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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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レジェノ国 6

 赤く腫れた瞳を擦り、キリッと真剣な表情にしてからそんなことまでは容認していないから止めさせなければいけないと決意を新たにした。私はそんな彼女の背中を擦り褒める。あの少年もそうだが、まだまだ子供なのである。しっかりとした人が回りについて、教えて、学ばせればどんな人間でも大人になっていく。キレイ事ばかりで済む世の中ではないのは重々承知だが、今のような最悪の状況を打破するぐらいのことは出来るはずである。レヴァはその切っ掛けをここで掴んだ。彼女はもう一度私の胸元に顔を擦り付けてから離し、行動しなくてはと力強い言葉とともに牢を出て行った。私はそんな彼女を誇らしく思いながらも、もうここに来ることはないかもしれないという寂しさに包まれていた。



 勇気ある彼女の報告を聞くことが出来ないまま、体感で数日の時が流れた。


 隔離されている牢屋には、飯が運ばれる時くらいしか人は来ない。つまりは、噂話などを聞くことは出来ないため、外がどうなっているのか推し量れない。というか、ヒントのない推理ゲームのようなものである。だから私は彼女が来てくれるのを心待ちにしていたのだが、いつもならもう来てもいいくらいではあるが、彼女も忙しいのだろう。そう結論付けて、いつものトレーニングに移ろうかと思っていたが、それは荒々しい足音とともに訪れた少年によって阻止される。


「じゅうはんざいしゃ!!」


 沢山の兵を連れておいでなさったのは言うまでもないがロヴァである。私が何のようだと聞くと、牢屋の柵を殴りつけてお前のせいでと全く意味の分からない反論を返してきた。どういうことなのか分からないと言うと、ロヴァは漸く話しだした。その内容は驚くべきもので、なんとカイを説得しに兵を連れて向かったレヴァが行方不明になってしまったようだ。そしてそんなことになった原因は私であり、何とかしろと言ってきた。この少年に言われて動くのはとても気が進まないが、あの未来ある少女を助けるためならいいかと私は判断して、助けてやってもいいがまずはここから開放しろと言った。ロヴァは余程切羽詰っているためか、決議もとらないでそのまま私を開放した。


「敵の拠点は何処にあるんだ。」


 ロヴァはそれに知らないと答えた。私は思わず頭を抱えてしまう。何故敵の場所も皆が把握していない所に王女を送り込んだのか。恐らくレヴァが独断で動いたのだろうけど、もう少しやりようがあっただろう。


「とにかくレヴァをみつけてよ!!みつけなきゃ死刑だよ!!!」


 癇癪を起こして泣き叫ぶ王に回りの兵士は目を逸らす。そうか。レヴァが居ないから誰もこの子を制御できていない。それにレヴァは呪術を以ってこの国を運営している。術者の彼女は良いが、ロヴァは直接何かをしたわけでもないので今のこの国は真の指導者がいなくなり、仮初のリーダーしか存在していない。これは由々しき事態である。兵の統率の取れないし、これを機に反王派の人間が何かを始めてしまうことだってあり得る。どうなろうが勝手ではあるが、私が居る時に内乱でもされたら面倒だ。それにこの生意気な子供は個人的に好きじゃないが、レヴァは良い奴だった。ああいう芯を持った人間は大好きだ。その彼女がこの少年に肩入れしているのだから、私もこの少年に少しは肩入れしてやろう。私は手を振り上げる。


「ピーピー叫ぶな!今自分にできることを考えろ!!」


 振り下ろした掌はロヴァの左頬を正確に捉えて少年は勢いを殺せずにそのまま後ろに倒れる。


「こんなに兵がいるのに何で捜索させない。お前の仕事は泣き叫ぶことじゃないだろう。王様なんだろうが。やるべきことはそんな赤ん坊でも出来ることじゃない。今までカイと交渉していた人物は誰だ。レヴァだろうが。それならレヴァのお付きの人間や向こうの使者を当たるのが普通だ。それも出来ないのならお前にレヴァを救うことなんてできない。」


 この国の王様だろうが私には一切関係ない。殺しにかかってくるのなら来ればいい。返り討ちにしてやる。今の私は自覚しているよりも怒っているみたいだ。私の言葉を受けて悔しそうに顔を歪めたロヴァは近くの兵に捜索を呼びかけて、ついでにレヴァのお付きを全員呼び出すように呼びかける。


「やれば出来るじゃないか。」


 私はそう残して地下牢から出た。久しぶりに太陽のもとに身体を晒す。腕の筋を伸ばし伸びをすると、コキリと小気味良い音もなり、調子は悪くないことを教えてくれる。見回りや門の兵が不思議そうな顔でこちらを見てくるが、私は正々堂々と赤いカーペットの敷かれた廊下の中央を進む。大きな門扉を抜けて回りを見渡すと、突然横から衝撃がやってくる。


「お兄さん!」


 腕に伝わる大きな胸と大人になりきれていない独特な声が抱き着いてきた相手がメイカであることを伝えてくれる。それにしても私が出所するのがよく分かったものである。言うなれば、先ほど決まったばかりなのだ。情報が漏れるような時間はなかったと思うが。どうしてだろうかと考えていると、メイカは毎日ここで帰りを待っていたといった。数ヶ月もよく頑張ったなと感心しながらも、そこに少しの異常性を感じる。しかし、彼女の献身的な想いはとても嬉しいので、素直に彼女に俺を述べる。そして心配をさせたことについて謝罪をした。彼女はそれについて気にしていないと言い、抱きつく力を強めた。トロンとした目で見上げてくるメイカに鼓動が高鳴りそうになるが、今はそんな場合ではない。メイカにカイが国の王女を拉致したことを伝える。彼女はそれに知っていると平然と答えた。


「お兄さんが捕まっている間、情報収集とお金を稼ぐために何でも屋紛いの事をしていたんです。それで手に入れた情報ですが、王女様が帰還されていないのは民衆の間では結構噂になっています。向かった先も移動用の馬を貸した馬主が話してくれました。確か場所は――」


 言われて場所は本当に近く。メナカナ高原からレジェノに向かう途中にあった分かれ道をレジェノ側ではない方に曲がると、そこは行き止まりになっているのだが、それはカモフラージュであり、そこからアジトに入っていける道があるらしい。そこは前々からある程度の知名度であったが、その盗賊団に攻撃して無駄な戦力を使いたくないと言う裏事情を持った国がずっと野放しになっていた所だそうだ。それなら何故ロヴァは知らなかったのかと思ったが、彼は政治の全てを姉にしてもらっており、本人も国の運営にあまり興味が無い。このことを知らないのも無理からぬ事なのかもしれない。


「食料も大量に積んでいますし、今からでもいけますよ!」


 大きなバックパックを見せつけながらメイカは自慢げだ。私は再び彼女にお礼を言いながらも、門扉を抜けたその足でそのままレジェノを出て、噂の現場まで急いだ。




 両サイドを高い崖に囲まれた道を二人して歩く。時折襲ってくる獣を威嚇だけで追い払い、行き止まりの方の道を選んで進む。間に少し身体強化などを使ったので、予想していたよりも早く着きそうだ。これは嬉しい誤算である。大した会話もなかったが、行き止まりの手前まで来て、何かの視線を感じて私はメイカを制し、周囲に意識を傾けた。すると崖の上から整列するように次々と子供たちが現れる。彼らは一様に大きな石を何個も抱えていて、一人がそれをこちらに投げつけてくる。それを合図にして大量の岩石やらが頭上に散らばった。


「急ぐぞ!」


「はい!」


 身体能力を強化して石を避けながら先に進む。どうしても避けられないのは拳をぶつけて破壊して出入り口とやらを探すと、人一人が通るような穴が隅の方にあった。これかと判断してから強化した右腕をそこの上の部分に振るう。予想通りそれほど丈夫でなかった出入り口付近の壁は容易く破壊できた。粉塵が舞い煙たいが気にせず進行する。


 道中出会った奴らは拳で黙らせる。アジトは侵入された時の対策で道が複雑である。とても面倒くさい。


「どっちにいけば正解なのか分からん。壊すか。」


 メイカに同意を求めると、メイカも笑顔で同意してくれたので、私はよしと気合を入れてから壁をノックしていき壁が薄い部分を探す。複雑な回路のようになっているためか薄い部分はすぐ見つかる。私はそこを思い切り殴る。壁は崩れて部屋に出る。もうここが崩落することは二の次だ。私達が出た部屋はとても広いが血なまぐさい部屋で、カイが盗賊団の連中に殺し合いをさせていた部屋なのだろうと推測する。気の毒にと思わないでもないが、悪いことをしていた人達なので、自業自得かと思い至る。私達は部屋を捜索したがここには何もないらしい。舌打ちが出そうになるが、気を取り直して次々に壁を崩壊させていった。もう何個目か忘れた時くらいに漸く牢獄のような場所に出た。牢獄には大人から子供まで沢山いるが、どれも目が死んでおり、私達が歩いているのを見ても何も反応を示さない。完全に心が折れてしまっている。


「きゃああああ!!!」


 甲高い声が空洞な空間に響く。音の方角を見定めてから走るとその発生源の牢屋まで辿り着く。


「あ、安心してい、い、いいんだよ。お、おじさんに任せて。うん。」


 まるまると肥えた汚らしい中年男性が幼い少女の服を脱がせていた。ドン引きなんてものではない。顔を近づけようとしている男に向かって私は牢の柵を強く蹴りながら言う。


「気持ちの悪い。」


 何度も蹴ると次第に柵は曲がっていき砂埃が舞っているが関係なく、その鉄格子の間から入ると男の胸ぐらをつかみ、部屋の隅に投げた。打ちどころが悪かったのか動かなくなっていたが、それほど興味もない。それよりも、と涙を堪えている少女に声をかける。


「お前、根性あるな。でもここで泣いておいたほうが良いと思うぞ。外に出たらまた王女様を演じなきゃいけないだろう。」


 ジト目で見てくるメイカを無視して少女を抱きかかえる。少女――いや、レヴァはダムが決壊するように涙を溢れさせた。よしよしと背中を撫でる。彼女がこれで落ち着くのは前回ので学習済みだ。無茶をしすぎたせいか地盤が緩み時々天井から砂や石が落ちてきているため早く脱出したいが、今はまだ大丈夫だろう。


「大丈夫よ。行きましょう。」


 気丈に見せた少女を確認してから私達は来た道を戻る。ピクリとも動かない牢に入った廃人達は全員放置することに決めて出口を目指す。光が見える。結構急いだ御蔭でゴールは間近。気が緩みそうになっていると、出入り口が大きな岩で塞がれそうになっている。流石にあれで塞がれたら脱出に時間が掛かる。全身の魔力の管が酷使を続けたせいか痛みも発しだしている。レヴァを抱きかかえたまま私の足が止まりそうになった。このままでは絶対に間に合わない。悪態をつきそうになった時。穴を塞ごうとしていた岩が進行を止めた。そして聞き覚えのある声が響く。


「レヴァーーー!!!」


 岩の向こうで幼い王は大切な人の名を叫んでいた。


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