのだ。仲間と勘違いした敵は真昼と男に戦闘員として働いてもらうために戦闘用の服装に着替えさせているという訳なのだ。
「これに着替えた後、四階と三階の間にある隠れ部屋に待機してもらいます。合図が上がり次第、三階の部屋へと飛び込んでいってください。侵入者は目の前にいるはずですから。」
と、長々と説明を聞かされ、真昼と男は他の戦闘員と共に三階と四階の間にある隠れ部屋に身を潜めた。三階天井部に穴が空いており、そこから下の様子が確認できる。一人の人間がゆったりとしているだけだった。
「…真昼、いよいよだ…。」
「何が?」
男は真昼にだけ聞こえるように囁く。
「とぼけるなよ、今回の依頼だ。兎姫という人物の暗殺、それが今回の目的だ。」
「え?」
「誰だかは知らねぇが、奴を倒せば俺は昇格間違いねぇ。」
「とき?兎に姫って書いて?」
「あぁ、そーだ。」
兎姫?!救世部部長のあの…。え?でも、でも何で?ここに兎姫がやって来るって事?何で?それに、兎姫は一体何者?狙われる程の大物ってこと?…でも、このままこの人をほっとけば、兎姫は殺られちゃう…って事だよね?
やっと状況が把握できて、真昼は青ざめる。このままでは兎姫が殺られてしまう。
そして、真昼と男が今いるのは兎姫の館内!
兎姫は階段を見つけると、その階段を上がってゆく。そして三階のとある部屋へとやって来た。木製の重そうな扉を足で蹴り開ける兎姫。その部屋は思ったより狭い感じで、奥に窓ガラス、その前に長机とリクライニングチェアが一つ。そのリクライニングチェアに一人の人物が座っていた。
「よぉ、久しぶりだなー、クロ。」
「やはり、ここまで来れるとは予想できていました。前よりも巧妙な手を使うようにもなって…成長してますね、兎姫。」
椅子に座っている黒髪で黒いスーツを着ている人物の名前はクロ。兎姫の執事だ。
兎姫はその部屋の端にあった小さな椅子に座って壁に寄りかかった。肩にかけている学校指定バッグは置かずにかけっぱなしだった。
「しばらくいなかったから、防御が手薄になってると思ったが、問題はなさそうだな。むしろ、前より強化されている。心配なさそうで、良かった良かった。」
「それは嬉しいですね。」
「だが…何で俺が来る事…知ってたんだ?お前…兵士のアサルトライフルの弾丸を全て赤のペイント弾に入れ替えたろ?」
「バレていましたか…。」
クロはちょっとだけ口角を上げて笑う。兎姫は溜息を吐いた。
「じゃあ、まだまだ俺は未熟ってことか…。相手に行動を悟られちまうとは…。」
「いえいえ、兎姫は十分成長しました。最初の頃なんてものは酷かったですよ。」
「やめてくれ…嫌な記憶を思い出しちまう。」
兎姫は苦い顔になる。
一番初期の頃、同じように兎姫はこの館に入るために攻略をしようとしていたが、結果的に全身ボロボロでガーデンの前に倒れていた。これのおかげでガーデンのオート小銃射撃の事を知れた。小銃にはペイント弾ではなくゴム弾が装填されている。このゴム弾を連射されて全身でそれを受けてしまった。体中アザだらけになった兎姫。それ以来、小銃が起動してない時でもガーデンには足を踏み入れなくなってしまった。
「…所で…『十分成長した』ってーのは、何だ?俺がもう使い道がねぇということか、ん?」
「そうですねぇ…それは―――」
クロが手を上げた。その直後、天井部が部分的に開き、兵士が三人程落ちてきた!その内の一人は真昼の依頼者の男であった。彼らの手には刃のしっかりとしているククリが構えられている。
「これを潜り抜けたら…どうですかね?」
兎姫はクロが手を上げた瞬間から反応していた。兎姫は飛び出し、座っていた椅子を投げ飛ばした!クロの背後、窓ガラスを突き破って落ちる。兎姫は瞬時にオールを構えて走る。兵士が地面に着地したのはちょうどその瞬間だった。兵士が立ち上がり、ククリを構えようとしたその動きより先に、兎姫はオールの中央部を持って横に構え、兵士三人の首元へ突撃した。三人の首にオールが引っかかって、そのまま三人をクロのいる机に叩きつけた!兎姫はその勢いに任せ、オールを持って割れた窓から外へと飛び出した!ここは三階、落ちれば良くて骨折、悪くて死ぬ。クロは咄嗟に窓の外を確認する。兎姫はアンテナから森の木々へと繋げられた紐をオールでぶら下がって滑り落ちていった!そして木の幹に激突して止まる。抜群のバランス能力だった。
「…さ、作戦、どーり…。先に裏口に張っといて正解だったぜ…ぐはっ…。」
それを見ていたクロは静かに笑う。
「…撤回、ですね…兎姫。この手は考えてなかった。それに―――」
クロはなぎ倒された兵士三人を見る。三人は首を押さえて痛がっていた。その中の一人、中央にいた依頼者の男のククリがなくなっていた。兎姫が奪い取ったに違いない。
「どさくさ紛れに、ククリを奪いましたね、兎姫。まだ、成長の余地がありそうで何よりです。」
兎姫は顔を押さえて木から降りてきた。どうやら顔を打ったようだ。
「いってぇ~…次はもっと安全面を考慮していかねぇとな。」
兎姫はオールを肩にかけ、気だるそうに森の中へと入っていった。小道具の詰まった重いバッグをかけながら。
一方、天井裏でどうせやる事もないのに、ずっと一人スタンバっている真昼は、開いた天井部から下の部屋の様子を心配そうに眺めていたが、兎姫が兵士たちをなぎ倒したのを見て、ホッと一安心した。
「良かったー、死ななくて…。」
実は、合図で落ちていったとき、男の人(依頼者)の持っていたククリだけを咄嗟に奪い取っていたの。だから、兎姫さんは何とか無事に逃げれたみたい。
下の部屋では男がグッタリとしているが、不思議と笑っているように見えていた。
「…あれが…兎姫か…。女子高生だから油断していたが…なかなか素早い対応だ。…面白い!そうこなくてはな!」
依頼者の男はすぐさま立ち上がって、外へと出て行った。真昼も慌ててその男を追っていった。
龍谷は刹那を連れて家の二階を歩いていた。長い廊下を曲がろうとしたその時だった。曲がり角から一人の人間が飛び出して来て、龍谷に当たり、龍谷とその人間は倒れた。
「龍谷、大丈夫?!」
「あぁ。」
刹那は龍谷を立たせる。目の前には兵士が一人。
「お前、ぶっ殺してやる!」
兵士は直後、飛び上がるように立ち、龍谷に襲いかかってきた!龍谷は刹那を後ろへと咄嗟に押し退ける。そして、兵士の腹目掛けて得意の蹴りを決め込んだ!しかし、兵士の装備は固く、ちっとも攻撃が効いていない。兵士は龍谷の足を引っ張り、遠心力で龍谷を壁に叩きつけた。
「…ちょーどいい、ガキがいやがって…俺って何てついてんだろうか。兎姫の代わりに死ね。」
「と、兎姫だと?…てめぇ、一体―――」
兵士は倒れている龍谷の顔面を踏み潰した。鈍い音がして、龍谷は一撃でやられてしまった。意識が飛んで動かなくなった。兵士は再び、龍谷を踏み潰そうと足を上げた。そこに、刹那がかばう様に入り込んできた。涙目で顔の見えない兵士を睨んでいた。
「どうして、どうして龍谷を?!仲間じゃないの?!」
兵士は上げた足を地につけ、そして小さく笑った。
「仲間ぁ~?そもそも俺は侵入者であって、お前らなど知らないな。」
そのタイミングで、奥の廊下から真昼が走ってきた。必死に走ってきているその顔は焦っていた。
「あちゃ~…遅かったか~…。」
真昼は倒れている龍谷を見て、視線を背けた。そんな真昼を刹那は驚いて見ていた。
「…あれ?何で、いるの?!真昼でしょ?」
「あ、あははは…ははは…。」
苦笑いする真昼と、目を見開いている刹那。その二人を無表情で見ている兵士が一人。
真昼はその兵士に言う。
「あのさ、もう依頼失敗なんだしさ、帰らない?」
「こいつらを残してか?姿を見られた。それに、お前…コイツの仲間か?」
「さ、さぁ~?」
「どっちにしても、こいつらを生かしておけない。今、殺す!」
兵士は装備を脱ぎ、身軽になった体で刹那へと攻撃しようとした。真昼はそんな男を全体重で引っ張って止める。
「まままままままぁ!刹那は仲間なんだし、バレても支障はき―――」
真昼は男の肘に殴られて倒れた!
男は冷静な態度で刹那へと近づいていく。刹那は倒れる龍谷の前に立ってかばう。今にも逃げ出したい欲求を抑え込んで、無理して立ち尽くす刹那の体は微かに震えていた。目には涙が溜まって流れ出しそうだった。
「そこを退きな、嬢ちゃん。」
「いっ嫌ぁ!絶対嫌!」
男はニヤリと凶悪な笑みを浮かべる。
「…死にたがりだなぁ~、嬢ちゃん。普通だったらすぐにぶっ殺してんだけどよぉ、特別、後5秒だけ待ってやる。とっととここから失せな。」
刹那はそれでも動かなかった。震える体に鞭打って歯を食いしばりながら立ち尽くしていた。
「死にたがりだよね~…死ね。」
男はポケットからバタフライナイフを取り出し、刹那の腹に突き刺した!
「え…?」
ナイフで刺された刹那の腹部から出血し、服を赤く染めた。刺さっているバタフライナイフを通して男の手に鮮血が流れ、手を血で染める。男は満面の笑みで刹那を見つめている。刹那は無言でその場に倒れた。
「殺、させやしねぇ…ぞ、刹那を!」
龍谷の苦しそうな掠れた声が響いた。ナイフを刺した位置に、龍谷の左手が構えられていた。男のバタフライナイフは龍谷の左手を貫通させて刹那の腹を深めに刺しただけだった。致命傷にはならなかった。龍谷の自分の左手を犠牲に、刹那を守ろうとしていたのだ。これには男は驚いて後退する。その隙を狙って龍谷は男の顔面へと飛び蹴りを決めた。男の鼻が折れた音がして、男は数メートル先へと吹っ飛んでいった。
龍谷は男が立ち上がる前に男の顔面に踵落としを決め込んだ。この一撃によって男は戦闘不能となった。折れた鼻から血が流れている。
龍谷は男を倒すとすぐに倒れている刹那に駆け寄った。刹那は腹部から大量に出血していた。龍谷の左手越しに刺さっていたが、傷口は深い。腹部から流れ出した血が廊下に血だまりを作っていた。
「刹那!おい、刹那!」
刹那は虚ろな目だけ動かして龍谷を見つめる。意識が今にも消えかかりそうだった。
バタフライナイフってさ…格好いいよね~(キラッ)!
そもそも、なんだあの男…ゴミの分際で勝手にバタフライナイフなんて持ってきてんじゃねぇよ!ああいう奴にはな、果物ナイフ程度で十分なんだよ!
友人IH「果物ナイフなんて勿体ねぇだろ?ここはな、モ〇ハンの『冷凍カジキマグロ』で十分だ!」
説明しよう!モ〇ハンの冷凍カジキマグロとは、巨大なカジキ冷凍し、竜〇族の技術によって大剣に加工された武器のことである。
ってか、強くなってんじゃねぇか!
あの男に大剣が持てるわけない。どっちかっていうと暗殺稼業だし…。せべてペーパーナイフぐらいは持たせてやるよ。
直樹「お前ら本当にえげつねぇよな…。」