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気儘な旅物語  作者: DL
第二章 小さな英雄
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旧メナカナ高原 2

 咄嗟に回避しようするが、相手のほうが腕が上なのか回避先を読まれて、数弾が着弾する。その弾道はメケの胴体部を捉えて見事に着弾する。彼は短い悲鳴とともにその場に倒れ込む。頭の良い彼がこんな凡ミスをするとは到底思えないが、目の前に現実は非情さを表している。現実を疑いながら、僕は指令であった待機を無視して駆け出す。あれが陽動のための作戦であったとしても、僕の目の前で大切な人が倒れるのは見たくない。優しさを持たない神様に、大事なものを取られるのは勘弁だ。


 策のない無意味な突出だが、これが全くの意味を持たないとは思えなかった。体の底からそんな気合が溢れてくる。この感覚が少し前に感じたことのあるものだった。少し思考して、思い出す。


「ハァアアア!!!」


 叫びに伴い全身が黒い痣で覆われていく。駆ける速度も段階的に速くなっていく。身体が軽い。思い通りに動く身体に感謝しながら叫び続けると、敵の注目が此方に向く。地面に伏している彼には目もくれず、此方に向かって、何発かが打ち込まれる。限界まで強化された目が、弾道をゆっくり見せてくれる。目が充血していくが、構わずに導かれたコースをなりふり構わず走る。弾道を辿って姿を隠している相手に近付くと、相手も投げやり気味に姿を態と見せて、銃口を見せ付ける。恐怖を煽られるが、痣のお陰で気持ちが高揚しているので、恐怖心がある程度麻痺している。身に仕込ませていた短刀を抜いて、敵の首元に突き立てる。黒い銃でそれを防御され、反撃とばかりに超至近距離で弾が放出された。僕の頬をなぞり、傷口を作り出す。痛覚も麻痺しているみたいで、軽くそこが熱くなるだけで痛みはない。


 無理な体制で発砲したため、反動で仰け反っていた敵兵士のヘルメットを突き破る様にして、短刀を捻じ込む。全力で叩き落とすと、防具を貫通して絶命させることに成功する。応援に来た敵によって、直ぐに辺りは銃撃の嵐になるが、その前に僕はメケを連れて戦線を離脱する。彼の装備が重いためそれほど遠くまで逃げることは出来なかったが、まだ成人していない僕らだからこそ入れるような抜け道、獣道を縦横無尽に掻い潜ると、いつの間にか追っ手はいなくなっていた。大人しく眠っているメケの服を脱がせる。そうすると、下からは防弾チョッキが出て来たので、やはりあれは作戦の内だったのだろう。余計なことをしてしまったと思いながら頬を掻く。


 薄目で此方を見るメケと目が合う。寝たふりをしていたとは驚きである。しかし、防具があった以上、訓練されているであろう彼が策として用意しておいて、銃撃の衝撃で気絶してしまっては意味が無いので、当然だとも言える。お茶目さを披露するにしても状況を見定めて欲しい。気を抜くと、黒い痣が引いていく。その代わりに全身に激痛が走る。無理をしたツケを一括払いで返させられているようだ。転がる僕を面白そうに見下ろす彼に腹が立つが、自業自得であるので仕方がない。嘆息していると、彼は笑ってくれた。前の戦いでの腕の骨折もぶり返してきて、尋常では無い痛みが襲う中、半脱がし状態のメケは、独特の色気を魅せつけながら、ゆっくりと僕に近寄る。着直せと言いたいが、同性である僕をも狂わすような色香に生唾を飲む。顔が触れる少し近くで止まると、僕の傷口に触れて、回復を促進してくれる魔法を掛けてくれた。それならば、こんなに近付く必要はなかったはずだが、態々それを指摘するのは無粋なような気がして、無言でそれを享受する。


「まだ痛いかい?」


 フェザータッチで触れてくるため、こそばゆいが質問には誠意を持って応える。まだ痛むが先程に比べれば天と地ほど違う。もう動き回れるくらいには回復していると少しの見栄を込めて言うと、僕の強がりを看破して、痛めている腕を強めに握る。顔を顰めた僕を見てから、これでかと呆れた声を出す。甲斐甲斐しい彼に気恥ずかしさを覚えながらも、その人気のない木々の隙間で無言の時の中を過ごす。


「ローグは、自分の姉についてどう思ってるんだ?」


 鳥の囀る声と風で揺れる木々の音の間に差し込まれる。唐突な質問であったので、答えに詰まるが、しっかりと質問の意味を捉えれば答えは直ぐに出てくる。


「唯一の肉親であり、僕の理想かな。お姉ちゃんが僕の全てだったんだ。メケには悪いけど、僕にとっては彼女が居れば他に何も要らなかった。彼女だけが僕を理解してくれるし、僕だけが彼女を理解できると自惚れていたからね。けれど、過程はどうあれそれは単なる僕の思い込みだった。あの時の発言が洗脳によるものだったとしても、それを見抜くことが出来なかった。つまりは、虚構である彼女だと判断できなかった。これじゃあ、容姿に釣られる人間のことを馬鹿に出来ない。僕も結局は彼女の見掛けばかりを見ていたというだけの話なのだから。」


 自分の気持ちを口に出すと、なんだか気持ちが楽になった気がする。内に秘めているばかりでは、ストレスとして蓄積されていくばかりで気が重くなるだけだ。だから、こんな愚痴に近い話を出来た時、人間というのは自分の近くに留めておきたくなるのだろう。僕にとって彼が親友であるように。特有の呼称を以って、相手を縛ろうとする。僕の彼女さえ居れば良いという考えは、極端な話だったが、僕の根底には云わば寄生虫のような思想があるのだと思う。誰かに側にいて欲しい。愛情を与えれば与えるだけ欲する卑しん坊。振り返ってみれば、姉に嫌われる理由など沢山出て来る。しかし、それでも良い。彼女がどれだけ僕を嫌おうが、突き放そうが、僕は彼女を手に入れてみせる。そのためならば、こんな反政府組織の活動にだって参加する。身体だって酷使する。気合が入って行く。メケはそれを複雑そうな顔で見ていたが、口を出すことはしなかった。



 話もそこそこにして、そろそろ行動を開始しようという話になった。流石に何時迄もこんなところで寛いでいたのでは、後々説明に困る。重い腰を上げて道を引き返そうかというところで、闇雲に駆け行った此処が何処かに通じる道であることが判明した。そこまで大した話でもないのだが、道は奥まった先に光を放ち、まるでそちらへ誘導されているようでもあったが、騙された場合の損益も気にせずに、気付けば足がその方向に向いていた。空気に交わる魔素が僕を導こうとしているようで、怪しさとは裏腹に安らぎを与えてくれる。


「ちょっと待ってくれ!」


 声を荒げるメケには悪いが身体は無意識にどんどんと歩を進める。痛む身体が和らぎ、進めば進むほどに安心感が増す。それだけでも不思議な感覚なのに、全身の痣が呼応するように反応するので、この先に何か僕にとって重要なものがあるというのは間違いない。


 木々を抜けるとメケが隣で仰天する。そこには古びた家が物寂しく鎮座していた。歴史が長いのか所々錆やなんかが目立つが、家としての機能を失っているわけではなく、掃除をすればまだ住み着くことが出来そうな家だ。一部屋しかない小屋が三つあり、それを吹き曝しの廊下が繋いでいる。柵で囲まれているため、詳細に見抜くことは出来ないが、中々広い庭も窺うことが出来る。金持ちの別荘か何かそれに類するものだと思ったのだが、メケ曰く、これが魔女の家らしい。もっと豪奢で禍々しいものをイメージしていただけに、腑に落ちない部分は少なからず存在するが、イメージを押し付けられてもあちらも知ったことではないだろうことなので、自分に無理矢理納得させる。それはさておきとして、ここまで堅牢な柵で覆われた敷地に侵入するには、どうしたら良いのか。全く考えが及ばない。驚いていた彼も必死に頭を捻っているようだが、結論には至っていないようだ。それに、話では魔女の家には衛兵が張り付いているとのことだ。今は居るような気配は感じ取れないが、長いこと考え込んでいるだけの時間もない。取り敢えずは、調査から始めた。調べないことには何も分からないし、作戦も立てれない。メケに周囲の警戒をしてもらい、僕が柵の回りを慎重に調べていく。


 完全に裏手に回り込み、見回った結果、裏のところに一部だけ色の違う地面があった。手を差し込んでみると、そこは柔らかく結構気軽に掘れてしまいそうな感じだった。メケにそれを伝えてから、手で掘っていく。流石にシャベルなどもないので、時間が掛かるが、運が良い事に敵兵が襲ってくるような事態にもならなかったので、掘ることだけに集中することが出来た。下まで掘ると、そこから横に穴が詰まっている場所があり、巧みに隠された通路を掘り返すと、真横に通じる穴は次の穴へ導いてくれた。光が差し込む上を見ると、そこは旧式の隠蔽工作が図られているようで、上に葉っぱが乗っているような作りであった。一旦元の方へ引き返してメケにどうしたら良いか確認を取ると、一人で取り敢えず侵入してみてくれとお達しが来た。両手両足を駆使して狭い穴を抜けると、僕は塀の内側に辿り着くことが出来た。


 柵の外に居るメケを見向くと、察した彼があまり時間はないので、短時間で書物の捜索を行ってくれと命令を受ける。身を引き締め直しながら、泥だらけの姿で他人の家に入る。因みに、僕が出た庭にはもう一つ埋め立てられたような場所があったが、そちらは完全に穴が塞がれているため、使用できないようになっていた。話を戻すが、入った小屋の中は長年使われていなかった事から異臭が漂う。様々な道具が転がる中、一つ一つを吟味する。重要そうなものなら貰ったもの勝ちである。書物も旧字体の物が多く、読破には苦労しそうだが、僕の症例に類似するようなものを取捨選択して両手で抱える。全部集めると中々の重量になってしまったが、これくらい持って帰らなければ此処に来た意味が薄い。これだけ持ち帰っても、重要な情報が得られない可能性もあるのだ。部屋を出る。他の部屋も気になったが、これ以上がありそうにも思わなかったので、ここではスルーさせてもらう。



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