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気儘な旅物語  作者: DL
第二章 小さな英雄
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旧メナカナ高原 1

 木々が植え付けられた大森林。まさかこんなに早くこの街に戻ってくることになるとは思わなかったが、僕はナナシの地に立っていた。元より、あのアジトも広義に考えればナナシの土地の内に入る場所にあった。昔の地図で言うと、ナナシは情報技術の秘蔵どころであったローナルを中心にしながら、四方八方にその土地を埋めている。リバロー村、ヘーガー小国、武人を沢山排出していたというキニーガの里、そしてローナル。もっと進めば、魔女が出ると噂だったメナカナ高原、交易の国だったレジェノ国、大図書館のあるソパール。この全てが一つの都市として利用されており、リバロー村やヘーガー小国があったところは、今は違う町やらが出来ている。だが、メナカナ高原には、何かを建てることをせずに、逆に自然さを増長させていく事で、自然公園的な場所になっている。稀に、外部演習などで訓練の場としても用いられているようだが、基本的には穏やかなものである。僕はそんな大自然に囲まれながら、手渡されていたメモに目を落とす。


 そこには、僕の姉のあの不自然な言動、態度についての解決策が見つかるかもしれない場所への案内が掲載されていた。メケの母親曰く、あの性格が一変するのは、高位術と呼ばれる術によって洗脳されている可能性が高く、それを解術する方法を探すのならば、古代の魔女の家を目指すのが最善だと説き伏せられた。僕にそんな重要そうな情報を提供するメリットが彼女に有るとは思えないが、僕にはもう何も残っていない。やれることはやるべきだ。


「ローグ。思いつめなくても良い。危なくなってもボクが守る。」


 傍らを歩くメケが安心させようと声を掛けてくれる。今回の件について、ボクにはメケと後男女二人ずつのメンバーが貸し出された。それも、旧メナカナ高原、今では自然公園と呼ばれているそこは、一見分からないが、魔女の家への通路に行けないように、警備が敷かれているらしい。隠密に潜入できれば良いが、二十四時間体制で見回りが行われて、出入り口付近は常に入れ替わり立ち代りで、守られているらしい。つまりは、今から僕たちはそこの衛兵達を薙ぎ倒して、魔女が残したという書籍を持ち出すという指令を実行するよう求められている。名無しの英雄に楯突いた時点でそうだが、本格的に国家反逆罪を犯そうとしている。これも姉のためだと自分に言い聞かせられれば、苦しむこともないのだろうが、僕の行動は独りよがりなものかもしれないと言う懸念から、言うならば、自分のためだとしか言えない。何でもかんでも都合良く姉のせいにするのは、虫の良い話である。


 メケを冷やかすようにしながら僕を慰める少し軟派な男。それを制するように割って入る女。傍観者ヅラをした男。下を向いて顔を上げない女。見知らぬ人達はとても士気が高いとは、お世辞にも言えない状況。ここで誰かが死ぬような事態が起こる確率は、非常に高い。戦闘力があるのかも知り得ない僕にこんな事を言われても、額に青筋を立てるだけだろうが、もし窮地に陥った時、メケ以外は切り捨てる自信がある。恐らく、僕とメケ以外も自分贔屓な考え方をしている。こんな状況では、誰かが死んでもおかしくない。力を過信している奴ほど、死ぬ時は呆気ない。


「ボクが死んでもキミを守る。」


 耳元で囁かれたメケの一言に縁起でもないことを言うなと返して、内心焦りながらも目的地を目指した。



 前一度だけ来た時は気付かなかったが、こう注意して見てみると、怪しげな人はそこかしこに存在する。私服でバレないように軽度の武装をしている人が、ある程度回りながら絶対に塞ごうとしている通路が存在している。地図を見てみてもそこが通り道と考えて良かった。昔は、見晴らしの良い草原だったと聞いているから、こんなに木々を植えたのは、魔女の家への通路を断つためのカモフラージュだったのだろう。木々が生い茂って、迷路のようになっているのは態とそうしていると見るべきだ。しかし、何故そんな面倒なことをしたのだろうとも思う。そんなに隠したい家ならば、取り潰して書籍だけを持ち出せばよかったのに。色々と考え方はあるのだろうが、全然効率的ではないやり方に女王の手腕を疑う。


 思考を巡らせて極力違う気を反らしながら、別れて行動する。男女ペアはカップルを装って別ルートから侵入を試み、僕とメケは友達だという設定で愉快に話しながら、侵入の糸口を探す。


 さりげなくをイメージして次々と関門を越えていく。顔が割れている僕は一応変装として帽子を被っているが、それでもバレる場合がある。その場合は実力行使で黙らせて、森の深いところに捨てた。あの痣が起動してくれる事はなかったので、僕は戦力として力になることは叶わなかったが、メケは逆に戦わなくて良いと言った。彼は僕に対して過保護過ぎる気がするが、その時折光の入らない目を見ると、何も言えなくなってしまう。何でも言い合える仲であると思っているだけに、ある意味彼を恐れてしまっている現状にやり場のない気持ちが込み上げる。彼もそれを自覚しているらしく、気遣うように僕に触れるが、それがあまり効果として表れていないのは言うまで無い。


 何処か余所余所しい雰囲気に踊らされ、翻弄されている最中にも任務は順調に進む。今のところ、これと言った問題は発生していない。電波の通信は、向こうから気付かれる可能性を考慮して使用していないので、他の班がしっかりやっているかは確認できないが、騒がしさも感じないので、問題はないのだろう。どちらかと言うと、人間関係の方に問題があるくらいなものだったし、裏切りなどが無ければ良いのだが。


「ローグ」


 完全に油断しているところに声を掛けられたので、素っ頓狂な声が上がる。恥ずかしさから顔が赤くなるが、真剣な表情のメケを見て、こちらも真剣なものに切り替える。腕を掴んだと思ったら、指定されたルートを外れて、人気のない方に進んでいった。どうしたのか分からないが、只ならぬ空気を感じ取ったので、黙ってついていくと、とある大木に身体を抑えつけられる。彼の両手で退路が塞がれて、完全に彼しか視界に入らない。何をされるのかと肩を竦めていると、若干下がった僕の顔両手で持ち上げて、目線を強引に上げさせる。


「ちゃんと目を合わせてくれ。」


 覚束ない動きで目線を合わせると綺麗な瞳に僕が写る。それを確認してから彼はボクが怖いかいなどと呟く。悲しそうな表情に僕は首を横に振る。怖いわけではないのだ。状況があまりにも変わり過ぎて、理解が追い付いていないだけ。分からない事に恐怖するのは生き物の常である。常識だと言っても良い。しっかりと目を合わせることを意識しながらも思ったことを思ったままに伝えると、彼は安心したように破顔して、心ゆくまで僕を抱き締めた。照れ臭くなった僕が、羞恥を感じると訴えても、彼が僕を離すことはなかった。


 もうされるがままになっていた僕は、上がった銃声に驚く。僕を抱き締めていたメケも険しそうな顔で、銃声の方角を辿る。誰がしくじったのを考えているようだ。思考の結果、あのお調子者の居る班が進むべき方角だと判明する。やはり、恐れていた通り、被害者が出た。それも分かりやすい結果で、僕達は、援軍として駆け付ける為に、身を隠しながら移動する。丁度入り組んだ場所にいたので、裏をつくような行動を実現できた。道中の見張りなどを警戒し、細心の注意を払った。敵の姿を見ることはなかったが、それくらいに神経を尖らせていた方が安全である。


「いいか、向こうに着いて、状況によっては援護しない。無駄死になんてするつもりも、させるつもりもない。」


 堂々と言い切る彼の意見には大方賛成である。少数精鋭で挑んでいる僕らに対して、相手の数は未知数で、明らかに此方より多い。もし援護に入ったとして、相手の数が桁違いだったりすると、此方の勝機は殆ど無いと言っても差し支えない。僕が首を縦に振ると、彼は僕の手を握って強引に引っ張る。そんな事をせずとも付いていくのだが、これにも何らかの意味合いがあるのだろうかと深読みして、何も言えないでいる自分がいた。


 変に気を使っていた為、後方からの微量な殺気に気付くことが出来た。手を引っ張る彼を押し倒すようにすると、頭上を拳銃の弾が切り抜ける。もし立ったままだったら、絶対に当たっていた弾道に冷や汗が垂れる。何か勘違いしているメケは、頬を染めていたが、僕越しに見えた敵兵の姿に眉を寄せる。僕を庇うように身を反転させてから、木の影に隠れるように飛び込む。


「そこに居るのは分かっている。手を後ろで組んで投降しろ。そうすれば、危害は加えない。」


 背後から無言で撃ち殺そうとして来た人間の言葉とは思えない。言われるがままに出ていけば、その場で射殺される運命しか見えない。


 逼迫した現状にメケも顔を歪めて頭を働かせている。忍ばせていた無色透明に加工していた大剣が鞘から抜かれて正体を明かす。凡庸なデザインに、通常のものより段違いな硬度。恐らく、重さは尋常では無いだろう。彼からしてみれば自由自在に操れる重さみたいだが、凡人ではそう上手く扱えないだろう。


「此処に隠れておいてくれ。大丈夫、あんな奴直ぐに排除出来る。」


 任せてくれと胸を張る彼に一応一任する。けれど、有事の際は僕も突撃する覚悟をする。彼だけに全てを任せるのは、作戦としては良いかもしれないが、精神衛生上はよろしくない。


 笑いながらも僕の意見を承諾してくれた彼は、あれだけの重量を持ちながら、俊足と言っても良い速度で木々を掻き分ける。翻弄された兵士は、照準を見失いながら矢鱈目鱈に弾を放つ。ラッキーパンチなど戦いにおいては中々起きない。それも、銃撃というのは、威力は良いが、持ち主の腕に大きく左右される武器であるので、実力差があった場合、勝敗が直ぐに決するのは、言うまでもない。目を見開いた男の首が宙を舞う。メケは、流し目でそれを見てから、こちらに戻ろうとする。そこへ一、二発の銃弾が刻まれる。



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