表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
82/151

キーリス帝国  2

 チィンという小気味良い音とともに扉は開かれる。赤い絨毯の敷かれた廊下を進むと、豪奢な装飾の扉に辿り着く。横に書かれている表札にはきちんと彼女の名が石に彫られている。凝った造りに仰天しながらもその扉を抜けると、靴のままで入るのが躊躇われる程の綺麗な部屋が出迎えた。毎日お手伝いさんが留守の間に掃除をしてくれているというだけあり、四隅にまでホコリ一つ見付からない。素直に感心していると、ティリーンを背負っている私に彼女はベットルームを案内してくれて、ティリーンをそこに下ろした。私の服をしっかり握っていた彼女だったが、優しく外すと抵抗なく離れた。一段落という風に息を漏らしていると、アスドガが少し一杯休憩がてら飲まないかと誘ってきたので、酒かどうかと聞くと、違うというので彼女に付き合うことにした。


 帝国を一望できる全面ガラス張りの窓から行き交う人々を見下ろす。準備と言ってリビングの奥に消えていってアスドガをただ座って待つのも味気なかったからだ。折角見晴らしの良い所なのだから、楽しまなければ勿体無い。あんなに広く感じた国土がこれほどの高所から見れば小さなものだなと感じるのは遠近法によるものだが、もしかしたらこの果てまで続く大陸自体が天上界に居るかもしれない神様から見れば、ちっぽけなものでしかないのかもしれない。お前などが神様気取りかと問われれば謝って訂正しねばならないが、そんな感覚を外界見下ろすと感じる。気付けば景色を眺める私を椅子に座ってアスドガが窺っていた。私は多少の羞恥に晒されながらも、誤魔化すように彼女から飲み物を受け取ると、一気にあおった。すると、予想だにしなかった苦味が口内を駆け回り、蹂躙する。一瞬吐き出しそうになりながらも、床に敷かれた高級なカーペットが目に入り、気合で飲み下す。


「お口に合ったかしら?」


 悪戯が成功したとニッコリと口角を上げるアスドガに私は目を鋭くすると、彼女は怒らないでと甘い菓子を指で抓んで強引に私の口に突っ込む。何をするんだと非難しようとした私の思考はいつもより美味しく感じる菓子に違和感を覚える。食べ合わせでこんなにも変わるものなのかと新鮮な気分を味わう。


「甘いお菓子がより甘く感じるでしょう?このコーシャの葉を煎じた飲み物は、そのままコーシャと名称されるのだけど、甘いモノをより楽しむ時に使えるのよぉ。」


 優雅にティータイムに洒落込む彼女の姿は堂に入っており、その座り姿は惚れ惚れするほどである。あの変態性を知らなければ、私も彼女に好意的な感情を持ったかもしれない。現時点において、過去が改竄されることなど無いので、そんな事象は起こりえないが。


 お茶とお菓子を頂きながら彼女に現状のキーリス帝国の問題点を聞く。まず始めに帝国が一番力を入れている軍事についてだ。あの生物兵器も近々戦争を起こすときに必要となるであろうと画策している代物のようで、アスドガを見る限り完成は近いと思える。そして大規模な戦争を前に帝国は小さな村や里、果ては国までも巻き込んで人体実験のための人間の拉致。資金繰りを上手くやるための略奪行為に耽っているのだそうだ。これだけを聞くと、極悪非道な印象を受けるが、実際街を回った私の感想を言えば、そんな雰囲気は街にはない。恐らく国の上層部だけがこのことをひた隠しにして計画しているのだろう。この件に関しては国民も被害者である。詰まるところ、この国の王は何がしたいのかという前提条件に辿り着くが、国の上層部にもパイプを持つアスドガでも全容まではわからないそうだ。考えれば考える程に泥沼に嵌っていく感覚に嫌気が差すが、ある程度の予想は立てておかなければ、有事の際に困ることもあるかもしれない。比較的に余裕のある今だからこそ、考えを纏めるには丁度良い。頭を抱えながらお代わりを注がれたコップを持ち上げた。





 目覚めた私は何処かに伏していることに気が付く。違和感のため口を開こうとするが、その口が猿轡によって完全に塞がれていることが判明した。驚きを隠しきれず身動きを取ろうとするが、案の定手足も縛らている。アスドガがまだ私達を殺す算段を立てていたのだろうかと最悪のケースが頭を過る。目には布などはされていないため、必死に顔を動かして周囲を確認すると、私の目の前で椅子に座って足の裏を此方に向けたアスドガが艶っぽい表情で見下しているのが確認できた。何をしているのかを抗議するが、剣を持たない私の声は元より出ない。苛立ちに舌打ちしようにも出来ないという負のスパイラルが口の周りで起きている。足を開いて下着を披露してくれるアスドガは舌を唇に這わせて潤ませると、漸く口を開く。


「ねぇ知ってたぁ?人間には痛みを喜ぶマゾと痛みを与えるサドがいるんだけど、どちらも基本は同じなの。痛みを喜ぶ変態は、人に構って欲しい人間が痛みを以って自分が必要にされていると思い込む事によって性的欲求を解消する。逆も似たようなもので、自分を相手に刻みつけることによって自己顕示欲のようなものを満たし興奮を覚える。」


 ヒールの高い靴の先で私の顎を上げた彼女はそれがどうしたという感想しか覚えないことを教授する。それがどうしたとも尋ねられない私だが、表情からそれを読み取った彼女は朱に染まる頬に自身の手を伝わせて、回答する。


「私様は痛みを受けて興奮するけど……逆もまた然りなのよぉ!」


 私の顔を彼女は手加減なく横に蹴り飛ばした。油断していたのもあって痛みが顔全体を覆う。


 急に性癖の話題を挙げたと思えば、一蹴りかましてくるとは、手癖も足癖も悪い奴だ。一つ喜ばしい事は、彼女が私達を帝国に売った訳ではなく、個人的に楽しんでいるだけであることだが、それが分かったところであまり嬉しく感じないのは何故だろうか。空しい想いをしながら転がった身体で周囲に目を向けると、此処がティリーンを寝かせるために連れてこられた寝室であることがわかる。ベッドには、ティリーンがまだ寝ているため間違いない。


「もっと、もっとぉ!」


 興奮しているアスドガは、平手でバシバシと叩いてくる。頬だったり臀部だったり、背中だったりと豊富なレパートリーだったが、何時までも付き合っているほどお人好しでもないので、彼女が手を振り上げた瞬間に腕の筋力を増強させて、無理矢理戒めを引き千切ると、上げられた彼女の手を掴み、後方へ引っ張った。すると彼女は、面白いくらい綺麗に私の膝の上でうつ伏せに倒れる。私は彼女を上から圧をかけて押さえ込むと、突き出されたアスドガの尻を撫でる。


「……っ!……ハァ」


 谷に添うように滑らせると艶声を奏でる。淫らな楽器を演奏するのはそこそこに、私はそこから手を離すと、彼女の名残惜しそうな声を聞いた。声には出せないが、安心して良い。直ぐに触れるのだから。


 ―パンッ。広い一室にも響くような甲高い音が存在感を放つ。中々の威力を持った平手打ちは、彼女の臀部を赤く染める。其れに伴い、彼女の尻は左右に痙攣し、半開きになった口から艶かしい吐息が零れる。勿論、一打で終わらせるつもりなど端からない私は次々と臀部を染めていく。罰と云うのはやり過ぎなくらいが一番良い。中途半端に叱りつけても効果は薄く、逆に調子に乗らせてしまう場合もある。それを加味すれば、最善策はこれくらいだろう。


「ぁ……くっ……」


 声を押し殺して痛みに耐えるアスドガの表情には、苦痛に紛れて淫靡な色気が撒かれる。ただ罰を与えているだけなのだが、それ以上の行為をこれに見出してしまっている感が半端ではない。絶妙なタイミングで聞こえる息遣いや叱咤する際に鳴る破裂音。明らかに性交渉でもしているかのようだ。気にし始めると、手に篭もる力も段々抜けていく。この女は完全に楽しんでいるので罰にならない。私は不毛なことをしていたのではないかと遅まきながら気が付いた。叩く手を止めて、腫れ上がった彼女の尻を撫でると、敏感になっているらしいそこは、軽く触れる度に跳ね上がり、馴染ませるように触れると受け入れたように自分から擦り寄ってくる。ペットでも飼育している気分になるが、やっているのはケツを撫でているだけのことである。


 キリが良い所で切り上げて、私は口に掛けられた猿轡やそれら拘束取り、脱力して動かなくなった彼女に着ける。そして近場に置いてあった剣に触れると、アーモロの声で次にこういうことがあったら一生構ってやらないと宣言し、ティリーンの横に寝転がると、就寝した。



 翌朝、顔を真っ赤にしたティリーンがまだ目の開いていない私を覆うようにしていた。薄目に開いた視界には接近する彼女以外何も写さない。何をしているのかと問い質そうとした瞬間、彼女は一気に距離を詰めて唇を重ねる。何度も角度を変えて貪ると、距離を取る。耳元に倒れこむと、震える声で妾がいるのにだとか呟いていた。アスドガとのあれの際にどうやら彼女は起きていたらしい。そして勘違いをしたみたいだ。心配する必要はないと言葉で伝えるのも安っぽいので、彼女の背に手を回す。私が起きていたことに焦る彼女に何も伝えずに、ただ抱きしめ続けると、彼女もそのうち大人しくなり、甘えるように頬を寄せた。


 さて、ティリーンを甘やかしていると外は明るくなっていた。そろそろ起きる時間だと彼女に告げて身を起こすと、完全拘束されたアスドガが恍惚とした表情を隠さず寝転がっていたので肩を揺すって起こす。口に猿轡がしてあり、手足も縛らているので身動きすることも喋ることも出来ないが、アスドガは元気そうに挨拶した。傍らのティリーンはドン引きしていた。


「まぁなんじゃ。人間というのは多様性に優れているから成り上がったようなものじゃ。お前のような変態も一応は個性として受け止めてくれる人も居るじゃろう。うん。」


 ティリーンはアスドガをフォローするように見せて蔑むという高度な芸当を実演した。縛り上げられたアスドガは嬉しそうに頬を緩ませていた。それはそれとして、私達は何も彼女を虐めるために帝国に来たわけではない。取り敢えずは朝食でも食べて、頭を働かせなければ。アスドガを放置した私とティリーンはリビングに向かうと、保存箱にある食料から適当に取り出すと、調理を始める。料理のできない私は一応私より料理のできるティリーンに習いながら不器用に皮を剥いだり洗ったりする。朝ということもあり、それほどガッツリしたモノは遠慮したいのであっさりとしたもので朝を済ませる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ