死業 後編
湿った空気、草の匂い、日が落ちた空
全てが苦手な雰囲気だ、気が滅入る
ここ最近は日雇い仕事のその日暮らし
少し前の大仕事で大チョンボをやらかしたおかげでこのザマだ
悪い事をしてしまったと思っていたが・・・そして空調設備の仕事を辞めた
あの仕事のあと・・・俺はまともに定職につくことができなくなった
良いことと言えば髪染めてても文句は誰にも言われないくらいか
「はぁ~、しっかし本当に見つかるのかよこれ」
周りに人がいないと思うとかなり大声で独り言を喋ってしまう
だいぶ暗くなってきたので手持ちのライトで辺りを照らす
どこから探せば良いのか全くいい案が思いつかないが
とにかく自分の範囲の端から探してみることにした
ライトで照らすと光が見えないかもしれないのでライトを消し探し歩く
しばらく探し歩いて行くと薄ぼんやりと木の根の辺りが光っているように見えた
「あれか!?もしかしてもう見つけちゃった俺!?」
小走りでそれに駆け寄っていく
(なんか花というよりもその周辺が光ってるように見えるのはなんなんだ?)
近づき顔を近づけてよく見たときにその疑問は解けた
「なにこれ?」
そこには何かの塗料が撒かれているようだった
確認の為にライトで照らしてみるとやはり夜光塗料が撒かれているようだった
「んだよー、紛らわしいな!騙されちまったわ」
一気に疲れを感じガクッと肩を落とした
ため息をつきながらしばらく座り込んでいると
遠くの方からだんだんと人が近づいてくる足音が聞こえてきた
ザッザッザッ ガサガサ
ドキッとして音の方向を見る
するとやはり人がいた
「だ、誰!?」
ライトで体のあたりを照らしてみると青のツナギを着ているようだ
(なんだ、バイトのやつかよ・・・迷ってこっち来ちまったんか?)
「どうしたんだー?」
呼びかけながらライトをその影の顔に向ける、すると
息を飲み込んだ
驚きのあまり声は出せなかった
フルフェイスのヘルメットを被っているその人影がどんどんこちらに近づいてきている
自分も着ている見慣れたツナギと必要のないヘルメットの異様な組み合わせに頭が混乱した
「な、な、な、なんだよ!?お前!?だ、誰なんだよ!?」
目の前でそいつは立ち止まった
「オマエノツミヲシッテイル」
闇に消え入りそうなかすれた小さな声でそう言ったように聞こえた
いや・・・間違いなくそう言ったのであろう
「は・・・へ!?」
状況を把握する間も無く相手の腕が俺に振り上げられようとしていた
「やめっ、うわおおおおお!!」
俺の声で怯んだのか振り下ろされることは無くピタリと止まった
こういう時は相手の動きを見なければならない
なぜなら軍手を着けた振り上げた手には・・・草を刈る鎌が持たれていたのだから
(本気なのか!?)
とにかく逃げなければならなかった
次はやられるかもしれない
幸い棒立ちで立っている相手を無我夢中でドンッ!っと両手で突き飛ばす
すると足をとられたのか意外と簡単にヨロヨロと後ろに倒れこんだ
そのまま殴り倒すという選択肢があったのかもしれないが相手の殺意に怖気づいた俺には逃げ出すいう選択肢しか無かったのである
そしてすぐに林の奥へと駆け出す
奥の方には廃旅館があるはずだ
あそこなら隠れる場所があるかもしれない
そう考えた俺は振り返りもせず木々の間を全力で走り抜けた
「ハァッ!ハァッ!・・・ンッ・・・ハァー、アイツは一体何者なんだ!?」
視界にだんだんと館が見えてくる
次第に息が続かなくなり足が止まった
すると近くからザッザッザッという音が聞こえてくる
「嘘だろ!?」
まさかとは思ったがすでに目の前
ヘルメットに青のツナギそしてロープを持っている・・・まさしくアイツだ
「早すぎる・・・化け物!」
身じろぎジリジリと後ずさる
数歩下がった所で背中に何かが当たる感触があった
ドンッ!
ギィーギィー・・・と軋むような音が鳴り響く
木・・・ではない・・・サンドバッグのように重いものが揺れている感触
首だけ後ろに向けるとそこには・・・ボロボロに破れたシャツを着た変わり果てた男の姿が首を吊った状態で揺れていた
俺はその男を知っている・・・ほんの一時間前まで一緒だった
「あぁっ!相沢・・・!?うああああああああああああああああああ!」
そして館に向かってまた無我夢中で走り出す
なんでこんな事に!?アイツは何者なんだ!?
俺の罪を知っている?
しかし身に覚えが無いわけではなかった
頭によぎるのは・・・そうあの仕事の事であった