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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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エリーナ砂漠  14

 数時間後。もう気付けば真っ昼間である。こんな気温の高いところに長時間居たのでは、脱水症待ったなしだが、根気強い人たちは額に汗を垂らしながらも弱音の一つも吐かない。真面目に双眼鏡を覗く人を見て、そういう人柄の国なのかなと推測する。雇われ者の私達は特にやることもなく用意されたテントで待機していたのだが、暇になったので、現場の様子を見に来た。腕組みをして仁王立ちである隊長さんに何かあったかと訊ねると、彼は頭を横に振った。今日は収穫がないかもしれないとまで言及する。情報を予め向こうにも流されていれば、向こうも警戒して今日は出てこないだろう。ではどうするのだろうか。指示を待つと、彼は顎を一撫でした後、移動を宣言した。話によると、こういう事態も想定して、多数の部族に別々の場所を聞いたらしいのだ。これならば、何時どのタイミングで何処に来るのか完全に把握できる人間はいなくなるだろうと言う考えである。と言うことは、元より部族の人間を信用していないということになるが、会って間もない人間に全面的な信用をおくのは馬鹿のすることだ。詐欺に気を付けたほうが良い。


 そんな意識のもと、順当に巣を巡った。注意して確認しないと分からないものから、目に見えて明らかなものまで様々なバリエーションがあったが、巡った中には特にこれと言った不審者を見付けることは叶わなかった。見付けるまで此処に留まるのかと思っていたが、一通り見回りを終えた隊長は汗水流す部下たちを見遣ると、一旦撤退することを決めた。このまま続けても効率が良くないという理由もあったが、その中には部下への思いやりが第一にあったように思えた。人格者というのは何も言わなくても溢れ出るものがある。


 大した戦果も上げていないので、恐縮に思いながら彼らに連れられて国との中継地点の協力関係にある村にまで案内された。此処で補給と休憩を挟みながら、次の進軍の機会を伺う作戦のようだ。それにしても、働きもしていないのに奉仕を受けるのはどこか居心地が悪い。約束では特に期間に関する申し出はなかったが、私達はこの一件が片付くまで手伝うことにした。彼はそれを歓迎して喜んでくれた。村に着く頃には、もう日が沈み出していたので、夕食が配給される。昼ごはんを食べる習慣のない彼らの夜ご飯は他と比べると中々の量である。朝と夜に大量に栄養を補給することで昼間の活力にしているのだろう。納得して私達にも支給されたご飯に手を付ける。丁度お腹が減っていたので、口に掻き込む兵士達に混じって、同様にご飯を咀嚼した。ティリーンはメフィーリゲにご飯を食べさせ、ルルは隣に居合わせた兵士と他愛もない話をしていた。必然的に浮いてしまっている私の所に隊長が顔を出す。


「口に合うか。独特な味付けだから結構好き嫌いが分かれるみたいだからな。」


 隣に座した隊長は部下たちの様子を見守りながら、抱えた皿を机に置く。私が好き嫌いはあまりないしこれはこれで美味しいと感想を述べると、彼は自分のことのように嬉しがり、この料理を用意してくれているこの村の住人について語ってくれた。遠征などで時折此処には立ち寄るらしく、村人とは大体顔見知りという彼にとっては皆が身内のように可愛いのだろう。いい年して子供っぽいと笑う人もいるかもしれないが、こういう純真さを歳を重ねても持っていられる人は限られる。それだけで才能と言って良い。人を思いやる彼の瞳に曇りはない。このように清々しい男になりたいものだと改めて感じた。


 料理の食べ比べなどを行い気さくに話し合っていると、食事は早々に済む。皿を流しに持って行くと数人の村の嫁さん達が皿洗いに従事していた。隊長は彼女らにもありがとうと声をかけながら食べ終えた皿を渡す。私も釣られるように感謝を述べると、彼女らもどうもと言う風に会釈して仕事に戻る。大人数分の皿洗い中なので暇がないみたいだ。これ以上迷惑を掛けても申し訳ないので、彼とともに机の席に戻る。もう結構良い時間になっていたので、彼の命令で部下たちは宿舎のそれぞれ用意された部屋に帰って行った。しっかりと休ませるところは休ませる。人を指示するときには基本的に心がけなければいけないこと。心の休息なくしては、万全の行動を実現できない。寝て食べてが満足に行えていれば、最高のパフォーマンスを披露することが叶う。そのことを彼は深く理解しているのだろう。私達にも宿舎は満員なので、宿屋を一室取ってくれた。彼にお礼を告げてから私達は宿屋に向かう。木造建ての一軒家という出で立ちで、特に修繕が必要な様子も見えない立派な宿屋に到着し、受付で彼のことを話すと、広い一室に案内される。ベッドも四つ用意されており、十分な清潔感を保っている。


「最近、まともなところにいなかったからのう。何故か此処が凄く豪華に見えてしまうのじゃ。」


 ティリーンの言には一理あった。初戦は幻惑だったラルームの森。砂漠地帯は確かに少しだけ寝床があったが、床に毛布を敷いただけの簡素なもの。沼では、命からがら生き延びて、メフィーリゲ神殿では特に休憩もなく、道中でルルと出会ったと思えば牢獄に入れられて、硬いベッドを味わった。その点、このベッドはふかふかしていて、横になれば今すぐにでも寝付けてしまいそうだ。メフィーリゲに至っては、現にもう寝入ってしまっていて、寝息まで聞こえてくる。ルルも王族であったために庶民のベッドには戸惑いもあったが、長旅で疲れていたのだろう。あっという間に寝た。私達もそろそろ寝ようか。互いにアイコンタクトを取ると、布団に入る。風呂に入りたかったというのは流石に我儘というものだ。汗でぐっしょりと湿った服に不快感を覚えながらもそのまま瞼を閉じた。目を閉じて直ぐくらいに人の気配を読み取る。直ぐ様閉じていた目を開いて、上体を起こすと、他の子らを起こさないようにして、気配の有る扉の方へ身を寄せる。黄金剣を手に持ち、気配を探ると、それに殺意が込められていないことに気付く。安心して剣を戻して扉を開いて顔を出すと、手紙を携えた宿屋の従業員がお呼びだてして良いのかタイミングを見計らっていた。その葛藤の合間に私が扉を開いたため、彼女は情けない声を上げていたが、私に手紙を渡すという役目をしっかりと果たす。見た感じ隊長さんから私に宛てた手紙のようだ。従業員が去ったのを確認して、手紙の封を切る。中から出てきた白い無地の便箋には、夜に決行する作戦についての概要が載っていた。やはり、日中だけでは足りないと考えたのだろう。作戦には、新兵は使わず、ある程度熟練度の高い人間だけを選別して行うみたいだ。あの化物が脅威である事を彼は正確に捉えている。しっかりとした対策も後で要相談との事だった。予定の時間まではそこそこまだある。開いたそれをベッド脇の小さなテーブルに置くと、短い睡眠をとることにした。


 短い睡眠であったため深くは寝付けず、結果的に浅い眠りには直ぐに覚めた。時刻を確認するともう予定の時間に近いことが分かったので、眠るティリーンに声を掛ける。今回の作戦は、戦闘が続くだろうから行ける人間だけで良い。武器がないルルは戦う術を持ちあわせていないし、メフィーリゲに至っては、幼女と化してしまっているので、ビジュアル的にも戦場に連れ出す訳にはいかない。そう考えると、戦闘能力に優れているティリーンを連れて行くのが最善である。勿論、無理強いするつもりはないが、彼女なら快い返事をくれると確信していた。しかし、予想は大きく外れる。元より彼女は幾度揺らしても起床しなかった。随分と眠りが深くなっているようだった。これは起こしてしまうのは可哀想だと思い、仕方なく一人で赴くことにした。眠りこける皆に行ってくると声を掛けて扉を閉めると、指定の広場に向かう。



「おお、来てくれたか。歓迎する。」


 もう洗練された兵達は面を合わせていて、私は最後のようだった。まだ時間はあるように思えたが、早め早めの行動が彼らの教訓なのだろう。私を向かい入れると、隊長は作戦について案を提示した。内容は、実際に砂漠に今から赴き、化物の討伐と不審点の捜索を行う。具体的には何個かの小隊を作って各地の狩場を回る。ある程度化物を冷やかしてから、奴らを出来るだけ長い間挑発する。巣に化物がいなくなったタイミングを見計らって空いた巣を別働隊が見張る。こうして、昼間とは違う場面を演出して、居るかもしれない犯人の動向を確かめるというものだった。細かい点の修正を皆で意見を集めて行い、作戦が完成次第、砂漠に赴くことになった。心なしか、昼間の時よりも緊張感が漂う。彼らも一人一人がちゃんと理解しているのだろう。夜のあれはとても凶暴であることを。


 動きの硬い部下たちを横目に見た隊長さんは、状況と雰囲気を読み、このままでは最高のコンディションを実現できないことを予想する。敵が現れた時に、体が動かなければ、死んでしまったも同然。一瞬の気の緩みや緊張が生死にそのまま関係がつく。多分、今の状態のままでは何人かが犠牲になると思ったのだろう。私の意見によって持ったまだ火の付けていない松明を振ると彼は、一人一人に近付き、我らに出来ないことはないなど声を掛けて士気を高めていた。段々と解されていった部下達は、着実に強張りを解いていき、砂漠に到着する頃には、完全に本気を出せる状態までなっていた。隊長さんの手腕が光った瞬間だった。


「作戦通り、指定の小隊に分かれてもらう。旅人、君は我に付いて来てくれ。」


 編成として割り当てられたのは隊長さんの部隊だった。他の部隊と違い、人数は三人と本当に少ない。隊長さんと私と連絡役の三人という構成だ。私の腕を買ってくれているのかしらないが、他の部隊に人がばらけた為に、人員の確保を行えなかったというのが本音だと思う。連絡役の男とも握手を交わして友好を深めてから、私達は化物を引き寄せる任務に着工する。



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