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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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ノーラクノスのアジト 2

 盗賊団ノーラクノスの計画に荷担することになった私達は、今日のところは行動を移すわけにもいかないので、少年少女たちの返還に明け暮れた。幸いにも皆近場だったので明日の予定を繰り上げさせることが可能だった。流石に全員を送り届けることは時間の都合上出来なかったが、上々の仕上がりだ。私とノーグマンが疲れた足を引きずりながら帰宅すると、ティリーンに抱き着きながら甘えるレイネの姿が写る。運ぶのに彼女らは必要ないためアジトに居残りしてもらっていたが、イチャイチャしているとは思わなかった。傍らにいたカナも居づらそうにそわそわしている。


「あっ、お帰りなさい。」


 こちらに気付いたカナは足早に近寄り、出迎えてくれる。奥のソファーで寛いでいる二人と対比して更にその行いに感動を覚える。ノーグマンも隣で良くできた娘さんだと称賛しており、その顔は完全に親戚のおじさんである。カナは私とノーグマンの荷物を受けとると、優美な流れでそれを荷物を纏めている場所に持っていく。洗練された動きはもしかしたら飲み屋なんかで働いている時に身に付けたものかもしれない。


「取り敢えず今日のところはこれぐらいにして、後の子達は明日送ろう。流石に私も疲れた。」


「同感です。」


 足が棒のようで二人揃って空いているソファーにドカッと身を任せる。よくよく考えれば、何故私がここまでしなければいけないのかと甚だ疑問に感じるが、文句を垂れるのも大人げないので口を噤む。兎に角今は疲れた気分をどうにか癒したい。何となくノーグマンの方を向くと、彼の手には酒瓶さかびんが握られており、その表情は一杯どうかと言っていた。私は酒に強いわけでもないが、今は何かに逃避していたい気分だったので、コップに並々と注がれたそれを一気に飲む干す。飲み慣れていないせいか噎せてしまったが、疲労が溶けていくのがわかる。このまま泥のように眠れば疲れも取れそうなものだなと既に泥酔したような感覚に陥っていたが、そう思えば帰しきらなかった子供達のご飯が未だだし、寝る場所も決めていない。


「子供達は何処で寝らせるんだ?」


 眠気からか半目になりながらも私は彼にそう尋ねた。


「ああ、それならば、前団員達が使っていた部屋が大量に余っていますからそこを使いましょう。あなた方も専用に部屋を用意します。」


 酔いに強いらしいノーグマンはしっかりとした口調で説明する。理由は悲しいが、今回はそれが良い方向に役立っている。それもこれも団員達が居なくなったお陰、言っていて悲しくなる。



 ノーグマンとカナが作った夕食はあっという間に売れて、各々は宛がわれた部屋に帰っていった。


「じゃあ我々は晩酌の続きといきますか。」


 食堂に残ったのは、私とカナとノーグマンだけだ。レイネはティリーンと共に寝室へ向かった。ティリーンは何か言いたげであったが、彼女も初めてのことに戸惑っているのだろう。今は二人きりにさせてどうなるかを見守ろう。子供達と二人が消えた此処にはもう自棄を晴らそうとする大人達しかいない。カナがお酌をしてくれて最後は自分の分も注ぎ終わると、おつまみとして作ってあった料理に舌鼓を打ち、酒を煽る。


「ぷはぁっ!」


 最高に気分が高揚する。普段飲まない分、アルコールに耐性がないため、体にアルコールが回りやすいのだろう。やはり私は酒に強くない。だが、コップが空くと自動的にカナが次の分を補充してくるので飲まざる得ない状況がある。しかも、頭がぼやけているせいで、冷静な判断が難しくなっている。まるで、ぼったくりの飲み屋で倒れた時のような感覚がする。けれど、これは純粋に飲みすぎているだけであるので、大人しく気分が悪くなったら吐きに行こうと思う。


「いやはや、いつもは一人で飲んでるんで三人も居れば寂しくないですねぇ。」


 グラスを傾けて氷を鳴らしながら哀愁たっぷりにノーグマンが言う。いつも一人で飲んでいたのか。


「アンタは器用も良いし年はそこそこいってるが、嫁さんはいないのか?」


 腰が低いが荷台の操りも大したものだったし、料理もできる。それに気も遣える。これだけ色々できるのだから、嫁を探せば見付かると思うのだが。若しくはもう居るのだろうかと軽い気持ちで聞いたのだが、返ってきたのは重い返答だった。


「女房は私がまだ若いときに病気で亡くなりました。彼女はこの盗賊団を愛していた。ここの方針には他の盗賊にはない矜持のようなものがあった。人拐いはしないし、人殺しもしない。盗みに入るのは金持ちの家だけ。やっていることは確かに只の盗人ぬすっと変わらないが、我々にはそれらが誇りだった。だからこそ、今の新しい盗賊団には賛成できません。」


 溜まっていた鬱憤が吐き出されていく。酒で吐き出されるのは、何も吐瀉物だけではないということである。私は彼に一言詫びをいれると、気にしていないと告げてくれる。申し訳ない気持ちになりながら彼のグラスにお酌をした。




「……ん?」


 呻き声を上げながら上半身を起こすと、何故か私は服を着ておらず、何処かの部屋のベットに寝かせられていた。頭が割れるように痛いので、右手を額に当てようと動かすと、何か柔らかいものが右手に触れる。ゆっくりと視線を横に投げると、そこには裸のカナが横たわっていた。もしかしてやってしまったのだろうか。どう考えてもそうとしか言えない状況に冷や汗が垂れていく。取り敢えずは服を着ようと、服を探すとベットの脇に脱ぎ捨てられていたものを手短に着衣し、彼女を起こす。


「もう朝ぁ?」


 肩を揺するとカナは腕を伸ばして起き上がる。形の良い胸がぷるんと揺れるのを見入ってしまい、駄目だ駄目だと自分に言い聞かせる。私は彼女にこれはどういう状況か。そして昨日結局どうなったのかを問い質した。彼女は見たままと言ったが、その表情はどう見ても悪戯めいているので、本当のことを教えてくれと必死に言うと、カナはクスリと笑ってから答える。


「残念ながらアナタが思っている事は無かったわ。服を脱がせているのは夜寝苦しそうにしてたからだし。本当は私はそのつもりだったんだけど、どこかの誰かさんは何もしないで寝ちゃうから。」


 不服だと怒ったように見せるカナに詫びを入れようとするが、彼女は今全裸であるためそちらに顔向けすることが出来ない。不自然にソッポを向いていると、その事情に気付いたらしいカナの進撃が始まった。ゴソゴソと音がするのでやっと服を着てくれているのだろうと安心していると、私の腕に生の感触が当たる。思わず腕を引きそうになるが、それが彼女のそれの固いところを刺激して喘いだところで停止する。視線を泳がしながらもそっとそちらを見ると、全裸の状態のカナが私の腕にその胸部を押し立てて、身体を熱くしていた。家族でお揃いの赤髪が朱の差した顔と相成って余計に艶めかしく見える。生唾を飲みそうになるのを我慢し、私は掛け布団で彼女をくるむ。


「悪戯も限度を覚えろ。」


 私は高鳴る心臓を隠しながら早々に部屋を退出した。



 全く以て朝っぱらからあんなに疲れるとは思わなかった。私は洗面台に向かい顔を洗うと、続け様に歯磨きをして食堂へ向かった。まだ朝早かったらしくそこにはノーグマンしか居なかったが、それならそれで丁度いい。昨日の晩のことについて聞いておこう。私は挨拶をしてから昨日どうなったか彼に尋ねた。おかしなことはなかったか。変なことをしなかったか。等など、保身のためだけの質問であったが、特に変なことはしていなかったと彼はフォローしてくれた。部屋についてもカナが私を連れて行ってくれたらしく間違いなく私に宛てがわれる予定だった部屋に入室したそうだ。


「それは良いのですが、嫁さんを他の男と二人きりになるような状況は作っちゃいけませんよ。」


 鍋をかき混ぜながらノーグマンはそう言ってくるが、嫁という単語にピンと来ない。もしかしてカナのことを言っているのだろうか。確かに歳を考えれば、あのメンバーで夫婦が私とカナだと考えても不思議はない。一応彼にはカナとは夫婦ではないと伝えたが、またまたとはぐらかされるばかりであった。


「おはようございます。」


 二人で話していると肌を艶々とさせたカナが食堂にやって来た。ニッコリと笑顔を浮かべた彼女は意気揚々としている。ノーグマンが昨晩はお楽しみでしたねとネタをかますと彼女も照れた演技をしてくねくねと身体を揺らしていた。板挟みになったような気分で私は水を少し頂いてから外に出た。


 早朝の空気というのは独特である。昼間と変わらないはずなのにその時間帯だけ空気が入れ替えられているような錯覚さえ覚える。もう夏の季節に向かっているため、肌寒いとまではいかないが、涼しい風が私の身体を抜けていく。清々しい気分で一日を始めるためにはこういうことも必要なのだ。空からアジトを形成している大樹に目を向ける。一見只の大樹にしか見えないそれの内部は何人もの人間を格納することができる便利施設になっている。そう考えると初代は相当頭の切れる人だったのだろうなと夢想する。ぼんやりと見上げていると、誰かがこちらに近付いて来ているのを感じて目線を下げる。そこには珍しく一人のティリーンが居り、どうしたのかと声を掛ける。彼女はそれを無視しながら私の懐に飛び入る。


「おっと」


 思っていたより勢いがあったため若干後退したが、何とか受け止めることが出来た。無言で抱きつくティリーンに私は戸惑っていると、彼女は拗ねたように私を見上げてカナにばかり構うなと可愛らしいことを言ってきた。何事かと思ったが、案外可愛らしい案件にそっと息を溢す。


「そんな事を言ってもティリーンはレイネの相手をしてやらなくちゃいけないだろう。それに彼女は私の事あまりを気に召していないようだし、ここに居る間は彼女の世話はティリーンに任せる。その間はティリーンに構うよりカナに構う時間のほうが増えてしまうが、それは仕方ない。それとも、彼女らをここで突き放すか?」


 ティリーンは口をモゴモゴさせながらも最後には承諾してくれた。自分でも意地悪なことを言っている自覚はある。けれど私もレイネにばかり構うティリーンに嫉妬のようなものを感じているのも確かであり、今の問答はそれに対するちょっとした仕返しだと思って欲しい。口には出さないがそういう思惑もあるのだ。大の大人のしかも男がこんなことを言っても気持ちが悪いだけなので決して何があっても口には出さないが。



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