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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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ソパール大国 1

 結局、倒れて準備どころではなくなっていた私はソパールに着くまでの間、ベットに臥していた。痛みが収まる頃には、もう港に着いており、慌てながらも荷物をまとめて皆と船を出た。次の目的地に出港していく船を見送ってから、私達は建物の並ぶソパールの中心部に向かって歩き出した。ユラの指示に従いながら彼女の家の道程を歩く。鼻歌を口ずさむ彼女はとても楽しそうだ。ミラはそれを一歩引いた位置から見ていて、ティリーンはカナを睨みながら牽制している。カナはそれから目を逸らして町並みを眺めている。


「ユラのお家はこっちだよ!」


 十字路の道を右折する。歩きながら思ったが、この国は今までの中で一番大きく、道がしっかりと整備されている。効率良く建物を配置しスペースに無駄遣いがなく、道を分かりやすくするために空から見下ろした時に、道には人工的な縦と横の線しか無い。ある程度出歩いたことのある人ならすぐに覚えられそうな道である。攻められた時のことを考えれば、行き来のしやすさは、あだになることがあるが、ここまでの大国に攻め込もうとするところは少ないだろうし、そもそもここまで攻められた時点でまともな事態ではない。カナのように町並みを眺めていると人は多いが、私達同様余所者が多く見える。装備や荷物を見ても彼らが観光客であることは間違いなく、この国の経済はこうやって回っているようだ。確かに、店も外観に拘った物が多く、ここでしか買えないような嗜好品なども多分に取り揃えている。観光客はこれらを求めてここに足を伸ばすのだろう。


「あれ?おかしいなぁ」


 ユラは大通りを逸れた娯楽施設の前で立ち止まった。どうしたのかと聞いてみると、自分の家は此処にあった筈だと言う。つまりは、家の位置が変わっているみたいだ。これでは、ユラの家を探すのが本当に困難になる。やはり大国なだけあり、土地の買い争いも凄まじいのだろうか。村なんかだと一回出来た店は大体その家系が途切れるまで在り続ける。しかし、ここでは商売をする人なんて星の数ほど存在するのだ。誰かが経営不振に陥れば、自分のほうがその土地を上手く使えるという人間も出てくることだろう。話は逸れたが、本題に戻ろう。どうやって現在の居場所を見つけるべきか。闇雲に探した所でソパールの土地は広大で、探し終わる前に私達がくたびれてしまうことは受け合いである。腕を組んで悩んでいると、今まで後方に居たカナがてくてくと一人で私達の前を行き、何をするのかと思うと、店前でビラを配っていた男に話しかけた。身振り手振りも交えて時折こちらを指差しながらなにやら説明をして、彼が何かを言うと、ボディータッチをしながら何やか感謝を伝えていた。


「前ここら一帯に住んでいた人達は、纏めて、此処を抜けた先にある国が貸し出している家に越したらしいわ。」


 こちらに戻ってきたカナはそうだけ言うと、溜息を付いた。どうやって聞き出したのだろう。聞いてみると、私達が不幸な家族であることを伝えて、男の横にいる女はもう病気で長く保たない。最後に親の顔が見たくて来たのだが、家の場所が変わっているため分からないという与太を話したところビラ配りの男は少し考える素振りを見せて、でもプライバシー保護の問題で前の土地の所有者のこと話してはいけないことになっていると言ってきたので、少し胸を当ててやって甘えた声を出したら、素直に教えてくたという。自分の体を安売りするものではないと注意しておいたが、彼女は反省しているのかもわからない態度ではぁいと気の抜けた返事を返した。でも、今回は彼女が居なければノーヒントで家探しになるところだったので、一応感謝は伝えた。彼女は言葉は要らないから身体で返してと言ってきていたが、反応すると面倒なことになるのは容易に見当がつくので、それには何も返さない。


 言われた通りの道を進むと、確かに住宅群が顔を出す。一軒一軒そこそこの大きさがあり、可能であれば私もこんなところに住んでみたいものだと妄想を膨らませたくなる。しかし、想像してみると自分が如何に都会暮らしに向いていない性格かを思い出し、やはり暮らすなら森のなかかと仙人でもなりたいのかと自分で突っ込みたくなるような呆れを覚える。


「これじゃあ……見つけづらいね。……表札があれば、良いんだけど。」


 変な思想をグルグルと巡らせていると、ミラからそう声を掛けられた。私は頭を抱えていた手を離して考える。表札があれば彼女らならユラなら両親、ミラなら祖父母の家だと分かる。けれど、そこで一つの疑問が渦巻く。


「そういえば、ユラの元々の名字って何なんだ?」


 ユラは結婚していたから名字が変わっている可能性がある。そうなると、ノーマンで私が探しても全く意味がなくなってしまう。その心配はユラの、ユラは生まれてからずっとノーマンだよと返してくれたことによって解決する。ミラが言うには、父はリバロー村の出身で名字がなかったため、ユラのノーマンという名字が欲しかったらしい。だから、ユラはずっとノーマンだったという。そうなのかと腑に落ちたが、だからと言って現在の問題が解決したわけではない。ノーマン家は見つかっていないし、見つけ方もまだない。虱潰しにともいかないから作戦を練ってから行動したほうが良い。取り敢えずは飯でも食いながら考えようと結論が出て、皆を伴って御飯を食べることに決めた。私は食べたが、よくよく考えると、彼女たちはご飯を食べていない。ご飯を食べないとやる気も出ないだろうし、反論もないので、近場の定食屋に入る。


「いらっしゃい!」


 応えてくれたのは気の良さそうなおじいさんで、スキンヘッドの頭に白い帽子を被せて陽気に鼻歌を口ずさみながら料理をする。美味しそうな匂いが店内を埋め尽くしている。店主はいい笑顔で厨房から顔を出したおじさんは、こちらを確認したかと思うと、二度見を決める。そのおじさんに気づいたユラは、お父さんだと大きな声で叫び、おじさんに抱き着いた。ミラも追従しておじさんに抱きつく。


「おうおう、お父さんだよ。ユラ、なんかオメェ子供っぽくなったな。ミラは逆に大人っぽくなってら」


 二人を抱き留める父の姿に私は亡くなった自分の父の姿を映し出していた。生きていればこのくらいの歳だったはずだ。私とティリーンとカナは邪魔にならないように席についてメニューを眺めて静かにしておいた。感動の再開で盛り上がる話もたけなわになるのを見計らって注文を出し、私を除く皆は飯を食べた。ティリーンに少し食べてみろと言われて食べてみたが、とても美味しくユラの料理を思い出された。完食をすると、揃ってごちそうさまと言う。おじさんはそれに気を良くしていたが、私は彼に気の重くなるような話をし無くてはならない。


「店主、少し良いですか。」


「ん?なにか」


 私はユラやミラに起きた出来事を淡々と語っていった。その中には勿論ユラが幼児退行してしまったことやリバロー村のことも含まれており、店主にとってみれば嫌な話ばかりだったはずだ。すべてを語り終わると、店主は私に断りを入れてから換気扇を回して嗜好品であるタバコに火をつけた。紫煙を吐き出すと、彼は口を開く。


「そうかい。あいつらも色々あったんだなぁ。やっぱり村の男なんかと結婚させるべきじゃなかった。元々俺らで結婚相手を探す予定だったんだ。それをアイツが反故にして、あの男と出て行ったときはそこまで愛があったんかなと思っていたが、それは誤解だった。あいつにそこまでの思い入れはなく、結局は男に流された結果だった。」


 上手くいかないはずだとバッサリ切った。両親としても国を出るのは反対だったらしく、その目には哀愁が漂っている。幼児のようにきゃっきゃと笑うユラを見て、ある意味こうなってよかったのかもしれないと店主を語る。意味を推し量ることは出来なかったが、恐らく私のような人生の経験値では辿り着かない境地に彼は居るのだろう。私も家族を持ち、子供が出来て孫ができればその境地までたどり着けるのだろうか。いや、そのために家族を作るのも色々と違う。店主を見ているとそんなことを考えさせられる。




「今日は泊まっていくのか。アンタさん達も一緒にどうだい。」


 店主は話に一区切りをつけてタバコの火を消すと私達にそう言った。私達としてもこれから宿を探すのは面倒くさいのでとても都合の良い申し出だった。私達はよろしくお願いしますと頭を下げた。そんな折、扉がガラガラと開いた。皆が一斉にそちらに振り向くと、そこにはスレンダーな女性がスーツ姿で立っており、そんな彼女にユラはお母さんと言って飛びついた。言われた方も飛びついて来るユラに驚いてきたが、難なく彼女を受け止めると、その頭を慣れた手つきで撫でる。


「おかえり。」


「あなた。それにこの人達は、あらっ、ミラちゃんもいるのね。」


 少し混乱している女性はユラを撫でながらも私達を見渡して誰なのかと店主に目で問うている。店主は説明に困りながらも、ミラとユラを連れて来てくれた旅の一行さんだと説明した。女性はそれにそうなのと答えながら、抱き着いてきていたユラに私の方を向かせてあの人はユラにとってどんな人かと聞いた。その質問は良くない結果を生みそうだと思い口止めをしようとしたが、抵抗むなしくユラは恥ずかしさのかけらもない声で大きく宣言する。


「パパはユラの大好きな人だよ!!」


 現場が騒然としたのは言うまでもない。私は店主に娘になんてプレイを強要しているんだと大激怒して私を店から追い出した。理不尽なと思ったが、あの場所でああ云えばこうなることは仕方ないことなので、私は宛もなくだだっ広い道を歩き出した。その足取りはさながら仕事を失った浮浪者に近い。私がこの店に帰ってこれたのは数時間経った後の出来事だった。店に入ると店主が腰を垂直に曲げて謝罪してきたので、大丈夫だと言って私は傷ついた心を用意されていた布団で横になることで癒やした。


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