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気儘な旅物語  作者: DL
第一章 名無しの英雄
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メフィーリゲ神殿  2

体調がまだ不安定なので、更新が途切れるかもしれませんが、よろしくお願いします。

 格式ばった柱を無数に数え、目新しい彫刻にもそろそろ飽きが訪れ始めた頃。漸く第三の扉が覗いた。心なしかまた一段と大きくなった扉を前に、私は繋いだ手を離す。メイカの口から名残惜しい声が漏れたが、この神殿の謎解きが今のところ上手くいっている理由も分からない私は、取り敢えずは教養のある彼女に師事を仰ぐのが一番だろう。素人考えでも、それほど危険性がないとはいえ、あまり侮り過ぎるような真似はしたくない。もし万が一、それで彼女を危険に晒すような事態に陥ってしまったときに、死ぬに死にきれない。ぼんやりとしていたメイカも何度か呼び掛けると気を取り直して、扉を眺める。そして、ある程度見当がついたのか、私を扉の前に手招きする。


「ここに手を伸ばしてみてください。」


 言われるがままにそこに手をやると、いつぞやのように光る古代文字が発生する。発動条件はさっぱり分からないが、それが発動する度にご満悦なメイカの緩んだ表情を見て、何か私達に関係した事ではないのかと推測する。例えば、此処に来訪した人間達の信頼が厚ければ通れる。とかなんとか。


 実際にそんな不確かなもので駆動する仕掛けに身に覚えはないが、神聖ななにがしには、そんな所業も造作ないことだろう。言い訳のようにこの言動を用いると、全てがそうなってしまいそうで怖いが、今回に限っては、場所も場所なので、そう考えても仕方ない。結局のところ自分にそう言い訳をしながら見事に口を開いた扉を抜ける。何時まで続くのかと少し疲労を感じないでもないが、何もその間に戦いを強要されたりするわけでもないので、どちらかと言うと、終わりの見えない迷路をさまよう様な精神的疲労が私を苦しめる。メイカが目の色を変える程の神殿なので、余程の稀少さ秘めているのだろうが、興味の薄い私にとっては至極退屈でもある。美人は三日で飽きるというが、物言わぬ美術品に飽きるのは三日とかからないことをこの場を持って思い知った。


「最奥はまだまだ掛かるのだろうか。」


 果ての無いように思える道程に愚痴の一つの溢れる。彼女はそれを不自然な挙動でどうだろうかとのらりくらりと返答し、正確な情報を与えてくれない。態とそうしているのは分かるが、何故そうしているのかまでは分からない。理由があるのなら致し方無いが、無いのなら即座に理由を述べてほしいものである。景色の変わらない私達の足音だけが音を響かせる広い廊下に辟易気味に不満が転がる。小石でもあれば、蹴飛ばしてしまいそうだ。達成感を全く感じさせない摩訶不思議な神殿に不安が中々に溜まってきた所で、第四の扉が現れる。またしても前回のものより一回りほど大きい。そういう仕様なのだろうか。判断つかない私はメイカを見遣る。彼女も小首を傾げるような格好をとっていたので、それに関しては彼女の学習の範疇ではないらしい。と言うことは、もしかするとこのゴールの見えない迷路は本当にゴールがない可能性が出てきた。それだけは本当に勘弁してくれと心中で祈りながら、指示通りの方法で扉を開けた。開けたと言っても、私が何でコレで開いているのか理解していないので、達成感の何もない唯の作業ではある。長期戦の予感が私の額に一筋の雫を垂らす。




 予想が当たったというべきか。いや寧ろ外れていれくれればよかったのに当たってしまったものだから、どうすれば良いのか分からないというべきか。どちらにせよ。私にしてみれば不運が待っていたのに変わりはなく、私達は只管に大きくなっていく扉を解除していくだけの作業を行っていた。あまりの単純作業に途中何度か眠気が襲い、気が立ったりもしたが、ある程度の時間が経過するとそれももはやどうでも良くなってきた。今はただ終点に辿り着くことだけを考えている。元気の良かったメイカもそろそろ飽きてきたのか十枚目の扉を経過したところくらいから沈黙を守っていた。彼女の気持ちは非常に分かる。私の情緒の揺れの頂点も丁度その頃合いだった。そして、その時に完全に会話が途切れてしまったものだから、今更話すのも忍びない。端から見れば意味不明だと思われるかもしれないが、二人組で両者が黙りこくって、互いに相手の機嫌があまり良好ではないと感じ取れている場合、再度話し始めるのは、何か口実がない限り難しいことである。私達は現時点でそんな状況に追いやられている。ここは私から話題をふるべきなのだろうかとも考えたが、もし彼女も同じことを考えていて、タイミングが被ったりでもしたら、今以上に気まずい空気が私達に襲い掛かることになる。それだけはなんとしても回避し無くてはならない。


「あ、あの」


 そんな私の考えが功を奏したのかしていないのか分からないが、彼女の方から呼び掛けがあった。意表を突かれた形だったので、少し声を裏返しながらもどうしたのかと平常に装って答えると、シュンとした顔の彼女は何故か謝罪を入れてきた。まさか謝れるとは予想していなかったので、呆然としていると、彼女は私が呆れていると考えていると思ったのか取り繕うように様々な言葉を羅列しながらも、最終的には本当の気持ちを吐露してくれた。


「実を言うと、この神殿についての書物なら読んだことがあるんです。この神殿が発見されてから大分後に発行されたものだったので真偽の程は定かではないんですが。」


 最初に出た台詞はそんなところからだった。彼女がこの神殿についての知識を有していることは発見時の対応からして明らかだったので、別段驚くことではない。しかし、その中の真偽の程が定かではない情報を彼女が信じた理由わけというのがどうしても分からない。もしその書物とやらが危険性を隠すためのカモフラージュだとしたら危ないのは彼女も一緒なのだ。そんな危険を冒してまでも彼女が此処に立ち寄りたいと思った理由はとても乙女的なことだった。口に出すのに戸惑った彼女であるが、まず始めに未知のものへの好奇心という物を出してきた。そして続け様にあの状況でこの神殿に入る以外の選択肢がなかったことも挙げた。全てが建前に聞こえる胡散臭さを漂わせながら、彼女は最後の最後でボソリと本音を洩らした。それは蚊の鳴くような声だったが、私の耳にはしっかりと届く。


「メフィーリゲ神殿といえば、恋愛成就の場所として有名なんです。」


 尻窄みになる音声をなんとか汲みとった私までもが頬を染める。お互いに照れ臭くなるが、構図としてはいい年した大人と小柄な獣娘である。犯罪的だとおそらく第三者から見れば百人が百人そう答えるだろう。照れている自分に恥ずかしさを感じながら、わざとらしく咳をする。知られたくなった秘密を知られてモジモジと目線を合わせようとしないメイカに、私は励ますように気にしなくても良いと軽い言葉をぶつけてしまう。それが彼女のいけない線に触れてしまったのだろう。こうなったら絶対に成就させてやると意気込み、私の腕を無理やり掴むと、大股開いて進行を始めた。もう一切の憂いの見えない彼女から諦めという文字は確認できない。これはなにがなんでも踏破するつもりだ。余計なことをいうべきではなかったかと思いながらも、彼女が元気になってくれたのなら良いかとある種の開き直りで誤魔化した。なんにしても彼女は私との仲の為に頑張ろうとしてくれているのだ。その気持ちだけでも嬉しく思う。


 それを引き金にして、歩く足にも力が入るようになる。踏み出そうと思えるのは大切なことである。心持ち一つでこんなにも変わるものかと思うが、過去の諸々を考えれば、そんなものだなと結論が出る。


 彼女との想いを共有させてから直ぐ。それほど時間を要しない間にもう何個目かすら覚えていない扉が顔を出した。私達はしっかりと手を取り合ったままその扉に立ち向かう。彼女だけでもなく、私だけでもなく、二人で前方に手を翳すと二人の手から輝く解読不明文字が列挙され、私達を取り囲む。此処に来てやっとこれがそこそこ幻想的なものだと再認識できるようになっていた。流石に何度も見せられて飽きていたが、それは飽く迄も一人でやった時の場合だったし、少し演出の異なるこれは見応えがあると言って良い。


 纏まらない感想を無理やり頭の片隅を追いやって次の扉を目指そうとする。しかしそこは私達の求めていたゴールと言うやつであるようだった。そこから先はなく、一つの巨大な部屋のようになっており、奥には巨大な女神の像が台座に腰を下ろして、悩ましげに頭を垂れている。この一室だけ他のところとは何かが明らかに違う。細部の意匠の丁寧な彫りなどは完璧に同じなのだが、その形が問題である。要所要所に用いられているハートマークに、厭らしいピンクの怪しい光。壁画は全裸の男女の乱交模様が描かれており、あまりの不純さに唾を吐きかけてしまいそうになる。これで本当に恋愛成就など謳っているのか。どちらかと言うと、性愛の神でも祀っていると言われたほうがまだ納得がいく。


『うふ、うふふふふふ』


 二人して変なところに来てしまったなと顔を見合わせていたところ、唐突に女性の笑い声が広がった。敵の可能性も考慮して剣を抜いて構える。メイカも一応はいつでも動ける格好をとる。そのまま数分の時間が経過する。すると、ようやく部屋に響いていた謎の笑い声は消え失せる。どういうことだろうか。純粋な疑問が胸に残るが、意味もわからないため、構えは解かない。そして姿を現せと大声で投げ掛ける。此方の要求にはいそうですかと応えてくれるとも思わなかったが、意外にも彼女は呼びかけに応え参上した。


『このメフィ様をお呼びぃ?』


 女神像から姿を表したのは色素の薄いピンク髪に情婦を彷彿とさせる露出度の高い肩口やら太腿やらが丸見えで何なら局部も少しズラせば見えてしまいそうな服。厚く塗られた化粧。ダラシなくも淫靡な肢体。やはりどう見ても恋愛成就などという青々しいものに協力するようなタイプには見えない。どちらかと言うとそういうのが嫌いな方に見える。



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