22話目『PRISON BREAK。』
みなさん、こんにちわ。星野夜です。
さて、今回で22話目になりますね。いつもは学校のPCから投稿してるんだけどさ(これ、秘密です…って、投稿してる時点で秘密もくそもねぇよ!)、今日は沼津から投稿!いやぁー沼津って楽しい!
まぁ、それはさておき、確か…21話目で兎姫と海美に異常事態が発生した…だったかな?(なんで、作者のお前が覚えてない!)
今回はその話の続きというわけでしてねぇ。…結構苦戦を強いられました(執筆のほうです)。時間がかかった分、いつもより濃い内容(ただ、内容量が厚いだけですが)になってます。
つまり、文の執筆ミスもその分多い、ということですねぇ(なんで、自分で自白してんだ、こいつは)。そこらへんは仕方ないことですから、間違いがあった場合は、コメントか何かで知らせてくれれば幸いです。
(見ている人がいるかどうかも危ういな)
長ったらしい話は嫌いでしょう?そろそろ本題に移るとしましょう。
『直樹、知ってますか?』
直樹は家に届いた氷見先生からの電話に出ていた。
「ん?…俺は家にいるから知らないな。兎姫はいつも通りに部室にいて、海美は付属でいるんじゃ?」
『それが、今日はなぜか二人共いないのよ。直樹なら知ってるかと思ったんですが。』
「さぁ?奴らは不規則だしな。多分、依頼でも―――」
『電話が通じないのですよ。』
「何だって?」
『兎姫は裏企業に手を出したのよ。いつ何時、殺されたってありえない話ではないのよ。もちろん、直樹、あなたもね。』
ガーンΣ(゜д゜lll)!
んだとぉ!兎姫ぃ~、バッカヤロォ!
「ちっ!あの兎め、世話かけやがって。…氷見先生、兎姫と海美はもし、仮にもし、依頼ではなく、襲撃にあった場合の話で…助かる確立は極々一部、ってのは当たり前だけれどな…兎姫、あいつには何か深い裏をかくような考えがあるはずだ。なんせ、あいつは生徒会長の座に居座れるぐらいの頭脳はあるからな。そこでだ…俺らは兎姫の考えより先に回ればいい。簡単に言うがそれだけ!」
『良いでしょう、直樹。準備は良い?』
「え。俺も?」
目の前に響が立っているのが見える。そして自分は倒れている。場所はどこか狭い部屋。天井に蛍光灯ではなくランプか何かが吊るされていて、それが薄く光を発してなんとか部屋が肉眼で見える。意識がボーッとして晴れ渡らない。動こうとしたが、手足が紐に縛られて身動きが取れない。
「よぉ、兎姫。惨めな姿だな。」
響は倒れている兎姫の前に座ってそう言った。兎姫は視界の霞んだ瞳で響の顔を見上げて、
「響…か?…何で、そこに、いる?」
霞んだ声でそう訊いた。
「俺?…俺はな、お前の処刑を請け負ったんだよ。」
直後、兎姫は腹部に激痛を感じ、霞んでいる瞳で自分の腹部を見た。そこには一本のナイフが深く刺さり、服が鮮血で滲んでいた。兎姫は痛みで呻く。ナイフを刺した響は、腹部のナイフを抜き取って再び、今度は拘束されている右腕に突き刺した!ナイフは右腕を貫通して地面に当たる音がした。右腕から大量に鮮血が流れ、兎姫は断末魔の叫びを上げる。
「どうだ?痛いか、兎姫?」
響はニヤリと悪顔でそう言った。兎姫は答えを返せる状況ではなく、ただ痛みに呻いているだけだった。
「疑問しかないだろ?なぜ、今まで仲間だった俺が今、お前を処刑しようとしてるか…分からないだろ?くくくく…まさか、お前に拘束プレイができる日が来るとはなぁ。人が痛みに呻き苦しむ声といったら、こう深部からゾクゾクするよなぁ。もっと苦しめ、もっと呻き叫べ。その度に俺の心が満たされてゆく。さぁ、始めようか、拷問の時間だ。」
響はナイフを構える。痛みに体を捩らせている兎姫。何とか響に向き合った。瞬間、ナイフが眼前へと突っ込んできて、その瞳が直後、赤く染まった。
「うわぁぁぁぁぁっ!」
兎姫が恐怖の叫びを上げた。
兎姫はどこかの一室にいる。手足を拘束されていた。
「…夢、か…。嫌な夢を見ちまったな…それも仕方ねぇ…なんせここは―――」
ここは暗く狭い一室。天井にランプのような照明具が薄く発光していて部屋をうっすらと照らしている。どうやら兎姫は夢を見ていたようだ。響に拷問され、そして殺される悪夢を。全身から冷や汗が吹き出し、顔色が悪かった。その夢と全く同じ部屋の中で今、拘束されている。当然ながら、非常にまずい事態だ。
「…まぁ、響が敵になんてなる訳ねぇか…。」
直後、兎姫は響が救世部を退部したことを思い出した。
「…まさか、な…。」
どっちにしろ、このままだと確実に拷問させられて挙げ句の果てに殺される。黒幕は科学研究部共か…生徒会長の権限で廃部にしてやる!…それより先に、まずはここを抜け出さねぇとな。
兎姫は霞んでいないしっかりとした瞳で辺りを見回す。そこには使えそうな道具は一つもない。ただ狭くて暗い部屋。例えるならば監獄の牢屋と言ったところ。つまり、手足を拘束する紐を千切る方法はない。出口の扉があるが、どうせ鍵がかかっているに違いない。破ろうにも鉄の扉なんか蹴っても壊れやしない。ましてや、拘束状態であっては何もしようがない。
そこで、兎姫はこう考える。ポケットにあるスマートフォンを何とか取り出して起動し、救援を呼ぶ。今の兎姫にはそれしか方法が思いつかなかった。だが、敵はそこまで馬鹿じゃなかった。兎姫のスマートフォンはどうやら抜き取られているようだ。
「ちっ!…これじゃあ、何もしようがねぇ。」
さすがの兎姫でもここからの脱出は思いつかないようだ。何もないなら、何もできない。兎姫は安静にしておくことにした。
安静にしてから数十分が経過した頃、兎姫は完全に眠っていた。ヤバイ事は分かってはいるのだが、何もしていないし、それに横たわっているので睡魔が襲ってきたのだ。そして案の定、眠ってしまったという訳だ。
兎姫がグッスリと眠ってしまったそんな時、部屋の扉の鍵が開く音がして、そして一人の黒フードの敵が一人の囚人?を部屋の中に蹴り入れた。蹴られた人物は兎姫の横に倒れた。兎姫はその音で気付いて目を開く。そこには全身ボロボロになった海美が両手足を拘束され、倒れていた!
「おまっ、海美!何でお前が捕まってんだよ?!」
海美は腫れて上手く開かない瞳を開けて兎姫を見た。兎姫は唖然としていて驚きが隠せないようだ。
「…えへ、へ…兎姫さん、ちょっとダメでした…。」
「お前、その体、どうした?!生きてんだろうな?!」
海美は何とか笑顔を見せている。
「…冗談…ですか?もちろん、生きて…ますよ、外傷だけです…。兎姫さんも、無事で良かった…。」
兎姫はそんな海美を見てられないと、転がるように背中を向けた。
「バカはやっぱり死んでもバカってことか。…嘘を吐くな、海美。バレバレの嘘を吐きやがって…。その傷のどこが外傷なんだよ?」
海美の傷は一見、どこも外傷に見えるが…内傷も酷いものだった。外傷は打撲、切り傷、擦り傷などどちらかといえば軽傷なもの。しかし内傷は、右腕の骨折、重度の内出血、左足一部軽い壊死など、笑顔を保っていられるのが信じられないというほどの痛々しい姿だった。
兎姫は依然として背を向けたまま、
「何があった?一体、何された?」
そう訊く。海美は何とか痛みを我慢して口を開く。
放課後、図書室にて。
雫石刹那のボディーガード、龍谷が図書室にいる。そこに、文芸・芸術部副部長の真昼がやって来た。いつも通りの雰囲気でニコニコとしている。真昼は龍谷を見るなり脳が急速で回転し始めた。
(も、もしや!あそこに座っている男子は最近、色々と噂の、あの織島龍谷!噂によれば、確か蹴り一つで車体を吹き飛ばしたり、校舎を半壊させたって噂…。最近でも救世部に突撃したりしたとか…。まるで百獣の王!彼一人の力は戦闘力数値にして約10億!つまり、その龍谷と相対したと言われている救世部部長兼生徒会長の兎姫は戦闘力10億程度…。この二人が衝突した場合、被害総額は人間円にして約1000京円にも上ると推定される。)
「…聞こえてんぞ、お前の心ん中の声がよ…。どうなってんだ、お前?」
龍谷は変な者を見るような訝しげな表情でそう言った。
「あ、どどどどどうも!わったしは単なるエキストラで、その―――」
「ビビんなよ、別に脅したりなんてしねぇって。お前と話すなんて初めてだな。今日は嵐にでも何のか?」
真昼は龍谷がそう言っていても、まだ多少の恐怖があるらしく、警戒心を完全には解いていない。表情に出さずに見ているのだが、明る様に怪しんでいるのが目に見えている。龍谷はそんな真昼に少し溜息を吐いて、そして面倒そうに席を立ち上がった。真昼はそれに反応してビクッと身体を震わせた。
「だからな、俺は確かに暴力的で恐喝的に見えんだろうけどな、俺はこれでもボディーガードナーだ。無意味に暴行を振るうなんて、ボディーガードナーとして失格だ。分かんだろ?ほらよ、席、空いたぜ。お前は落ち着いて座ってろい。」
龍谷はそう言って少し驚いている真昼を自分が座っていた席に座らせた。そして真昼にこう切り出した。
「そういやぁ、お前は本を借りに来たんだよな?」
真昼は小さく頷く。まだ少しだけ警戒しているようだ。龍谷はまた溜息を吐いて、そして言った。
「俺は図書委員の一人だ。借りたい本のことなら俺に聞け。だいたい、どんな本でも位置は分かる。」
真昼は首を横に振った。
「は?違う?じゃあ、何しに―――」
「君に用があって来たのさ。」
龍谷は意外な言葉にしばらく意味不明で言葉が出なかった。
「実はさ…いや、ナレーターに説明は任せた!」
はい、という事で真昼さんの小説クオリティーによって爆誕しました、ナレーターです。普段はこの通りに説明役をしていますが、真昼さんの小説クオリティー発動中はこのように自在に説明が可能になるわけです。
話を変えますが、真昼はあることが目的で図書室にいる龍谷に会いに来た。それはとても重要な話。第三者に絶対に漏らしてはいけないほどのもの。しかし、ここでひとつ。なぜ、彼女はそのような情報を持っていて、そしてそれを龍谷に言いに来たのか?それには数十日前に遡る。
「で、私の回想を入れるのが普通だけど、それじゃあ、すぐにネタバレじゃん?ここはあえて、まだ伏せておくのもまた手だよね?」
「お前!何してんだよ?!て言うか、どうやってやった?!ナレーターが変になってやがるし、それに話を自在に切り替えられるのか?!それってもはや、日常系の話と違うよな!?ぶち壊してんだろうが!」
当然のように驚く龍谷。救世部は既に経験している小説クオリティーとやら。初体験の時は必ずこのように驚くのは仕方のないことだ。なんせ、この小説クオリティーとやらは、この『ENDよければ何とやら』の小説のことについてをキャストが話してしまうのと、それに加えて日常系小説にファンタジーをブチ込むというダブルパンチが起こす危機が起こっているからだ。言うなら『DIMENSION(次元) SHOCK(危機)』というもの。並行空間に別次元が無理やり入り込むことで起こる異常事態のことだ。また、以上の文は全て適当である(笑)。
「まぁ、そういうことだから。分かった、龍谷?」
龍谷は呆れ果てて、もう突っ込むのもやめることにした。
「で?話が100キロくらい脱線してんだが、ところで何の話をしに来た?」
真昼は辺りをキョロキョロと確認した後、龍谷の耳元で小さくある話をした。龍谷はその話が本当の事なのかと驚いた顔で真昼を見つめた。真昼はキリッとした目つきで龍谷を見返す。
「お前…一体何が―――」
「へへ~ん、こう見えてもってね♪人は見た目で判断すべきじゃないからさ。」
真昼は堂々たる姿で自慢した。
「そうそう、読者の皆さんには分からないように表現しておいたよ。ネタバレはまだまだ先になりそうだからね。」
「お前、またネタみてぇなセリフ!」
「良いの良いの!さぁ、当然気になってるんでしょう?先のは・な・し!確か…主人公とヒロインのピンチ的状態だったっけ?それと救出に向かう組の話だったかな?」
ここまで話して良いものなのかと龍谷は思っていた(これは作者の自分も思ってます)。これ以上、話してしまうと物語が崩壊しかけない。真昼の小説クオリティーは程々にしておかないと構成が壊れてしまう。それに時間軸が狂ってしまう。
「まぁまぁ、ナレーター、そう慌てないで。もうカメラを切り替えるからさ。じゃあ、二人の話へとカメラを入れ替えまーす!」
と、どこかに指差して誰かに向けてそう叫んだ。
「真昼を封印しておかないとな。」
龍谷は溜息を吐いた。
暗い部屋の真ん中に椅子があり、そこに海美がなぜか拘束されて座らされていた。手を椅子に縛られて動けないようにしてある。そして目隠しが付いている。意識はなさそうだ。
そんな部屋の天井部、排気ダクトを通して屋根裏。その闇の中に二人の陰があった。
「おいおい、どういうことなんだ?なぜ、あそこに海美が拘束されている?」
一人の男の声が静かに訊いた。
「私にも分からない。けど情報によれば、ここはゼピュロスの地下基地のはず。」
もう一人の女の声がそう返した。
どうやら、ここはゼピュロスという組の地下基地らしい。海美はゼピュロスに捕まって拘束させられているのだ。
そんな状況の中、その部屋の出入り口が開き、一人の仮面を付けた男がバットを持って部屋に入ってきた。いかにも危なっかしい雰囲気しかない。そのあとに続いて三人程度の下っ端も入って来た。
「おい、あいつまさか…海美を!」
屋根裏に隠れていた男が排気ダクトから降りようとしたのをもう一人の女が止めた。
「早まるのは賢くないよ。ここで出たところで勝ち目はないのは目に見えてる。」
「じゃあ、あのまま海美をほっとけっていうのか?!」
女は押し黙る。どう答えれば良いのかに困っているのだ。海美を見殺しにはできない。彼らは見るからに拷問兵。海美から何かしらの情報を聞き出そうとしている。だが、このまま突撃したところで結末は一つ。多人数による惨殺だけ。
下の部屋にいる仮面を付けた男が海美の目隠しを取った。海美はそれに反応して意識を取り戻した。直後、急展開に驚きを隠せず辺りを見回し始めた。表情が引き攣っている。
「やぁ、海美さん。どうやら何かしてしまったらしいねぇ?」
バットを地面に叩きつけながら男は優しい口調で海美に言う。海美は恐怖と戸惑いで訳が分からなくなっていた。
「え、い、いや、その、あれ…えっとー…何か―――」
バキッ!
仮面の男がフルスイングで海美の右腕を叩いた!骨が折れる鈍い音が部屋に響いて、直後、海美の痛みに呻く声が響いた。
「くっそ!あいつら、やりやがった!」
「落ち着いて、まだ出ちゃダメ。」
屋根裏の男を必死に止める女。
下では仮面の男が高笑いをしていた。海美は痛くて泣いていた。
「もっとハッキリ話してくれないかなぁ~!僕、短気なんですよー。質問、海美さんは一体、何の話を聞いたんですかー?」
海美は痛くて我慢できなかったけれど、その質問は無言を貫いていた。
「ダンマリですかー。」
仮面の男は再びバットで海美を打った!頭に当たって血が地面に飛び散った。海美は今にも死にそうな表情だった。頭部に当たったけれど、何とか意識は保っているようだった。血が顔を赤く染め上げた。
「さぁて、次の質問。海美さんはどこまで僕らのことを知っている?」
仮面の男はニヤついた笑みを浮かべてそう訊く。海美は既に話せるような状態ではなかった。頭部に受けた攻撃でもう意識がほとんど飛んでいた。何も声が出せなかった。でも、海美は言うつもりなんかはなかった。仮面を付けた男はイラついたようで、バットを投げ捨てた。バットが壁に当たって音を立てる。そしてその男は腰部分から一本のナイフを取り出し、海美に見せつけた。
「海美を殺す気だ!どーすんだよ?!おい!」
屋根上で男が小声で叫ぶ。女は悔しい顔のまま、
「ダメ!今はまだ出ちゃダメ!…どうにも、できない。私達がまだ無力だから。」
女は目線を逸らす。一方の男は鬼気迫る表情で仮面を付けた男を睨んでいた。
仮面の男は持っているナイフを海美に向けて構えた。
「やぁ、海美さん。そろそろ終わりになるけど、言い残したことある?もちろん、質問に対しての応答は大歓迎だ。」
海美は薄闇の中の薄明かりに光るナイフの刃を見て青ざめた。逃げようとしても逃げられず、このまま殺されてしまうと思っていた。仮面の男には容赦がない。確実に殺る。海美はどうせ死ぬなら秘密は隠蔽しようと決めていた。だから、何も話さないことにした。
「…それが答えか。ならば、痛みに呻いて死ぬがいい!」
男はナイフを海美に向けて刺そうとしていた。
屋根裏で男は暗い表情で海美を殺そうとしている仮面の男を睨んでいた。
「やめろ…。」
仮面の男には聞こえない声。
「やめろ…。」
ナイフが海美の胸部を貫こうとしていた時だった。排気ダクトが破れて、そこから一人の人物が飛び出してきた!下っ端たちは大仰天。その人物は仮面の男のナイフを持っている腕を蹴り落とした!ナイフは落なかったものの、胸部ではなく左足にナイフが刺さり、海美は一命を取り止めた。仮面の男は侵入者に驚き、そして笑い始めた。
「これはこれは、誰かと思ったら…所詮はただのガキか。」
そこにいたのは緑色の指定ジャージに身を包んでいる人物。雫石刹那のボディーガードマン、龍谷だった!
「あの…バカ!」
上から女が覗き込んでいた。それは文芸・芸術部副部長の真昼!龍谷が海美を守りにいった事に、不安と嬉しさを感じている。
「海美!お前、何でこんなことになってやがる?!」
海美は左足に刺さったナイフの痛みを何とか我慢して前を向いた。そこには龍谷の姿。海美は状況が理解できなかった。だけど、龍谷が救出しに来てくれていることは理解できた。少しだけ歪んだ笑みを浮かべる海美。
龍谷の前には仮面の男。周りに三人の下っ端。圧倒的不利な状況化で、龍谷は引き攣った笑顔を見せている。それは恐怖で引き攣っているのではなく、怒りで引き攣っている。
仮面の男は下っ端の一人に命令を下し、海美を監禁するよう指示した。下っ端一人がボロボロの海美を連れて部屋を出て行った。
「よぉ、厨二仮面病者。人を痛めつけんのは楽しいよな?」
「?…それはもしや、この僕への挑発として受け取っていいのかい?」
「知らねぇな、そんなもんは。海美が随分と世話になったもんだからよぉ、借りは倍返ししねぇとな。ほらぁ、言うじゃねぇか。『やられたら、やり返す。…八つ当たりだ!』ってな?」
「それ違うから!倍返しでしょ!」
上から真昼がそう突っ込む。それにより、敵はようやく真昼の存在に気づく。仮面の男が真昼を見上げたその瞬間、龍谷は仮面の男の隙をついて腹に加速付きの飛び蹴りを決め込んだ!男は吹き飛んで壁に頭を打ち、倒れる。龍谷は近くに落ちていたバットを手にした。
「下っ端ども、かかってきな。」
龍谷はバットを構える。下っ端たちは武器も何も持たずに無謀にも素手で突っ込んできた。なので、龍谷は瞬殺で三人共倒した。ちょうどその頃に仮面の男が立ち上がった。仮面で表情は隠れて分からないが、当然お怒りのようだ。
「誰だか知らないが…この僕に蹴りを決め込んだことを後悔させてあげよう。」
「口先だけの馬鹿が。来いよ、お前の薄汚ねぇ仮面ごと化けの皮をはがしてやるよ。」
龍谷が持っていたバットを構えた。一方の仮面の男は刃渡り数センチのナイフを構える。
仮面の男がナイフを構えて突進してきた!龍谷はシンプルにバットを男の顔に向けて振る。しかし、男はそのバットを左手で払いのけると、隙のできた龍谷の腹目掛けてナイフを突き刺した!しかし、龍谷はボディーガードマン。この手の動きならば簡単に対処できる。刺してきたナイフを右に紙一重で避ける。服が少しだけ裂けて破れた。そして男のナイフを持つ腕を持って、背負投げの要領で壁にぶち当てた!鈍い音が部屋内に響いた。龍谷の背負投げは勢いがオーバー過ぎてもはや背負投ではない。ただの脳天ぶち砕きだ。仮面の男は一撃でのされた。
「いっちょ上がり。ガキだからってなめてんじゃねぇよ、ブサメン。」
壁に当たった衝撃で仮面が外れ、そこにはブサイクな顔が。この男は顔がブサイクだから仮面で隠していたのだ。
龍谷は仮面の男を倒して一安心。その隙を狙われた。背後から先ほどの下っ端が一人、襲いかかろうとしていた。しかし、上からコンクリートの塊が落ちてきて頭に当たり、秒殺ノックダウン。
「後ろが隙だらけじゃん!気をつけてよ。」
上から真昼がそう言った。コンクリートを落としたのは真昼のようだ。
「おう、でも無事だったんだから良いだろ?結果オーライだ!」
「まだ海美を救出してないけど?」
なぜ、彼らがここにいるのか?これは真昼の小説クオリティーのせいで時間軸がイミフなことになっていることが原因で良く理解できてない読者が多い。実は先ほどの図書室での件は今より前の話。なので、海美が拷問を受けている時間帯にここにいるのだ。でも、小説クオリティーを使った真昼はあのタイミングで未来のことを話した。故に時間軸がずれているのだ。と、真昼から言えって言われた。
「説明どうも、ナレーター。龍谷、海美はまだ死んでなんかないよ。でも、早くしないとね。あの怪我…悪くすれば死ぬかも知れないし…。」
「じゃあ、早くしねぇと!」
龍谷は急ぎ目で部屋の出入り口を蹴り開けた。真昼がそれを見て呆れ顔になった。
「あのさ、龍谷?」
「何だ?」
「まずは警戒とかさ―――」
案の定、龍谷が飛び出していった部屋の外の廊下に、数人の人間が。扉を蹴った音でバレてしまった龍谷。
「ほらー、言わんこっちゃない。」
「敵襲だ!侵入者が―――」
と一人の男が叫んだ直後、龍谷が敵の頭部にバットを投げてヒットさせた。男は一撃で伸した。
廊下には他にも敵が。数人は上へと知らせに。数人は龍谷を倒そうと向かってきていた。真昼はそんな状況の中、戦闘タイプではないために部屋の中に隠れていた。幸い、真昼はまだバレていない。
「誰だ、貴様?!なぜ、そこにいる?!」
「よぉ、知り合い一人に用があってな。それに、お前らの組は少々邪魔っこくてな。とりあえず、関係性はなかったんだが…できちまった腐れ縁を引き千切りに来た。ってことで、お前ら全員私刑で良いなぁ!」
「龍谷、程々にね♪」
真昼が部屋の中から顔だけ出してそう言った。
狭くて暗い部屋の中、二人の人間が倒れている。
「なるほどな…海美、身体の方は相当なもんだろ。まだ動けるか?」
兎姫が海美にそう訊いた。海美は痛みに呻きながらも何とか口を開いた。
「大…丈、夫って…言いたいけど…ちょっと無理、そうかも…。でもね、兎姫さん…。これ、はどうかな?」
そう言って海美は拘束されている左手を見せた。そこには小さなナイフが一本。雑に持っていたためか左手がナイフで切れて血が流れていた。
「おまっ…そのナイフは…。」
「へへへ…敵に運ばれて来た際に…腰のナイフを取っていたの…。使えるって…思ってさ。」
海美は歪んだ笑みを浮かべて言った。既に傷だらけでおかしくなっている海美。
「…さすがだな、海美。元組のボスキャラだけはあるな(笑)。…それに…お前の話によれば、龍谷が来てるのか…。なぜ、ここにいるって分かったんだ?」
兎姫は海美からナイフを受け取り、それで拘束している紐を千切った。動けない海美の紐は兎姫が切った。
「これで良しっと…。海美、お前を背負って俺がここを出る。…身体を持ち上げる。痛いと思うが、そこは我慢してくれ。」
海美は不安気に小さく頷く。兎姫は海美をゆっくりと立たせ、ゆっくりと背負った。だけど、やはり痛いらしく喘いでいる。
「気合入れろ、海美。こっから出てくぞ!」
扉が思いっきり開き、壁に当たって煩い音を響かせた。室内にいた数人の人間はそれに驚いて飛び上がる。その数秒後、彼らは吹き飛んで壁に激突し倒れた。腹や腰などに一人に一つ、足のような跡が付いている。それは龍谷が蹴り飛ばした証。龍谷は海美を探して部屋を一つ一つブチ開けているのだ。龍谷が通った廊下には何人もの重軽傷者が倒れていた。部屋への扉が全て開いていて、その部屋の中は龍谷の暴れた跡が残っていた。今の龍谷の様子はまるで暴れん坊大将軍とでも言うべき姿だ。凄まじい気迫と破壊力で先へと進んでいく様は恐怖しか覚えない。
「んだよ!どこにもいねぇじゃねぇかっ!メンドくせぇ!」
龍谷は廊下をドンドンと先へ進んでいく。真昼はそんな龍谷について行ってはいない。どこかへと消えていた。龍谷は気づかず先へと進んでいく。
すると、龍谷は下へと続く階段を見つけた。電気はついておらず、下は真っ暗だったが確実にさらに地下へと降りているのは見て分かる。龍谷は何の躊躇もなく、その階段を下っていった。そして出た場所は地下3Fの廊下。壁に地下三階と書かれているのが見える。今まで龍谷がいたのは地下二階。今度はさらに深い地下三階。何が潜んでいるのかは分からない。猪突猛進な龍谷もさすがに、慎重にゆっくりと進み始めた。天井の蛍光灯が暗く、そして不確定周期で点滅する光が廊下を不気味に照らしている。壁のコンクリートが少しボロ付いていて廃墟感を出しているが、ここは確実に人がいるので廃墟というのは少しおかしい。龍谷はその肌身で感じ取っていた、どこかに潜む人の気配が。もちろん、第六感ではなくて、そういう勘的な?
龍谷は廊下を少し進んだあと、とある部屋の扉をゆっくりと、常に意識を張り巡らして警戒しながら開けた。部屋の中は真っ暗で何も見えない。入口の壁のところに蛍光灯のスイッチがあるのを見つけ、龍谷は警戒心を解かずに、好奇心と一緒にスイッチをONにした。部屋のボロい蛍光灯に電源が付き、そしてやや薄暗い光を放ち始めた。それと同時に、龍谷はその部屋の正体を理解した。狭い部屋の中、壁中に血しぶきの跡らしきものがこびり着いていて、部屋の真ん中に机と椅子が一つ。そこにごつくて危なそうな機械が置いてある。その部屋はどう見たって、
「拷問部屋…か。」
龍谷は机の上に置いてある機械を手に取った。それは先端部に二本の鉄針がついていて、そして持ち手側にはチェーンソーのような構造をした機械。机の上に置かれた少し大きめの充電パックから、その機械の尾端にコードが伸びている。この機械がどれほどの電力を食うのか、そしてそれ故にどれほどの力があるかが理解できる。拷問道具としたならば、これは相当恐ろしい物なのだろう。
「…拷問道具…見た感じ、自作って感じだな。乱雑さが目立ってる。」
龍谷はその機械の尾端辺りから伸びているチェーンソーでもあるエンジンを起こすための紐(名前は知らん!)を引っ張った。すると、思ったとおり、チェーンソーと同じでエンジンがかかった。爆音を響かせてガタガタと動き始めた。龍谷は、喧嘩は強いが、頭の方は馬鹿。爆音が立って敵にバレることを考えていない。
「ふーん…欠陥だらけだな。誰が作ったんだ?」
龍谷はその機械の持ち手に付いているトリガーを引いてみた。その瞬間、前方の壁から閃光が発生して爆発した!その瞬間、蛍光灯が全て消え、辺りは闇に包まれた。龍谷は何かの反作用で部屋の外へと吹き飛び、廊下の壁に背中を強打して落ちた。
「グッ…いってぇ…。何なんだよ、こりゃ…。」
辺りは真っ暗で何も見えない。龍谷の予測通り、膨大な電力を使用したためにブレーカーが落ちたのだ。その分、破壊力も抜群なので龍谷は吹き飛んだ、そういう訳だ。
「…ひとまず、早く…逃げねぇとな。」
龍谷は壁を伝って立ち上がる。遠くから足音がゆっくりと近づいている音が聞こえてきたので、龍谷は逆方向、来た道とは逆方向の廊下の奥へと壁を伝って進み始めた。爆発音で敵が気づいたようだ。だが、敵も視界はゼロ。思ったように進めていないらしい。龍谷は壁を伝って一つの扉を見つけた。その扉を開けて部屋の中へと隠れ忍ぶことにした。
その数秒後のこと、落ちていたブレーカーが直り、蛍光灯が光り始めた。龍谷は咄嗟に入った部屋の蛍光灯が光り、それに驚いて警戒態勢を取った。その部屋は監獄。ずっと奥へと続いていく進路。その左右に監獄が。力なく倒れ尽きている人間たちが収容されている。ボロボロの服装に身を包んでいる。環境は最悪。中には怪我をしている者も。その怪我は体罰によるもの。彼らは今にも死にそうな身体をしている。
「・・・・・・。」
龍谷は無言でその監獄を眺めながら歩き始めた。監獄の中の人間は龍谷を見るなり、鉄柵から手を伸ばして助けを請い始めた。
「助けてくれ!もうこんな所は嫌だ!」
「お願い、助けて!何でもしますから!」
「お前!俺らを助けに来てくれたんだろ?!見ない顔だしな!」
「一生のお願いだから救出してください!」
「お願いします!僕をここから出して!」
「残った人生を大切にしたいんだ!助けてくれ!」
「お願いだ、助けてくれよ!こんな場所で死にたくない!」
「ずっとあんたの下僕でも良いから出してくれ!」
牢獄の中の捕虜が我先にと叫び声を上げる。老若男女関係なしに収容されている彼らは、ここから抜け出せると必死だ。龍谷はずっと俯いたまま通過してゆく。前方からは請い声、後方からは罵声。監獄内は叫び声で鬱陶しい。
「・・・・・・。」
ガァンッ!
龍谷は急に鉄柵を殴った。叫び声を割くような響音が響いて、同時に人々の叫び声が鳴りやんだ。
「・・・・・・。」
龍谷は声がやんだのを確認すると、再びゆっくりと進み始めた。そして、一つの牢獄の前で止まった。龍谷はその牢獄を薄目で見つめる。そこには数人の捕虜が。ほとんどは鉄柵を掴んでこちらを見ている。その中、一人だけ絶望に暮れて座り込んでいる者がいる。遺伝子かストレスか、髪が白濁色。肌は傷やら汚れやらでくすんでいる。薄くて破れてしまいそうなボロボロの布の服を着て、体育座りで沈黙している。顔はよくは見えないが、ずっと地面の一点だけを見つめている。年頃は多分小学生程度だろう。龍谷はそんな子供を無言で見つめていた。それからしばらくして、龍谷は捕虜全員に向けて言うように言った。
「お前ら、助けるのは良いが…その後はどーする?出たところで、ここは地下三階。お前らはすぐに捕まるか殺され、そして死ぬ。二度と太陽の光なんか見ることはできねぇ。…だから、お前らは捕虜らしく黙って絶望に打ち拉がれていろ。その方がお似合いだぜ、無力な無力な家畜民。」
これには捕虜たちは皆、激怒した。皆が龍谷へと罵声を浴びせる。龍谷は無言で彼らを見つめていた。どことなく悲しそうな顔をしている。
捕虜たちの罵声を浴びながら、龍谷は先へ進もうと足を進める。その時だった。
「待って。」
一言、ただ一言、小さくか弱い声が微かに聞こえ、龍谷は足を止める。龍谷は牢獄を思い切り蹴って捕虜たちを静めた。
「何だ?」
さっきまで座っていた子供が一人、龍谷の前まで出てきた。まるで死人のような無表情な顔つきと冷たく鋭い眼光を持つ男の子だ。
「あなたがお探しの人は多分、ここにはいません。海美、さんでしたよね?あなたのお友達ですか?」
龍谷は心の中だけで驚いて少年を見つめる。少年は死んだ魚のような目をしているが、その目つきは先ほどまでの絶望感より、先を見つめているような目つきだった。
「なぜ、知ってる?…お前は捕虜だろ?」
「推測…海美さんの事なら、地下二階にある拘置部屋に収容されてるはず。その部屋は当然鍵がかかってる。…海美さんを助けたいなら、鍵を見つけるか…今日の夜に海美さんをここに収容するために鍵を開けるから…その二択しかありません。拘置部屋の鍵は長官室か事務室、もしくは地下四階の作戦会議室のどれかにしか存在しません。あとは…長官が常に肌身離さず持っているマスターキーぐらい。あなたの実力がどれほどかは理解してます。ここの人員を一人で滅多打ちにできる力があるのであれば、鍵の一つや二つは余裕と見ての策ですが…。」
これには呆気にとられている龍谷。この少年は牢獄に収容されているはずなのに、なぜここまでの情報を持っているのか?そして、龍谷が戦っていた事を知っている。
「お前…それを俺になぜ教える?俺はお前らを見捨てた男なのに。」
「だって、あなたが僕らを救う義理なんてないんですから、当然のことじゃないんですか?僕はただ普通に手を貸すだけですから。」
何の表情の変化もなく、少年はそう呟いた。
牢獄に収容されていたちょっと不思議な男の子の言う通りに、龍谷は上の階、地下二階の長官室へと向かって捜索していた。二階では廊下に龍谷が伸した敵が大量に倒れている。中にはまだ意識を保っている者もいるが、龍谷を倒すほどの力は残っていないようだった。
前方、何かの部屋の扉が勝手に開いた!突然の事で龍谷は驚き、咄嗟に他の部屋に飛び込んで隠れる。その部屋は龍谷が倒した敵が倒れていた。そこからちょっとだけ顔を出し、前方を確認する。そこには真昼が立っていた。何やら警戒態勢で辺りに意識を送っているのが見える。
「真昼?…あいつ、そういえばさっきからいなかったが…一体、何してるんだ?」
龍谷は真昼に声をかけようとしたが、その怪しい挙動を見て、しばらく様子見をしようと決めた。真昼は辺りの様子を確認した後、こちらに向かって歩いてきたので、龍谷は扉の裏に隠れた。
(…真昼…海美を探しているのか?あの部屋はまだ捜索してなかったな。あの様子だと海美はいないか。)
龍谷は真昼が通過していったのを確認すると、廊下に出て、真昼の入った部屋の中を確認した。その部屋こそ、龍谷が探していた長官室。ただ、龍谷が入っていないはずなのに、なぜか室内の人間が一人、倒れている。そのにんげんは長官だ。真昼が長官を倒した、ということになる。
「あいつ、長官を―――」
「龍谷?そこで何してるの?」
真昼の声が背後からして、龍谷はビクッと身体を震わせた。振り向くと真昼が笑顔で立っている。
「真昼、か。…海美を見つけたか?」
龍谷はやや緊張気味で訊いた。隠しているものの、まだ隠しきれていない。
「ううん…龍谷は何してるの?」
「あ、えっと~…あれだ、鍵を探しに来た。さっき捕虜に聞いた話だが、長官が海美を収容している拘置部屋の鍵を持ってるとのことだから、来てみたんだが…見ての通りだ。」
長官は見事に地面で伸びてしまっている。
「これは、誰がやったんだか…。もしかするとだ、俺ら以外にも侵入者がいるんじゃねぇのか?」
龍谷は真昼がやったことを知っているが、それはあえて潜めておいた。ここで出したら、確実にやばい、そんな気がしていた。現に、真昼はその後も長官の事は知らない体を装っていた(多分装っているのだろう、多分…多分な!あくまでも、これは龍谷の視点での話ですから)。
龍谷は長官が昇天している間に、ポケットなどを確認する。しかし、鍵らしきものは見当たらない。
「…まぁ、こいつが持っていなくとも…長官室にも一つあるって言っていたはずだ。ってか、肌身離さず持ってたんじゃなかったのかよ、あのガキ。」
龍谷は長官室の長官のデスクを全部確認する。しかし、鍵は見当たらない。
「んだよぉ!嘘かあいつ!…いや、でも良く良く考えてみたら…なぜ牢獄に収容されているあいつがそこまで詳しいんだ?ありえないだろ。となると―――
あのガキを問い質すのみだぁ!」
龍谷は扉を蹴って監獄内へと飛び込んで来た。荒れ狂っている龍谷。その後ろにコソコソとついていく真昼。その二人を不思議そうに見つめる捕虜たち。龍谷は先ほどの子供の前で止まった体育座りで壁に寄りかかっている白濁色の髪の子供は龍谷を見るなり、分かっていたかのように話し出した。
「見つからなかった…らしいですね。それはそのはず…。鍵って言いましたが、それは実質上は鍵じゃないんですよ。長官の部屋は行きましたか?」
「ああ?何の事だ?あいつは…長官は俺じゃなくて、また違う侵入者によって倒されていた。調べてみたが…ちっとも鍵なんてもんはねぇじゃねぇか!」
龍谷は指差してそう叫ぶ。捕虜の少年は小さく溜息を吐いたあと、立ち上がって龍谷の前までやってきた。
「…百聞は一見に如かず…って言葉知ってますか。百回話を聞くより、一回見た方が早いって意味です。…このまま説明をしたところで何も進展はなさそうですから、ついて行きますよ。そこ、退いてください。」
そう言われて、龍谷はその牢屋の前から退いた。子供は同じ牢獄内の仲間?に挨拶をすると、その鉄柵の間から身体を捩じ込ませて抜け出した!
「僕が…何でこんなに詳しいか、これで理解できましたか?」
「なるほど…そういう訳か。」
この子供は貧相な身体をしているが、元々はこんな身体じゃなかった。ここに収容されているからか、栄養不足で身体が細くなり、鉄柵の間をすり抜けられる様な身体になった。だから、この施設内について詳しかったのだ。
「さ、行きましょう。」
二人は少年に案内されて地下二階の長官室へ。忘れてはならないが、ここは敵組織の地下基地。ここまで落ち着いて案内している、されているのは普通ではない。
三人は長官室へとやって来た。先ほどまで伸びていたはずの長官の姿が消えていた。どこかへと逃げたようだ。
「・・・・・・。」
「あれ?いねぇぞ?さっきまでいたはずなのに…。復活しやがったか。」
「長官はマスターキーを持っていました。一番手に入れたかったものだったけれど…それがないなら仕方ありません。」
少年はデスクへと向かう。
「デスクの中も全部確認した。鍵なんてなかったぜ。」
「・・・・・・。」
龍谷の言葉を無視して少年はデスクの引き出しを開いた。そこから一枚のカードを手にした。
「これが鍵。表現が悪かったですね。鍵とは本物の鍵ではなくて、カードキーの事です。」
少年はカードキーを手裏剣のように飛ばして龍谷へ。龍谷はキャッチしてそれを確認する。そのカードは個人を証明するカード。名前と顔写真、その他色々。身分証明書のような物だった。
「それではさようなら。僕は家へ帰ります。」
そう言って、少年は一人で牢獄へと帰っていった。
「まぁ、これでひとまず、海美を救う手段は手にした。…後はどう逃げ切るか…だな。」
「海美は重症…。とても歩ける身じゃないよ。その場合は…私の小説クオリティーを駆使してですねぇ―――」
「却下で。」
「えー、何で?」
「お前のそれは全てを崩壊させる。力はまだとっておけ、跳ねっ返りガール。」
龍谷と真昼はその部屋から出ていき、海美のいる拘置部屋を探す。
「すいませーん、ってあれ?」
一人の女子が救世部へとやって来たが、部室には誰もいないため、空間だけが取り残されている。
「いにゃいのか?しっかたないにゃー、待ってるかー。」
ネコ語を使う不思議な女子は勝手に部室に入って、ソファーに寝転がった。普段は兎姫が寝転がっているのだが、今日はいない。
しばらくして、依頼者がもう一人、部員のいない救世部にやって来た。薄黄色の髪色を持ついかにも落ち着いていて空気のような女子だ。
「あのー、います?」
「んにゃ?もしかして、依頼ですかにゃ?あいにく、今日の救世部には部員がいにゃいのですにゃ。またの機会をお待ちしておりますにゃ。」
ソファーに寝転がっていた女子が依頼者の女子にそうネコ語で言った。依頼者の女子は少し落ち込んだ表情をして、そして数秒で心の中で開き直った。この女子も勝手に部室へと入って、近くの椅子に座って待つことにした。この椅子は普段、海美が座っている椅子。
「私、野猫三。にゃーにゃー、君って何用にゃ?」
ネコ語でそう訊いてきた野猫。野猫は茶色の長髪をなびかせている。そして何より特徴的な猫耳のようなくせっ毛。本当に猫のような人物だ。
「あ、私は…光です。月山光です。…ここは…救世部は金さえ払えば何でもしてくれる…現代の万事屋って聞いて来たんですが…肝心の部員がいないのであれば…意味がないですね。」
野猫はふ~んという表情で光の話を聞いた。そして一回、大きなあくびをした、かと思うと秒殺で眠り込んでしまった。
「え?…もしかして、眠った?!」
光はソファーで目を閉じている野猫を確認した。野猫はソファーで丸くなってスヤスヤと心地良さそうに眠り老けていた。その姿は名前通りの猫という感じだった。
「…野猫さん…。絶対…前世は猫だったね…。」
そんな時、また依頼者がやって来た。黒髪で眼鏡をかけているインテリな女子。今日はやけに依頼者が多い。そんな日に限って部員がいない救世部。
「依頼しに来た者ですが―――」
「すいません、今、救世部員がいないんですよ。私と、そこに眠っている猫ちゃんは依頼しに来たんです。でも、部員は誰一人いないので、待つことにしたのです。」
「そうですか…それでは仕方ありません。待つという選択肢に賛成します。」
その女子は直樹が普段眠っている机に座った。部屋の中には三人の女子。全員が全員、別の事をしていて独立している。救世部の暇ムードと違った、気まずく苦い空気が漂っている。
「ところで…あなたは何という名前ですか?私は月山光です。」
光は気まずい空気を何とかしようと、椅子に座って本を読んでいる女子に話しかけた。その女子はそれに反応し、読んでいた本を閉じて机に置くと口を開いた。
「私は鳩ヶ谷澪奈って言います。よろしくお願いします、光さん。」
澪奈は礼儀正しくそう答えた。
「…あ、よろしくお願いします。…救世部のみんな、遅いよね。…もう来てもおかしくない時間なのに。顧問の先生もいないみたいだし…。」
「もし、よろしかったら…私が確認を取ってきますが?」
澪奈はそう言って椅子から立とうとしたが、光は遠慮して彼女を座らせた。
「それぐらい、私一人でも十分事足りますから!」
光は大急ぎで部室から飛び出し、職員室へと向かった。それと同時に、救世部室内に静寂が流れ出した。澪奈は静かになると、再び本に目をやった。
龍谷と真昼はついに、海美が収容されている拘置部屋を見つけ出した。手に持っているカード型のキーをその部屋の鍵となる場所にスライドしてロックを解除させた。
「ここに…海美がいるんだな。」
「気をつけてよ…もしかしたら、何か罠でも張ってるかもしれないし…。」
龍谷は慎重にドアを開いた。ゆっくりと中が見えてくる。廊下の薄暗い蛍光灯より、部屋の中の方が暗いらしく、中は良く見えなかった。その直後、ドアの隙間から突如誰かの腕が伸びてきて龍谷の顔を殴り飛ばした!龍谷は反応できず、モロに食らって倒れた。のと同時に中から一人の人物が海美を背負って逃げていくのが見えた。
「龍谷!あれ!」
海美を担いでいる人物はそのまま廊下の角を曲がって視界から消えた。
「あんの…クソ野郎が!」
龍谷は顔を押さえながら何とか立ち上がる。鼻から血が吹き出していた。倒れた時についでに頭を壁に打っていたらしく、足がおぼつかない。
「…真昼、あいつの顔…見たか?」
真昼は首を左右に振って見ていないと主張する。
「…困ったぞ…。あいつが、どこにいるか分からなくなる。」
龍谷と真昼はとりあえず、海美を担いで逃げていった敵の進路を辿って角を曲がる。当然、そこにはもう、敵はいなかった。あるのは龍谷がぶちのめした残骸たち。
「…真昼、手分けして奴を見つける!見つけ次第、ぶっ飛ばせ!」
「龍谷先生~、私は攻撃型じゃないのですが、どうすればいいですかー?」
真昼が挙手して言う。
「ああ?知らんがな、そんなこと。適当に顔面をフライアウェイAndランナウェイ!」
「意味ないじゃん。」
「良いんだよ、それでな。お前の断末魔で位置を特定できっからよ(笑)。」
拘置部屋内。海美が収容されている時。
兎姫が海美に作戦を伝えていた。
「良いか、作戦はこうだ。あの扉はどうやらカードキー式らしい。蹴って破ることはまず無理だ。だから、敵の動きを利用してこっちが攻め込む、裏飛車先方!敵がカードキーで扉を開ける、その瞬間のみがチャンスだ。つまり、結構激しく動くこととなりそうだから、そこは覚悟してくれ。」
海美は苦い顔で了承する。
それから数十分が経過して、外から人の声が聞こえ始めた。兎姫はなるべくバレないようにと部屋の明かりを全て消した。そして海美を担いで扉の前に隠れる。
「ここに…海美がいるんだな。」
その声は男だ。
兎姫は気を引き締める。海美は緊張で鼓動が早鐘を打っていた。
そして扉が開いた。その瞬間、兎姫は問答無用で敵の顔を殴り飛ばした!敵は意表を突かれて倒れる。その隙に兎姫は急いで海美を背負って逃げ出し、廊下の角を曲がった。その後、近くの一室に身を潜めた。
「…はぁはぁ、ど、どうやら…成功らしいな。多分、男だったが、随分と殴りがいのない奴だったな。まぁ、どんな奴かは焦って見てなかったが…どうやら二人組らしい。もう一人、死角で分からなかったがいた…。」
兎姫が入った部屋は長官室。だが、なぜか長官がやられている。兎姫は海美を長官室の長官が座る席に座らせた。リクライニングチェアなため、身体に負担がかかりづらいと考えたのだろう。
「海美…大丈夫か?」
「…は、はい…問題、ないです…。」
さっきより顔色が悪くなっている。口先でけではこう言っているが、本当はもう身体に限界が来ているのは見るだけで分かった。
「…ああ、もう少しの辛抱だ。…この状況化で訊くのはおかしいし、きついのは分かっているが…言わせてくれ。ていうか、言わずにはいられない。…なぜ長官がやられてんだ?」
兎姫は長官を確認した。息はまだある。つまり、まだ生きている。兎姫は長官室から糸を探して、それで意識のない長官を縛り付けた。こうでもしないと、いつ何時起き上がった時に何をされるか分からない。
次に兎姫は、ロッカーから一本の棒状の物を取り出した。いつもオールを使っているが、今回はそのオールがない。つまり、何か他のもので応用するしかないのだ。兎姫が取り出したそれはロッカーの中にあった予備の突っ張り棒だ。それを持って数回振り回し、使いやすさを確認した。
「おっ…悪くねぇ。耐久力は置いといても…この軽さに、使いやすさ。正直オールよりマシじゃねぇか?」
「フフフ…と、兎姫さん。オール、卒業、ですか?」
「…馬鹿言うんじゃねぇよ。あのオールはな…あのオールは、俺とあの人を繋ぐ唯一の物なんだ。…絶対に卒業も、廃棄もしねぇよ。」
「あの…人?」
「…あぁ、知らねぇか。昔、俺には父さんがいた。」
兎姫の父は昔、それはもう兎姫と同じくらいの年頃の時、ボート部というものに入部していた。それはもう、大活躍だったとか。毎年、その高校は大会優勝を飾っていたいわゆる強豪校だった。父はそのボート部のリーダー。そんな父、兎姫が小さかった頃、突如死んでしまった。死因は不明。兎姫はもう泣きに泣いた。そして兎姫は父の形見として、自らそのボートのオールを引き取ったのだ。それ以来、肌身離さず持っているぐらい大切な兎姫の宝物兼武器となった。
「…へぇ…兎姫、さんにも…そんな時代があったんですね…。」
「とーぜんだろ?俺にとってオールは父さんそのものなんだよ。捨てるなんてできるわけねぇ。」
海美はちょっと悲しげに俯いて、そして小さく小声で兎姫に呟いた。
「…兎姫さん…行くんですね…。」
「ああ。」
「…じゃあ、また後で。」
「ああ。」
兎姫は突っ張り棒を持ったまま、その部屋を出て行った。
龍谷の携帯がいきなり鳴り始め、龍谷はビビって慌ててその電話に出た。
『もしもしぃ~、真昼ですか?』
「俺が聞きてぇよ、馬鹿。」
『海美、いた。』
あっさりと発言する真昼。
「おお!随分と幸先良いじゃん!」
『さっきの生き地獄のとこから―――』
「どこだ、そこは?」
『ああ、だから拘置部屋。』
「普通に言えよ!」
『はーいはーい。簡単に言うと、その部屋には長官の死体が放置されている。』
ブチッ!
龍谷は即座に電話を切った。
「あ!…電話切ったぁー!ひっどいことするよねー、そちらの友達さん。」
長官室、真昼が電話をしている場所。そこには海美が長官の椅子に座って休んでいた。真昼がなぜかいる。その状況が飲み込めず、戸惑っている様子だ。
「何で…何で真昼さんが―――」
「驚いた?実はドッキリでーす!なんてね。…まぁ、あれだよ。海美を救いに来たんだ!そうそう、龍谷が来てるのは分かってるよね?拷問中に見たでしょ?」
「じゃなくて…何で私が捕まってること―――」
「あ、それ?…何となくっていうか…何というか?」
応答に困っている真昼。しばらくずっとダンマリが続いていた。そして真昼が口を開くより先に、海美が口を開いた。
「あ、良いよ、言わなくて。…ごめんなさい、真昼さん。厄介事に巻き込んじゃったみたいだから。」
海美は自分が悪いと自分のことを攻めている。真昼はそんな海美を恨むことなく、気軽に、
「良いよ良いよ、心配しないでって!私にとって秘密組織のアジトはスーパーとさほど変わらないから。物色するぐらいのことだよ(笑)。」
笑顔でそう言った。秘密組織のアジトはスーパーではありません。物色イコール死にます。
(良い子のみんなは真似しないでね、えへ(笑)!)
「まぁ、そういうことだから。さっさと龍谷呼んで出してもらおう!」
「そうは、いかないぞ…。」
その時、どこからか死にそうな声がして、直後、真昼の足を誰かが掴んだ。それは先ほどまで地面で伸びていた長官!息を吹き返したのだ!長官は何とか足を掴んでいる。ギラギラとした目が真昼を捉えていた。真昼の顔は一瞬で血の気が引いて真っ青だった。龍谷の言葉が頭に浮かんだ。
『適当に顔面をフライアウェイAndランナウェイ!』
無理無理無理!そんなこと断じてできない!人を蹴るなんて私の性に合わない!だ、誰か!助けて!龍谷!カモンヒア!それよりヘルプ!
真昼は何とか逃げようと試みるものの、長官の力は強く、転けてしまった。長官は力を振り絞って真昼の身体にのしかかった。真昼は恐怖でバタバタと暴れるが、重くて動けそうになかった。それを見るだけしかできない海美。見ていられないと顔を背けた。
「助けて!嫌だ!やめて!」
「侵入者め…許さんぞ…。ここに、来たからには…生きては帰さん…。」
長官は真昼の顔を殴りつけた!鈍い音がして、真昼の首が殴られた反動で右側に傾いた。頬が赤く腫れ上がっている。痛くて涙が溢れ、腫れた頬を伝って地面に流れ落ちた。
真昼は諦めず、泣きながら必死で抜け出そうとするが、長官の身体が重くて身動きが取れない。腹の上に乗っかっているため、息も苦しくて力が出なかった。
長官は再び拳を握り、真昼を殴る。その度に部屋の中で鈍い音が響き、真昼の叫び声に近い泣き声が反響した。その音が止まることはなかった。
「とでも思ったか、暇人読者共!」
直後、長官の身体は吹き飛んで机にぶつかった。そこには龍谷の姿が。
「真昼…遅れてすまねぇ…。だが、俺の言った通りだっただろ?」
『良いんだよ、それでな。お前の断末魔で位置を特定できっからよ(笑)。』
「おかげで、長官室にたどり着けた。」
真昼は顔を真っ赤に腫らせて今にも死ぬんじゃないかという感じで痙攣していた。口から出血して地面に血が飛び散っている。
「…真昼、立てるか?」
真昼は腫れた顔で笑った。龍谷が手を貸して何とか立たせる。
「…遅いよ、龍谷…。もう、死んじゃうかと…。」
「大丈夫だって。現に死ななかったしよ。」
龍谷は椅子に座っている海美を担いだ。海美は痛そうに喘いでいた。
「海美、今は耐えてくれ。」
龍谷は海美を担いで廊下へ。その後ろをフラフラとついて行く真昼。海美は何か言いたそうに口を動かしていたが、もう衰弱しきっていて言葉になっていなかった。
龍谷、真昼は海美を救出して無事にその基地から出た。地下一階駐車場だ。そこで、なぜかは分からないが、氷見先生が車を止めて待っていた。龍谷は氷見先生の車の中に海美を仰向けで寝かせた。
「悪い、氷見先生。海美を無事に救出できなかった…。」
氷見はずっと無言でドライバーの席に座っていた。龍谷の声が聞こえていないかのように無言のままだった。
真昼は氷見の車に乗り込んだが、龍谷は乗らずに立ち尽くしていた。
「龍谷?」
「真昼、それに氷見先生…。あと、海美。悪いが先に行っててくれ。俺にはまだ、まだすべきことがある。生徒…としてじゃなく、立派なボディーガードナーとしての仕事…自分の意思と義務だ。」
そう言い残して龍谷は再び地下基地へと走っていった。
龍谷は再び地下基地へ。地下三階にある監獄の中へとやって来た。それはもう、まるで近くのスーパーに行くかのような気軽さで。
「おい!さっきの子供!」
龍谷はそう叫ぶ。牢の中、壁際で小さく座り込んでいる白濁色の髪の男の子が立ち上がって龍谷の近くまで来た。鉄柵越しに龍谷を無情な目つきで見上げている。
「お前…ここに詳しいんだよな?自由に脱獄もできんなら…自由に脱走もできるはずだ。一体、お前はここで何がしたい?自由に憧れたりとかしねぇのか?他の愚民どもは生を求めて欲望全開だっつぅーのによ。」
少年は先ほどと何一つ変わらぬ感情のこもっていない声で答えた。
「今更、外の世界に出たところで居場所がないのは分かってるのに、わざわざ死にに行く馬鹿なんていないでしょ?ここは地獄に見えて天国。住めば都だから。」
「…けっ!無愛想なガキンチョだぜ、全く。…俺は…俺らはお前のおかげで一度、脱出に成功した。が、なぜ…なぜここに再び来たと思う?」
少年は何一つ考える動作を取らず、無言で立ち尽くしていた。
「こうするからだよ。」
龍谷は鍵を鍵穴に差し込んで、牢獄を開けた!それを見た囚人?たちは目を丸くしていた。他の牢獄も龍谷は全部開けた。
囚人たちは大歓声でその牢屋から我先にと飛び出してきた。皆、助かるという安堵で胸がいっぱいなのだろう。皆が皆、笑顔で飛び出していた。
「まぁ、こういうことだ。俺はお前らを侮蔑はしたが、助けねぇとは…言ってねぇだろ?」
そして龍谷はそのまま、一人で帰っていった。
囚人たちはあとあと、その監獄から出て行くと、廊下には大量の敗残兵たちが。皆、龍谷が暴れて伸した敵だ。そこらじゅうにそのような敵が転がっていた。囚人たちは皆、唖然としていた。同時に龍谷という救世主に大感謝をしていた。
皆が牢屋から出て行った後、監獄の部屋には白濁色の髪をした子供が一人、無言で立ち尽くしていた。
中央病院の356号室。銃傷が治っていないルセは病院で眠って休んでいた。そこに新しい患者がやって来て、隣のベッドに寝かされた。ルセはその音で目を覚ました。時間はとっくに深夜を回っている。ベッドのカーテンに窓から透過した月の光が映し出されている。
「夜…か。」
ルセはゆっくりと起き上がり、ベッドのカーテンを開けて隣のベッドを確認した。そこには笑顔でこちらを見ている人間が一人。
「あははは…言った通りになっちゃったりしてね…。」
「み、海美?!」
隣のベッドには身体中に包帯を巻いている海美が。右腕は骨折しているらしく、固定されている。これには驚くしかないルセ。目を丸くしている。
「お前!一体何に手を出した?!」
「ちょっと…ドジっちゃって。…それより…兎姫さんが…。」
「兎姫様に何かあったのか!」
龍谷たちが地下基地から脱出に成功した頃、地下二階の長官室に兎姫が戻ってきた。
「海美、敵はいねぇ。今がチャンスだ!って…いねぇ。」
その時、廊下で急に騒がしい声が反響し始めた。大量の群衆の声のような音が廊下に響いて兎姫の耳へ。兎姫は一瞬だけビクッと体を揺らしてから、何事かと確認のために廊下に出た。すると、こちらに向かって大量の人間が歩いてきているのが見えた。
「援護隊…て奴か!まだこれだけの人間がいるとはな。」
兎姫は持っていた突っ張り棒を構えて立つ。
「さぁ、かかってこい!病院送りにしてやる!」
走ろうと飛び出した兎姫の腕を誰かが背後から掴んで止めた!兎姫は反動で体が前方へと飛び出し、転けて背中を打ちそうになったが、誰かが腕を掴んで持ち上げた。それは龍谷。呆れ顔で兎姫を持ち上げていた。
「まぁ、落ち着けよ、兎姫。」
「龍谷!どういう魂胆だ、テメェ。」
「はぁ~あ…お前はいつまで経っても子供だな。生徒会長のくせして頭は馬鹿だな。見ろ、あの群衆を。体つきといい、ボロボロの服装といい…どこからどう見ても敵って器じゃねぇだろ。あれは捕虜だ。俺が開放させた。」
龍谷はそう説明し、落ち着いた兎姫を地面に下ろした。
群衆は兎姫と龍谷に気付いてこちらにやって来る。
「…なぁ、急過ぎてあれだが…なぜ、ここにいるんだ?」
「海美を救出しに来た。今、氷見先生が病院に送っている最中だ。もちろん、俺の案じゃない。俺は手を貸しているだけだ。まさかな、海美を拘置部屋から救出しようと来たら、敵が拘置部屋の中から攻撃して海美を連れ去るなんて考えもしなかった。中々力の強い奴だったが、お前は見てねぇか?まだどこかに彷徨いてるはずだが…。」
兎姫は苦笑いで龍谷の話を聞いていた。
「あ、そ、そうか…。多分、そいつはもう…いねぇよ。」
兎姫と龍谷はすべきことを終え、帰ろうと廊下に出た。そこには白濁色の髪をした小さな少年が何の感情も存在しない顔で見上げている。
「ん?何だ、捕虜?俺に用か?」
「龍谷…ちょっと聞きたいけど…良い?海美を救出する際、どの部屋から救出した?」
突拍子もない、そして意外な質問をされて龍谷は一瞬戸惑ってから答えた。
「それは…ちょうどこの部屋だ。」
「…じゃあ、推測上では高確率で…龍谷を殴ったのは…兎姫?になる。」
この言葉に同時に驚く二人。
「で、デタラメ言うんじゃねぇよ!それに、何で名前を知ってんだ?!」
「さっき、龍谷が言ってたから。そして、あなたは海美をこの部屋から連れ出そうと今さっき来た、この部屋に。龍谷は海美を先に救出したから海美はいない。龍谷の話によれば、敵は殴ったあと、海美を連れ去った…。敵は事前に龍谷が壊滅させたはずだし…。それに、海美を連れ出せる人間、それは…専用カードキーを持つ敵、もしくはマスターキーを持つ長官…そして海美と同じく拘置されていた人間。…専用キー、これは長官のカードキーでした。…それは龍谷が開けた時に使った物。兎姫…あなたは拘置部屋にいました。その情報がこっちまで聞こえてました。番兵が軽々と口にしてたから。…もし、長官のマスターキーを誰か別の侵入者が使い、拘置部屋内に侵入していたとしたなら、兎姫は気付いて対抗するはず。ましてや、長官などの敵がわざわざ入る事はしないと思います。ので…龍谷を殴ったのは必然的に兎姫、ということ。」
少年が長々と説明をした。龍谷は冷たい視線を兎姫に向ける。兎姫は苦笑いだった。
「い、いやな…まさか、まさか適当に殴った敵がお前だとは考えもしなかったしよ。あの時は逃げるのに必死で顔なんて見てなかったし―――」
直後、兎姫は問答無用で逃げ出した!
「兎姫ぃ~!待ちやがれぇ!」
龍谷はムキになって兎姫を追っていった。少年と兎姫の投げ出した突っ張り棒だけが無情に取り残されていた。
衝撃でしたね…。って自分が書いたからそこまで何ですが…。
まぁ、全員助かったことだし、結果オーライでしょう!
海美は非常に頑張ったと思いますね。しかしながら、海美のドジはいつになったら直るのやら…。
次は23話目…まだ執筆中ですから…次回予告はできませんが…まぁ、そこそこ期待して待っててくだされ。不器用な自分の書いた不器用な小説を。
あと、春休みに入るからちょっとだけ間が開くかもー。それまで、辛抱強く待ってくれるならば、もう幸せですよ。
それではみなさん、またいつか。