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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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リバロー村 5

 荷造りはそんなに時間がかからず済んだ。元々持って行きたいようなものは残っていなかったといったほうが正しい。私の橙色のすれた麻袋にも物を詰め込み、布で作った簡易の入れ物に大抵のものは収まった。荷造りを終えたからと直ぐに出発するわけではないが、この家にも言い知れない気持ちが込み上がる。数日しか居たわけではなかった私でもそうなのだ。二人はそんなものではないほどに感じているだろう。午後の時間は三人してぼおとして過ごした。時間を無為に消費してしまった気分ではあるが、偶にはそんな時間も必要なのだと思うことにした。


 出発は明朝の早朝に決定した。


「明日にはここを出ると考えると懐古心が湧いてきます。」


 ユラは板を組み合わせたささくれの見受けられる机に指を器用に這わせてそう言い、不器用な風に補填させた屋根の裏を見上げる。窓からは綺麗な星の光が煌めき、村の陰鬱な空気を相対的に色濃く映しだす。きっと少し前までなら素直に綺麗だとそっちを見上げていただろう。


「それはそうでしょう。ココに来て数日の私でもここに思い入れが少しながらある。ユラさんは私よりもここに長い居ただろうから当たり前だよ。私だって自分の村から出た時は何度も来た道を引き返そうとしてしまったから。」


 情けない話だけどと続けると、ユラは馬鹿にするでもなく仕方ないと言い口元を緩めてくれた。私から見ても彼女の表情が硬くなっていたのが気になっていたのだ。彼女の憂いが少しでも晴れてくれたのなら幸いである。ユラは一間を開けるとそれに誤解があると口元を隠していた右手を口から退けてから続けた。


「私は元々はここが出身というわけではないのです。ソパール国というところが出身なんです。そこの国立図書館で司書をしていたのですが、出稼ぎで旦那と出会って結婚して旦那の実家のあるここに住居を移したのです。」


「そうなのか。因みに旦那さんはどんな仕事を?」


「最初は違かったらしいのですが、私が出会った頃には学者をしていましたよ。なんでも独学で勉強してなったんだそうです。けれど、この村に帰ってくる少し前から行き詰まって酒に溺れていましたね。」


 事情を察するに行き詰まって研究室に居づらくなり実家に戻ったと考えて良さそうだ。しかし、よく国から村に居を移そうという旦那に着いて行ったものである。田舎から都会へはよく聞く話だが、逆は余り聞かない。田舎には仕事もなければ自警団もない。村がいくら結束していても盗賊に襲われれば一溜まりもないし、国のような大きな軍事力の前では小蝿同然なのだ。田舎で暮らす利点なんぞは狩りがしやすいくらいのものだろう。ユラにそのことを聞いてみると、その時は旦那が戻ることで少しでも昔のようになってくれるかもしれないと思ったからとの事だ。そう話を聞く限り旦那は相当精神的に来ていたのだろう。それなればミラが私に甘えてくるのも頷ける。


 話はそこからも長く続いたが明日は早いので、そこそこにして一足先に眠りについていたミラに倣い横になった。



 翌朝、というよりまだ外も暗みが残っている時間。まだ二人が寝ているのを確認してから扉を開き、私は外の空気を吸うために外に出た。ふぅと息を吐き出すと代わりに冷たくなってきている空気が口内を駆け巡る。口内の汚臭が多少ましになった気になる。数日歯を磨いていない口内は言わずともきつい臭いを放っていた。状況が状況なだけに言い出せなかったのだ。旅中のように周辺に川のようなものがあればその辺りで枝木でも拾って丁寧に洗って磨けた時と違い、村のようなところでは生活資源の水を頂戴しなければならない。折角早く起きたのだ。気分だけでもスッキリさせておきたかった。


 うーんと声を漏らしながら私は腕や背を伸ばした。寝起きだからかぽきぽきと小気味の良い音が鼓膜を揺らす。なんとなく気持ちが高揚する。一頻り終えると周囲を別段意識せずに目が見渡す。昼間に静止を続けている老人たちはどうしているのかや夜はみんな何処で寝ているのだろうとぼやけて思考で思い浮かべていると、村の違和感を肌で感じた。意識を覚醒させながら周囲を凝視してみると、その違和感が確信に変わる。村の家屋から炎が上がっているのだ。目視ではよくわからないが、良くない状況であることは確かである。こうしてる場合ではない。私は扉を急いで開け放ち二人を大急ぎで起こし荷物を持たせて二人を連れて家を出た。


「ユラさん、ここから早く離れられるルートはどっちにいけば行ける!」


 様々な要因を仮定して周囲の警戒は怠らないようにする。あれが只のボヤ騒ぎならそれに越したことはないのだが、もしあれが部外者がやったもの。もしくは村人たちが狂ってしまっている場合はこちらも巻き込まれる可能性がある。早々にここを立ち去るべきだろう。


「ここから逃げるのなら裏山の方から逃げるべきだと思います。村にある二つの出入り口はとても目立ってしまいますし、片や真っ直ぐ進んでもヘーガー小国にしか通じていません。その点裏山はそんなに大きくない上に盗賊の噂もありません。」


 ユラも逼迫ひっぱくした状況を周囲を確認して見抜いていた。眠り眼のミラの手を強引に引いてそう助言してくれる。私はその助言を飲む。この家が家屋が密集しているところから離れた所に立っていてよかったと安堵しながらもそちら側を注視しながら、私達は家の裏の舗装のされていない獣道を私が先頭になって生い茂る草を足で踏みならしながら、木々を退かしながら先に進んだ。分かれ道などは特になく生い茂った無法地帯続いているといった山だ。たしかにこれでは盗賊であってもアジトにしにくいだろう。背の丈まで伸びた草や無造作に生えた木はあちらこちらにあるが道は禄にない。誰も管理していないのが丸わかりだ。数十分急ぎめに歩いていると、ユラの言っていた通り山自体が大きくないみたいで頂上に到着した。寝起き直ぐなので全員に疲れが見える。


「少し休憩するか」


 私がそう言うと皆足を止めて地を這う虫も気にせずにその場に腰を下ろした。


「それにしても一体何だったんでしょうか」


 ある程度息を整えたユラが私にそう尋ねてきた。私もそれを考えていたところだ。何個かこうではないのかというものはあるがどれも確証が無いし、確かめる術もありはしない。山の山頂と言ったが木々で周囲の確認なんて出来ないので今村がどうなっているのかを見受けることも出来ないのだ。


「この辺りに盗賊の噂はないとの事だったが、ヘーガー小国にこの村が襲われて女子供しか居ないことを知った盗賊が遠路遥々やってきたという可能性がある。というよりその可能性が高い。まぁ何にせよ確認できないことだ。考えても仕方ないよ。」


 私はそう言うと深呼吸を数回繰り返し、よしと気合を入れなおしてそろそろ移動を再開しようと声掛けた。ミラはまだ疲れていて可哀想であったが、長居は無用である。ミラはユラの手を強く握りしめてから大丈夫と気丈にしていた。ユラはそんなミラを心配そうに見守っていたが、不安な顔を何とか隠してユラの手を同様に強い握り返している。心強い二人を見返してから私も力強く草を踏みしめた。


 頂上までと違い下りはだったので前半分よりは時間は掛からなかった。下りは下りで疲労がたまるがなんとか山を抜けることが出来たのだ。


「なんとか抜けることが出来ましたね」


「疲れた……」


 途中で毒持ちやら肉食の動物などが出現しなかったのは本当に運が良かった。その運がこの先も続いてくれよと願いながら荒れた呼吸を整える。それが済むと周囲に目を配る。下山先は開けた所で視界には小さな泉が写る。二人にそれを伝え泉まで移動すると、三人共一斉に手で水を掬いそれを顔に掛けた。長時間の緊張が一気に絆されていく。顔を伝っていた汗は綺麗さっぱり消え失せ、顔を見合わせた私達は意味もなく笑い合った。


「油断するのは良くないだろうけど、此処がどの辺り分からないし、そんな中でこの辺りをうろちょろしても危険だろう。もう少し明るくなるまでこの泉で休憩しておこう。」


「それがいいと思います。暗い中この奥の森に足を伸ばすのは気が引けます。」


「休憩……賛成。」


 総意は決まった。私も二人には疲れを見せまいとしていたが、足腰の疲れが溜まっている。正直このまま移動はきついものがある。取り敢えずは足を伸ばして私は頭を抱え込むようにして荷物を隣に置き横になった。二人もそれに倣ったように横になった。何故か私の近づいて。変な緊張が私に走る。しかしそれを指摘するだけの気力も残っていないし、デメリットも特に無いので心のなかでまあいいかと完結させて仮眠のため目を閉じた。すると、両サイドからお休みなさいと聞こえた気がした。



 次に目が開いた時、私の目に写ったのは髭を蓄えた老年のがたいの良い男でびっくりして思わず身を起こして叫んだ。


「おう、生きてたのかこんな所で何してんだ。」


 戦士のように鍛えぬかれた筋肉が曝け出させている腕から窺い知れる。この人が悪意のある人ならば私なんぞに勝ち目など無いだろう。私は急いで左右の二人を確認する。二人は先程の叫び声で起きてようで一様に目を擦っている。それをみて安心すると、私は失礼がないように彼に返した。


「はい、この山を越えたとこにある村から逃げてきたんです。色々事情がありまして。」


 抜けてきた方の山を指しながら説明すると、彼はふむと腕を組んで何かを考えてから何か自分の中で思考をまとめてから口を開く。


「そうかそうか、まぁ事情なんてのは誰にでもあるもんだ。それよりこんな所にいつまでも居たい訳じゃねぇ―んだろ?俺の村まで案内してやろうか。こんなとこいたら狼にでも食われちまう。」


「はぁ、それではお言葉に甘えてお願いします。」


 見かけは恐そうだがそうではないようだ。人をだますような器用な人にも見えないので信用することにした。二人に無言で確認をとってみても同じ意見のようなので大丈夫だろう。



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