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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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トマーノヤ  5

 かれこれどれだけの男たちを通り過ぎていったか。一番最初の男のこともあり、警戒心を持って挑んでいた彼女は中々次の標的を見付けることが出来なかった。だから、彼女のタイプは関係なしに私が勝手に選んで押し付けていったのだが、その悉くを潰された。私としても、長引くのは本望ではないので、出来る限り頼れるガッチリとした男を選んだつもりだ。なのに、やれゴリラだの何だのと五月蝿い。その対比の例として挙げられるのは、貧弱そうな男ばかり。あれでは有事の際に守れないと主張すると、守る守られるという状況に陥ることなど大してないのだから良いとほざいた。では、現状はどう説明するのか。守られなければいけない状況にあるのは誰なのかと詰問すると、文句ばかり吐く口も漸く閉じる。大体、そういう運命の相手とやらをこんな手段を用いて探した所で見つかるとは到底思えない。人の交わりは一期一会。出会う出会わないを強制するのは間違っている。そこまで言いたかったが、膝を抱えて座り込んでしまった彼女にそんな追い打ちをかけるような事は、流石に憚られた。


「わたしには魅力がないのでしょうか……」


 本気で落ち込む彼女に、顔だけは悪くないぞという訳にもいかず、返答に詰まる。例え彼女でなくとも、町中でいきなり突っ込んできたら引かれるだろうけど、自分が行けば大丈夫だという感覚を持ち合わせている彼女にとっては不思議な敗北感だったらしい。どんよりとされた所で、問題の解決にはつながらない。そもそも、現在やっていることが解決に向かうものだとも思えていないのだが、目に見えて落ち込む彼女には同情を覚えずにはいられない。慰めの言葉を掛けると、そんなんで気を惹こうとしても無駄ですよと意味不明な供述をしてきたので、この際、無視することにした。


 会話がなくなり、無言が続くと向こうから、意地を張るのはやめろ。大人げないと非難を浴びせられた。私としては、此処までの彼女の行いを振り返ってもらえば、私の正当性が証明される事が公になると自負している。今回ばかりは、引くつもりがない。そう考えていたのだが、涙目でプルプルと震え出した彼女を見遣ると、まるで弱者を虐めている様な錯覚に陥り、此方が折れる運びとなった。それによって、彼女を更に増長させる結果となってしまったが、もうこの先のことは考えたくない。


「あっ、次はあの人で行きましょう!」


 項垂れる私に彼女は快活に声をあげる。彼女が指差す方向を確認すると、そこには見知った人間がいた。目をキラキラと輝かせる彼女は、自分の王子様を見付けたと確信していた。今までのケースと違い、彼女の方から熱い視線を送る。完全にホの字である。だが、その恋は成就する事は絶対ない。彼女の指差した先、短い金色の髪。似合わない少し厳つい防具。今は持っていないが、大剣を振り回せば、異形の剣撃を放つ。姉譲りのキリッとした表情は、世の女性達を虜にすること間違いなしである。


「……アイツは駄目だ。」


 私が苦い顔をすると、にやけた彼女は、嫉妬しているのかと尋ねてきた。直ぐ様否定すると、素直じゃないだとか、仕方がない人ですとか言う言動を繰り返す。被せるようにそれも否定するが、暖簾に腕押し。全く効果がない。私にまだ張り合うだけの気力が残っていれば、再び口論に発展していた事だろう。しかし、もう既に疲れ果てている私は、もうそれでも良いから諦めろと溜め息を吐く。


 口論に完全勝利した彼女は、ニッコリと口角を上げながら、そう言われると余計にお知り合いになりたくなりましたと天の邪鬼な言葉を吐いた。これでは、何のために此方が折れてやったのか分かったものではない。私の制止にも耳を傾けず、彼女はその人物に真っ直ぐ向かっていく。すみませんと声を掛けると、綺麗な髪を靡かせながら、振り向いた。整った造形に彼女の興奮も冷めやらぬものになる。


「ボクに何か用か?」


 はっきりとした口調で彼女を目視すると、頬を染めているのを見て、何かを察知する。慌てた風で落ち着きのない彼女を見た同行者は、人気者じゃのうと茶化すような台詞を言う。そんな二人の会話をぶった切る様に彼女は声をあげた。


「わたしの王子様になってください!」


 遠くから見ていた私は、金髪美青年。いや、美少女の反応に注目する。彼女は目を見開くと、ポリポリと頬を掻いてから、頭を下げた。そりゃあそうだろう。少し前まで男として洗脳されていたし、今でもそれが完全に解けている訳でないが、身体は女だ。それに、本当に一国の王子であるので、誰か専用の王子にはなれないと判断したのだろう。


「だから言ったろうに。」


 彼女を諭すように私は身を晒す。私の姿を視認すると、ティリーンが呆れたような顔で同行している彼女を見る。その目は、また女かと言っていた。ハッキリ言わせてもらうが、今回に関しては、私も関わりたくないのに関わっていることをしっかりと理解して欲しい。誰が悲しくて安らぎをくれる温泉を捨てて、見知らぬ女に罵られる事を選ぶのだろうか。そういう性癖がなければ、確実に温泉を選ぶはずだ。と言うか、散々付き合ったのだから、もう風呂に行かせてくれ。目で必死に訴え掛けると、ティリーンも理解を示してくれたらしく、可哀想なものを見る目に変更した。いたく心が傷付いた。そんなこんなで、ティリーンとルルとも合流を果たした私は、彼女たちの状況を確認した。どうやら幾ら待っても私が来ないので、何かに巻き込まれたのではないかと推測し、探しまわってくれていたみたいである。そして、偶然此処を通り掛かった時に、件の接触を果たした。今度は彼女たちから質問が飛んで来るので、全てを私が返答した。女は所々、自分を美化したような物言いをしていたが、これは虚言癖のせいだとティリーンたちに説明すると、ふたりとも納得した。不本意そうな顔をしているそいつを置いて話を進めると、ルルの方からまっとうな疑問が出る。


「それと王子様というのに何の関係があるんだ?」


 それは私が一番聞きたい事だと真顔で返すと、苦労しているねと目を逸らされた。分かってもらえたようだが、彼女から関わりたくないという意思を有り有りと感じ取れた。心なしか身を引いているように思える。私が腕を掴むと、冷や汗をかいていたので、間違いなく面倒な事案だと彼女が理解していることが分かる。


「王子様探すの、ちゃんと意味あります!」


 心外だという態度を取る彼女に驚く。ちゃんと考えて行動しているとは露程も思っていなかったので、人間としての脳の働きが行われていることに驚嘆の声が出る。因みに、その意味とやらはどう言うものなのだろうか。期待を込めた私が問い質すと、これだからという顔をしながら、講釈を垂れるように語り出した。


 聞いた私が馬鹿だったと言うものだった。更に頭を抱えるようなその発想とは、以下のようなものである。まず、彼女が運命の相手と巡り会う。そして、その人と結婚することで、両親やあの黒服も娼婦にするという非情な考えを捨てる。こんな論理を私にしたり顔で語ったのだ。頭が痛くなるどころか、そのお花畑な頭を心配すらする。これには、ティリーンとルルもどうしてよいのか分からず、お手上げという意思を目でこちらに送る。私がそれは本気で言っているのかと、言い出しっぺなので質問する。彼女は満面の笑顔で元気よくはいと返事をした。出来れば嘘であってほしかっただけに、彼女の笑顔は私を苦しめる。


「大丈夫です!わたしはあなた様という王子様を見付ける事が出来ました!!楽勝です!!」


 そう言って彼女は、ルルの手を握る。ルルは、予想外の展開に口許をヒクつかせながら、視線をこちらに投げる。それに粘着されたら中々逃げられない事は、私が実証済みなので、彼女のしつこさは折り紙つきだ。私が目を逸らすと、ルルは絶望したような表情を浮かべる。そんなルルを一途に見つめる彼女には、一片の迷いもなかった。その純粋な目が更にルルを苦しめているとも知らずに。


「はいはい、ルルは駄目だって断っただろう。変に期待を掛けるな。」


 そろそろ助けを入れた。本当に困り果ててしまいそうなルルを見ていられなかったのだ。そうすると、予想通り彼女はまた嫉妬をしてと蔑んできたので、それを適当に返す。すると、今度は予想外の方から攻撃が飛んで来る。顔を強張らせたルルが、私に掴み掛かってきたのだ。もう何のことだと思い、引っ張られるがままに顔を寄せられると、ルルはお前には姉様がいるだろうと囁いてきた。此方も此方で面倒くさい人間であることを忘れていた。そもそも彼女の姉である騎士団長には正式に断りを入れているのだ。それに、私にはティリーンなどの今後も関係をもつであろう人間がいる。問題としては、ミラたちについても考えていかなければならない。そんな状況で、今更婚儀がどうとか考える余裕はない。知らない彼女にそれを理由付けるのは正しくないおこないかもしれないが、それ以外に言う事をもないので、思った通りの言葉を吐く。


 なんとか彼女はそれで食い下がってくれたが、その次は先程まで押し黙っていたティリーンが問題を起こす。私に無礼千万を働いた名も知らぬ彼女に敵愾心を向けていた。彼女の眼前まで近寄ると、その胸倉を掴んで上へと上げた。体の底から声を上げた彼女は足をジタバタさせるが、足がつかないように調節させられているので、当然ながらそれが地面に着くことはない。


「聞いておれば主様を貶す言葉が見えるが……あまり調子に乗らないことじゃ。」


 それだけ言うと満足したのか彼女を放す。地面にドテッと転がされた彼女は涙目でもう今にも泣き出しそうになっており、手を差し伸べなければ、人間性を疑われそうだったので、一応は手を取って起こしてやる。グスグスと泣きながらも、やはりわたしに気があるのですねと発言した彼女は将来大物になること受け合いであろう。



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